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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
6章 凍てついた時、動き出す悪意 ~前編~
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ギルド〈砂海〉

「ま、俺とこいつのことは後でゆっくり話すとして。とっとと本題を進めようぜ」


 みんなの視線に少し肩をすくめながら、アトラがそう言って手を叩いた。確かに、自己紹介もまだだったな。

 軍の3人とこちらの全員が名乗っていく。アング曹長は、素を見られたこととアトラの存在で、振る舞いを決めかねている様子だった。恐らく、一度崩れるとこうなるからこそ、必要以上に厳格な言動にしていたのだろう。

 ちなみに、どうやら3名とも歳は同じらしく、アトラのひとつ上、つまり俺のひとつ下だ。お互いに若いこともあり、あまり遠慮はせずにいこう、ということで意見は一致した。


「はあ、話しやすそうな人達で良かったぁ! 曹長もカタブツモードじゃなくなったし、肩に力入れなくてもよさそう!」


「だらけすぎは駄目ですよ、アッシュ。今は私たちが軍の代表であることは間違いありませんからね」


 ブレンデン軍曹はやはり快活な性格で、レニ辺りと話が合いそうな気がする。ロビンソン軍曹は冷静で丁寧な態度を崩さないが、先のアング曹長への発言など、節々に素が見えるように感じる。


「いやしかし、お前が軍人、しかも曹長ね……」


「な、何さその……ん、んん、ゴホンっ! ……何だ、その言い方は。確かに、鍛えたのは君がいなくなってからだが、これでも、私は入隊から数多くの戦果を挙げてきたんだ。まごうことなき、実力で勝ち取った地位だぞ」


「……お前、俺相手にもその口調で通すつもりかよ?」


「す……少しは気を遣ってくれ! 相手によって使い分けられるほど、私は器用ではないんだ!」


「だったらずっと素でいりゃいいだろ?」


「勘弁してくれ……軍務中だぞ? 知られてるとは言え部下の手前だし、もし上に知られたらしごかれるし、あと下に広まったら……と、とにかく色々と大変なんだ!」


「アトラ、そういじめてやるな。オレもそうだったが、威厳を出すというのは割と苦労するものだからな……」


「……へいへい。ま、俺()もちょっとは分かってるがな。ただ、大丈夫なときは普通に喋ってくれよ? 後でゆっくり、腹を割って喋りたいしな」


「……約束する。私も、君とは話したいことがいくらでもあるからな」


 ……数年来の友人の再会、か。二人とも、もう最初の驚愕からは立ち直っているようだが、そうすると次には純粋に喜びが沸き上がってくるだろう。穏やかに微笑むアング曹長とは、俺たちも良い関係を築いていきたいな。


「さて、それじゃそろそろ行くとしようか? さっきより増えてさらに暑いしね!」


 ロウの号令に、全員が立ち上がる。狭くて暑くてたまらないのはみんな一緒らしく、行動は迅速だ。


「場所は、ここから車で20分くらい飛ばしたところにある、ルミナスってホテルだよ。今回は、そこを貸し切っているんだ」


「ホテルひとつ貸し切りって、また豪快な……」


「あははー、ま、エルリアやバストール基準だとかなり小さいホテルだからね。海外企業の出してるけっこう設備の整ったやつだから、拠点にするにはちょうどいいかなって、()()()()のコネ使ってちょちょいとね」


