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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
6章 凍てついた時、動き出す悪意 ~前編~
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海翔の見栄

「……ああ、くそ」


 俺は少しだけみんなと離れて、思わず意味の無い鬱憤を吐き出していた。



 変に過保護になっている。その自覚はあった。

 この前、コウの発作を見かけてからだ。知ってはいたけど、直接見たのは久しぶりだったから。何と言うか、けっこう効いた。

 息を荒げて、汗で全身を濡らして……泣いていた、あいつ。ずっとあいつが苦しみ続けていたんだってことを、改めて見せ付けられちまった。そして、苦しめ続けているのは、他ならない俺で……それを意識すると、どうにも耐えられなくて。


 さっきされた、大会で俺が庇った話。あれについては……助けたこと自体にも、そのせいで倒れたことにも、後悔はねえ。だけど、下手したら俺は、あいつに同じようなトラウマを与えるところだった。それだけは、本当に失敗だったと思っている。

 慧から聞いたところ、あの後の何日か、あいつは発作を起こしていたらしい。自分が死にかけた事への恐怖だってもちろんあるだろうし、俺だってさすがにしばらくは寝付きも悪くなった。けど、特にひどい時に、こう言って慧に泣きついたそうなんだ。カイが()()オレのせいで、って。



「どんだけ嫌われたって、しょうがない。どうしても自分が許せない、か……」



 あいつがそう考えていることは、知っていた。俺がどれだけ言葉を尽くしたって、ずっと届かないままだった。だから、あいつの心が整理できるまで、何とか支えてやろうって決めたんだ。だけど……そう考えたまま、いったいどれだけの時間が過ぎたんだろう。

 もっと、具体的に助けてやる方法はないか。今までだって、ずっと考えてはいた。やっぱり二人でじっくり話すことが必要じゃないか、とも思った。それでも……怖かった。それが、あいつをさらに追い詰めるんじゃないかと思うと。


「一歩引いてないで、一緒に悩んでいくのが友達……か」


 アガルトで美久に言われたことを、反芻する。俺はどこかで、あいつと対等な場所に立とうとしていないんだろうか。……そうするために、今の関係を受け入れたはずなのに。


 しっかりしろよ、俺。これじゃ、みんなからも気にされちまう。不遜であれ、余裕を見せろ、いつもの俺でいろ。そうじゃなきゃ、俺は。


「カイ」


 声をかけられて、振り返る。……暁斗か。


「コウから頼まれたのか? 様子を見てきてくれって」


「そう言われるのを察するくらいなら、ちゃんと話してやれよ。まあ、言われてなくても来ていたけどさ」


「……お節介だな、お前も」


「お前相手にはそれがちょうどいいだろ。俺にまで、何も話せないなんて言うつもりはないよな?」


 コウは、知っている。俺が、絶対にあいつには弱音を吐こうとしないことを。そして、暁斗にならそれを話せることを。……話すべき、なんだろうな。


「この国に来る何日か前に……コウが、発作を起こしていたんだ」


「…………。たぶん、そんなとこだろうとは思ってたけどさ。重かったのか?」


「俺が行く前には落ち着いてたし、軽かったんだとは思う。あいつが慣れちまったせいかもしれねえけどな」


 たぶん、今までも隠していただけなんだろう。アガルトでのことも、聞いたしな。


「事情は分かった。だけど、どうして俺とか瑠奈に相談しなかった? 広めたくなかったにしても、俺たちなら大丈夫なはずだろ?」


「………………」


「自分で何とかしてやりたい気持ちもあるだろうけどさ。お前はお前で、ちょっと抱えすぎだと思うぜ? コウを心配してお前が潰れたら、それこそ本末転倒だろ」


「…………悪い」


 少し怒っているのか、暁斗の口調は強い。申し訳無さと感謝が、どちらも湧き上がる。

 どれだけ余裕ぶったところで、俺はガキだ。未熟だ。それを補う努力はしてきたけれど、見栄を張っている自覚くらい、持っている。

 だけど……見栄を張らないと、俺は立てないんだ。俺は、立って、強くないといけない。あいつにこれ以上、余計な心配をかけないように。


「強がるなとは、俺も言わない。だけど、そうしなくていい時間くらいは作れ。……少なくとも俺は、お前の弱いところもそれなりに知っているつもりだ。俺の前なら、いつだって吐き出していい。親友として、そのくらいは信頼してくれていると思っているんだけどな」


「……先輩として、じゃなくてか?」


「別に、そういう頼り方をお前がしたいなら、俺はそっちでもいいけどな」


「……いや。俺がお前を敬って甘えるなんて、考えられねえな。今でも俺は、お前とは対等なつもりだからよ」


「はは、俺だってそうだよ。……俺らはどっちも、自分のことには頑なになっちまうみたいだからさ。そういう時、そうじゃねえだろって殴り飛ばすような、そんな関係でいようぜ」


 あの時、勝手なことをしたこいつを、俺は殴り飛ばした。だけど、勝手にひとりでどうにかしようとしているのは、俺も一緒、か。きっと、こいつは俺を殴ってくれるだろう。そういう奴がいてくれるってことは……多分、すごく有難いことだ。

 俺は、掌で両方の頬を叩く。軽い痛みと一緒に、気持ちが引き締まった。……俺にしかできないことはある。だけど、それ以外のことなら、こんな頼りになる親友がいるじゃねえか。確かに、抱え込みすぎちまってたな。


「ありがとよ、暁斗。ちょっと情けないとこ見せちまったな」


「お互い様だ。強がるのがお前のやり方なら、俺もフォローしてやる。だから、せいぜいいつもの生意気なお前でいろよ」


「おう。そんじゃ、まずは目の前の戦いで、トカゲと竜の格の違いでも周りに見せてやるとするぜ」


「そうそう、それでこそお前だ。……ただ、無理はするなよ。本気できつい時は、強がる必要はないんだからな」


「へいへい、覚えとくぜ。よっし、それじゃ戻るとすっか」


 一口で親友と言っても、コウに抱く信頼と、暁斗に抱く信頼は、全く違うものだ。もちろん、ルナとレンも、赤牙のみんなもだ。みんな大事な存在で、だからって誰も誰かの代わりにはなれない。暁斗は……俺にとっては、背中を預けられる相棒って感じかな。本人の言うとおり、俺の弱いところも全部知っているのは、こいつぐらいだと思うから。



 ……そうだな。戦うことも、それ以外も、俺ひとりでどうにかするものじゃない。みんなで、立ち向かわなきゃいけねえ。

 まずは目の前の事だ。ニケア高地のUDBたち……待ってろよ。今から俺と親友たちが、お前らをぶん殴りに行ってやろうじゃねぇか。



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