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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
6章 凍てついた時、動き出す悪意 ~前編~
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敵か味方か

「予知の力……マスター、そういう力って見たことあります?」


「俺の知る限りでは、少し先の危険を感じ取る力なら観たことがある。だが、数日先の危機を具体的に言い当てるレベルは聞いたことがない。もちろん、あり得ないとは言いきれないがな」


 一同、パソコンの前から離れ、椅子に座っていく。皆が難しい表情をしているが、それも仕方ないだろう。


「もし、本当に全部予知したんだとしたら、とんでもない力だね。ほとんど神様みたいなものじゃない?」


「PSはそういうものではあるけどな。コウの時の歯車とかも、とんでもない力だし。おれが言うのもどうかと思うけど」


「……でも、PSはみんなそういうものなのかもって、思う。わたしだって、自分がこんな力を使えることがたまに不思議になるし……」


 誰もが当たり前のように力を振るいながらも、その現象が異常であることは考えるまでもない、それがPSだ。分かりやすいかどうかの差はあれど、どれだって本当はあり得ない何かなのだ。


「そもそも、予知だとも限らないんじゃねえか? それこそ、浩輝みたいに時間を操る力で、実は未来から来てる……とかよ」


「そ、それだと余計にとんでもねぇな。オレだって、時間操作って言っても、そんなすげえことはできねえぜ?」


「でも、アトラの言う通り、聖女は予見したと言っただけで、予知のPSなどとは言っていない。そもそもPSだとも言っていないけれど」


 様々な観点からの意見が飛び交う。……確かに、PSであるとは限らないのか。何らかのデータで判断している可能性もある。

 超常的な事象はPSによるものだと、俺の中にも思い込みがあったようだ。やはり、みんなで情報を整理するのは大事だな。他の可能性としては……。


「個人的な意見を言わせていただきますと、()()()()である可能性も高いと思いますよ」


「自作自演?」


「聖女は、予知などしていない。最初から、いつどのようにUDBが襲撃するかを知っていた人物、ということだな?」


「…………。ああ、なるほど、そういうことかよ!」


「分かったフリしなくてもいいんだぜ、コウ?」


「フリじゃねえよ!? つまり、敵が自分でバラしてるってことだろ!? オレだってそんぐらい分かるっつーの!」


「なっ!? 馬鹿な、このバカ虎に策略を理解できる脳味噌なんてねえはずだ! 大丈夫かコウ、熱でもあるのか!?」


「…………オモテニデロクソトカゲ」


「どうどう、コウ、どうどう」


「……細かいが、浩輝は馬ではないぞ、瑠奈」


 浩輝が何やら危険なオーラを発しつつあったが、今回は煽りすぎた海翔へと誠司が拳骨を喰らわせた。仲が良いからこそなのは理解しているがな……。

 それはともかく、ジンの唱えた説は、俺も考えていたものだ。周囲の反応を見るに、みんなにもおおよそ伝わったらしい。


「元から知っていた情報を流している……そうだとすればシンプルな話になるね。でも、仮にバラしてるのが敵だとして、何のために?」


「人々の心を疲弊させるのが襲撃の目的だとして……精神が磨耗した人は、何かにすがりたくなるものだ。ならば、すがる先を用意してやれば、大衆の心理を操ることができる。絶対的な危機と、その危機へ立ち向かう救世主……マッチポンプというやつだな」


「おいおい。ネットで宗教を開拓して、その信者を操って何かさせよう、だなんて言うわけじゃねえよな?」


「憶測だが、可能性はあるだろう。命を救われた者の話だって、聖女自らがその事故を工作したということも考えられる」


 この国は発展の途上にある。ネット技術など、まさにその最先端にあるはずだ。リテラシーなどの考え方も未熟であると思っていいだろう。ならば、それを利用して何かをしようとする可能性は十分にある。

 主観であれば、この説が一番違和感がない。情報工作や扇動は、大衆に対しては絶大な効果を発揮するし、奴らが好む手段でもあるだろう。もっとも、マリクがそこまで簡単に答えを掴ませてくるか、と考えると懸念はある。


