表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
6章 凍てついた時、動き出す悪意 ~前編~
280/429

繰り返される悪夢……?

「おら、よっ!!」


「がっ……グアアアァ……!!」


 暁斗の銃弾に怯んだ蜥蜴に、爆炎を巻き上げるようにアッパーを喰らわせる。顎をかちあげられた相手はそのまま炎に包まれ、悲鳴を上げながら姿を消していった。これで、二つ目の敵部隊を撃破だ。


「よっし、次行くぜ!」


「無茶はするんじゃないわよ、海翔!」


「まだまだ始まったばっか、へばってもいられねえだろ!」


 今ので20体目。俺が直接倒した数で言えば3体。1体を仕留めるだけでも、決して楽勝とは言えねえ。……正直、どこまでやれるかは分からねえ。だからこそ、やれるとこまでやってやるだけだ。


「あたし達はこのまま前進するよ! ただし、退路の確保は忘れないように。無理だと思ったらその時点で撤退するからね!」


「了解した。後方支援をしつつ、転移には最大限に警戒する」


 正面からぶつかっているマスター達の負担を減らすには、俺たちもとにかく前に進むことになる。いくら囮と思われてても、本拠地に迫る相手を無視はできねえはずだ。

 敵のリーダーさえ倒せれば俺たちの勝ち。そして、こっちにはマスター達や先生がいる。それだけで、勝ちを信じられるってもんだぜ。


 リーダーのイリアを中心に、荒れた道を登っていく。高地とは言うが、ほとんど山道みたいなものだ。ところどころに木が生い茂り、崖のようになっている傾斜もある。俺なら飛んで対応できなくもねえが、落ちないようにしねえとな。

 ……けど、しばらく進んでも次の敵と遭遇しなかった。そんなにマスター達の方に集中してんのか?


「こうすんなり進めると、罠の気がしてくるな……」


「罠、ねえ……」


 実際、暁斗の言うとおりだ。囮と思ったからって完全放置はしないだろうし、もっと絶え間なく敵と出逢ってもおかしくはねえはず、なんだが。


「……………………」


「どうした、カイ?」


「いや、何だ。前にも、こんなことがあったようなってか、とてつもなく嫌なことを思い出しそうってか――」









「ハァーッハッハッハッハァ!」





 ――背筋が、凍り付いた。


「なかなかの快進撃だ、イタズラ小僧たち! まったく、最近の若人は大人の目を盗むのが上手いもんだ!」


 冗談、だろ。この声は。この、二度と聞きたくなかった、ストレスしか溜まらない口調は。


「な、何だ!?」


「何だと問われれば、答えるがお約束! さあ、目ん玉かっぽじって焼き付けなぁ!」


 声は、上から。心底見たくないが、見てしまう。そして、否定したくても認めてしまう。……最も高い木のてっぺんで、真っ白な毛並みを持つ犬男が、謎のポーズをとっているところを。


「呼ばれてぇっ!」


 呼んでねえ。断じて呼んでねえ。だから止めろ、飛び降りてくるな。今すぐ帰れ、もしくは受け身に失敗して死んでくれ。


「飛び出てぇっ!!」


 飛び出るな、永久に引っ込んでいてくれ。それか地面に激突してそのまま埋まれ。止めろ、落ちながら枝で上手く衝撃を殺すな。駄目だ、早く何とかしないと、何とか――。


「ヒーロー見ざ――」


「出演禁止!!」


「んのおおおおぉっ!?」


 ――そうだ、いつだって、こういう時には暴力が全てを解決する。ということで、俺は落下のタイミングに合わせて、全力で変態に飛び蹴りを浴びせた。

 さすがに空中で防御はできなかったようで、派手に転がっていく白毛玉。木の生い茂る辺りに突っ込むと、土と葉っぱの中に顔を埋めて、沈黙した。


「……あくはほろびた」


「は? ……いや……え? 何?」


「みんな、行こうぜ。今ここでは何も無かった。誰もいなかった。いいな?」


「……私も賛成。行きましょ、みんな」


「え、あの、ちょっと……?」


 同じく事情を知る美久と俺は、とにかくみんなを急かす。けど、さすがに他のみんなは混乱して動かない。フィーネは興味深そうに眺めているけど。


「説明している時間がねえんだ! 早く、早く行かねえと……!」


「ぶっはああぁっ!?」


 ……俺の奮闘も虚しく、腹立つほど無駄にタフネスのある白いサモエド男は、あれだけ派手に吹っ飛んでおきながら、すぐに勢いよく飛び上がった。ああ、畜生。何だ? これはリグバルドから俺への嫌がらせか?


