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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
6章 凍てついた時、動き出す悪意 ~前編~
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防衛戦の後に

 UDBが去った後。俺たちはひとまず、西側のギルドメンバーで合流して、小休止を取っていた。


「いってててて……悪いな、コウ」


「気にすんな、このくらいなら軽いもんだぜ」


「と言っても、お前だって疲れているだろ? こういう時は、おれも治癒能力が欲しくなるよ」


「お兄ちゃんも、大丈夫? はい、お水」


「サンキュー。……ふう、やっぱ、まだまだ持久力が足りないよな……」


「こんだけの戦いを最後までやりきっただけ十分でしょ。反省はいいけど、まずはゆっくり休みなさい?」


 連戦の中で、みんな無傷とはいかなかった。子供たちが傷付くこと、そして彼らが多少なりともそれに慣れてきてしまったことに、思うところはある。


「強くなったものだな、みんな。オレ達が授業で教えていた時と比べて、ずっと」


「……それでも、それを少し複雑に感じるのは、過保護なのだろうか。対等な仲間であろうと、思い立ったばかりなのだがな」


「なに、それはオレだってそうだ。……そう焦って立ち位置を変える必要もない。お前は彼らと対等な仲間だが、同時に導く教師でもある。関係とは、ひとつに限らないものだろう?」


「そういうものか……なかなか、難しいな」


「はは、自覚しただけでも大きな成長だ。今までのように片意地を張りさえしなければ、お前が必要だと思うことをすればいい」


 そう言われると、少しだけ安心する。そうだな……何事も焦る必要はない。ゆっくりと、俺なりの距離感を見付ければいいのだろう。

 そうしているうちに、ひとまずみんなの傷の治療は終わったようだ。


「オレ、ちょっと軍の方の様子も見てくるぜ。もしかしたら大怪我してる人とかもいるかもしれねえし」


「ああ、分かった。だが、無理はするなよ」


「大丈夫だっての、怪我治すくらいなら対して疲れねえからよ。コニィほどじゃなくても、やれることはやりてえんだ」


 そんな言葉を残して、浩輝は本陣の方に向かっていった。人の怪我を率先して気にする辺りは、彼も医者の息子だということを思い出させてくれる。


「………………」


「カイ、どうかしたか?」


「あ、いや……。あいつ、アガルトでもけっこう無理したって聞いたし、また無茶しねえよなって思ってよ」


 あの時、ジョシュアを倒すために力を振り絞り、浩輝が倒れたという話は聞いている。前例もある以上、海翔が心配する気持ちは分かる。だが……それにしても、妙に深刻な顔に見えた。


「浩輝も、戦闘の途中でもなければ、そこまでの無茶はしないだろう。限界を超えれば心配をかけることは、あいつも分かっているだろうからな」


「ああ、まあ……そうなんだけどよ。……いや、確かに気にしすぎかな。わりぃ、忘れてくれ」


「………………」


 そう言って、海翔は話を打ち切った。昔からの友人を心配する気持ちは理解できるが……この様子、何かあったのだろうか。

 ……実のところ、俺も気付いてはいるんだ。浩輝についてみんなが隠している何かがある、と。


 隠しているということが伝わってくるから、何も聞いていないが……それがいま悩みの種になっているのならば話は別だ。多少、強引に踏み込むことも検討するか。

 などと考えるようになったのは、俺が強引に踏み込まれて悩みを払拭できたから、だ。無論、それでこじれる危険も理解はしているがな。


「うーん……」


 と、俺に文字通り踏み込んできた張本人が、難しい顔をして唸っていた。弓を手にPSを発動させているらしく、手がうっすらと光っている。


「どうした、瑠奈?」


「いや、ね。こういうとき、コウとかコニィとかに頼りっきりになっちゃうし、私も何かできないかなって。思い付きで少し力を練ってみたんだけど、形になってくれなくてさ」


「……なるほど。理の刃で『治癒』を付与すると?」


 瑠奈の力は、彼女の想像力次第で何でもできるポテンシャルを秘めている。確かに、そういった概念を付与することで、特殊な効果をもたらすことも可能なのだろう。良い着眼点だ。

 俺も最近は似たような練習をしている。月の守護者により力を注ぎ込み、他者の生命力を活性化させる……父さんにできる以上、俺にできないことはないはずだ。とは言え、なかなかにコントロールが難しく、まだ実用には至っていない。まずは俺の身で慣らしてから、だな。


