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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
6章 凍てついた時、動き出す悪意 ~前編~
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傷付きながらも

「大佐のせいじゃないのは分かっているさ。今後、警戒しなきゃいけないってのは残念だけどね。……で、どうするんだい、ウェア。君の仲間が被害を受けたわけだし、何か要求はできると思うよ?」


 ウェアルドは、考え込むように目を閉じて黙っていた。その様子を見ていると、全身にぴりぴりと刺すような緊張感を覚えた。


「ひとまず、作戦上では我々とその小隊を別に配置してもらえればそれで構いません。その他の罰は、俺からは求めないことにします」


「マスター、良いんですか……?」


「もちろん、何も対策しないというわけではない。だが、簡単には解決しない問題だ。……その少尉は、正体を隠しもせずに行動した。発覚するのは理解した上で動いたと考えれば……いるのではないですか? 大佐が手を出せない立場で、ギルドの協力に反対する者が」


 問いと言うよりは、確認だった。大佐は、低く唸る。確かに、ホテルでの会話でヘリオスは言っていたはずだ。無視のできない地位にいる反対派が存在する、と。


「だとすれば、あなたが表立ってその少尉を処分でもすれば、巡り巡ってあなたの立場が危うくなるかもしれない。そうなれば、我々にとっても損になるでしょう。そして、恐らくは元首にも」


「元首にも……どういうことですか、マスター?」


「これまでの経緯からして、元首は親ギルドと言ってもいい。つまり、ギルドへ反発する者たちは、元首と意見を違えていることになる。そこからの推測ですが……反ギルド派とは、反元首派とほぼイコールになっているのではないでしょうか?」


「……否定はできない」


 なるほどな……少し、構図が見えてきた気がする。

 ライネス大佐は、リカルド元首を支持していると聞く。そして、俺たちギルドに救援を求めたのは元首だ。ならば……元首に反発する者が、ギルドに反発している。あるいは、ギルドに反発する者が、元首へ反感を抱く。その両者が交わり、無視のできない勢力となったとすれば……辻褄は合うな。


「だとすれば、その少尉や部下をただ処罰しても、この流れは変わらないでしょう。……根本を絶たねば、また同じことが起こる」


 それは敬語でこそあったが、怒りが滲み、いつものウェアを考えると明らかに攻撃的な発言だ。この人が、仲間が理不尽な被害を受けて怒らないはずもない。その威圧感には、俺まで毛が逆立ってしまいそうである。


「大佐。俺は、あなた個人は尊敬できる方と思っていますし、軍とは良好な関係を築いていきたい。しかし……だからと言って、仲間を傷付ける行いを無抵抗で耐えるつもりもありません。皆を守るという自衛は、誰の許可を得ずともさせていただきます」


「……肝に銘じさせてもらう。そして、私もできる限りの助力はすることを約束する。何もせずに済ませて良いとは、私も思わない。時間はかかるかもしれないが……配下の不始末には、必ず相応の対処をしよう」


「ありがとうございます。……こちらとしても、一部だけを見て全てに反発するつもりはありません。憂いなく協力できるように、力を尽くさせてもらいます」


 少しだけ怒気を緩めながら、ウェアは締めくくった。敵は大佐ではない、それは間違えてはならない話だ。むしろ、軍の内部に敵がいるからこそ、友好的な人とは確かな関係を築かなければならない。