「念のために繰り返すが、あくまでも憶測だ。今は答えを出すのに十分な情報がない。現時点では、善人とも悪人とも、敵とも味方とも断ずるのは危険だろう」


「確かに、そうですね……」


「しかし、ひとつの目標としては有力だ。リグバルドと一切の関係が無かったとしても、力のある集団になりつつあると言うならば、放っておくわけにもいかないだろうよ」


 聖女の予知が本物であるならば、その力は大きな助けになるかもしれないし、放っておけばリグバルドに狙われる危険も高い。無論、力が本物でも語りは建前……つまり、野心を持った第三勢力となる可能性も考慮せねばなるまい。

 聖女の予知が偽物であるならば、元から襲撃について知識があった人物……リグバルドの関係者、ということになる。その上で、敵か味方かはまだ判断しようがない。

 外れの可能性を考慮しても、元より何の手がかりもなかったところだ。ウェアの言うとおり、放置するわけにもいかないし、目標のひとつとするには悪くない。


「ならば、聖女の情報を集めることを、当面の指針といたしますか?」


「ああ。無論、明後日の作戦が成功した後の話だがな」


 明後日……UDBの巣となっている地点へと乗り込む、反攻作戦。みんなの表情が引き締まる。


「今から緊張してきたぜ……」


「何だよ、今度のチームは俺が一緒じゃねえからって、びびんなよ」


「うるせえっつーの。ったく、保護者ヅラしやがって。お前がいなくてもオレはやれるってこと、帰って来てからたっぷり聞かせてやるぜ」


「ふう、こんな時までお前たちは。……だけど、そのくらいの意気でやらないとな。おれだって負けてられないか」


「何だかんだでレンも負けず嫌いだよね、やっぱり」


 瑠奈たちも士気は十分、と言ったところだ。今回、俺はみんなと別のチームになる予定だが、今さら不安などと言うつもりもない。この前の防衛戦で、みんなの力は改めて認めたからな。


「あの負けん気の強さ、何だか懐かしいものを見ているような気がするよ。なあ、誠司」


「オレはあそこまで分かりやすく煽っていたか? ……いたな。むしろもっと酷……こ、コホン」


「はは、お前もこの話題だと形無しだな。では、他に何も無いようであれば、一度解散とする。…………よし。各自、休憩するなり前もって準備するなり、今日は自由に過ごしてくれ」












「ふう……」


 話し合いも終わり、俺は自室に戻ってきていた。明日には作戦の準備が始まるので、休息がまともに確保できないことも考えられる。今のうちに休んでおかなければな。

 とは言え、鍛練は日課だ。刀を振るうスペースは確保できなかったので、部屋で基礎トレーニングを行うことにした。何をするにも、全ては己の身体であり、それを高めるのは最重要だろう。

 ひとまず予定しておいたメニューを終え、俺は一息つく。体力にはまだ余裕もあるが、今日は軽めにしておこう。疲れを残しては元も子もない。

 時間を確認すると、午後6時。少し休んでから、晩飯でも食いに行くとしよう。瑠奈に時間があるか、声をかけてみるか。


「………………」


 我ながら、心に余裕ができたものだ。数週間前の俺ならば、訳も分からぬ焦燥感に襲われて、うまく休めなかっただろう。だが、俺には仲間がいるのだと、ようやく自覚できたからな。


 ウェアも言っていたが、明後日は、昨日以上の激戦となるだろう。何しろ敵の拠点に攻め入るのだ、指揮官クラスの何者かがいてもおかしくはない。そういったものを撃破できれば大きな成果となるが、それは当然、強敵であることを意味する。

 クライヴのような元々の将校。クリードのような名の知れた傭兵。マリクの配下であるアインやアンセル達。もしくは、新たな人造UDB。

 今のところ、俺たちが戦った人造UDBは、Cランク相当の群ればかりだ。しかし、ウェア達が戦ったという強力な昆虫型の個体など、それ以上の強さを持つものも存在はするのだろう。しかも相手はあのマリクだ。アガルトでの戦いから得られたもので、今度は何を生み出しているか……。


 部屋にノック音が響いたのは、その時だった。


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