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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
6章 凍てついた時、動き出す悪意 ~前編~
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カジラート防衛戦 ~西~

 暴風はUDB達の悲鳴もまとめてかき消しつつ、辺り一帯を薙ぎ払う。直径にして百メートルはありそうなそれは、誠司の力を知っている俺たちですら思わず気圧されるほどの、まさに格の違う一撃だった。


「す、すごい……!」


「さっすが先生だぜ……!」


「グハハっ! こいつは凄まじいね……! ウェアの戦友ってだけはあるよ!」


「悪いが、この規模の風はさすがに連発はできん! 構えろ、連中はこれだけでは止まらんぞ!」


 誠司の言葉通り、竜巻は先頭にいたかなりの数のUDBを戦闘不能に追い込み、勢いを挫きはしたが、元々の数が数だ。難を逃れた奴らが、態勢を整えて再び突っ込んでくる。


「さーて、それじゃ今度は俺の番さ! ……まとめて弾け飛びな!!」


 ロウが巨大なガトリングガンを掲げる。その砲身から放たれていく無数の弾丸は、着弾と同時に凄まじい勢いで炸裂、爆炎を上げ始めた。あれが彼の力か……話には聞いていたが、凄まじい攻撃力だ。


「総員、構え! あの二人に続くのだ!」


 軍の側も、ライネス大佐の号令に動き始める。銃撃が一斉に始まり、前衛が向こうの先陣と衝突を始める。大佐自身も銃剣を構えると、飛び掛かってきた蜥蜴を一太刀のもとに切り伏せた。


「ガル、私たちも!」


「ああ!」


 精神を集中させ、俺は己の力を開放する。――マリクとの戦いの果てに取り戻した、かつての力の一端。

 翼の数は6対になり、大きさを増した。外見の変化はその程度で、元々の翼……父さんと同じように「光の羽」を散らす形態には至らない。それでも、月の守護者がもたらす作用は、確実に強化されている。


「俺が先陣を切る。遅れるなよ、みんな!」


 いつでも抜刀できる状態のまま、駆け出す。誠司やロウ、大佐のところは大丈夫だろう。押されている戦線を見極め、そこを押し返していくのが俺たちの役目だ。

 まず、4体の刃鱗獣がまとまって駆けてくる。俺は波動を腕に集めると、連中の眼前に向けて放った。


「ぐっ!?」


 動きが止まったところに、先頭にいた個体目掛けて、居合いの要領で抜刀。波動により強化された刃は、蜥蜴の頑強な鱗ごと、その肉体を深々と切り裂いた。

 小さく呻いて倒れた蜥蜴は、そのまま姿が薄れていき、消える。……転移か。今までのように誰かが監視しているのか、戦闘不能になれば自動的に帰還するように仕込まれているのか。考えるのは後だな。


「各自、態勢を……!」


「遅い!」


「う、うおぉっ!?」


 次の蜥蜴の尾を掴んで、放り投げる。強化された身体能力だからこそ成せる技だ。ひっくり返り、がら空きになった腹部に波動を纏った蹴りを突き刺すと、そいつは沈黙し、1体目と同じように消えた。

 向こうもやられてばかりではない。残った2体が俺に向けて鱗の弾丸を射出する。俺は飛翔してそれを避けると、その勢いのまま片方に向けて突撃、背中から月光を突き立てた。血を吐いてそいつは消え去る。残るは1体。

 連携を崩され刃鱗獣は、それでも戦意は失わずに、決死の勢いで突撃してきた。走りながら、振り上げた尾から鱗を飛ばす。俺はその弾丸を回避してから、地面を蹴る。渾身の食らいつきが俺の喉に襲いかかる直前、俺の剣がそいつの腹を真一文字に引き裂いた。……これで終わり。先制を理想的な形で仕掛けられたのもあるが、想定以上に上手くいったな。


 こうして戦ってみて、実感する……身体が軽い。力がみなぎる。まるで、今までついていた枷が外れたかのようだ。月の守護者がもたらす肉体の強化、そのあらゆる作用が、実感できるほどに強化されている。


「す、すげえ!」


「あっという間に、あれだけの刃鱗獣を……!」


「遅れるなったって、全部ひとりでやっちまったじゃねえか!」


「これで終わりではないぞ。次が来る!」


 全体の総数から言えば、まだ前哨戦に過ぎない。そして、派手に相手を打ちのめした俺は、どうやら危険度が高いと認識されたらしい。すぐに、多くのUDBが集まってきた。


「見覚えがあるぞ。べオルフ将軍の言っていた連中か!」


 べオルフ将軍? アンセルの偽名がカシム・べオルフだったな。ならば、あいつがUDB達の将になったか。


『ナニモノデモ、カマワネエ。オレタチハ、ゼンブ、クウダケダロ?』


『ソノ通リダナ。ダガ、ソレ相応ノ強敵ダ……将軍ヲモ破ッタ相手ナノダカラナ』


 あの虎も、言葉を発する知能は持っているようだ。その発音は鉄獅子よりもさらに聞き取りづらい。唸りが混じっているように濁ったものであり、口調も攻撃的なものだ。

 3種のUDBが、それぞれ2体ずつ、左右に広がる形で陣形を組んでいる。特に注意すべきは新種だろうが……他の2種も、十分な強敵だ。砦の個体から外見的変化は見られないが、さらに強化された可能性もある。


「右翼はお前たちに任せる。新種の動きには気をつけろ!」


「オーケー、任されたわ!」


「ガルも、気を付けて!」


 それでも今のみんなならば、任せても問題ない。みんなの実力は、俺がよく知っている。ならばこそ……俺は、自分に求められる役割を全うするだけだ!