「色々と試してみるのは良いことだ。何なら、時間があるときに俺が実験台にでもなってもいいぞ」


「それはそれでちょっと躊躇うなあ……でも、そうだね。練習して、大丈夫だって思ったら、仕上げにお願いするかも」


「愛の力を癒しに変えるとかそんなノリで上手くいくんじゃねえか?」


「お、お兄ちゃんっ!」


「全く、若いなお前も。……さて、オレ達もそろそろ戻るとしよう。勝利したからこそ、これからについて話す必要もあるからな」


 誠司の言葉で、座っていたメンバーも立ち上がる。休息するにも荒野のど真ん中では限度もあるからな。

 これから一旦、軍の駐屯地に向かう予定だ。ロウが先に赴いて、今後の方針について話しているそうだが……まだまだ、この国での戦いは始まったばかり。どのような手を打つか、誤らないようにしなければな。



















 合流した後……俺たちは街外れにある軍の駐屯地、ライネス大佐の部屋へと招かれた。

 集まっているのは赤牙に砂海、それからヘリオス達。……アトラは負傷をしているようだが、話までは聞きたいと残っている。……少し様子がおかしいな。ハーメリアも浮かない表情に見えるが、東で何かあったのか。


「諸君の協力により、想定よりも遥かに被害を抑えることができた。能力による治療の手助けにも、本当に感謝している」


「へへ、役に立てたみたいで良かったっす!」


「誰かを救うためにギルドに入った身です。お力になれたのならば、とても喜ばしいことだと思っています」


 まず、大佐はそう頭を下げてきた。前回よりも勢いを増したUDBであったが、俺たちの存在で被害は前回よりも少なかったそうだ。


「カジラートだけではない、各地の防衛も無事に終えたらしい。首都の方でも、ギルドの活躍は目覚ましかったと報告を受けている」


「さすがはランド達。向こうはこっちより数が多かったらしいけど」


「こちらもフィオさんが活躍していましたが、向こうでも緑色の鉄獅子が敵の鉄獅子をなぎ倒していたと聞いています。UDBが味方をしてくれた、というのは強烈な印象のようですね」


「……ノックスのやつ、けっこう強かったんだな……」


「あはは、でも本人はその覚えられ方知ったら泣いちゃいそうだね?」


 敵の鉄獅子はすなわち、ノックス達から改良を加えられた種のはずだ。それに勝っていたということは、ランド達の訓練の成果か、本人のポテンシャルが高かったのか。考えてみれば、明確なリーダーがいれば強力なコンビネーションを発揮できる鉄獅子にとって、ランドという存在がいるのは大きいか。

 フィオも、広々とした空間で大群を相手にするという状況だったため、元の姿に戻って戦っていた。元の姿を見せるリスクはどこでも拭えないし、それは本人が何よりも理解しているだろうが……その上で、最善を選んだようだ。これで印象を良くできればいいが、周りも気を付けてやらないとな。


「グハハ。とにかく、協力関係の初陣としてはいい感じだったみたいだね?」


「ああ。正直に言えば、ここまでとは思っていなかった。この快勝のおかげで、士気も上がっている。改めて、あなた方には感謝させていただきたい。……おかげで、街も隊員も守られた」


「力になれたのならば何よりです。まだ戦いは始まったばかりですが……我々も、できる全力を尽くすと約束しましょう」


 直接話したのは初めてだが、ライネス大佐は、実直で信頼できる人物のようだな。この人ならば、良い関係を築いていけるだろう。

 と、その時、フィーネが一歩前に出た。こういうときはあまり主張しない彼女が珍しく、だ。


「大佐、マスター。その流れで、ひとつ報告がある」


「何だろうか?」


「東地区での戦闘の折、私とアトラは、軍の一部に妨害を受けた」


 ……何だと?

 その報告に、みんなが顔色を変える。話題に上げられたアトラは、明らかに苦いものを浮かべた。


「フィーネ、それは……」


「あなたの心情は抜きにして、これは言わねばならない情報。軍とこれからも連携していくとすれば、尚更に」


「……詳しく聞かせてもらいたい。それが事実ならば、私は諸君に深く詫びなければならない」


 ライネス大佐の表情もさすがに曇っている。フィーネは淡々と、自分たちが受けた仕打ちを……アトラが突然、軍の小隊に暴行を受けた話を述べていった。

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