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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
6章 凍てついた時、動き出す悪意 ~前編~
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〈最強〉の頂点

「……とりあえずこれ、このまま行ってもいいんじゃねえか?」


「さ、さすがにそれは。リグバルドの相手なんだし、捕まえておいた方がいい、よね?」


「イリアが混乱している。あのバグが感染したのだとしたら、被害が広がる前に処分すべきではないかと判断」


 全員が呆れ果てた様子でそんな言葉をハヴェストに向ける。……ん? 処分?


「……そうだ、簡単じゃねえか! これからもストーカーしてくるってんなら、ここでぶちのめして終わりにすりゃいいんだ!」


「傷付いた戦士に追い打ちをかけるなど、人の心を持つ者ができる所業ではないぞ少年よ……鬼! 悪魔! ボスキャラ!」


「ダンジョン途中で待ち構えてるお前のがそっち側だろ。まあお前はそのへんのやられ役がお似合いだがよ!」


「うるせいやいうるせいやい! 俺だってクリードくらい戦果上げてそのうち最奥のボスになってやるんだからな! ……それに」


 俯いて地面に文字を書いていた馬鹿が、ぴたり、と動きを止めた。前と同じだ。ってことは……予想通り、ひらりと軽い動きで飛び上がり、距離を取りつつ宙返りを決めてから見事に立ち上がった。


「簡単に捕まってやる気はしねえな、ボーイ達?」


「…………!」


 不敵な笑みを浮かべて、ハヴェストはそう宣言する。そう、忘れてはいない。こいつは、舐めてかかっていい相手じゃねえ。


「やる気、なんですか」


「やる気がなければ傭兵はできない、ってな! さてさて、みんなが待ってたヒーロー再臨の時間だぜ! お茶の間のみんな、ハンカチの準備はできてるかい!?」


「気を付けろよ、みんな。こいつ、アホだが普通に強えからな」


「はっはっは! どうやら少年も俺を宿敵と認めてくれているようだな! ツンデレってやつか!」


「バカ言え、俺のライバルの席はとっくの昔に埋まってんだよ! てめえみたいな変態オヤジに奪えるもんじゃねえ!」


「変態オヤ……俺はまだ20代だ! ……コホン!」


 それには少し傷付いた様子ながら、咳払いしたと同時に周囲にUDB達が転移してくる。やっぱ待機させてやがったか。


「シャクだが、売られた喧嘩は受け止めてやるよ。みんなは周りの相手と援護を頼むぜ!」


「……分かったよ。すぐに片付けるから頑張って、海翔!」


「我らも甘く見られたものだな……!」


「悪いけどあんた達は見飽きたの。構ってるヒマはないのよ!」


 俺達は陣形を組み直し、迎え撃つ準備を整える。相手も散開し、俺以外のメンバーとUDBが相対する状態になった。俺の目の前には、腰に手を当てて高笑いする白犬野郎。


「今回は最初から全力全開フルスロットル! そして少年には、前回は見せられなかった俺の力の恐ろしさを見せてやる!」


「恐ろしいダサさならもう見たぜ?」


「だまらっしゃい! もう心へのダイレクトアタックは効かねえんだからな! さーあ、こいつが俺の真のパワー!」


 高らかに宣言したところで、あいつの右腕に異変が起きる。二本に、四本に……五本に。増殖はそこで止まった。相変わらずのバランスの悪い見た目になりながらも、あいつはお構い無しにかっこつけたポーズを取った。

 つっても、あの力のとんでもねえ弱点を俺は知っている。今さらこけおどしを喰らうつもりはない。……いや、待て。あいつは言っていたはずだ。本当は、あの力をどう使っているか。


「そして……これが俺の相棒たちだぁ!」


 高らかに声を上げながら、上着をぶん投げるハヴェスト。――その下には、合わせて6丁の銃が仕込まれていた。


「こんだけの一斉射撃……少年にかわせるかい?」


「…………!」


「はっはっは、安心しろ、俺は地元ではスナイパーと呼ばれる予定だった男! フッ……苦しむのは一瞬で済むぜ!」


 確かに、銃ならいくら腕が貧弱になってようと威力に差はない。反動には弱くなってるにしても、さすがに対策はしてあるだろう。身体強化が入った俺でも、捌ききるのはきつい。

 だけど、隙はあるはずだ。みんなのサポートは……いや、それを勘定に入れて動くわけにはいかない。全開で力を使ってでも、何とか凌ぎきるしかねえ。


「さあ……ゴートゥーヘヴンだ!」


 そうして、宣言通りに今回は最初っからかっ飛ばしてくるつもりのようだ。

 俺に向けられた銃口から、一斉に銃弾が放たれなかった。







 ………………。


「…………ん?」


 何だかものすごくデジャヴを感じる流れの中、トリガーを引くハヴェスト。虚しい空撃ちの音だけが響いた。


『………………』


「………………あっれぇ~?」


 あんまりにあんまりな事態に、周囲の戦闘も開始直前で中断する。

 全員の視線を集める馬鹿犬は、おもいっきり首を傾げた。まずいことは理解しているのか、汗をだらだら流している。


「おかしい。これはメンテから返ってきたばっかの、言わばデトックス直後でツヤツヤな相棒達。こんなすぐ全部ジャムるとかあり得ないし、弾切れとかもっと…………あっ」


「……露骨にやらかした時の声出したぞこいつ」


「ななななな何のことかなぁ!? お、おお俺は何にも気付いてないとも!」


「……配下の皆さーん、心当たりは?」


『ソウ言エバ先ホド……格好イイ撃チ方ガドウノト言イ始メテ……』


「ポーズを取りながら射撃を練習して、ああでもないこうでもないと……」


『ウチツクスイキオイデ、バラマイテヤガッタナ……?』


「トップシークレット流出!?」


 ……うん、まあ、何だ、その。

 自分の荷物を大慌てで漁り始めた馬鹿は、数秒後に突然の真顔になり、こっちを向いた。銃をしまい直し、その端から能力の腕が消えていく。……どうやら弾のストックが無いようだ。