 出し抜けにロウが放った名前……リカルド? コネが使えるような地位にいる、リカルド、という名前の人物と言えば……。


「まさか、リカルド・アロ元首か?」


「うん、そのリカルド。軍との打ち合わせとかで顔合わせてるうちにウマが合ってねー、色々と力を貸してくれているんだ。みんなもいずれ会うことになるんじゃないかな?」


「……またさらっととんでもねえ話が出てきたぞ」


「確かにあの人なら、その程度は造作もないでしょうね。恩恵に預かれるのは有り難いことです」


 先ほど車内で話していたことが、割と早く現実になりそうだな。それにしても随分と気安く呼んでいるし、ロビンソン軍曹なども驚いた様子はないな。


「えっと、軍のみんなも元首を見たことが?」


「うん。今の軍を再構築したのは元首だから、実質総司令みたいなとこあんのさ、あの人。下っぱにまでけっこう声掛けにきたりするから、顔見る機会は割とあるよ?」


「へえ。聞いてる限り、何か気さくそうな人だなあ」


「気さくと言うより……いや、直接見てもらった方が早いだろう、あの人に関してはな」


 雑談をしつつ、みんなは移動の準備を終えた。並んで外に出ていくと、少し風が強くなっていた。火照った身体には有り難い。


「それじゃ、各自、行きと同じ車に乗っていこう」


「あ、曹長はアトラさんと一緒に乗ったらどうですか? ウチらの前だと素直になれないっぽいですし!」


「……聞き分けのない子供のような言い方は止めろ、アッシュ。私は上官だぞ」


 苦言をこぼしつつも、話したいのを我慢しているのは間違っていないようだ。ぴくぴくと尾羽が動いている。


「ならば、俺と瑠奈が曹長と入れ替わればちょうどいいだろうか?」


「そこは意地でも瑠奈ちゃんとセットになりたがるんだな……」


「お前がいる車にひとりで残せるわけがないだろう!」


「キレるとこかそこ!? いやいやいやちょっと待て、いくら俺様でもさすがに恋人持ちにまで手は出さねえよ! てか、けっこう前からお前の背中押してたつもりだったんだけど!? ……いやまあ、スキンシップはするけどな!」


「そういうところが、信頼を無くす原因」


 ……本人の言うとおりに、こいつの瑠奈への好意アピールは、俺に発破をかけていた面があるのは分かっている。分かってはいるが、そのスキンシップが過剰なのが問題なんだ……。


「申し出は有り難いが、止めておこう。その……一度気を緩めてしまうと、しばらくは元に戻すのが難しくてだな……」


「我が上官ながら苦労する方ですね、あなたも」


「ぐっ。と、とにかくだ。落ち着いて話すのは、一日が終わってからで構わない。だから、私の目がないところでだらけようなどと考えるのではないぞ、アッシュ? お前たちへの振る舞いを変えるつもりはないからな」


「うえ。承知ですよー、もう」


「……なあ、オリバーだっけ? 軍って、こんな緩いもんなのか? それともあいつのユルオーラのせいか?」


「ユルオーラって何さぁ!? …………しばらく喋らん……」


 本当に口を閉じてしまった曹長に、オリバーはすました表情で小さく笑う。


「ああいう方ですからね。私たちは特別、気楽に過ごさせてもらっていますよ。もっとも、今の軍は成り立ちが成り立ちなので、そこまで堅苦しい空気は確かにないかもしれないですね」


「成り立ち……貧民に仕事を、ってやつか」


「ええ。アッシュもそうですが、上下関係などに慣れていない者も多いです。とは言え、その辺りに厳しい派閥もいますので、曹長はああして片意地を張っているのです。素養が無いのでよく滑りますが、かろうじて普段は体裁を保てています」


「………………」


「オリバー、曹長が『後で覚えてろ』って顔してるよ?」


「そういうところが威厳ねえ理由じゃねえのか、お前……」


 アトラの追い討ちに、曹長は逃げるように早足で車に乗り込んでしまった。アトラはやれやれと首を振る。とにかく、あまり長々と雑談をしていても仕方ないな。俺たちも乗ろう。

 気になるのは、厳しい派閥、と言っていたところだな。協力への反対意見はその派閥からだろうか……今後のためにも、憂いは無くしていきたいものだがな。


















 ロウの言うとおり、ルミナスというホテルは、こじんまりとはしているが、内部は綺麗なものだった。海外からの旅客向けに造られたものらしいが、今はUDB事件のために客がいなかったらしい。ホテルとしても元首の提案は渡りに船だったと、オーナーだという恰幅の良い熊人には随分と歓迎された。……エアコンが効いているな。心から有り難い。


「やあやあ、みんなも集まってるね」


 入ってすぐの場所にあった休憩所には、すでに3人の男女が待機していた。イタチ科と思われる若い女性に、うっすら髭をたくわえた壮年の人間の男性、それからおっとりした表情の牛人の女性、という組み合わせだ。


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