「さて。話が大きく逸れてしまいましたが、本来の目的についてもそろそろ話すとしませんか? 編成は先の問題も踏まえた上で、になるでしょうが……次の作戦について」


「うん、そうだね。大佐も、いいかい?」


「……承知した」


 ジンの発言に、ひとまず思考を切り替える。……俺たちも、大まかな作戦の流れだけは、この国に来た日にロウから聞いている。


「先ほど述べた通り、此度の防衛戦では、想定以下の消耗に抑えることができた。しかし、このまま行けば、再び奴らは襲い掛かってくるであろう。それも、今回以上の戦力で」


 奴らの目的は不明瞭だが……今回で打ち留めのはずもない。一度の敗北など、連中にとっては大した痛手にもならないだろう。


「このまま籠って防戦を続けたところで、いずれは押し潰されるであろう。どこかで、反撃する必要がある。そして、それは時間が経てば経つほど困難になっていく」


 そう。態勢を整えて、などと言っていては、状況は悪化していくだけなのだ。ならば、やるべきことは、至極単純な結論になる。つまり……。


「好機は、今しかない。予定通り、三日後――確認されているUDBの拠点に対する、一斉攻撃を実行する」


















 マスターの命令でホテルに戻された俺は、自室に戻って横になっていた。

 コニィからは応急処置を受けてはいたけど、追加の治療は断った。あいつも疲れているのは見ていれば分かったし、休めば治る傷まで無理をさせたくなかった。……少しだけ、ひとりになりたかったのもある。みんなも察してくれたか、俺が部屋に戻ることを止めはしなかった。

 ヘリオスのやつも、すっかりへこんでいた。元々落ち込みやすい性格だけど、孤児院と俺との問題には、余計に悩んじまっているらしい。


「……ふう……」

 

 毒や打撲の痛みはだいぶ引いてる。まだ火傷みたいな感覚はあるけど、明日には何とかなるだろう。

 体力のほうは、能力使いすぎてさすがにしんどい。身動ぎするのも億劫で、全身が動くことを拒否してる感じだ。起きて歩くぐらいなら普通にできるけど、欲を言えば今日はもうずっと動かないでいたい。

 気持ちのほうは……まあ、辛い。と言っても、落ち着いて考えられているので、ある程度は頭も冷えた、と思う。へこんで余計なことを言ってしまったのも、今は後悔してる。たぶん、変な心配もかけてしまってるだろう。前科があるからな、俺には。


「寝れねえ、な」


 なかなか気持ちが切り替わらなくて、疲れているのに眠れない。

 そうしていると、外から物音が聞こえてきた。みんなが戻ってきたみたいだな。仕方なく、起き上がる。色んなところが痛んで、思わずちょっと呻いた。寝れない以上、先にみんなと話しておきたい。そうすりゃ気分も少しはマシになるかもしれないし……。

 壁を支えに何とか起き上がり、部屋を出る。みんなは部屋に荷物を運んだりしていたが、俺の姿を見て動きを止めている。


「起きたのか、アトラ」


「ん……まあな。と言うか、眠れなかったんだけどよ……」


 軽く周りを眺める。赤牙とヘリオスだけで、砂海のメンバーがいねえな。赤牙だけ先に戻ってきたか、別の用事でも入ったのか。今の俺にとっては都合が良いけどよ。この方が、腹を割って話せる。

 みんなにさっきの話をしておきたいと伝えると、ひとまず、初日に打ち合わせた休憩所に集まることになった。


「アトラさん、身体は大丈夫ですか……?」


「ああ……とりあえずはな。後でゆっくりさせてもらうけどよ。……みんな、さっきは変なこと言っちまって悪かった」


「……あまり気にしないでいいわよ。へこんで弱音吐くことくらい、誰だってあるわ。そうよね、マスター」


「そうだな。出来れば、あんな悲しいことは勢いでも言ってほしくはないが……」


 やっぱり、マスターは怒っているようだ。ダンク達に対して……そして、俺に対しても、少しだけ。その理由は、さすがに分かっている。


「ちゃんと、みんなに説明するよ。抱え込まないって、約束したしな」


「……そうか。分かっているならば、いい」


 俺の問題は、みんなの問題……。あの時の、ギルドから逃げ出すって裏切りを俺は後悔してるし、もうあんなことは繰り返さないって誓った。だから、このことも……話さないと、向き合えない。


「アっちゃん……ごめん。その、兄ちゃん達のこと……切り出しづらくて。そのせいで、こんなことになっちゃって……」


「よせよ。どうせ、お前から教えられてたとしても、前もって覚悟ができてたかどうかぐらいだ。……お前も、教えてくれるか? 今のあいつらについてさ」


「……うん」


 分かってる……ヘリオスは、俺が去った後もあいつらと一緒にいた。きっと、俺のことがなけりゃ上手くやってるんだろう。たぶん、すごく辛いはずだ。それでも、聞かないといけないだろう。

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