表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
4章 暁の銃声、心の旋律
188/432

別れ、帰郷、そして……

 そんで、次の日の昼過ぎ――




「みんな行っちゃうのかあ……寂しくなるなあ。暁斗もイリアも他のみんなも、たまには遊びに来いよなー」


「はは。アランさん、色々とありがとう」


「今回は別行動ばかりであまり話も出来なかったな。次に逢える時には、ゆっくりと時間が欲しいものだ」


「そうですね。ガンツさんも、是非いつかバストールに来て下さいね!」


 空港にやって来たオレ達を、大鷲のみんなが見送ってくれてる。短い間だったし、ギルドに残ってた二人とは確かにあまり絡めなかったな。けど、また一緒に仕事することもあるだろう。……飛鳥がいねえけど、どうしたんだろ。昨日はあんだけ一緒に話して……こ、コホン。


「しかし、見送りに来ていただいたのは有り難いのですが……シューラさんは本当に大丈夫でしょうか?」


「う、うむ……大丈夫、だ。……あのまま姉貴に説教を続けられるぐらいならば、起き上がった方がマシだ……」


「何か言ったかい、シューラ!?」


「うぐぉっ……お、大声を出さないで、くれ……あ、頭が……うぷっ!」


「……頼むから、柱ともあろうものが、公衆の面前で吐くんじゃないぞ」


「お酒は呑みすぎると本当に怖いですから、身体には気をつけてくださいね。お水と酔い覚ましです、どうぞ」


「す、済まん……」


 コニィから水と薬を受け取ってそれを口に入れると、少しだけ楽になったらしい。そんなすぐ効くわけじゃねえだろうけど、薬って飲むだけで気持ちは楽になるもんだよな。

 その横でそれを、少し困ったような表情で眺めているのがダリスさんだ。レイルは、三つの首都の指揮をするために残っている。「僕は昨晩お話が出来たので満足しています」なんて言ってた。


「でも、考えてみたら、国のトップに見送られるなんて、ギルドには過ぎた栄誉だねえ」


「仕事は山積みではありますが、私たちが少しでも抜ければ混乱してしまうほどに人手が足りない訳でもありません。国を救ってくれた英雄の見送りぐらいは、させてください」


「え、英雄……ですか? おれ達が」


「……あなた達が来てくれなければ、きっとここまで上手く解決することは出来なかった。俺は西首都を攻め、犠牲が出て、奴らの侵略はさらに進んでいたことだろう」


「この国に生きる者の代表として、あなた達には、どれだけ感謝してもし足りません。ここに来れなかったレイル君の分も、礼を言わせてください」


 深々と頭を下げてくるシューラとダリスさん。確かに、そう考えると、オレ達はけっこうでっかいものを成し遂げたのかもしれねえな。無我夢中だったし、実感はあまりねえけど。


「それと同時に、気を付けるんだよ。バストールだって、今回みたいな事がいつ起こるか分かんない。そん時に、あんたらはきっと目をつけられてるからね」


「何かあったら、俺たちを頼ってくれ。この恩は、いつかの機会に必ず返すからな」


「ああ。これから大変だろうが、お前たちならば心配はいらないと思っている。無論、何かあったらまた呼びな。俺の力でいいなら、いつでも貸してやる」


 二人のマスターは、改めて握手を交わす。こういう友情ってのもほんとにいいよなあ。離れても繋がってるってやつ……離れても……。


「……あの、空さん、ところで飛鳥は?」


「飛鳥なら、特別任務につくことになってな。伝えていなかったが、お前たちの見送りはできない」


「と、特別任務? こんなでっかいこと終わったばかりだってのに?」


「あいつ自身の希望だったんだ。あそこまで頼まれたら、俺も首を縦に振らざるを得ない。よほど今回の事で自信をつけたのだろうな。ああ、悪いが内容は極秘だぞ」


「そ、そうっすか……」


 特別任務。何てっか、すごく危なさそうに聞こえる。どうして、飛鳥が……いつから決めてたんだろう。それなら、オレにだって話してくれりゃ良かったのに。それを話すまでは信用されてなかったってことなのかな……。


「ふふん、へこんでるねえ」


「へ、へこんでなんかないっすよ! ただ、まあ、ちょっと心配だなー、なんて……」


「ま、それはあたしらもだけどね。信頼できる連中と一緒だから、大丈夫だって信じてるさ」


「くく。ああ、そうだ。ウェアルド、色々と任せたぞ」


「はは……ああ、分かった」


 空さんの言葉に、マスターは何か苦笑してる。ん? 何の話だろ。よく分かんねえな。


「それと、新聞社の方から伝言だ。『昨日のインタビューはちゃんと完璧な記事にしてみせるから、楽しみに待っててね! 出来たらそっちにも送るから!』と言っていたな、くく」


