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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
6章 凍てついた時、動き出す悪意 ~前編~
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アトラとヘリオス

「なんにせよ、あまり無理はするなよ? 喋り方とか、けっこう気を張り続けてるんじゃないのか」


「それは、ある程度は慣れてきたし大丈夫。それに、アっちゃんだって似たようなものじゃない」


「あー……それ言われちまうか。でも、普段は自然にあっちが出るくらいにはもう意識してねえしな。お前ほどボロボロにはならねえさ」


「ボロボロって……自覚はあるけれど、酷いよ、もう!」


 少しむくれた曹長に、アトラが笑う。だが、そういう反応ができるのも、お互い調子を取り戻してきた証拠だろう。


「心配しないで、僕だって上手くやれてるよ。オリバーとアッシュもサポートしてくれるからね」


「あいつら、色々知ってるっぽかったけど、付き合い長いのか?」


「うん。実は、二人とは同期の入隊なんだ」


「へえ? それで、今は上官か……色々と気安かったのもそれでかよ」


「うん。二人とも、こんな僕をちゃんと上官として支えてくれるし……友達として助けてもくれる。ほんとに、いい仲間だよ」


「そっか。そういう仲間は大事にしねえとな?」


 穏やかな口調でそう語るアング曹長。同期の出世となれば、本来は軋轢も生まれかねないものだ。確かに、得難い仲間なのだろうな。


「ところでよ、ヘリオス……孤児院はいま、どんな感じなんだ?」


「ん……昔よりはだいぶ良くなってきてるよ。軍の稼ぎは悪くないし、他のみんなと協力してお金も安定してきたからね」


「みんな、か……シスターは?」


「元気にしてるよ。……会ってくれるかい? 僕は、アっちゃんが生きてるんだって、シスターにも見せてあげたいよ」


「……そのつもりだよ。俺も……シスターには、会って、謝って、礼を言いたい。ちゃんと、俺の口からな」


「……うん」


 伝えられずに終わってしまうことは、とても哀しく、怖いものだ。俺も、父さんのことで少しは分かる。アトラも、まだ心に抱えたものは多く残っているはずだ。この機会に、少しでもそれが良い方向に向かうことを、友として願う。


「……ま、ともかく。自分のケジメくらいはつけるつもりだから心配すんな。っと、そうだ、ヘリオス。ついでに聞いとくが、お前以外に働いてるやつってのはどこで……うん?」


 そこで、アトラが俺に気付いた。思わず聞き入ってしまったな……盗み聞きしたことは申し訳ないが、彼らも特に気を悪くした様子はないので幸いか。


「よっ、ガル。お前も夜の散歩か?」


「そんなところだ。済まないな、邪魔をしたようで」


「……いえ。別に、隠れていたわけでもありませんからね」


 アング曹長が元の口調でそう言うと、アトラが少し顔をしかめて彼を振り返った。


「あのなあ、ヘリオス。今さらすぎんだろ。今日の仕事はもう終わり、今の俺らはオフモード、ってやつだろ。敬語使ってどうするよ?」


「う……い、いや、でもさ、アっちゃんはともかく、他のみんなとは知り合ったばっかだし、礼儀ってやつがさ……」


「それが壁って言うんだぜ?」


「うぐ……!?」


 先ほどホテルへの移動中、アトラは、ヘリオスが気を張り過ぎて俺たちに馴染めないことを気にしていた。少々力業な気もするが、俺もおおむねは同意だ。


「心配すんな、うちのギルドの奴らは口調とか細かいこと気にしねえよ。ガルだって普段は根暗で卑屈でムッツリしてやがるが、根っこはけっこうやりやすい奴だぜ?」


「色々と余計だ! ……こほん。その、アング曹長……いや、ヘリオス。君さえ良ければ、俺は君とできるだけ気安い関係になれれば良いと考えている。家族の友人なのだからな。だから、俺も普段は気軽に話してもらいたいんだが……どうだろうか?」


 親しみやすさと馴れ馴れしさの境界は難しいものだが、彼の場合はこちらから行くべきだろう。アトラから切り出した話であるし、悪い印象は持たれないと思いたい。

 少しだけ、考え込むような素振りを見せたヘリオス。だが、意外と早く、その表情が崩れた。アトラに見せていたのと同じような、穏やかな表情。


「じゃあ、えっと……うん。ガル、って、呼べばいいのかな……?」


「ああ。そうしてくれると嬉しい。改めてよろしく頼む、ヘリオス」


「……うん。えへ……よろしくね、ガル。本当は僕も、アっちゃんの仲間と仲良くなりたくて……」


 はにかむような、どこか幼い印象の笑みを浮かべたヘリオスと握手を交わす。困難な状況ではあるが、新たな出逢いは恵まれたものになりそうだ。


「ま、仲間ってか家族みたいなもんだけどな、うちのギルド。なんせ父親が口癖みたいに家族って言ってるからよ」


「そうだな……」


 俺にとって本当の父なのは別として、真実を知る前からウェアには父性を感じていた。アトラも息子のように育ててもらっているのだから、彼にとっても紛れもなく父親だろう。まだ俺のことは知られていないと思うが……いずれは、みんなにも話さないとな。

 ……父さんがみんなを家族として扱おうとしたのは、俺や母さんと離別した反動もあったのかもしれない。


「ふふ。いい家族だね、アっちゃん」


「ああ。みんなして甘くて、お人好しで……俺には過ぎた奴らだぜ」


「何を言っている。お前もその一員、だろう?」


「……そうだな。ありがとよ、ガル」


 普段はおちゃらけた返答で濁されるが、俺はアトラのことを信頼している。だからこそ、こいつが信頼していたヘリオスと仲良くしたいと思えたんだ。

 照れを隠すように背伸びをすると、アトラは俺たちふたりに向かって笑顔で提案してきた。


「んー、よし! 二人とも、ちょっと付き合えよ。少し、酒でも飲もうぜ」


 先月に誕生日を迎えたこいつは、バストールの基準でも成人となった。それからはたまに酒をたしなんでいるようだ。


「二人だけで話したいことも尽きないんじゃないのか?」


「そりゃそうだが、それは別の機会もあるしな。人数が多い方が弾む話ってやつもあるだろ?」


「そうだね……それに、僕はガルともいろいろ話してみたいな。お昼はあまり気軽にってわけにもいかないし」


 なるほど。二人からそのように誘われると、遠慮するのもはばかられるな。俺だって、話してみたいことは多い。


「ならばお言葉に甘えておくか。だが、飲み過ぎは厳禁だぞ」


「分かってるよ、文字通りに軽く一杯だ。明日から頑張るんだろ? あ、ヘリオス、お前酒は……」


「付き合いもあるしそれなりには飲めるよ。……せっかくだし、アッシュとオリバーも誘っていい?」


「おう、呼べよ呼べよ。お前の軍での面白エピソードは集めとかなきゃいけないしな!」


「面白エピソードって何さ!? アっちゃん、僕が実力で曹長になったってあまり信じてないでしょ……もう」


 少し拗ねたヘリオスに、アトラがからからと笑った。

 ……ああ、頑張らなければいけないな。このような良い友人ができたんだ。彼の護るべきもののために、俺もまた全力を尽くそう。まずは明後日の防衛戦……その後は調査だ。リグバルドの思い通りになど、させてなるものか。









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