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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
6章 凍てついた時、動き出す悪意 ~前編~
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反ギルド派

「その人は何もしていないじゃないですか! そんな乱暴に扱うのは間違っています!」


「あ?」


 軍人の側は二人いるようだ。ひとりは人間の女……先ほどの声の主だろう。長身で軍服を着こなしている様からは、厳しい印象を受けるし、先ほどの言葉からしてその通りなのだろう。

 もう一人はイヌ科の男……この国に多いというジャッカルのようだ。かなり荒っぽい性格をしているらしく、青年を強引に引っ張って連れていこうとしていた。そいつはハーメリアの言葉に露骨に表情を歪め、いったん青年を突き飛ばすように手放した。


「何だ、てめぇは。そいつの仲間か何かか?」


「私はギルドの者です……! 何だはこちらの台詞ですよ! いきなり人を捕まえて連行なんて、暴力と同じです!」


「これは職務だ。他の国では、海外からの連中が洗脳の道具をばら蒔いたと言うではないか? ならば、浮いた異邦人を調べるべきなのは道理だろう?」


 確かに、疑わしきを放置するべきでないのは確かだが……。そんなやり取りに辺りがざわつく中、瑠奈が前に出た。


「だとしても、やり方は考えるべきじゃないですか?」


「瑠奈さん……?」


「話を聞くのは、必要だってことは分かります。でも、手荒な真似はよくないですよ。ハーメリアちゃんの言うとおり、まだ何もしてない人にそんな乱暴をする権利があるんですか?」


「なんだ、このガキ共が……ギルド? 知らねえよ。余計な口出しすんじゃねえ、邪魔だ!」


「…………!」


 よほど血の気が多いのか、歯向かってきた瑠奈に対して、あろうことか拳を振り上げた男。――それを、回り込んでいた俺と暁斗で後ろから拘束する。


「俺のかわいい妹に、何するつもりだ?」


「人の恋人に手を上げようとするとは、良い度胸だな?」


「なっ……」


 両腕を掴まれ、男は面喰らったような表情を浮かべている。暁斗はよほど苛ついているらしく、かなり強く力を入れているようだ……いや、正直に言えば、俺もだ。痛みに呻く相手を離しつつ、俺と暁斗は瑠奈たちを庇うように間に立った。イリアは渦中の男性を庇い、声をかけている。

 ……背後を考えるとあまり荒立てたくもないがな。見なかったことにするにも、限度はある。


「ギルドごときが、軍務を妨害するつもりか?」


「軍務? へえ、旅行者に絡んで難癖をつけることが軍務なんですね。初めて知りましたよ」


「なんだと、このガキが!」


「止めろ、子供の挑発になど乗るな。この尋問の理由は、先ほど語った通りだが?」


「聞き込みの必要性については同意しよう。しかし、それだけで犯罪者のような扱いをすることには納得できないな。疑わしきは罰せよ、というのはさすがに横暴だろう? ギルドの規約に則り、民間の安全を優先させてもらった」


 手は出さないが、言われたままにするつもりなど毛頭ない。反抗をしなければ、彼らは思い上がるだけだろう。その場の争いを避けるだけでは駄目なのだ。

 いかにこの国でギルドの力が弱かろうと、俺たちはバストールの本部から正式に派遣されたメンバーだ。そして、ギルドは国家の枠から独立した、特殊な裁量権を持つ。


「民間人の安全のためには独自の判断で介入ができる……だったか? 全く、巨大な組織でありながら何とも曖昧で、傲慢な権利だ。そのようなものを各々が振るっているようでは、無法者と変わりないな」


「一理はあるが、それこそがギルドの強みでもある。それに、傲慢なほどの権利がなければ、今回のような無法に対処できないのでな」


「ちっ……この時期に入ってくる余所者なんざ、どう考えても怪しいだろうがよ! それも、見てみろよそいつの格好! いかにも道楽って感じだぜ? 俺なら今のこの国は止める! それをしねえってことは、他の目的があるってことだ!」


 UDBの大量発生については、ニュースでも報道されている話だ。もっとも、裏の事情を知る者はごく一部なため、極端な大事とはされていない。テルムという国家の小ささもあり、そこまで大々的には知られていないだろう。俺たちもこの依頼を受けるまでは知らなかったからな。その辺りは、この国で前線に出ている軍人とは感覚がズレがあっても不思議ではない。

 しかし、テルムへ向かう者ならば、確かに気に留めるべき話ではある。さすがに、行き先の情報ぐらいは調べるだろうからな。


「そもそも、子供が寄せ集まっただけで偉そうに! あれだけの人数で、こんなガキどもばかり寄越して、助けになってるつもりなのが気に食わないんだよ!」


「ほう……。あの戦いに参加した上でその感想だと言うのならば、随分と求める水準が高いようだな? ギルドごとき、などと言う割には、よほど期待していたと見える」


 少人数であることは否定しないが、俺たちはあの戦いで十分な成果を上げただろう。特に誠司やウェア、ランドもいるのだ。それで偉ぶるつもりもないが……単純に、反発が前に来ているだけだろう。明らかに、この二人は反ギルド派だ。


「てめえらギルドは、軍にケンカ売るつもりか? だったら、この場で潰してやってもいいんだぜ……?」


「生憎だが、そちらのように喧嘩を安売りするつもりはないさ」


「……てめえ」


「軍がこの国を守ってきた事実も、君たちの負担も理解はする。だが、それは横暴を無視する理由にはならない。そちらの下になったつもりもない。どのような振る舞いも許されると思っているならば……足元をすくわれるぞ?」


 ……少々、俺も気が立っている自覚はある。目の前で恋人が殴られかけて、腹が立たないわけがない。暁斗もそうらしく、喉の奥で小さく唸っているのが聞こえる。


「いずれにせよ、今回の件を表沙汰にされれば困るのはそちらではないか? 背後にどれだけの大物がいるかは知らないが……軍の内部でまで、余計ないざこざを起こしたくはないだろう」


「……ふん。まあいい。こんな無駄な時間を過ごす意味もないからな。ならば、その男からの情報収集は貴様たちがするといい」


 元々、そこまで重要視もしていなかったということだろう。青年を一瞥しながら、女はそう言い放った。


「だが、敵はどこに潜んでいるか分からないんだ。そちらこそ、せいぜい足元をすくわれないように注意するんだな、お優しいギルドの皆さん?」


 行くぞ、ともう一人に声をかけ、女は踵を返す。男の側も露骨に舌打ちしながら、市場の奥へと歩いていった。検問を再開するのだろうが、あの様子だと他のトラブルでも起きそうだな……しかし、これ以上の干渉は望ましくないか。


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