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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
6章 凍てついた時、動き出す悪意 ~前編~
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ニケア高地攻略戦

 ――ニケア高地。


 来る前にちょっくら調べておいたが、いわゆる未開拓区画であるこの土地は、原産の強力なUDBが数多く生息する過酷な環境、らしい。

 UDB以外の普通の野生動物もほぼいない、よほどの物好きか死にたがりでもなければ足を踏み入れないような僻地、とアトラは言っていた。当然、人が進むには適さない荒れた場所で、だからこそUDB達の拠点には適していたってわけだ。


 今回、リグバルドのUDB達が現れた途端に、元々ここに生きていたUDBは忽然と姿を消したらしい。その代表種のひとつが灼甲砦らしいから……連れ去って利用してるってか。UDBにとっても、迷惑な話だな。



 そして今回、俺たちが目指す場所……敵のリーダーがいると予想されているのは、頂上だ。お約束と言えばお約束、最も辿り着くのが困難な場所に構えているってのは当然の話だ。

 そして、UDB達はこの高地の至るところを徘徊している。見付からずにボスだけ倒すってのは不可能だろう。となると……やることは、至ってシンプルだ。






「貴様たちは……!」


「よう、元気かお前ら! まずは挨拶がわりだ、取っておきな!」


 入り組んだ地形を利用して、暁斗が遭遇したUDBに奇襲をかける。相手は面食らいつつも、さすがにこれだけで倒せる相手でもなく、即座に態勢を立て直した。

 俺とイリア、美久にフィーネもそれに続く。


「くっ。まさか、本当にそちらから攻めてくるとはな!」


『ギルドノ援軍デ勢イヅク可能性ハ、考慮シテイタガ。タカダカ数十名ガ増エタダケデ、随分ト思イ切ル……!』


「舐めてんじゃないわよ! いつまでもあんた達の思い通りになってたまるもんですか!」


「あたし達だけじゃない、この国のみんながあなた達に立ち向かっている! そろそろ出ていってもらうよ!」


『チッ。ズニノルナヨ、ヒトゴトキガ!』


「図に乗っているのはそちら。容赦をするつもりはないから、覚悟をするといい」


 敵は……目に見える範囲だと、3種がそれぞれ3体ずつか。つっても、これだけのはずがねえ。


「各員、A12部隊より報告! ギルドの構成員と遭遇、交戦を開始した! 付近の部隊は、至急応援を頼む!」


 防衛戦の時も連携をとってやがったが、やっぱり何か通信の手段を仕込んでいるらしい。一丁前に、軍隊って感じだな。


「……また、この敵は陽動と思われる! 各地点は警戒を強めつつ、敵本隊の動きを見落とすな!」


「……へえ?」


『シラバックレテモ無駄ダ……! コノ程度ノ人数デ攻メテクルモノカ! 銀月ヤマスター共、主力モイナイデハナイカ!』


 ここにいるのは赤牙のメンバーだけだし、その中の一部でしかない。なるほど、思ったよりは判断が早いじゃねえか。


「確かに、ここにいるのは全員じゃねえ。だが、勘違いしてもらっちゃ困るぜ」


 まあ、そんなの気付かれるのは前提だ。俺たちのやることは変わらねえし、変えるつもりもねえ。

 飛び込み、手近な1体の虎の横っ面に全力で炎の拳を叩き付ける。さすがに一撃で仕留められはしなかったが、相手は苦痛に呻いている。


「俺たちを陽動だと思ってるんなら、いいぜ。後悔は、消し炭になってからするんだな!!」


 俺だって、腹が立っている。この国のみんなが苦しんでいる姿を見て、あの村を見て。だから、容赦はしねえ。


「こちら赤牙B班! 狼煙は上げた、派手に始めるとしようぜ!」













 海翔たち、赤牙B班がいるのとはちょうど反対側。ほぼ同時刻に、この地点でも戦闘が開始していた。


『コ、コノ……!』


『オ前達ノ相手ハ俺ダ!』


 緑色に塗装された鉄獅子が、挑発をするように敵陣を駆ける。それに特に刺激されたのは、同じ外見を持つ鉄獅子だ。


『裏切者ノプロトタイプゴトキガ、刃向カウカ!』


『フン。確カニ、オ前達ハ俺ヨリ後ニ生ミ出サレタンダロウガナ……ソレダケダ!』


 苛立たしげにノックスへと襲いかかる2体の鉄獅子。恐らく、身体能力の差で簡単に制圧できると踏んだのだろう。しかし、ノックスは冷静にそれを回避すると、すれ違いざまに一体の獅子の喉元に喰らいついた。そのまま、力任せに相手の身体を投げ飛ばし、もう1体にぶつける。


