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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
5章 まもりたいもの
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古代の謎

 フィオの意見に従って進んでいた俺たちは、地下へと続く階段を発見することになった。


「どこまで続いているんだろうな、この遺跡」


「降りていくべき、なのかな? まだこの階の探索がちゃんと出来てるかも分からないけれど」


「うーん、そうだね。一度通信を入れてみよう」


 そう言うと、フィオは通信機を取り出した。俺たち全員と会話ができるようにスピーカーのモードをいじると、通信を開始する。最新式とはよく言ったもので、地下の建造物内という劣悪な環境の中でも通信は即座に繋がった。


「こちら〈赤牙〉C班。ジン、聞こえる?」


『ええ、通信感度は良好です。何かありましたか?』


「ひとまず現状の報告と、今後の行動について話したくてね。えっと……」


 フィオは、今までの調査で見てきたものについてを簡潔に話してから、今、自分たちの目の前に階段があることを伝えた。


『ならばあなた達は、そのまま地下へと進んでください。どこまでの深さがあるかを把握するためにも、下層の探索を優先したいですからね』


「合点承知、だよ。それから、途中で他の探索者が戦闘したような形跡があったんだけど、ルート的に僕たちの近くを通ったのって誰か分かるかい? 多分、大型の武器を持ってると思うんだけど」


『ふむ……ランド、心当たりは?』


『ああ、恐らくは彼だろうな。俺と同じくらいの大剣を背負っていたフリーランスが、その区画に近い担当だ』


 ジンが尋ねると、横の獅子人の声が割り込んできた。大剣……俺たちの予想とも合うな。


「どんな人だったんですか?」


『名はカシム・ベオルフだ。俺よりも大柄な褐色の狼人でな。はっきり言って見た目はいかついが、少し話してみた範囲では、実直で誠実な人物に見えたぞ』


「ランドより大柄かあ……なるほど、確かにそりゃいかつそうだね。僕みたいないたいけな子供は喰われちゃうかもね!」


『どの口がそれを言ってんだ、最年長者。まあいい、もしも彼と会えたなら、合流して動くといいさ。無理にとは言わんが、下の方にもUDBは多いとリック達も言っていたからな』


『気を付けてねえ。今のところ上の平原と同じような種族ばかりみたいだけれど、どんな強力な子が紛れているか分からないものね』


「うん、油断はしないよ。深いほど敵が強くなって最深部にボスがいるのはお約束だからね」


「おいおい、不吉なこと言うなよな……」


 フィオの冗談にもたらされた苦笑を最後に、通信は終了する。ひとまず、行動の指針は立ったな。とにかく下へ向かうことを優先すればいいだろう。


「じゃあ、行くとしようか。瑠奈ちゃん、疲れてはいない?」


「うん、私は大丈夫。ありがと、イリアさん」


 イリアはこまめに瑠奈の様子を気にかけてくれている。だからこそ、任せても安心できる。暁斗もいる以上、俺が彼女を見ておく必要も……。


「…………っ」


 ……馬鹿か、俺は。私情を挟まないと言っておきながら、すぐにこれだ。言い訳を探して、彼女から逃げようとして……そのくせ、自分がいなくてもいいのではないかという考えに、胸が締め付けられるような気分になって。本当に、何をしているんだ。


「さあさあ、それじゃあ深層へレッツゴーってね!」


「本当に楽しそうだなあ……あまり走るなって!」


 少し大袈裟なくらいの振る舞いでフィオが階段を駆けていく。また、少し気を遣われたかもしれない。俺は小さく首を振って、嫌な気分を振り払う。

 階段は少し長めで、踊り場がいくつかあるみたいだった。本当に地下深くまで潜ることになりそうだな。


「……今さらながら、この光源って何を使ってるんだろうな? 数千年も消えないままって」


「電気だとしたら、内部に発電機関でもあるのかもしれないけど……それでも、永久機関みたいなものが存在する事になるしね。旧世紀はそれも可能だったのかな?」


「調べてみないと分かんないけど、昔の技術はすごかったらしいからね。そして、発展しすぎて、戦争になって、一度滅びちゃった、か」


「俺たちの世界もどんどん発展してるし、いつかそうなっちまうのかな……?」


「なったとしても遥か未来の話にはなるだろうがな。しかし、起こらないとも限らない。……過去と同じ轍を踏むことになるのか、過ちを繰り返さないのか。どういう世界を作っていくのかは俺たちやその子孫次第、なのだろう」


