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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
5章 まもりたいもの
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すれ違う二人

 結局、一晩じゃ何を言うべきかはまとまらなかった。

 朝、いつもの起床時間。正直、あまり眠れてないので、少しだけきつい。でも、そのまま寝てるわけにもいかない。


「………………」


 早く行って話さなきゃと焦る気持ち。顔を合わせるのが怖いという気持ち。半々だった。でも、どちらにしても……逃げちゃダメだ。そうしたら、私とガルはずっとこのままになってしまう。


(――いい加減、素直になれよ)


 コウに言われた、あの言葉。私がずっと、ひた隠しにしようとしてきた感情。指摘されちゃったからか、それが駄目になっちゃいそうだからか、自分に嘘をつけなくなってた。

 嫌だ。このまま、ガルに何も伝えられないまま、終わっちゃうなんて。私は。私には、ガルが……。


「……行こう」


 自分に喝を入れるために、そう口に出してから、私は彼がいるはずの一階に向かっていった。












「………………」


「………………」


 だけど、意気込んではみたけれど……いざ、ガルと顔を合わせてみると、頭の中は真っ白になってしまった。

 向こうも、明らかに目をそらしている。気まずい空気が流れた。


「……身体は、大丈夫……?」


「……ああ。平熱まで、戻った。問題なく、動ける」


 黙ったままじゃ駄目だと、まず思い付いた事を口に出す。ガルも、ちゃんと返事をしてくれる。でも、そこで終わりで、また沈黙。


 ……駄目だ。頭が回らない。でも……最低限、これは言わなきゃいけない。


「ガル。昨日は、ごめんなさい……」


「…………。なぜ、君が謝るんだ……」


 ガルの声が、一段低くなった。怒ってると言うより、すごく苦しそうな、そんな声。


「私が、あなたに色々と押し付けてたって、私、全く気付けていなかったから。だから……」


「……違う。昨日は、俺がどうかしていた。悪いのは、俺の方だ。済まなかった」


「そんな事ない、私だって……!」


「違う! ……君は、俺を気遣ってくれただけだろう。俺はただ、苛立ちを君にぶつけた……八つ当たりした、だけなんだ。あんなことを言ってしまった俺を……許す必要など、ない」


 食い下がろうとした私を、鋭い声で制してからそう言うと、ガルはそのまま外の方に向かっていった。


「おい、ガル、どこに……?」


「風に、当たってくるだけだ。すぐに戻る」


 そのまま出ていったガル。私はそれ以上を言うことも、追いかけることも出来ないまま、そこに立ち尽くしていた。


 ……拒絶、されたんだ。

 悪いのは自分だ、許さなくていい。彼はそう言った。だけどそれは、話を強制的に終わらせただけ。それも、最悪の状態のままに。

 まだ気持ちの整理がついてないんだろうか。それとも……整理がついた結果がこれなんだろうか。だとしたら、私はどうすれば良いんだろう? このままじゃ駄目だ、という事は分かるけど、それ以上頭が回らない。


「おいおい。あいつ、どうしちまったんだよ? 瑠奈ちゃんにまで……」


「朝から少し苛立ってた、って言うより思い詰めてたみたいだったけど。何かあったのか、瑠奈?」


「……うん。少し、色々と、ね……喧嘩、しちゃったんだ」


 どうすればいいか分からずに、みんなにそう答えて、いつもの定位置に座る。追いかけるべきなのかもしれない。でも、追いかけても、何も言えそうにない。コウが小さく溜め息をついたのが見えた。


「喧嘩……ガルが瑠奈と?」


「……ごめん、あまり詳しくは言えない。でも、私はガルを怒らせちゃった」


 本当は、全員に相談した方がいいのかもしれない。だけど、そう軽々と広める気にもならなかった。


「喧嘩ぐらいは当然あると思うけど……でも、あの様子は、重症だな」


「またいつもみたく、グルグルグルグル考えてドツボに嵌まってそうだぜ。ちょっとはマシになってきたと思ってたんだがよ……」


「最近は、あからさまに様子がおかしかったわよね」


「やっぱ、アガルトでの事が原因かもな。あいつ、昔の知り合いと戦ったんだろ? その時に、何か言われたんじゃないのか」


「……そうだろうな。昨日、治ったらゆっくり話そうと約束していたところだったんだが、後手に回ってしまったか」


 みんなもやっぱり、ガルのことは前から気にしてたみたいだ。

 難しい顔で唸るウェアさんは、席を立とうとする。多分、ガルのところに行くつもりなんだろう。だけど私は、そんなウェアさんを止めていた。


「ウェアさん、少しお願いがあります。先に、私に話を任せてもらえませんか?」


「……大丈夫なのか?」


「分かりません。何を言うべきか、もう少しだけ考えたいですけど……でも、話さなきゃいけないのは、確かなんです。ガルを悩ませている原因のひとつは、きっと私だから」


「瑠奈、それは……」


「自虐したいわけでも、自惚れたいわけでもないんです。でも、今のガルには……私が、向き合わないといけない。向き合って、あげたいんです。今まではきっと、私は……真っすぐ、それができてなかったから」


 彼の背中に、護られるだけだった。だから私は、彼の背中を護ってあげたいと思った。でも……それだけじゃ、足りなかった。背中からじゃ、彼がどんな顔をしてるのか、見えなかった。


「マスター、俺からもお願いするっす。こいつがガルと向かい合うの、手伝ってやりたいんっすよ」


「コウ……」


「……分かった。だが、お前だけで無理をするんじゃないぞ? 俺もあいつの様子には注意しておく」


 ふう、と息を吐いたマスターに、頭を下げる。と、その時、入り口が開いた。ガルが戻って……にしては早い。案の定と言うか、入ってきたのはガルじゃない、大柄な獅子人だった。


「邪魔するぞ。ウェア、いるか?」


「ああ。どうした、ランド。こんな時間に訪ねてくるのも珍しいな」


「なに、丁度通る予定があったのでな。……ガルフレアはどうしたんだ? 表で随分とへこんでいたようだが」


「色々とあったんだ。それよりも、用件があるんじゃないのか?」


「おお、まずはそっちだな。ま、俺が言わんでもそろそろ本部から連絡が来るとは思うんだが……」


 そう前置いてから、ランドさんは真剣な表情で私たち一同を見渡した。


「端的に言うぞ。――昨晩、古代文明のものと思われる遺跡が、新たに発見された」







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