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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
5章 まもりたいもの
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地下遺跡

「本当に、こんなもんが地下に埋まってやがるとはな……」


 指定された地点にギルド総出で到着した俺たち。そこに起こった変化を目の当たりにした海翔が、呆けたように呟いた。


 正午過ぎ。カルディアの街を出てから車でおよそ30分程度の、未開拓地点の一角。何の変哲もない、草原の地面()()()場所……そこに、巨大な穴が開いていた。

 ただの穴ではない。土くれの奥に見えるのは、金属質な骨組み。そして、地下へと降りる階段。それが人工物なのは明らかだった。


「よく今まで見付からなかったもんっすよね。そんなに街から離れてるわけでもねえのに」


「今ならそう言えるが……少なくとも、今まで依頼でこの辺りを通りがかった時は、誰がどう見てもただの地面だったからな」


「なんで、こんなにいきなり、穴が開いたんでしょう……?」


「元々脆くなってきてたのがついに崩れたのか……誰かが開いたのか、とかかしら?」


「第一発見者は?」


「報告をしてきたのは一般人らしい。その前に中に入った者がいないとも限らないがな」


 話しながら、俺たちは階段を下っていく。地の底であるため、各々がライトや自分の能力で照らしている。


「……暗い」


「先発隊の報告によると、遺跡内部には光源があり、問題なく稼働したそうだ。その後、UDBが数多くいることを確認して、撤退したそうだが」


「……古代文明って、黒の時代以前の遺産って事だよな? そんだけ長い時間埋まってたのに、まだ機能が生きてるなんて……」


「UDBの方は……何千年も中で生きていたとは思えませんし、他の入り口があるんでしょうか?」


「ま、その辺調べるのが俺様たちの仕事ってとこだな」


「何にせよ、実際に中に入ってみないことには始まりません。やれやれ、少々骨が折れそうですねえ」


 今回の依頼は、ギルド本部から直々に出されたもの。この遺跡についての調査および、後発で訪れる専門家が安全に調査を行うための露払い、だ。

 古代文明……戦乱の果てに滅びたと言われる、現代よりも進んだ技術を持っていた時代。その遺産と思われるものは世界の各地で見付かっているが、残念ながら現代では、それを調べたところで技術も歴史も紐解くことがままならないのが現状だ。


 そこに来て、新しい遺跡……それも、このように厳重に隠蔽されていたものの発見。専門家からすれば、今すぐにでも飛び付きたい話なのは想像に難くない。

 しかし、どのような罠が仕掛けられているとも限らないため、単に護衛につくのでは不安要素が強すぎる。そのため、まずは俺たちが内部の危険を全て排除するということだ。


「学者の方々は、ギルドに反抗的な意見もあるようだがな。価値の分からない者が触って調べる前に台無しになったらどうするんだ! などと騒いでいたと、ランドがぼやいていた」


「いかにも学者って感じですね。ま、俺もちょっとは気持ちが分からなくもねえけど」


「ですが、何事も命あってですからね。あ、ガルフレアさん、念のために薬を渡しておきます。調子が悪くなったら飲んでください」


「貰っておこう……済まないな」


「くどいかもしれないが、ガルフレア、本当に調子は大丈夫なんだな?」


「ああ。体質なのか、昔から回復は早いからな」


「それならいいが……無理はするんじゃないぞ」


 ウェアの渋い表情が、身体を案じたものだけでないことは分かっていた。……どちらにせよ、動いていた方が余計な事を考えずに済む。

 階段の最下まで降りると、拓けた空間に出る。そして、俺たちの目の前には巨大な扉が姿を見せた。暗さゆえに全容はよく見えないが、見上げるほどの大きさであることは分かる。


「……どうやって開くんだ、これ?」


「側にあるスイッチを押すと開くらしいが……これか」


 ウェアが付近の壁を調べると、扉がゆっくりと鳴動を始めた。そして、その隙間から眩い光が射し込んでくる。


「うわ……」


 ウェアに先導されつつ、光の満ちる内部に足を踏み入れていく俺たち。どうやらここからは、ライトは必要なさそうだ。


「すっげえな……」


 圧倒された海翔の呟きが耳に入るが、俺も、恐らくは他のみんなも同じような感想だろう。想像以上の光景に、言葉にならない者が大半だ。


 そこは、大広間のような場所だった。まるでどこぞの王城のような、広大な空間……暖色の光源がいくつも設置されており、話通りに問題なく機能している。金属質な内装は、長い時を経ても殆ど傷付いたり劣化したりしている様子は見えない。


「草原の地下に、こんな巨大な建築物が埋まってるなんて……」


「信じられないけど、こうして来ちゃったものは信じるしかないわね」


「何もかも……想像以上です……」


 そのまま立ち止まっているわけにもいかないため、俺たちは広間の中心に向かう。そこには、ギルドの調査団が築いたベースキャンプが展開されていた。そこでは、見知った二人が誰かと通信を行っていた。


「おお、来たか。少し待ってろ……」


 ランドとセレーナの二人は、俺たちの姿を認めると手を上げた。周囲を見渡すと、他のギルドと思われる人影もちらほらと見える。中堅以上の多くのギルドに通達を出したそうだからな。