「うっ……」


「いや、むしろ無かった事にしてほしいんっすけど……」


「まあまあ、そう言うなよ。これで一躍有名人だぜ? あー、俺様うらやましいなー」


「その棒読みくっそ腹立つ!」


「フィオ、あなたはどんな事を話したのですか?」


「まあ、僕の方はどうなるか分かんないけど。将来の話とか、UDBから見たヒトとか、色々?」


 言いながら、フィオも苦笑いだ。まあ、アイシャさんのパワーなら、ほんとに色々なこと聞いたんだろうなあ。……うう、マジでオレの方は無かった事にしてくれ、


「さて、では……名残惜しいが、そろそろ時間だな。行くぞ、みんな」


 このままもう少し話したい気持ちもあったけど、マスターのその言葉に、そんな時間も終わる。……本当に帰るんだなあ。あっと言う間にも、すごく長かったようにも感じる。


「空さん、リンさん、ガンツさん、アレン君! 本当に、長い間お世話になりました!」


「俺も、みんなと一緒にやれて楽しかったです!」


「へへっ、また来てくれよな、みんな!」


「今後も、そなた達の武運を祈ろう!」


「あなた達ならばこの国はいつでも歓迎する! 次は、本当に平和になったこの国を見せてやろう!」


「お前たち、ウェアルドにあまり無茶をさせないよう、しっかりと見張っておけよ!」


「ええ、それは私が確実に成し遂げますのでご心配なく」


「全く、最後まで……じゃあな、また逢える時を楽しみにしているぞ!」


「それと空さんにリンさん、飛鳥から連絡でもあったらよろしくっす!」


「ふふん。ま、それは()()()()()()()()()()()よ!」


「皆さん、ありがとうございました! 私たちは、この恩をいつまでも忘れる事はないでしょう!」


 最後に、思い思いの言葉を残して――オレ達は、そのまま飛行機に向かった。














「行っちゃったなー、マスター」


「……そうだな」


「ふむ? 随分と寂しそうですな。やはりあなたも、意外と情にもろいところがある」


「ふふん、空はこう見えて酷い心配性なのさ。やっぱ、旅をさせろと言っても、手を離れるのは気になるものだねえ」


「姉貴は、割と平然としているな……」


「さっきも言ったけど、あたしだって心配さ。でも、大丈夫じゃないかい? 何たって、あいつらが一緒なんだからね」


「そうだな。あいつらと共にいるならば……くく。落ち込んでいる場合ではない、か」


「うーん、にしても明日から四人かあ。さすがに人手足りなすぎるし、募集しないとねー」


「それならば、募集の手伝いを、私たちでもしてみましょう。これでも、ギルド関連の人脈もありますからね」


「おお、それは有り難い」


「ならば、俺も……うちの若いのにでも、声をかけてみるとしよう。役所勤めがイマイチ性に合わん奴もいるようだからな、意外とそちらの方が向いているかもしれん」


「シューラさん、太っ腹ぁ!」


「ふぐ!? ば、馬鹿、者、いきなり、叩く、な……うえぇ……」


「……おい、堪えろよシューラ?」


「はあ。最後まで締まらない子だねえ……」
















「んん……帰って来たなあ!」


「いやあ、いいねえ、地に足がついてるってのは!」


 空を飛ぶこと数時間――オレ達は、久しぶりにバストールの、カルディアの街の土を踏んだ。特にアトラは、飛行機から解放されて安心したことでテンションが上がってるっぽい。多少の時差もあるけど、辺りはすっかり夜だ。


「まだ空港だけど、何か懐かしいって感覚だよね」


「はは、何だかんだでけっこうな長旅になったからな。俺たちでもそうなんだから、イリアはもっとだと思うが」


「そうですね。帰って来たんだなあ、あたし……」


「俺にとっては、初めてになるな。ここがバストール、か

……って、別にまだ空港の中だけどさ」


「あはは。きっとお兄ちゃんも気に入るよ。今度、ゆっくりと案内してあげる」


 行く時よりも、さらに賑やかになったオレ達。イリアさんはともかく、まさか暁兄と一緒に帰ってくるとは思ってなかったよな。けど、オレ達の目的のひとつが、これで達成だ。


「改めて、本当にご苦労だったな。大仕事の後だから、明日から数日間は、よほど緊急の依頼でも入らない限りは休みにするつもりだ。各自、思う存分羽を伸ばしてほしい」


「お、マジかマスター? へへっ、じゃあとりあえず明日は色々と挨拶回りに行かねえとな! えっと、セレーナ姐さんにエリス、あとジェシカとエミリーとレベッカとそれからアンナげはっ、のぎゃあああああぁ!?」


