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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
6章 凍てついた時、動き出す悪意 ~前編~
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第三の牙

「これが獅子王の頂点たる剣……」


「君も相変わらず凄まじいなあ。うーん、悔しいけど、君たちには勝てそうもないなあ」


「謙遜をするなよ、ロウ。お前だって、このぐらいの芸当はできるはずだろう?」


「できるからこそだよ。破壊に特化した俺の力でも、それだけやろうとすれば割と消耗するからね」


 言いつつ、ロウのばら蒔いた弾丸が、辺りを爆炎で薙ぎ払う。単純な破壊力で言えば、俺の力はこの二人には及ばないだろう。


『コレデハ時間ノ問題カ……!』


「だが、奴らとて無限に戦えるわけではない! 少しずつでも、消耗させて……どうした!」


 宙に向かって問いかけた蜥蜴の表情が、少しずつ歪む。仲間と通信をしているようだ。あの表情ならば、恐らくこちらにとっての吉報らしい。


「本拠地に、白皇獣と、それに乗ったギルドの連中が現れたようだ!」


『ムコウデハ、グンノレンチュウガ、イッキニアツマリハジメヤガッタ!』


 UDB達の様子に、一気に焦りが混ざった。第三陣が動いたか。


『ヤハリ囮カ、貴様達モ……!』


「ふ。囮になるか本命になるかはお前たち次第だったがな」


 ギルドマスターを一箇所に集める、歪なバランスでの編成。それに違和感を持たれることは、想定済みだ。その上で、奴らは俺たちを無視するわけにはいかないからな。

 全体に分散するならば、俺たちが本拠地を叩く。俺たちに集中するならば、他部隊が一気に押し込む。作戦としては大味ではあるが、今の俺たちと敵戦力を照らし合わせ、十分に可能であると判断した。


「怯むな! 本拠地にはあの方がいる、生半可な戦力で落ちるものか! だからこそ、我らがこいつらをここで仕留めれば、それで勝ちだ!」


「生半可な戦力、か。何者が控えているかは知らんが、俺の仲間を随分と見くびってくれるな。まあ、良いだろう。確かに、俺たちとて無限に戦えるわけではない。しかし……これでは、俺たちの相手にはまるで足りんな」


『チョウシニノリヤガッテ! カコマレテンノガ、ワカッテンノカ!?』


「分かっていないのはお前達だ。……闇の門、最悪の戦乱。あの時、俺は、ただ一人でこの数倍の規模のUDBに囲まれた。それでも俺は、生きてここにいる。その意味が分かるか?」


「…………!」


「こけおどしと思うなら、来な。お前達の前にいるのが誰なのか、そして、今、窮地に陥っているのがどちらであるのか。その身で思い知らせてやろう!」



 こうなった以上、俺たちのやるべきは、本拠地に戦力を戻させないこと。今のお前たちならば、何者が控えていようと、必ず打ち勝てるはずだ。だから……頼んだぞ。











「みんな、降りるよ! 衝撃に備えてね!」


 フィオの声に、身を低くして彼に掴まる。直後、全身が揺れた。極力は負担がかからないようにしてくれてはいるが、全く衝撃なしとはいかない。

 だが、悠長にしているわけにはいかない。揺れが静まるとほぼ同時に、俺たちはフィオの背から飛び降りた。俺、ジン、誠司に、アトラだけワンテンポ遅れる。

 ここは、高地の頂上付近。周囲は荒れており、ところどころに大小様々な岩塊が突き出ている。障害物が多く、戦いにくそうだ。そして、目の前の岩壁には、巨大な空洞が姿を見せていた。この天然洞窟はかなりの広さがあり……UDBの首魁が潜んでいるとすればこの中だ、との予測だ。


「アトラ、大丈夫ですか?」


「だ……大丈夫、じゃねえよ……くそ、何か最近、嫌がらせみてえに高いとこに縁がある気がするぜ、ちくしょう」


「それでもこの部隊を志願する辺りが、あなたらしいですね」


「……わざとらしく言うんじゃねえっての。ま、フィオのいる部隊が、中心を叩く本命になるのは当然だからな。俺の故郷を好き勝手してくれた礼は、俺の手でしなきゃだろ?」


 彼の故郷への思いは複雑なのだろうが、少なくとも大切なものがあり、大切な友が守っている場所だ。それが荒らされていることに対して、当然憤りはあるだろう。


「ならばその思い、しっかりとぶつけてやれ。構えろ、お前達」


 言われずとも、正面の気配は感じ取っている。月の守護者を発動させ、刀に手を添えた。……空洞の中から、多数の鉄獅子が姿を見せる。いや、それだけではないな。周囲の物陰から、さらにいくつもの気配がする。囲まれているか。


『赤牙ノ連中……サスガト言ッテオコウカ』


「おーおー、名前が売れてるみてえで俺たちも嬉しいねえ。ま、女の子じゃねえならノーセンキューだけどよ」


「なるほど。つまりアトラは、雌ならばUDBでも問題ないのですね」


「そうそう、獅子人のかわいいあの子みたいにってふざけんな陰険メガネ!?」


 ……そう言えば、人造UDBは雄の個体が大半のようだが、母体となる雌はあまり前線に出さない、などの理由があるのかもしれない。考察している場合でもないが。

 本拠地の兵を全て動員するほどに無防備ではなかったか。だが、刃鱗獣も黒殺獣もおらず、鉄獅子だけのようだ。


「ライオンだけかよ? 他の奴らとチーム組まれてるのはけっこうきつかったんだがよ。みんな出払っちまったか?」


『フ。ソウ思ウカ?』


「…………あ?」


「ふむ。どうやら、体格などが今までの個体より優れているようですね。他よりもさらに強化された精鋭、ということでしょうか」


 ジンの観察眼に、鉄獅子も少し感心したような様子を見せた。


『我ラ鉄獅子ハ、他ノ種ヨリモ早期ニ実戦テストガ開始サレタノデナ。改良モ、他ヨリ進ンデイルノダ。全テノ個体トイウワケニハイカンガナ』


「さしずめ親衛隊、といったところか」


「と言っても、こっちだって仮にもSランクUDBに、英雄に、それ以外にも精鋭がいるんだけどね。それでも、勝つ気かい?」


『……フン。死地デアルコトハ元ヨリ承知。アンセル様ニスラ勝利シタ貴様タチ相手ナノダカラナ』


『ダガ、無傷デハ済マセンゾ! ソシテ、我ラガ破レタトテ、アノ方ノ勝利ニ繋ガルノナラバ本望ダ!』


「こいつら……」


 武人としての性質が強くなっているか。精鋭と言うのは、その精神も含めてのようだ。それに、今の口振りは、やはり背後に彼らを束ねる存在がいることを示している。


『無駄ナ会話ハココマデダ。サア、始メルトシヨウカ!!』


 その咆哮に合わせて、四方から一斉に鉄獅子が襲いかかってきた。


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