「……だな。じゃ、少なくともすぐ近くの未来を良い世界にするためにも、リグバルドみたいなのはほっとけねえよな」


「ええ。彼らは、このままだと争いをどんどん広げていく……あたしは、そんなの許せない」


 リグバルド……あの国を相手に抗う決意は、既にみんなの中で固まっている。例え、俺がいなくても。そして、俺のかつての仲間たちは……。


 フェルは言った、世界を見ろと。ルッカは言った、どうなるかは俺次第だと。リグバルドへの対処のために、彼らと協力できれば、という考えもある。それで彼らと和解できるならば、という俺の願望も込みだが。

 しかし……結局は、同じ疑問に辿り着く。ならば俺は、()()()()()()()()()()()? 彼らのどこを間違えていると感じた? それが思い出せない限り……この考えも、逃げでしかない。


「みんな、悪いけど急いで降りてもらっていい?」


 そんな時に聞こえてきたフィオの声。どことなく真剣な声音に、俺たちは会話を止めて彼の言う通りに駆け降りる。

 フィオは階段の下で、武器を構えた状態で待機していた。俺たちの姿を認めると、眼前の通路、その奥の扉を指し示す。


「あの向こうから物音がするんだ。戦闘みたいにも聞こえる」


「……確かに、微かに音がするな」


「本当、よく聞こえるよな。けど、それなら急いだ方がよくねえか?」


「ええ。誰かが戦闘しているならば、加勢しないと!」


 意見は確かめるまでもなく一致する。全員、戦闘態勢に移りつつ、扉目掛けて駆け出した。俺たちが近付くと、大きな扉は自動で開き、その先の光景が目に飛び込んでくる。


「…………!」


 扉の奥は、既に何度も見たような大広間だった。そして、確かにそこには、UDBの群れがいた。全長2メートル程の、巨大な蝙蝠……〈飢血蝙蝠(マーダーバット)〉か。ナイフのように鋭く伸びた爪で獲物を絡めとり、血肉を集団で喰らい尽くす、その名の通りの殺人蝙蝠。ランクはDだが、大規模な群れであれば危険度は跳ね上がると言われている。そいつらが合わせて11匹、何かに群がって……あれは……。


「あー、もう! ボクを食べてもおいしくないって! 見てみなよこの華奢な身体! 肉も少なくて食べごたえないと思うよ?」


 予想に反して、そこにいたのは……人間の、男性?


「って言っても通じるわけないよね。はあ、早く諦めてくれよ……」


 男性が、獣の群れに襲われている……のだが、そのどこか気の抜けた言葉は、UDBに囲まれているという状況にはあまりにも似つかわしくない。

 本人が主張する通りに、線の細い男……眼鏡をかけた優しげな顔立ちからはいくぶん若くも見えるが、大方30代ぐらいか。無造作に跳ねた青い髪。皺が寄った服や、うっすらと残る無精髭から、身の回りには無頓着であるのをうかがわせる。

 どうやらイリアと同じような力の持ち主らしい、突撃するUDBは、男性に攻撃を届かせる事が出来ず、障壁に阻まれている。だが、だからと言って戦闘が出来るわけでもないようで、その障壁の中で身を縮めてUDBの攻撃をやりすごしていた。


「あの人は……!?」


「考えるのは後だね。どうにも緊張感がないけど、助けるとしようか!」


「おう! ガル、突っ込むぜ!」


「ああ、合わせよう!」


 ギルド関係者には見えない。ならば、何故ここにいるのかという疑問はもちろん出てくるのだが、襲われているのならばまずは助けるのが先決だ。俺と暁斗を戦闘に、群れの中へと一気に斬り込んだ。


「おや、君たちは……!?」


「ギルドの者です。いま助けます!」


「本当かい? ごめん、頼むよ!」


 男性も即座に状況を理解した様子で、そのまま能力を展開し続ける体勢をとった。変に動かれるとやりづらいので、助かるところだ。いずれにせよ、可能な限り素早く制圧しなければ。


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