 ランドは通信を2、3言で片付けると、小さく溜め息をつきながら立ち上がった。


「よく来てくれたな。全く、ギルドも雑用を押し付けてくれるもんだ。連絡係で動けもせん」


「そう言うなよ。お前の手腕が信用されてるってことだ」


「ま、やるべき事はやらせてもらうがな。……と、雑談は後だ。俺たちは各調査団のバックアップを任されていてな。まず、こいつを全員に渡しておこう」


 俺達は、一人ずつランドからポーチを手渡される。中に入っていたのは、数種類の薬……傷薬や気付け薬だな。それから小型の端末……通信機か。


「通信機の方は最新式だ。このだだっ広い地下迷宮でも、問題なく通信できることを確認している。薬も高級品だが、報酬とは別枠でギルドから無償提供、持ち帰っていいそうだ。太っ腹だろう?」


「ギルドも本腰を入れているようだな」


「これだけの遺跡だ、お偉いさんや学者先生方からも莫大な資金が降りるだろうからな。だがその分、この遺跡、どうやら想定の数倍は広そうだぞ? 横もそうだが、さらに地下フロアもあるようだ」


「そうねえ。いま、リックちゃん達から地下2階への階段を見付けたって連絡があったわ」


 セレーナの側も通信を終える。どうやら相手は獅子王の面々だったらしい。ランドは俺たち全員にポーチを渡し終えると、ここから見て左手の通路を指し示した。


「赤牙には、まだ手の回っていないあちら側のエリアを調査してもらいたい。先発隊によると、最初の通路を抜けたら3つのルートに分かれていたとの事だから、3班に分けるのが良いだろう。まあ、その辺はお前らの動きやすいようにやってくれ。期限も特にないからな」


「状況によっては、本日中に終わらせずとも構わないということか」


「学者方がしびれを切らして忍び込む前なら大丈夫だろうさ。今回は、他のギルドやフリーランスも合同での調査だ。中の構造はまだはっきりとしないが、合流することも考えられるだろう。その時には協力してくれ」


「了解だ。ジン、お前もここに残ってランド達と共にサポートを頼めるか?」


「ええ、かしこまりました」


「あら、助かるわあ。私たちだけだと何かあっても動きづらいものねえ」


 ジンならばこの手の作業はお手の物だ。ランド達の負担も、少しは軽くなるだろう。後は、俺たちの班分けだが……。


「ランドの指示通り、3班に分けるのが一番だろう。俺を中心としたA班、誠司を中心としたB班、それから……ガルフレアとフィオ、お前達二人でC班のリーダーを頼む」


「ああ……分かった」


「了解だよ。よろしくね、ガル」


 基本的な形は、ジンが抜けたこと以外はいつも通りだ。後はそれぞれの下に誰が入るかだが……ウェアがそれを考えているであろう間に、思わぬ声が挙がった。


「なら……私は、ガルの班に入ります」


「…………!」


 自分からそう言い出した瑠奈に、ウェアが軽く目を細めている。……俺たちに確執ができたことは、みんな気付いていない筈がない。


「私とガルの戦闘相性は良いですから。ですよね、ウェアさん?」


「……大丈夫だ、ウェア。わきまえられないほど、俺たちは素人じゃない」


「……分かった」


 瑠奈の言う相性の良さは、俺もウェアも否定はできない。だからこそいつも一緒だったのだから。

 ウェアがフィオに目配せして、フィオが軽く頷いたのには気付いた。気を回させてしまうことには、申し訳なさもある。


「では……C班はガルフレアとフィオ、それから瑠奈と暁斗、イリア。B班は誠司と海翔、美久、浩輝、飛鳥。A班は俺と蓮、コニィ、アトラとフィーネだ。異論のある者はいるか?」


 特に文句は挙がらない。ウェアは一度だけ俺の方を見たが、俺が何も言うつもりがないことを確認すると、小さく息を吐いた。


「危険だと判断すれば即座に撤退して、体勢を立て直すこと。焦るんじゃないぞ、お前達?」


「だってよ、コウ」


「う、分かってるっつーの……」


 渋い顔で唸っている浩輝の横を抜けて、瑠奈が俺の方に歩いてきた。不安を隠しきれていない表情で。


「ガルフレア……」


「…………。済まない、今はまだ、何も話す気にはなれない」


「………………」


 瑠奈が俯いた。……今朝方、彼女が俺に謝ってきた意味が、分からないわけではない。彼女はきっと、俺と改めて話す機会を求めている。俺も、本当はそれに応えてしまいたい。謝って、謝られて、元通りになってしまいたい。だが……それでも。


「今から俺たちは、ギルドの一員として戦いに赴かなくてはならない。そこに、私情を挟むわけにはいかない」


「……うん」


「俺から、合わせる。いつも通りに、やれるか?」


「……大丈夫。やろう、ガル」


 身勝手を言っているのは、分かっている。それでも、瑠奈は頷いてくれた。それがたまらなく申し訳なくて……それでも、元通りに会話するほど器用にもなれなかった。



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