表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
6章 凍てついた時、動き出す悪意 ~前編~
253/429

カジラート防衛戦

 結局のところ、予定通りに、その日には何も起こらなかった。


 バストールの介入で何か動きを変えてくるのではないかとも思っていたが、杞憂に終わった。……リグバルドの動きに、マリクが関わっていないとは思えない。そして、忌々しいことだが、奴が俺たちの動きを掴んでいないと考えるのは楽観視だ。それでもなお、予定通りに動いていることには、かえって不気味でしかない。

 それでも……やるしかない。向こうが情報戦では圧倒的に有利というのは、最初から承知の上だ。その上で、奴の予想を上回り、突き崩す……途方もない難易度だな。だが、やってみせる。これ以上、好きにさせてたまるか。



 そして、翌日。やはり予定通り、UDBの大群がカジラートの街に押し寄せてきた。

















「おーおー、壮観じゃねえか。この数は圧巻だぜ」


 そんな、状況に似つかわしくないような感想を漏らしたのは海翔だ。言葉に反して表情は真剣そのもので、鱗の色はすでに赤い。

 そして、彼が言う壮観な風景……遠方から駆けてくる、西カジラート荒野に現れたUDBの群れ。


 観測された限り、カジラートを襲いに来たUDBの総数は、おおよそ千。東西から挟撃するように動いている。

 軍は部隊を東西に割き、残りを街に残している。奴らには空間転移があるのだから、すべての戦力を前に出すわけにもいかないだろう。……そういう意味でも、奴らは本気を出していないという事実に苦々しい気分だが、いずれにせよこの連中にここを突破させるわけにはいかない。

 赤牙に関しては、エルリアからの面々及び、美久が西側の防衛に回されている。他にもカジラートのギルドから数名と、ロウもこちら側だ。


 首都ソレムには、やはり最大の群れが向かったそうだ。しかし、向こうには軍の主戦力と、ランド達がいる。ならば、俺たちは目の前の敵にだけ集中するだけだ。


「よく余裕かませるよな、お前……正直、オレはさすがにビビってんぞ」


「馬鹿野郎、俺だってびびってるよ。が、そのぶんこっちの戦力も万全だ。気持ちが負けたら駄目だろ、な、レン?」


「……そうだな。ガルにロウさん、先生だっている。おれ達だって、あれからずっと戦ってきた。初めて戦うUDBでもない。やれるはずだ、いつも通りに……!」


 蓮の言葉に、浩輝も少しだけ間を置いて、いつものように笑った。全員、闘志は十分なようだな。恐怖を忘れない程度が適切だ。


「今までにない相手の数……だけど、やることはいつもと一緒だよ。軍の人とも協力して、勝とう!」


「ああ。今さら、俺に任せろなどと言うつもりもない。お前たちの力も、存分に頼りにさせてもらうぞ。仲間としてな」


「……へへっ。もちろん、将来の義兄いちゃんのことを存分に頼ってくれ!」


「こ、こんな時までそういう話はやめてよね! いや、そりゃいつかはそう……って、何を言わせるのぉ!!」


「あーあー、戦闘直前に甘ったるいものをごちそうさま。ま、あんたららしいけど」


 瑠奈が顔を真っ赤にして、一同が笑う。――そして、表情が再び引きしまる。

 UDB達の姿が、はっきりと視認できるほどにまで近づいてきた。フィールドとしては遮蔽物もほとんどない、拓けた土地だ。乱戦に近い状態になるだろう。

 周囲を見渡す。軍はすでに戦線を展開しており、合図ひとつでいつでも交戦が開始されるだろう。――軍の反応はまちまちだ。頼りにしている、と事前に声をかけてきた者もいるし、俺と目を合わせて、露骨に顔をしかめた者もいる。まだギルドの実力を信用していない者は、この戦いで、どれだけ役に立つか見極めようとしてくるだろう。

 そして、これはヘリオスからの情報だが……完全な『反ギルド』勢力、もっと言えば『反バストール』勢力も存在しているらしい。先ほど視線を逸らした者はそれだろうが……要は、よそ者に頼るなどあり得ない、というプライドか。戦死者は出たにしても、防衛に成功してきたことが、一層の自尊心と慢心に繋がっているのだろう。そういう連中に、口で言って通じはしない。警戒だけはしつつ、実力で文句を封じこめるか、そうでないならば妨害だけは受けないようにせねばな。


「1分後には接敵する! 今回の戦線においては、こうして頼もしい協力者の力を得ることができた……各員、我らテルムの意地を見せつけてやるのだ!」


 そう声を上げたのは、軍においてカジラート駐屯部隊の最高司令官となる、ライネス大佐だった。50を超えた馬の獣人は、全く衰えを見せない屈強な肉体と、毅然とした立ち振る舞いにより、実力者としての風格を見せつけている。彼は旧テルム軍からの軍人であり……アロ元首による立て直し、()()()()()()の後にも地位を失っていないのが、本物の傑物であることを知らしめている。

 その両隣には、ロウと誠司が控えている。俺たちは軍の指揮下にはないが、ああして最前線に並び立つことで、軍とギルドとの共同戦線であることを下にも知らしめようという考えだ。ちなみに、大佐は親ギルド派であり、この部隊においては彼の方向性が良い波になっているのは間違いない。


 俺たちもさらに前線に近づく。みんなに無理をさせるつもりはないが、この戦いは、恐らく今後の軍からの評価に大きく響くだろう。


「鉄獅子に、刃鱗獣に……あちらが話に聞いていた新種か」


 見知ったふたつの種族の他に、報告を受けていた新たなUDB……漆黒の毛並みに白い縞模様という、浩輝と色を反転させたような体色の、3メートルほどの体躯を持つ虎の魔獣。


「……マジで虎だな」


「あいつら、オレらへの嫌がらせのために新しい種族を選んでるんじゃねえだろうな……?」


「ここまで揃うと、次は狼だったりするのかな。あ、でもカシムさん……アンセルが狼だったね」


「べ、別にあの時に私が言ったことのせいじゃないわよ、多分!」


「おいお前ら、改めて、あ、ら、た、め、て、言っておくがな、俺は竜人だ! トカゲじゃねえ!」


 海翔が抗議の声を上げるが、残念ながらそれを受け入れる時間は無さそうだ。――大気を震わせるような咆哮を、鉄獅子が上げた。


『サア、同胞タチヨ! 主ニ許サレシ時ハ来タ……蹂躙ヲ始メルトシヨウ!』


「おやおや、随分と勝手なこと言ってくれちゃってるねー」


 無数の咆哮は、並の兵士の戦意をそれだけでへし折ってしまいそうな迫力だ。だが、少なくとも最前に立つ三人は、一切動じる気配も見せない。


「開戦の狼煙は、オレに任せてもらおうか。十分な時間を得られたし、今ので気持ちにも余計に火が付いた」


「オーケー、お手並み拝見させてもらうよ、誠司?」


 誠司が一歩だけ前に出る。あと十秒もせず、前線がぶつかるだろう。……頼むぞ、誠司。敵も、味方も、全ての度肝を抜いてやれ!


「来るがいい。貴様たちが平穏を脅かすと言うのならば……全員、オレが教育指導してやろう!!」



 ――とてつもない大きさの竜巻が、UDB達の先陣を飲み込んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