繰り返される悪夢……?
「おら、よっ!!」
「がっ……グアアアァ……!!」
暁斗の銃弾に怯んだ蜥蜴に、爆炎を巻き上げるようにアッパーを喰らわせる。顎をかちあげられた相手はそのまま炎に包まれ、悲鳴を上げながら姿を消していった。これで、二つ目の敵部隊を撃破だ。
「よっし、次行くぜ!」
「無茶はするんじゃないわよ、海翔!」
「まだまだ始まったばっか、へばってもいられねえだろ!」
今ので20体目。俺が直接倒した数で言えば3体。1体を仕留めるだけでも、決して楽勝とは言えねえ。……正直、どこまでやれるかは分からねえ。だからこそ、やれるとこまでやってやるだけだ。
「あたし達はこのまま前進するよ! ただし、退路の確保は忘れないように。無理だと思ったらその時点で撤退するからね!」
「了解した。後方支援をしつつ、転移には最大限に警戒する」
正面からぶつかっているマスター達の負担を減らすには、俺たちもとにかく前に進むことになる。いくら囮と思われてても、本拠地に迫る相手を無視はできねえはずだ。
敵のリーダーさえ倒せれば俺たちの勝ち。そして、こっちにはマスター達や先生がいる。それだけで、勝ちを信じられるってもんだぜ。
リーダーのイリアを中心に、荒れた道を登っていく。高地とは言うが、ほとんど山道みたいなものだ。ところどころに木が生い茂り、崖のようになっている傾斜もある。俺なら飛んで対応できなくもねえが、落ちないようにしねえとな。
……けど、しばらく進んでも次の敵と遭遇しなかった。そんなにマスター達の方に集中してんのか?
「こうすんなり進めると、罠の気がしてくるな……」
「罠、ねえ……」
実際、暁斗の言うとおりだ。囮と思ったからって完全放置はしないだろうし、もっと絶え間なく敵と出逢ってもおかしくはねえはず、なんだが。
「……………………」
「どうした、カイ?」
「いや、何だ。前にも、こんなことがあったようなってか、とてつもなく嫌なことを思い出しそうってか――」
「ハァーッハッハッハッハァ!」
――背筋が、凍り付いた。
「なかなかの快進撃だ、イタズラ小僧たち! まったく、最近の若人は大人の目を盗むのが上手いもんだ!」
冗談、だろ。この声は。この、二度と聞きたくなかった、ストレスしか溜まらない口調は。
「な、何だ!?」
「何だと問われれば、答えるがお約束! さあ、目ん玉かっぽじって焼き付けなぁ!」
声は、上から。心底見たくないが、見てしまう。そして、否定したくても認めてしまう。……最も高い木のてっぺんで、真っ白な毛並みを持つ犬男が、謎のポーズをとっているところを。
「呼ばれてぇっ!」
呼んでねえ。断じて呼んでねえ。だから止めろ、飛び降りてくるな。今すぐ帰れ、もしくは受け身に失敗して死んでくれ。
「飛び出てぇっ!!」
飛び出るな、永久に引っ込んでいてくれ。それか地面に激突してそのまま埋まれ。止めろ、落ちながら枝で上手く衝撃を殺すな。駄目だ、早く何とかしないと、何とか――。
「ヒーロー見ざ――」
「出演禁止!!」
「んのおおおおぉっ!?」
――そうだ、いつだって、こういう時には暴力が全てを解決する。ということで、俺は落下のタイミングに合わせて、全力で変態に飛び蹴りを浴びせた。
さすがに空中で防御はできなかったようで、派手に転がっていく白毛玉。木の生い茂る辺りに突っ込むと、土と葉っぱの中に顔を埋めて、沈黙した。
「……あくはほろびた」
「は? ……いや……え? 何?」
「みんな、行こうぜ。今ここでは何も無かった。誰もいなかった。いいな?」
「……私も賛成。行きましょ、みんな」
「え、あの、ちょっと……?」
同じく事情を知る美久と俺は、とにかくみんなを急かす。けど、さすがに他のみんなは混乱して動かない。フィーネは興味深そうに眺めているけど。
「説明している時間がねえんだ! 早く、早く行かねえと……!」
「ぶっはああぁっ!?」
……俺の奮闘も虚しく、腹立つほど無駄にタフネスのある白いサモエド男は、あれだけ派手に吹っ飛んでおきながら、すぐに勢いよく飛び上がった。ああ、畜生。何だ? これはリグバルドから俺への嫌がらせか?