「兄さん、発情しているようなので、休日の間は拘束しておくことを提案する」


「残念ながら、その男のそれは年中ですから。それこそ檻にでも入れておかなければ被害は減りません」


「おれる、おれるぅあああぁいぎゃあああぁ……」


 悲痛な叫びが久々のバストールに響く……鎖で関節固めてやがる。フィーネのやつ、どんどん多芸になってきてて怖え。マジ痛そう。


「ところでウェア、お前もちゃんと休むんだろうな?」


「はは、今回ばかりは俺もそのつもりだよ。と言っても、明日は少しばかりやることがあるが。本部にも色々と話さねばいけないしな」


「いつも、そこからズルズルと引っ張られて、結局は休まないのがあなたのパターンですがね。休んでいるように見せ掛けて書類を書いていたり、連絡に追われていたり、はまたは周りの仕事を引き受けたり」


「うっ。まあ、確かにそうなる事も、多いけどな……」


「マスターは本当にお人好しだよねえ。もうちょっと自分の身を労らないと、歳なんだし」


「それがウェアのウェアたる所な気もするが……疲労を溜めて倒れでもしたら、そちらの方が周りには迷惑だからな。俺に色々と言う前に、お前も俺たちに任せる事を覚えた方がいいぞ」


「ガルフレアさんの言う通りですよ、マスター。今回だって、一番仕事をしていたのはマスターなんですから、むしろマスターが一番休まないといけないんですよ? これ以上頑張るのは、ドクターストップです」


「……お、おい。何でまだ起こってもいない事で説教されているんだ、俺は!?」


「日頃の行いのせいですよ」


「ぐう……。ああ、くそ、分かったよ! 少なくとも一日は、お前らに色々と任せてでも絶対に休む! 仕事の話は一切受け付けない! 約束する! それでいいか!?」


 少しヤケ気味にそう声を上げるマスターに、地面で悶絶してるアトラ以外の全員がどっと笑った。ほんと、この人はガル顔負けなぐらいに全部やろうとするからなあ。たまにはこんぐらい言っとくべきだろ。と、そんな時、フィオが何かに気付いたっぽかった。


「ん? フィーネ、荷物から何か出てるよ?」


「それは、コルカートですか」


「吹き方の本と一緒に、飛鳥がくれた。これから練習していく」


 コルカート、か。確かに、吹き方を教えるとか言ってたな。……やべ、それだけで急に寂しくなってきた。


「はあ……飛鳥のコルカート、かあ」


「何だ、羨ましいってか?」


「ち、茶化すんじゃねえっつーの! ……でも、もっと色々聞いときゃ良かったなあ、とは思うぜ。特別任務、か……」


「そんな話、全くしてなかったんだろ? 心配をかけたくなかったのかな」


「えっと。心配をかけたくなかったと言うよりは、知らせない方が良かったと言うか……」


 オレ達の話に、イリアさんはそんなことを言った。……知らせない方が良かった?


「もしかしてイリアさん、内容を知ってるのかよ?」


「うん、まあね。大鷲のみんなで集まった時にした話だし。あの砦での戦いが終わった日には決まってたんだ」


「そんなに早くから決めてたのか」


「知らせない方が良かったって、そんな危ねえ事なのか? 知ったら止められそうだから、とか?」


「いや、危ないと言えば危ないんだけど、それはギルドの仕事である以上は当然と言うか……えっと、今までとあまり変わらない、かな? どんな依頼が来るかによるし」


「え? 内容が決まってるんじゃねえのか?」


「空は特別任務と言ったが、実際は派遣だからな。要するに、今までイリアがアガルトに行っていたのと同じだ」


 派遣……ってことは、他のギルドで働くってことか? 自分から言い出したって聞いたけど、どうして?


