第三の牙
「これが獅子王の頂点たる剣……」
「君も相変わらず凄まじいなあ。うーん、悔しいけど、君たちには勝てそうもないなあ」
「謙遜をするなよ、ロウ。お前だって、このぐらいの芸当はできるはずだろう?」
「できるからこそだよ。破壊に特化した俺の力でも、それだけやろうとすれば割と消耗するからね」
言いつつ、ロウのばら蒔いた弾丸が、辺りを爆炎で薙ぎ払う。単純な破壊力で言えば、俺の力はこの二人には及ばないだろう。
『コレデハ時間ノ問題カ……!』
「だが、奴らとて無限に戦えるわけではない! 少しずつでも、消耗させて……どうした!」
宙に向かって問いかけた蜥蜴の表情が、少しずつ歪む。仲間と通信をしているようだ。あの表情ならば、恐らくこちらにとっての吉報らしい。
「本拠地に、白皇獣と、それに乗ったギルドの連中が現れたようだ!」
『ムコウデハ、グンノレンチュウガ、イッキニアツマリハジメヤガッタ!』
UDB達の様子に、一気に焦りが混ざった。第三陣が動いたか。
『ヤハリ囮カ、貴様達モ……!』
「ふ。囮になるか本命になるかはお前たち次第だったがな」
ギルドマスターを一箇所に集める、歪なバランスでの編成。それに違和感を持たれることは、想定済みだ。その上で、奴らは俺たちを無視するわけにはいかないからな。
全体に分散するならば、俺たちが本拠地を叩く。俺たちに集中するならば、他部隊が一気に押し込む。作戦としては大味ではあるが、今の俺たちと敵戦力を照らし合わせ、十分に可能であると判断した。
「怯むな! 本拠地にはあの方がいる、生半可な戦力で落ちるものか! だからこそ、我らがこいつらをここで仕留めれば、それで勝ちだ!」
「生半可な戦力、か。何者が控えているかは知らんが、俺の仲間を随分と見くびってくれるな。まあ、良いだろう。確かに、俺たちとて無限に戦えるわけではない。しかし……これでは、俺たちの相手にはまるで足りんな」
『チョウシニノリヤガッテ! カコマレテンノガ、ワカッテンノカ!?』
「分かっていないのはお前達だ。……闇の門、最悪の戦乱。あの時、俺は、ただ一人でこの数倍の規模のUDBに囲まれた。それでも俺は、生きてここにいる。その意味が分かるか?」
「…………!」
「こけおどしと思うなら、来な。お前達の前にいるのが誰なのか、そして、今、窮地に陥っているのがどちらであるのか。その身で思い知らせてやろう!」
こうなった以上、俺たちのやるべきは、本拠地に戦力を戻させないこと。今のお前たちならば、何者が控えていようと、必ず打ち勝てるはずだ。だから……頼んだぞ。
「みんな、降りるよ! 衝撃に備えてね!」
フィオの声に、身を低くして彼に掴まる。直後、全身が揺れた。極力は負担がかからないようにしてくれてはいるが、全く衝撃なしとはいかない。
だが、悠長にしているわけにはいかない。揺れが静まるとほぼ同時に、俺たちはフィオの背から飛び降りた。俺、ジン、誠司に、アトラだけワンテンポ遅れる。
ここは、高地の頂上付近。周囲は荒れており、ところどころに大小様々な岩塊が突き出ている。障害物が多く、戦いにくそうだ。そして、目の前の岩壁には、巨大な空洞が姿を見せていた。この天然洞窟はかなりの広さがあり……UDBの首魁が潜んでいるとすればこの中だ、との予測だ。
「アトラ、大丈夫ですか?」
「だ……大丈夫、じゃねえよ……くそ、何か最近、嫌がらせみてえに高いとこに縁がある気がするぜ、ちくしょう」
「それでもこの部隊を志願する辺りが、あなたらしいですね」
「……わざとらしく言うんじゃねえっての。ま、フィオのいる部隊が、中心を叩く本命になるのは当然だからな。俺の故郷を好き勝手してくれた礼は、俺の手でしなきゃだろ?」
彼の故郷への思いは複雑なのだろうが、少なくとも大切なものがあり、大切な友が守っている場所だ。それが荒らされていることに対して、当然憤りはあるだろう。
「ならばその思い、しっかりとぶつけてやれ。構えろ、お前達」
言われずとも、正面の気配は感じ取っている。月の守護者を発動させ、刀に手を添えた。……空洞の中から、多数の鉄獅子が姿を見せる。いや、それだけではないな。周囲の物陰から、さらにいくつもの気配がする。囲まれているか。
『赤牙ノ連中……サスガト言ッテオコウカ』
「おーおー、名前が売れてるみてえで俺たちも嬉しいねえ。ま、女の子じゃねえならノーセンキューだけどよ」
「なるほど。つまりアトラは、雌ならばUDBでも問題ないのですね」
「そうそう、獅子人のかわいいあの子みたいにってふざけんな陰険メガネ!?」
……そう言えば、人造UDBは雄の個体が大半のようだが、母体となる雌はあまり前線に出さない、などの理由があるのかもしれない。考察している場合でもないが。
本拠地の兵を全て動員するほどに無防備ではなかったか。だが、刃鱗獣も黒殺獣もおらず、鉄獅子だけのようだ。
「ライオンだけかよ? 他の奴らとチーム組まれてるのはけっこうきつかったんだがよ。みんな出払っちまったか?」
『フ。ソウ思ウカ?』
「…………あ?」
「ふむ。どうやら、体格などが今までの個体より優れているようですね。他よりもさらに強化された精鋭、ということでしょうか」
ジンの観察眼に、鉄獅子も少し感心したような様子を見せた。
『我ラ鉄獅子ハ、他ノ種ヨリモ早期ニ実戦テストガ開始サレタノデナ。改良モ、他ヨリ進ンデイルノダ。全テノ個体トイウワケニハイカンガナ』
「さしずめ親衛隊、といったところか」
「と言っても、こっちだって仮にもSランクUDBに、英雄に、それ以外にも精鋭がいるんだけどね。それでも、勝つ気かい?」
『……フン。死地デアルコトハ元ヨリ承知。アンセル様ニスラ勝利シタ貴様タチ相手ナノダカラナ』
『ダガ、無傷デハ済マセンゾ! ソシテ、我ラガ破レタトテ、アノ方ノ勝利ニ繋ガルノナラバ本望ダ!』
「こいつら……」
武人としての性質が強くなっているか。精鋭と言うのは、その精神も含めてのようだ。それに、今の口振りは、やはり背後に彼らを束ねる存在がいることを示している。
『無駄ナ会話ハココマデダ。サア、始メルトシヨウカ!!』
その咆哮に合わせて、四方から一斉に鉄獅子が襲いかかってきた。