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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
6章 凍てついた時、動き出す悪意 ~前編~
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カジラート防衛戦 ~西・2~

『テ、テメエ!』


「まずい、一度下がるぞ……!」


 残り2体は慌てて距離を取るが、厄介な連携は崩せた。そして、他の2種類と同じように、黒殺獣の性格的な特徴も掴めた。

 彼らは、その高い攻撃能力と同じく、非常に好戦的で積極的に攻めてくる。しかしその分、熱くなりやすい。怒涛の攻めさえ凌いでしまえば、ところどころに隙がある。

 それをカバーするのが指揮能力に長けた鉄獅子で、遠距離攻撃も可能で冷静な刃鱗獣がそれらのサポートを行う、か。彼らは、単独の種族よりも組み合わせてチームにすることを想定しているのかもしれない。

 ともかく、穴は見えた。次に攻めてきた時が勝負だ。後は、みんなの側だが……。


「外れっ!」


 刃鱗獣のブレードをいなし、美久が飛び上がる。それを見計らったように海翔がその脇に潜り込み、爆炎の回し蹴りを喰らわせる。さすがに効いたか、蜥蜴は痛みに呻きつつ、追い払うべくその場で身体を回転させ、尻尾で周囲を薙ぎ払う。海翔は大きくジャンプしてそれを避けた。


「おおっと!」


「ほら、こっちも忘れないでよね!」


「ぐあっ!」


 そして、死角から美久が強襲、脇腹を刺して、再び離脱する。既にその身体には、刺し傷がいくつも刻まれている。


『コイツラ……グッ!?』


「組み合わせると厄介なら、崩させてもらう!」


 その向こうで、鉄獅子と蓮がぶつかっているが、蓮は鎧の隙間に槍を刺し込み、的確に手傷を負わせていく。彼のPSはあまり細かいコントロールが効かず、タイミングを間違えると敵の攻撃に恩恵を与える諸刃の剣だ。それを補うように、彼の槍術は洗練されており、本人の冷静さも併せて確実に戦いのペースを握っていく。これにはたまらず、鉄獅子も一度下がろうとする。


「コウ!」


「任せとけ、っての!」


 獅子に向かい、蓮の横に並んだ浩輝が銃弾を一気に放ち――それが、突然加速した。時の歯車……いや違う、あれは虚空の壁だな。距離を縮め、一気に弾丸をぶつけたか。上手い連携だ!


『グ、ギ……!!』


「……止め!」


 満身創痍の鉄獅子に、PSを交えた蓮の渾身の槍撃が突き刺さる。宣言通りにそれが止めの一撃となり、鉄獅子の姿がかき消える。


「よし……!」


「こっちも決めるわよ、海翔!」


「オーケー、共同作業ってやつだな!」


「な、舐めるな! おのれ、ちょこまかと飛び回って……!」


 仲間がやられたことと、自身が翻弄されていることへの焦りからか、刃鱗獣は攻勢に出ようとした。すなわち上体を起こし、空中にいる美久へと鱗を射出した。


「――残念!」


 だが、美久の能力の真髄は、高く飛び上がることではない。空中で()()()()()ことにより、自由にその身を制御できることだ。

 相手は美久がさらに移動できることを想定していなかった。そして、上体を持ち上げたと言うことは、弱点の腹部を晒しているということでもある。蜥蜴としてもそれは承知だろうが……美久が投げた何かがその顔面に当たった。――瞬間、炸裂した。


「うっ!?」


 美久の武器は、両手の短剣。それ自体は〈ツインテイル〉の銘を与えられた、非常に切れ味の良い逸品なのだが、いかんせんリーチの短さと攻撃力不足は否めない。それを補うため、彼女はポーチに様々な道具を仕込んでいる。いま投げられたものもそのひとつだ。癇癪玉のようなものなのだが、何かにぶつけると炸裂、強い衝撃と音を発生させる。

 痛みはそうないだろうが、怯んだ刃鱗獣は動きを少しだけ硬直させる。その隙に、海翔が懐に潜り込み……そのアッパーが、腹に直撃した。手首の辺りまで、拳がめり込む。


「ボディがお留守だぜ、ってな!」


「う……げっ……」


「……オマケだぜ!」


 人ならば鳩尾の辺り、臓器が詰まっている箇所だ。ダメージは相当なものだろう。だめ押しとばかりに、腹で爆発が起こった。刃鱗獣は大きく開いた口から唾液を散らしながら吹き飛び、そのまま消え去る。これならば、大丈夫か。ならば……。


