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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
6章 凍てついた時、動き出す悪意 ~前編~
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広がる不安

 ――そして、翌日。




 俺と瑠奈、暁斗、それからイリアの四人は、揃ってカジラートの街中を巡っていた。


「また随分と気を遣う組み合わせをしてくれるぜ、ジンさんも。どっかで二人きりにしてやるべきかな、イリア?」


「……口に出してる時点で気遣うつもりないよね?」


「……あのな、瑠奈。俺だって、妹の恋路を応援してやりたいし、邪魔をするつもりはない。けど! だけどだな! やっぱりお兄ちゃんはちょっと寂しいんだ! 本音は二人っきりで兄妹の絆を再認識するとかそういうイベントをだな……!」


「……ごめんねお兄ちゃん、さすがにちょっとキモさがヤバいからあと5メートル離れて」


「ごふぁっ!? ……ふふ……そうだな、他に守ってくれる男ができた以上、俺は用無し……トマトのヘタ……加速が終わった後のブースター……ひっそり沈んでいくのが定めさ……」


「暁斗、何を言っているの……?」


「……一応言っておくが、仕事中だからな?」


 そのまま消滅しそうな暁斗の魂を呼び戻しつつ、ため息がこぼれた。……寂しいというのは本音なのだろうがな。別に俺も独占しているつもりはないが、何となく分かる気がする。

 暁斗も瑠奈も半分以上は冗談だったらしく、普通に並んで歩き始める。結局、仲が良いからこそのじゃれ合いだ。


 今日は、赤牙は数名ずつのチームに分かれ、街中を巡っている。リグバルドの動きがどこに潜んでいるか、その調査だ。

 当てがあるわけではないが、まずは人の多い場所が良いだろう、と瑠奈の案内で市場へと向かっている。


「けど、この国でギルドですって言ってどこまで調べられるもんかな……」


「ギルドの力が弱い国だと、そこも問題だよね」


 バストールならば聞き込みもスムーズに進むのだがな。下手をすると不審に思われるかもしれない。


「うーん。ガル、ちょっとその顔を使って魅了してこようぜ」


「恋人連れをダシに使おうとするんじゃない……そもそも、そう簡単に他者を魅了などできないぞ、俺は」


「……無自覚なんだね。それはそうと、さすがに瑠奈ちゃんに悪いかな、それは」


「私は別に気にしな…………ごめん想像したらやっぱりちょっと気になった……」


「そ、そうか……」


「冗談だって。……実は妬いてくれてちょっと喜んでるだろ?」


 図星を突かれ、俺は尻尾が動かないように力を込めた。ある程度の余裕は出てきたと自分でも思うのだが、さすがにこういう可愛い反応を繰り返されると照れる。……ではなくてだな。仕事中だと自分で指摘をしたばかりだろう……。


「ゴホン……ひとまず、指針を再確認するぞ。夕方までは街をひととおり巡り、その後はホテルに戻って整理、という流れだ。その過程で、不測の事態が起これば臨機応変に対応だ」


「不測の事態……か。ガルは、何か起きると思う? あの人たちが、負けたから動きかたを変えてくる、とか」


「最悪の事態を想定する必要はあるが、それでがんじがらめになるわけにもいかないからな。……個人的な意見だが、奴らの今までの行動に意味があるのならば、それを変えるほどのイレギュラーとは判断されないだろう」


「今までの動きって、ただ余裕を見せてるってわけじゃなくてか」


「あたしも、少し考えてみたんだけど……少しずつ、こっちを疲れさせようとしているみたいだよね」


 イリアの意見に、俺も頷く。


「決まった周期で訪れる戦闘、徐々に強くなる相手……侮っているのもあるだろうが、このやり方は、この国に恐怖を与えようとしているように思える」


「怖がらせるなら、不意をついてくるんじゃないのか?」


「突発的な恐怖を与えるならそうだ。だが、()()()()()()()というものは、人の精神を何よりも疲弊させる」


 いつまで耐えられるのか。いつ相手は本気を出すのか。いつか不意をついてくるのではないか。手玉に取られている、というのは多くの者が感じているだろう。ならば、一度でも大きな被害が出れば……そこから、一気に崩れてしまうかもしれない。

 そういう精神面での大衆操作は、いかにも連中が好みそうだ。恐怖は、相手をコントロールするためには強力な効果を発揮するからな。もちろん、一気にこの国を押し潰せるはずの奴らが、それをしない理由も考えるべきだが。


「アガルトでは人々の怒りを高め、実験台とした。それと同じようなことが起こっている可能性を疑うべきだろう」


「……腹が立つ話だね。今のところ、アポストルはこの国には広まっていないようだけど……青い石は見かけないし」


「だけど、何か形を変えているかもしれない。アガルトからまだそんなに経ってないけど、あの人は……その程度で安心できる相手じゃないよ」


 一度マリクの悪意を間近で眺めることとなった瑠奈は、あいつの恐ろしさを実感しているようだ。

 力を取り戻しはしたが、もしもあいつと戦闘になった場合、今の俺ひとりでは勝つのは困難だろう。あの時のように一方的ではないにしても、まだ届かないことは自分がよく分かっている。……あの苦痛を思い出すと、情けないが身震いする。

 しかし同時に、あの力に対抗するのは俺かウェアが最適だ。誠司ならば実力で制することも可能だろうが、耐性を持つ俺ですらあっという間に倒れてしまったのだ。まともに迎え撃つのは、あまりにも危険すぎる。そのためにも……月の守護者の真の力を、最後の記憶を、俺は取り戻さなければなるまい。


「人通りが増えてきたな。そろそろ着くのか?」


「うん。あそこを曲がれば市場の大通りだよ。……でも、この前より人がだいぶ少ないね」


「そうなのか? これでもけっこう多いみたいに見えるけど……」


 そんな話をしながら、瑠奈の言うとおりに進むと、確かにそこには市場があった。大通りに並ぶ数々の露店に、行き交う人々。思っていたよりも活気はあるな……と思ったが、それはこの場所を初めて見るがゆえの感想らしい。


「うん、やっぱり……同じくらいの時間なのに、この前の半分くらいしか人がいないみたい。お店もちょっと少ないかも」


「日による……ってわけじゃないだろうね。やっぱり、昨日の襲撃があったから、かな」


「当然の話ではあるな。外出する人が減っているのは聞いていたが」


 襲撃が次第に激しくなっている……という話も、もしかすると国民にも届いているのかもしれない。だとすれば、余計に不安は煽られるだろう。未だ街中に被害は出ていないと言えど、不必要に外に出ないようにするのは当然だ。むしろ、被害がないからこそ、この程度の減少で済んでいると言うべきか。



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