『ガッ! 』


『ナ、ナンダト……!?』


『力デハ負ケテイヨウガ、経験ガ違ウ。ランドノ剣ト比ベレバ、ドレダケ軽イカ……! アノ訓練ヲ乗リ越エタ今デハ、負ケル気ハマルデシナイ! マシテヤ、今ノ俺ニハ頼レル仲間ガイルカラナ!』


「へっ、言ってくれるじゃねえかノックス! そんじゃ、一緒に駆け抜けるぜ!」


「僕も援護する。バルド、エリス、二人は左手を頼む」


「まっかしときや! 行くで、バルはん!」


「問題ない……!」


 リックとノックスが右側の敵へ突撃し、レアンの銃撃がその二人を援護する。残る左側には、エリスとバルドの二人が立ちはだかった。

 エリスの手には、いくつも小型の何かが握られていた。それを一斉にUDB達の方に向かって放り投げると、複数の炸裂音が上がった。


「ぬおおぉ!?」


「本日は出血大サービスやで! ぎょうさん持っていきや、お客さん達!」


 そう不敵に笑うエリスの手には、投げたばかりである筈の爆弾が、取り出した素振りもなく存在していた。それを惜しげもなく放り投げる。


 彼女の能力は、物質の複製。短時間ではあるが、特定の何かを性質までそのままにコピーすることのできる力。期限が過ぎればその物質は消滅するが、それが既に及ぼした結果までは元に戻らない。それ故に、元となるひとつだけ確保しておけば、彼女は銃器や爆薬などを実質無制限に使うことができる。


「……そこだ」


『グオッ……!』


 エリスによる爆撃で混乱している敵の中を、バルドが駆ける。迎え撃とうとした黒虎の目前で、その姿が急にブレた。かと思うと、左右に分かれるような形に『分身』する。その挙動に面食らい、混乱しているうちに、左右からの同時攻撃を受けた黒殺獣は卒倒する。


「バルはん、前に出過ぎんようにな! 慎重に行くで!」


「分かっている。エリスは引き続き撹乱してくれ」


 普段は寡黙なバルドも、戦場では口数が増える。意思を共有しなければ、命取りになるからだ。もっとも、エリスとバルドは、声に出さずとも連携は完璧なのだが。

 ある程度かき回し、数体を仕留めたところで少し下がる。ノックス達も同様にいったん下がってきた。


「ったく、それにしてもすげえ数だぜ。人手不足って言っても無茶させすぎだろ」


「だが……初めて味わう危機というほどでもない。ましてや、あの人達が共に立つ戦場であれば、負ける気はしない」


「同感やな。なら、ウチらはせいぜい、後で臨時ボーナスが出る程度に仕事するとしよか?」


「瑠奈やヘリオスからも、交戦に入ったと通信が来た。マスター達の負担を減らす為に、僕達が可能なだけ引き受けるぞ」


『オウ! 獅子王ノ力、敵味方共ニ知ラシメルトスルゾ!』


 彼らが最も尊敬し、信頼する人物。彼がもたらす勝利に、微塵も疑う余地はなかった。ならばこそ、獅子王の牙達に恐れなどない。
























「……やはりここか。来たぞ!」


 俺たちが目標の進軍地点を訪れた時には、UDB達は万全の態勢でこちらを待ち構えていた。

 敵の数は、見渡す限りを埋め尽くすほどだ。どうやら、ここに本隊が来ると踏んでのことらしい。だが、それにしても、俺たちの編成には連中も表情をひきつらせた。


『ギルドマスターガ、全員……!』


 俺に、ロウに、ランド。そして、もう一人。鉄獅子の言うとおり、今のこの国に存在する主力ギルドの全マスターが、ここに集結していた。


「分かりやすいチーム分けだろう? 残念ながら、ここにいる奴らは外れクジだ。ま、他の地点も大差はないだろうがよ」


「舐めてくれる! 主力をぶつけるならばこのルートだと、理解した上で待ち構えていたのだ!」


「へえ。勝つつもりなのかい、俺たちに?」


『チッ。マケルツモリデ、タタカウカヨ!』


 虎の咆哮に合わせるように、背後にも無数のUDBが転移してきた。想定通りに、全力を出してきたか。


「敵に囲まれるように動くのは、兵法としては下策も下策だな」


「全くだ。この面子で無ければ突っぱねていたところだが……逆に言えば、この面子ならば何の問題もないってやつだな?」


『貴様ラ……!』


 囲まれていながら、俺たちの会話は我ながら呑気なものだ。そして囲んでいながら、UDB達の方が警戒したまま動けないでいる。

 だが、いつまでも膠着しているわけにはいかない。じりじりと、先頭の奴らが近付いてくる。そして。


『総員、突撃!!』


 その獅子の一声で、火蓋は切って落とされた。

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