 動き始めたのは、双方共にほぼ同時。向こうの先陣は、新種の虎――〈黒殺獣ブラックマーダー〉との呼び名が付けられた魔物が担っている。事前情報によると、他の2種と比較して防御力は低く、鱗も鎧のような外殻もない。その代わりに素早さと攻撃力に優れる……とのことだったが。俺たちは、その情報が正しいことを即座に理解する。


『グルアアアアァ!!』


 獣そのものの咆哮を上げた虎は、次の瞬間には俺の眼前にまで迫っていた。これは……鉄獅子と比較して、倍近い速さがありそうか……!

 俺はその飛び掛かりをいなしてカウンターを放つが、向こうもしなやかな動きでそれを回避する。みんなの側は、狙われていた美久は空中に飛び上がり難を逃れている。


「ま、マジではええな……!」


『コロス!』


「させるか!」


 回避されたことに動じるでもなく、黒殺獣は即座に他のターゲットに切り替え突進を試みるが、その速度が突然落ちる。蓮の力か!

 蓮はそのまま角度を変えて槍を突き出し、そこにすかさず暁斗も追撃を加える。全ては避けきれなかったようで、銃弾を喰らった虎は痛みに顔を歪めた。だが、それだけだ。空間の歪みから逃れるように距離を取ったかと思うと、仕切り直しと言わんばかりに身を翻した。瞬発力だけではなく、しなやかで無駄のない動きだ。

 俺も、隙を見て急所を裂こうとしてくる黒死獣に向かい、タイミングを合わせて斬り上げを放つ。直撃はしなかったが、胴に傷を負った相手は痛みに吠え、離れた。今の俺ならば凌ぎ切ることは困難ではないが、この攻撃特化は厄介だな……数十センチはあろうかという鋭利な爪や、一瞬で肉を引きちぎられそうな牙はもちろん、その重量級の突進をまともに喰らうだけで骨が砕けかねない。当然、スピードはそのまま破壊力にも影響する。一瞬の油断が、命取りになるだろう。


「さすが虎、喋り方も馬鹿っぽいぜ……!」


「てめえ、それどういう意味……だっつーの!」


「……! 海翔、左だ!」


 悪態をつきながら、浩輝が銃弾を浴びせかけ、その隙に海翔が切り込もうとする。だが、黒殺獣がぶつかっていた間に回り込んでいた鉄獅子が、その横から突っ込んできた。


「うお!?」


 すんでのところで気付いた海翔は何とか避けるが、体勢を崩す。そして、鎧蜥蜴が少し距離をとりながら、その鋭い鱗を射出した。それは浩輝の力が凌ぐが、そちらに意識を取られた浩輝に、黒殺獣が今にも飛び掛かろうとしていた。


「やべ……!」


 だが、空中から美久が海翔を狙う鉄獅子に奇襲をしかけ、その脇腹を突き刺した。黒殺獣の方は瑠奈の矢を腰の辺りに掠め、それがもたらす電気ショックに呻くこととなった。どちらも入りは浅かったが、相手を一時的に退かせるには十分なダメージだ。残った刃鱗獣も、蓮と暁斗による猛攻を受けて足が止まっている。


『グ、グウ! 小娘ドモガ……!』


『チッ……イテエジャネエカ!!』


「助かったぜ、ルナ……!」


「大丈夫!? 追尾がちょっと甘かったね……!」


「わりぃ! 惚れ直したぜ、美久!」


「あー、はいはいありがと! にしてもちょこまかと鬱陶しいわね、あの虎!」


「虎を凌ぐのは俺に任せろ! お前らは残りを!」


「フォローするよ、お兄ちゃん!」


 相手の特徴が見えた今、みんなも陣形を組み直した。スピードのある相手に適任の暁斗が黒殺獣を引き受け瑠奈が後方支援、残りのメンバーで他の2体を相手取る、無難な判断だ。……やはり、心配でないと言えば嘘になる。それでも、こうして改まって見れば、彼らの成長には本当に驚かされるな。


「余所見をするとは余裕だな……!」


「そう見えるか? ならば……慢心したのはお前達の方だ!」


『ヌガッ……!』


 そして、こちらにも動きがあった。瑠奈たちに視線を向けた俺に隙があると見て取ったのだろう、3体が一斉に襲い掛かってきた。だが、戦況の把握と自分の戦闘を同時にこなせてこそ、俺は銀月の役目を背負っていたのだ。今の俺は、月の守護者により全ての感覚が研ぎ澄まされている。敵との距離がどの程度で、どんな動きをしているかなど、五感で常に把握しているとも!

 特に深くまで潜り込んできていた鉄獅子の一撃をいなし、袈裟斬りにする。深手を負ってよろめいたそいつに向かって踏み込み、刺突を腹に決める。くぐもった声と共に吐血したそいつは、がくりと力を失い……消える。


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