「今回の俺たちとの作戦が、良い刺激になったのだろう。彼女は、今までできなかった経験をできる環境を望んだんだ。そして、それに適任な場所を本人と空が決めた、というわけさ」


「そうなんっすね……。でも、そんだけなら、知らせない方がって意味はよく分からないんっすけど」


「それは……まあ、後で教えてやる。別に危ないからとかそういう話じゃない、心配しすぎるな」


 マスターにそう言われて、ようやくちょっと安心する。ふう、と息を吐いたオレに、先生が尋ねてくる。


「相当気にしていたようだな?」


「そりゃまあ、そうっすよ。飛鳥はオレの大事な……友達っすから。知らないとこで危ない目に遭ってたりしたら嫌に決まってるっす。いやまあ、オレが気にしすぎても迷惑かもしれないけど……もっと仲良くなりたい、とも思ってましたし」


「仲良く、ねえ。意味深だな?」


「うるせえっつーの! はあ。にしても、全く気付けなかったなんて、ほんと注意力ねえなあ、オレ。……おい、美久、何笑ってんだよ?」


「……い、いえ、ごめん、何でもないわ……」


 それだけ言うと、美久はぷるぷると震えながらも俯いた。やっぱヘタレとでも思われてんのかなあ……言い返せないけど。


「……あ」


「おや?」


 ……ん? てか、美久だけじゃなくて何人か様子が変だな。ちょうどオレらと向かい合ったメンバーが、順番に驚いたみてえな顔になっていく。


「はは……なあ、浩輝」


「ん、暁兄、どうかしたのか?」


「いや、な。……ゆっくり、後ろ向いてみろ」


 苦笑いしながら、そんな事を言ってくる暁兄。後ろ? 後ろに、いったい何があるって――





 ――――え?


「お?」


「あれ……?」


 ……え? え、え……!?


「……なるほど」


「あ、あ、あ、あああああ……」


「……ふふ。どうしたの? 浩輝くん」


 い、いや、ど、どうしたの、って……な、何で。何で……。


「あ、あ、あっ、飛鳥ぁ!?」


 何で――飛鳥が真後ろに立ってやがるんだよ!?


「ふ、ふぇ……あれ、ここバストールだよな!? えっ、あれ、アガルト!? アガルトに戻って、いや、あれっ!?」


「……少し落ち着かんか、橘」


「お、落ちつける、はずが、えっ、ほ、本物だよな!? てか、いつから聞いてた!?」


「えっと、『もっと色々聞いときゃ良かったなあ』辺りから、かな……?」


「んなぁあああぁ!?」


 け、けっこう恥ずかしい事も言った気がするんだけど! あれ、オレどこまで言った!?


「……トラネコは暴走してっけど、今の話からして、そう言う事だよな?」


「うん、そうだね。……少し順番が前後しちゃいましたけど、皆さんに報告があります」


 飛鳥は改まってオレ達の方を向くと、言葉を続けた。


「わたし、神藤 飛鳥は……今日付けで、バストール国〈赤牙〉に転属することが、ギルドマスター・空の指示により、決定しました」


「……ま……マジ、で?」


 って事は、特別任務って――ようやく全部分かったオレの耳に、すごく気持ち良さそうな笑い声が聞こえてきた。


「あっはっは! ほんっと良いリアクションするわねえ、あんた! ね、飛鳥? 隠してて良かったでしょ?」


「はい……まさかここまで驚いてくれるなんて。浩輝くんには悪いけど、ちょっと楽しかったかも」


「み、美久……まさか、お前! 昨日あんだけ煽ってきといて、全部知ってやがったな!? てか、お前の入れ知恵だな!!」


「ごめん、ごめんって! あー苦しい。……でも、ヒントはいくつかあったのよ? 例えば、言ってたじゃない、空さん。『見送りには来れない』って。そりゃ、自分も行くんだから見送りとは言わないわよね?」


「なん、だよ、それぇ……!」


 何か、急に力が抜ける。確かに、リンさんとかにも意味深な言い方されてた気もするけど。色々とわたわたしてたオレが、何かすげえアホみてえじゃねえか……。

 オレが肩を落としちまったので、今度は飛鳥がちょっと慌ててる。


「ご、ごめんね、浩輝くん?」


「……いや、それはいいんだけどよ。自分から言い出したって聞いたけど。いったい、どうして? 他所に行くだけなら、アガルトにだって他のギルドはあるだろ?」


「うん。だけど、それだと、何かあった時には、お父さん達がすぐに動けるよね? ……浩輝くんの話を聞いて、気付いたの。わたしは、お父さん達に依存しすぎていたって。二人だけを見続けていたら、いつまでも自信は持てないって」


