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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
6章 凍てついた時、動き出す悪意 ~前編~
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尽きぬ悪夢

「う、あああああぁ……!!」




 ――地面に広がっていく赤色。それに声を上げたところで――目の前の風景が、切り替わった。



「……はあ、はあ、はあ……?」


 そこには何もない。さっきまでみたいな血だまりなんてどこにもない。いつもどおりの、オレの部屋。頭が、一気に覚めていく。



 ……また、か。


 最近は、ほんとによくこの夢を見る。そのたびに、こうして目を覚ます。……もう何年経ったかってぐらいなのに、ちっとも慣れない。いや、慣れてはいるのか。とっさに、声を抑えられる程度には。

 今回はマシな方だ。アガルトの時と違って、考えははっきりしてる。一人の時にああなっちまったら、真剣にまずい。下手するとそのまま力が暴発して……。


「…………!」


 腕が、光っている。オレの力……時の歯車。()()()、『こんな時間、無かったことにしたい』『ぜんぶ巻き戻してしまいたい』って、そう願ったオレに宿った、PS(異能)の中でもさらに異質なチカラ。

 だけど、オレにできたことは、何もかもが中途半端だった。


 深呼吸をして、何とか気分を落ち着ける。それに合わせて、光も弱くなっていく。……何なんだよ、オレは。こんなのを何年も繰り返してるくせして、ちっとも。



 部屋のドアが、開いた。鍵を締め忘れてたらしい。


「浩輝、入るぞ」


「……海翔……」


 隣の部屋だからか、カイには聞こえちまったのか。起きたばっかには見えないし、また夜更かしして本でも読んでたんだろう。


「あ……オレ……」


「いい。何も言うな。こういう時、見なかったことにしてやるくらいには、気は利くつもりだ。言いたいことがあるなら、別だけどな」


 とても、優しい声音。いつもの荒っぽいこいつとはまるで違う、まるで……昔みたいな、こいつ。

 そのまま、カイはオレに近付いてくると、オレの目元をぬぐった。……泣いてたのか、オレ。


「ごめん……」


「何で謝るんだよ。俺がこうしてやるのは、当然だ」


「当然、なんかじゃねえだろ。オレは、お前に……どんだけ嫌われたって、しょうがないのに……」


「止めてくれ。有り得ない。そんな事は、俺が死ぬまで有り得ないんだよ、浩輝。何度も言っているはずだ。それをちゃんと証明してきたと、自分では思っているんだけどな」


 海翔は、どことなく寂しそうで……オレはきっと、彼の気持ちを踏みにじってる。ああ、知ってるよ。海翔は絶対に、オレを見捨てない。見捨ててくれない。それでも、分かってても、オレは。


「お前がどう思ってたとしても、オレは……どうしても、オレが、許せねえんだ……」


「……そうか。だけど、だからって自暴自棄にはなるなよ。助け合ってこその友達、って、お前がいつも言っていることだろ。お前が苦しいのは、俺も苦しいからな」


「………………」


 そう言って、カイはオレの頭を少し乱暴に撫でてきた。……昔はよくしてくれたっけ。暁兄がルナにやってるの、真似したのが最初だったな。……荒っぽいけど、竜人の頑丈な掌は、何とはなしに心地よくて。少し、気分が落ち着いた。


「ま、お前がどう思おうと俺は勝手に生きるだけ、なんだけどよ。分かってんだろ? お前は俺の友達だろ。悩みの相談くらいなら、いつだって受け付けてるぜ」


「……うん」


 いつも通りの喋り方になったこいつは、笑ってオレから離れた。変に慰められるよりそっちの方が良かったし、こいつもそれを知っててこうしたんだ。


「ありがとよ、カイ。……もう大丈夫だ。あまり夜更かししねえで、とっとと寝ろよ」


「おう。オバケが怖くて眠れねえなら隣で寝ててやるぜ?」


「な、何歳の時の話だっての。ったく」



 本当はまだ辛いのを誤魔化しながら、オレは部屋から出ていくカイを見送る。そして、自分の荷物からいくつか錠剤を取り出すと、それを口に放り込んでから、また横になった。




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