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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
6章 凍てついた時、動き出す悪意 ~前編~
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つかの間の休息

「いってぇ! こ、コニィ、ちょっとタンマ……!」


「ごめんなさい、でも、消毒はしっかりしないと。獣の牙や爪は天然の毒、とも言いますからね」


 傷薬をかけられたアトラが呻く。戦闘中であれば我慢できる痛みでも、こういう時にはなかなか苦しめられるものだ。


 ヴィントールが撤退すると同時に、ニケア高地からは全ての人造UDBが姿を消した。俺たちもいったんギルド単位で合流し、傷の手当てを行っている。

 今回はかなりの激戦だった。フィオやジンですらいくつか手傷を負っているし、俺も激しい打ち身といくつか裂傷がある。こうして落ち着いたからこそ、痛みを実感してしまうな……。PSの消耗もかなり響いている。

 浩輝とコニィがPSでもみんなを治療してくれてはいるが、彼ら自身の消耗もある。可能な限りは普通の手当てで済ませておいた方がいいだろう。


「ガル、背中のとこ包帯巻けたよ」


「ああ、ありがとう。ふう……さすがに、今日はゆっくりと休みたいな」


 瑠奈からの治療が一段落ついたところで、周りの様子を見る。向こうでは、海翔がものすごい表情で唸りながら、美久から手当てを受けている。普段の彼ならば役得だと喜んでいそうな状況なのだが。


「どした、カイ? 何かすげえ機嫌わりいけど」


「気にしないでやれ。ちょっとフラグ折るのを失敗して、嫌なエンカウントが確定しただけだ……」


「ああああぁ! 止めろ、確定とか言うんじゃねえぇ! 何が『俺を倒しても第2第3の俺が……』だよあの変態! あんなのが二人以上いたらこの世が終わるわ!!」


「ああもう、じっとしてなさい! 同情はするけど!」


 じたばたと暴れ始めた海翔に、美久が声を張り上げる。……どうも彼らは、別の意味で大変な目に遭ったようだな。


「ただ、あのハヴェストという人は、確かに強敵ではあったね。……色々な意味で。銃がまともに動いていたら、あたし達も危険だったかも」


「アガルトにも現れた傭兵だったか。……まあ、その男のことはあまり深く考えても仕方ないだろうし、この国からは撤退した可能性も高い。今は、対処せねばならない問題が山積みだからな」


 話を聞いていたウェアルドが、全体を見渡す。みんなの治療も、おおよそ済んだところだ。


「まずは内部で状況を整理したい。誠司、お前たちが戦った相手について、改めて話をしてもらえるか?」


 ウェアの言葉に頷くと、誠司は敵の首魁であった存在について説明を始めた。直接の刃を交えた俺や他のメンバーも、彼の言葉に補足していく。


「白騎獅ヴィントール……PSのような力を使いこなす新たな人造UDB、か」


「あの野郎だけじゃなくて、取り巻きの連中もかなりヤバかったぜ。俺様たちがあんだけ苦戦させられるとはよ」


「精鋭は、目に見えて他の個体より強力だったが……ヴィントールの戦闘力は、それをさらに一回り、いや、二回りは高くしたものだった。Aランクに相当すると思っていいだろう。俺は能力の相性が悪くなかったため対応できたが……」


「しかも、そういうのが少なくともあと三体いるってことよね? たまったもんじゃないわね」


「量産やさらなる改良がなされれば最悪だが……少なくとも、それが容易にできるのならば、今のような実験を繰り返しはしないだろう。あの男は、無意味なことに時間を割くタイプではないだろうからな」


「名前を持っているのは、特別であることの証拠とも言える。使い捨ての実験体、もしくは量産が可能なのであれば、わざわざ個体を識別する必要はないはず」


 フィーネの言うとおりだろう。四魔獣は今のマリクにとって傑作、かつ簡単には生み出せない存在であると考える方が自然だ。残る三体が、果たしてどのような力を持っているのか……警戒が必要だ。


「それ以外の子たちも……わたし達がアガルトで戦った時より、目に見えて強くなっています、よね。これからどんどん、戦いは難しくなっていくんでしょうか……」


「そうですね。悠長にしていれば敵の戦力はさらに整っていく、それは確実でしょう」


「その、PSみたいな力? がどういうものなのかは気になるところだね。僕やアンセルのヒトに変化する力が可能なんだから、全く新しい力を宿せても不思議じゃないんだろうけど」


「これもあくまでヴィントールの弁だが、彼だけでは使うことができないらしい。恐らく、転移装置と同じく何らかのデバイスを介した擬似的なPSだと思う。力を発動する時、ヴィントールの鎧が光っていたから、あれが装置も兼ねているのではないかと考えているが」


「PSを使えるようになる鎧……それが間違ってねえなら、またとんでもねえもんを作ってきやがったな。いや、端末のボタン押してテレポートすんのも大概にとんでもねえがよ」


 そもそもが理解不能な技術であるからには仕方ないが……からくりが分からないのでは、対策も立てづらい。可能であれば解き明かしたいところだが。


「あの力、白夜に関しては、ヴィントールに向けて調整されたものらしい。彼の装備を使えば、誰でも発動できるわけではなさそうだ。PSを宿す装備……脅威ではあるが、個体に対するオーダーメイドであるのならば、しばらくの間は四魔獣のみ、或いはアンセル級の相手に絞れるとは思う」


「それは幸い……って言うのも微妙なところだけれどね。ヴィントールはまだこの国にいるようだし、あたし達を狙って動いてくる可能性も高そうだね」


 彼は言った。まだ、この地の動きは始まったばかりだと。今回の戦いが序の口であり、彼らの策が張り巡らされたままであるのならば、思っていたよりも時間がないのかもしれない。何よりも気になるのは……彼が最後に残した言葉だ。

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