 二人に憧れていたから、それに追い付こうと焦って、自信が持てなかったって言う彼女の話を思い出す。今回のことでちょっとは持てたっぽいけど、元々の性格ってのはそう簡単に直るもんじゃないしな。


「だから、お父さん達から離れたところで経験を積みたかったのがひとつ。バストールは私の生まれ故郷だし、そこで頑張ってみたいのがひとつ。それから、何よりも……恩返しが、したいんだ」


「恩返し?」


「あなた達のおかげで、あの国を守れた。そして、わたし自身も、自分の力で戦おうって思えた。わたしが国のために頑張れたのも……あなた達の、おかげだから」


「……飛鳥」


「だから、こんなわたしの力でも、少しでも役に立てるなら……わたしに勇気をくれた皆さんと一緒に。友達と一緒に、頑張りたいって、そう思ったんだ」


 友達。支えあえる存在。オレは、友達になってくれって彼女に言って、これからもずっと友達でいてくれとも彼女に言った。そして、彼女はそれに応えてくれたんだ。


「ま、そう言う事だ。……ドッキリに荷担したのは恨むなよ。空やリンも乗り気だったから、俺も止めるに止めれん。だが、彼女が俺たちの一員に相応しいと思うかどうかは、今さら聞くまでもないだろう?」


 マスターは苦笑しつつ、そう言った。オレ達はみんな、合わせるでもなくそれに頷いた。飛鳥もそんなみんなを見て、柔らかく微笑んでいた。


「これからも、よろしくお願いします、皆さん!」


「ああ。よろしくな、飛鳥っ!」


 オレは、しっかりと握手した。これから仲間になり、家族になる、この気弱だけど芯の強い、優しい女の子と。


 仲間として、護る事だってあるだろう。護られる事だってあるだろう。男としての意地で、護ってみせるなんてあの時は言ったけど……今は違う。そうやって、対等にお互いを支えていく関係ってやつに。横に並べる男に、オレはなりたい。


 いつか、君にふさわしい男ってやつになって、ちゃんと伝えてみせるから。君の事が大好きだって――だから。見ててくれよな、飛鳥。








 ……そして、そんな希望が絶望に変わるのも、けっこう早かった。







「……おい、橘。こことこことこことここが間違えているぞ」


「って、全部じゃないっすか!? そ、そんなはずは」


「あるから言っとるんだ! ……仕方ない、では、ここをもう少し噛み砕いた易しい問題をまとめてやる。それが終わってからこっちを解き直せ」


「ふえええぇ!?」


 赤牙に帰ったオレに、真っ先に襲い掛かってきた悪夢。……そう。先生による歴史のプリント、それも特別製のびっしりと問題で埋め尽くされたもの、20枚。

 ……ち、ちくしょう! 何で覚えてたんだよ!? そして作るの早すぎるだろ! オレの方はすっかり忘れてたってのに……てか、何か知らないけど解いたはずが増えてってるぞ!?


「あーあー、マジでひでえぜこの答え。見てみろよお前ら」


「どれどれ……。……教科書読みながらこれって、ギャグか? 狙ってるのか?」


「……さすがにやばいな。何でひとつの事件について聞かれてるのに、数百年単位で時間が飛んでるんだよ? それはまだしも、宗教関連のとこ全部真創教って書いてやがる……テストなら数撃つのは手段かもしれねえけど、提出プリントでこれは……」


「先生、すごく分かりやすく作ってくれてるのにねえ」


「本当にな。誠司のプリント作りは参考になる。……ところで誠司、そっちよりもこれを見てくれ。大惨事だ」


「ああ、貸してくれ。………………」


「って、人の回答たらい回しにしてネタにするんじゃねえっつーの!!」


「見られてネタにならんようにしっかり考えて答えんか馬鹿者が!!」


 怒鳴ったら特大の落雷でまとめてかき消されました。……先生、解けない事そのものには割と優しいんだけど、このブチギレっぷりを見るに、早く遊びたくて適当に埋めたの、どう考えてもバレてます。


「こ、浩輝くん……良かったら、今度、一緒に勉強する? わたしが分かる範囲でなら教えてあげるから……」


「ま、マジで? よっしゃ、それならオレだって頑張れる!」


「デレデレしとる場合かぁ!!」


「ひゃううううぅ!?」






 オレ達を取り巻くでかいもんとか、これから色々と考えなきゃいけねえ事とか……それよりも何よりも、オレにとっては、先生が最強に恐ろしい。そう理解した、今日この頃です……。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