「な、何をするんだ不良トカゲ少年! ヒーローの登場シーンを妨害するなど、悪の首領でもやらんぞ!?」


「誰が不良だ、このクソバカスットコドッコイエセヒーロー!」


「誰がエセヒーローだ、俺は誰もが憧れるスーパーヒーローだぞ!」


「クソバカスットコドッコイは否定しないのね……」


「てめえに憧れるやつがいるわきゃねえだろ、アホな妄想してねえで現実を見ろ現実を!」


「はっはっは、なるほど妬みか少年! 安心しろ、君のような不良でもちゃんと悔い改めて更生すれば、俺の次くらいに立派なヒーローになれるぞ!」


「よし分かった、そのよく開く口を溶接してやるからそこ動くんじゃねえぞコラ!!」


「……漫才コンビでも組んだのか?」


「誰がこいつとコンビだぁ!? そんなことになったら潔く死ぬわ!」


「あんたがノるからそうなるんでしょ……」


 いやノってるわけじゃねえよ! 我慢できねえだけだよ!


「くそ……なんだっててめえがここにいるんだよ! あれでクビにならなかったってのか!? 人材不足かよリグバルド!」


「ふはは。少年たちの足留めは果たしたのでな、むしろ査定が上がった! マリクのとっつぁんはスーパーヒーローの大活躍を気に入ってくれたみてえだぜ?」


「……マリクって野郎の頭がちょっと心配になったわ。それにしても何でまた俺の方だよ!? バカはバカで集まれ! コウ達がいる方にでも行け!」


「ふっ。ヒーローが敗北を喫したのだ……それはすなわち! パワーアップしてリベンジマッチにより撃破する展開だろう!」


「あああぁやめろぉ! そんな負債、俺はいらねえええぇ!!」


 冗談じゃねえ。つまりアレか? こいつは俺を狙って来てて、俺を倒すまでストーカーしてくるつもりってか!? ふざけんな、何でそんな目に……あん時レンに任せりゃ良かった!


「と、とにかく。この人は、リグバルドの一員ってことだね?」


「その通り! 俺こそは、夜空すら照らすミラクルサンシャイン! 世界の理すら超えて人々を救うディメンションセイバー! 正義に明々と燃えるファイアナイト! 千の腕をもって悪を打ち倒すセイントガーディアン!」


「だから長えっつってんだろ!? 欲張るなひとつにしろ!」


「馬鹿者、ヒーローの口上とは日々さまざまなパターンが生まれていくもの! 貪欲に研究せねば古臭いものとなってしまうだろう!」


「研究と全部採用するのは違うだろ……」


「とにかく! この俺が、リグバルドの誇るスーパー傭兵でスーパーヒーロー、ハヴェスト・ヴァッサー=マークⅡだ! よく覚えておくんだぞ、少年少女たち!」


 鬱陶しいポーズを決めて、ハヴェストは初対面の暁斗たちにそんな名乗りを上げた。俺と美久は死んだ目で、暁斗とイリアはいけないものを見てしまった目で、フィーネは少し興味持ってそうな目で、その光景を眺めていた。


「……えっと。美久ちゃん、あの人は芸人か何かかな?」


「もうそれでいいわ。ウザくて売れない芸人よ」


「傭兵でヒーローだって言ったぞ!?」


「暁斗、アレ引き取ってくれねえか……?」


「……カイ。いくら親友でも、粗大ゴミを渡すのはどうかと思うぜ?」


「初対面からゴミ判定!?」


「マークⅡ。あの男はロボットか何か? ならば深刻なバグがあるのではないかと推測」


「いや単に男の憧れってやつで……バグ!?」


 初対面組の容赦ない評価に、ハヴェストは一瞬で膝をつき、スポットライトでも当たっている感じでへこみ始めた。相変わらず、アホなことしか言わねえのに、よくわからねえところでメンタルが豆腐だなこの野郎……。いや同情はしねえけど!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