「な、何をするんだ不良トカゲ少年! ヒーローの登場シーンを妨害するなど、悪の首領でもやらんぞ!?」
「誰が不良だ、このクソバカスットコドッコイエセヒーロー!」
「誰がエセヒーローだ、俺は誰もが憧れるスーパーヒーローだぞ!」
「クソバカスットコドッコイは否定しないのね……」
「てめえに憧れるやつがいるわきゃねえだろ、アホな妄想してねえで現実を見ろ現実を!」
「はっはっは、なるほど妬みか少年! 安心しろ、君のような不良でもちゃんと悔い改めて更生すれば、俺の次くらいに立派なヒーローになれるぞ!」
「よし分かった、そのよく開く口を溶接してやるからそこ動くんじゃねえぞコラ!!」
「……漫才コンビでも組んだのか?」
「誰がこいつとコンビだぁ!? そんなことになったら潔く死ぬわ!」
「あんたがノるからそうなるんでしょ……」
いやノってるわけじゃねえよ! 我慢できねえだけだよ!
「くそ……なんだっててめえがここにいるんだよ! あれでクビにならなかったってのか!? 人材不足かよリグバルド!」
「ふはは。少年たちの足留めは果たしたのでな、むしろ査定が上がった! マリクのとっつぁんはスーパーヒーローの大活躍を気に入ってくれたみてえだぜ?」
「……マリクって野郎の頭がちょっと心配になったわ。それにしても何でまた俺の方だよ!? バカはバカで集まれ! コウ達がいる方にでも行け!」
「ふっ。ヒーローが敗北を喫したのだ……それはすなわち! パワーアップしてリベンジマッチにより撃破する展開だろう!」
「あああぁやめろぉ! そんな負債、俺はいらねえええぇ!!」
冗談じゃねえ。つまりアレか? こいつは俺を狙って来てて、俺を倒すまでストーカーしてくるつもりってか!? ふざけんな、何でそんな目に……あん時レンに任せりゃ良かった!
「と、とにかく。この人は、リグバルドの一員ってことだね?」
「その通り! 俺こそは、夜空すら照らすミラクルサンシャイン! 世界の理すら超えて人々を救うディメンションセイバー! 正義に明々と燃えるファイアナイト! 千の腕をもって悪を打ち倒すセイントガーディアン!」
「だから長えっつってんだろ!? 欲張るなひとつにしろ!」
「馬鹿者、ヒーローの口上とは日々さまざまなパターンが生まれていくもの! 貪欲に研究せねば古臭いものとなってしまうだろう!」
「研究と全部採用するのは違うだろ……」
「とにかく! この俺が、リグバルドの誇るスーパー傭兵でスーパーヒーロー、ハヴェスト・ヴァッサー=マークⅡだ! よく覚えておくんだぞ、少年少女たち!」
鬱陶しいポーズを決めて、ハヴェストは初対面の暁斗たちにそんな名乗りを上げた。俺と美久は死んだ目で、暁斗とイリアはいけないものを見てしまった目で、フィーネは少し興味持ってそうな目で、その光景を眺めていた。
「……えっと。美久ちゃん、あの人は芸人か何かかな?」
「もうそれでいいわ。ウザくて売れない芸人よ」
「傭兵でヒーローだって言ったぞ!?」
「暁斗、アレ引き取ってくれねえか……?」
「……カイ。いくら親友でも、粗大ゴミを渡すのはどうかと思うぜ?」
「初対面からゴミ判定!?」
「マークⅡ。あの男はロボットか何か? ならば深刻なバグがあるのではないかと推測」
「いや単に男の憧れってやつで……バグ!?」
初対面組の容赦ない評価に、ハヴェストは一瞬で膝をつき、スポットライトでも当たっている感じでへこみ始めた。相変わらず、アホなことしか言わねえのに、よくわからねえところでメンタルが豆腐だなこの野郎……。いや同情はしねえけど!