「……ふっ!」


 俺もまた、勝負をかけるとしよう。喉に飛び付いてきた黒殺獣を避け、奴が離れる前に、翼から一気に波動を放出した。


『ギッ!?』


 最大出力が上がると共に、波動が今までよりも細かく、まさしく身体の一部のようにコントロールできるようになった。何度か試していた放出による全方位攻撃も、こうして翼を媒介とすることで消耗を抑えられるようになった。

 予想外だったのか、その直撃を喰らった黒殺獣は大きく吹き飛ぶ。俺はすかさず、そちらに向かって踏み込み、一閃。確かな手応えがあった。


『ガ、ハァッ……』


 やはり、鉄獅子や刃鱗獣と比べて防御は脆い。すんなりと通った刃に虎の身体から鮮血がほとばしり、黒殺獣は崩れ落ちる。

 そして、暁斗と向こうの黒殺獣の戦闘はまだ続いていたが……傍目から見て、暁斗が押している。瑠奈の矢が虎を的確に追尾し、その動きを阻害しているのも大きい。


「影牙獣よりもだいぶ速いけど……悪いな、速さじゃ俺は負けねえよ!」


『ウザッテエ、ガキガ!!』


 暁斗との攻防の果て、黒殺獣は全身に傷を負っていた。とは言え、暁斗も長期戦には向かない能力で、長引けば体力低下は無視できなくなる。……軍配を分けたのは、黒殺獣が怒りで周囲を囲まれたことに気付くのを遅らせたことだ。


「隙ありだよ!」


『ヌ……グ!?』


 掠めた瑠奈の矢が燃え上がり、相手が怯む。その隙に、海翔が相手の背後に回り込んだ。そして……。


「――えげつねえの、行くぜ!!」


 そのまま全力での蹴り上げが直撃して、鈍い音を立てる――そして、それは本人が言った通り、最高にえげつない一撃であった。


『……アッ……グ、エッ……』


 虎はぱくぱくと口を開閉させている。その表情は、彼が味わっている苦しみのほどを俺たちにも教えてくれる。……黒殺獣の後ろ脚の間に、海翔の踵が深々とめり込んでいた。

 魔獣であろうと、金的が急所であることは同じようだ。ましてや、完璧すぎるほどのクリーンヒット。黒殺獣は全身を震わせ、毛を逆立てたかと思うと、ゆっくりとその場に崩れ落ち、悶え苦しみ始める。やがて、開いた口から耐えきれず吐瀉物をぶちまけた辺りで、戦闘不能と判断されたかその姿が消えた。


「マジでえげつねえことすんよな、お前……」


「効くもんは狙わねえ方が馬鹿だろ? ちょっと虎って概念への恨みも乗せてな」


「だからどういう意味だっつーの! ……おい、オレにそれやるんじゃねえぞ……死ぬって……」


 海翔らしい思考だな……が、こと戦いにおいてはその通りだ。正々堂々の騎士道など、命のかかった場に持ち込める話ではない。


「く、くそ……がっ!!」


「……悪く思うな」


「ぐ、ごぶっ……お、のれ……ぇ」


 残されたのは、こちらの刃鱗獣だけ。腹の下から滑り込ませるように、突き刺す。柔らかい部位からの刺突は難なく蜥蜴の体内に埋まり、致命的な傷を負わせる。そいつは吐血しながら、恨みの声と共に消えていった。

 ……致命的ではあるだろうが、マリクも無闇に配下を死なせることはデメリットが大きいはずだ。こうして死ぬ前に帰還させる以上、命を救うつもりではあるのだろう。

 本音を言えば、彼らの境遇に同情してしまっている部分がある。誰かの思惑に従い、それを自分の意志と思い込んだまま戦う……その在り方に。だからと言って、必要以上の加減をするつもりはないが。


「総出でほぼ同時かよ……」


「ちょっとは追い付けたと思ってたんだけど、また離された感じだよな」


「なに、お前たちも目に見えて成長しているさ。……まだいけるな?」


「当然! まだまだ始まったばっかだろ?」


「うん。敵はいっぱいいる……行こう、次だよ!」


 その力強い返事に、本当に成長を感じる。仲間としては嬉しくて、指導者としては少し寂しさもある、複雑な感覚だ。もっとも、こんなことで感傷にひたっている場合ではないな。

 前方、ロウと誠司が並んでいるところに、敵の主力が集中している。動きを封じるつもりか。彼らならば敗れることもないだろうが、あそこを崩せれば戦況は一気に傾く。


「おっ、ガルフレア達! 手伝ってくれるのかい?」


「ああ。一気に押し返そう!」


「グハハっ、いいよ! それじゃ、派手にぶちまけるとしようか! 誠司、合わせて!」


「承知した! ……行くぞ!!」


 そんな場違いなロウの笑い声と共に――爆炎を纏った暴風が、辺りに吹き荒れた。






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