「…………総員、突撃ぃぃぃ!!」


『本当ニ何ナノダ、コノ男ハ!?』


「ほ、本気で転属したい……! い、いや、全ては我らが主のためにだ!」


 暗示までかけ始めたUDB達に同情しつつ、戦いの火蓋はそんなグダグダな中で切って落とされた。












 迫り来る虎の牙を避け、脇腹を切り裂く。返す刀で、頭部を狙った鱗の弾丸を叩き落とす。この獣たちは賢く強力ではあるが、賢いが故に対処しやすさもある。天空の覇王を発動させずとも、対人戦の要領で見切ってやれば、対処はいくらでもできる。


「ロウは支援を中心に頼む。ウェアとマックスは、深追いはせずに近付いてきたやつの相手をしてくれ。陣形は崩すなよ!」


「了解だ!」


「オーケー!」


「承知」


 ランドの指示に、三人が同時に応える。俺はちらりと、初めて共闘する男の方を見た。一気に飛び付いてきたUDBを、巨大な戦斧を振り回してまとめて薙ぎ払っている。


「やるな、マックス。その若さでマスターになったのも伊達ではないな」


「そちらこそ聞きしに勝る刃の冴えだ、ウェアルド殿」


 彼、豚人であるマックス・オルランドは、首都のギルド〈胡蝶〉のギルドマスターだ。原種である豚のようなどこか愛嬌のある見た目ではなく、目付きは射抜くように鋭く、顔にはいくつも傷痕が残っている。俺たちと比べると10以上も年下だが、いくつもの戦いを潜り抜けてきた猛者であることは感じられる。


「御三方と比べれば未熟は承知だが、だからこそ私の全てで後に続こう。どうか、貴方達の強さを見せていただきたい」


「うーん、相変わらずストイックだねえ、マッくんは。肩の力を抜こうよ、少しはね?」


「……私のような無骨者に、その呼び方はどうかと思うのだが」


「グハハハ! 君に親しみやすさを与えるためだよ? マスターたるもの、下からの話しかけやすさを試行錯誤するのも大事だからね!」


「もしや貴方の幼い口調は、そのために作っているのか」


「おっと口が滑った。とにかく、油断は確かに禁物だけれど、真剣さも度が過ぎれば緊張になり、死因にすらなるのさ。君自身はともかく、メンバーをリラックスさせるのもマスターの務めだよ!」


 言いつつ、マックスに迫る相手をそのガトリングで吹き飛ばす。ロウがギルドマスターになってからの数年、彼なりに様々な試行錯誤をしてきたようだ。あの言葉遣いも再会した時こそ驚きはしたものの、あれはあれで彼らしいと思えた。


『マサニ別格ノ強サカ……!』


「ストックを呼べ! 全て投入してでも、こいつらを仕留めるぞ!」


 蜥蜴の号令に、周囲に新たな歪みが生じる。そこから現れたのは、この地に元々生息していたUDB達だ。灼甲砦も、かなりの数がいるようだ。


「うわー、これは壮観だねえ」


「だが……()()()()()()()()


 一歩だけ前に出たのは、ランドだ。俺たちの目の前に呼び出された灼甲砦を見据え、大剣を握る。そして。


「……はあああぁっ!! 」



 ランドはただ単純に、雄叫びと共に剣を全力で振り下ろした。――直後、大地が大きく揺れた。



 彼のPS〈戦神の咆哮(ブレイブハウリング)〉がもたらす作用は単純。己が発した衝撃の増幅だ。殴った時の威力を上げるような、シンプルだが確実な効果を発揮する力。言ってしまえば、決して珍しいものではない。本来ならば。

 こいつはそれを、たゆまぬ鍛練でひたすらに磨き続けてきた。闇の門で何もできなかったのが悔しかったんだ、と本人は語っていたが。無力であることの辛さを噛み締め、心技体の全てを鍛え上げてきたこの20年ほど。それが彼にもたらしたものが、この一撃だ。



 ランドが振り下ろした大剣は、凄まじい衝撃波を前方に放ち……巻き込まれた灼甲砦の身体は、ものの見事に両断された。それどころではない。地面に、巨大な亀裂が走っている。

 そのままでも鉄すら裂くランドの剣。その衝撃を何倍、いや、何十倍にも増幅した結果、その破壊力は遥か遠くすら引き裂く一撃と化すのだ。


『剣ノ一振リダケデ……!』


「大地を割る、剣。情報はあったが、ここまでとは……」


「ぬるいな。俺を止めたいのであれば、本当に動く砦でも連れてきてもらわないとな?」


『ホントニヒトカヨ、コイツ……』


 ランドと肩を並べて戦う機会は少なくないが、それでも毎度、驚嘆せざるを得ない。本人はいつも俺を持ち上げるが、バストール最強のギルドをとりまとめる力は伊達ではない。彼は間違いなく、世界でも最強の一角に数えられる戦士だ。

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