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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
4章 暁の銃声、心の旋律
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絡み合う思惑

「……済まなかった」


「身勝手に腹を立てているのはこっちです。俺の事を考えて、そうしてくれたのは分かっているんですから、謝らないでください。でも、だからこそ……溜まっていたものぐらいはぶつけないと、気が済まないんです」


 誠司は口を開きかけた状態で、声を出せない様子だった。……暁斗のそれは、なかなかに残酷な言い回しだ。

 理由は分かっている、謝ることではない。だが、自分はそれを許さない。理不尽だと分かっているが、それでも許さない。……謝罪すら認めない、自分の怒りをただ受け止めろ、そういう宣言だ。親譲り、とこの場で考えるのは不謹慎かもしれないが、相手に有無を言わさぬ話術は慎吾のそれに近い。


「どういうことなんですか、先生! だって、お兄ちゃんのお父さんは、お兄ちゃんが生まれる前に事故で死んだって……!」


「嘘だったんだよ、それはな。それを望んだのも、父さん……俺の実の父さん自身だったんだけどな、半分は」


 瑠奈は、信じられないといった顔で、誠司と暁斗を交互に見ている。誠司は、今まで見たこともないほどに身を縮めていた。


 暁斗が行方知れずになった理由は、俺も色々と想像していた。実父の事を調べているのではないか、という事も、考えついてはいた。

 だが、それを誠司やウェアに話し、調べてもらっても、そちらの線で彼の足取りは追えなかった、と言っていたんだ。ようやく分かったが、彼らは暁斗の父に直接の連絡を入れ、そしてはぐらかされたのだろう。


「……あいつは死んだのだと……最初はオレ達も、本当にそう思っていたんだ」


「そうですね。だから、父さん……ややこしくなるので名前で呼びましょうか。慎吾父さんは、ヴァン父さんとの約束を果たした。そう聞いています」


「そうだ。そして、瑠奈も生まれ、お前たちは大きくなり……あいつは、帰って来た。だけど、もうその時には、言えなかった。慎吾とも楓とも、他ならぬヴァンとも話し合った。色々と無視して教えてしまいたいとも、思った。だが……他ならないあいつら自身の覚悟を無視することは……オレには、出来なかった」


「……先生」


「……分かっている、言い訳だ。お前が、オレに……オレ達に怒る権利は、確かにある」


 葛藤も、罪悪感もあったのだろう。それをこうして突き付けられ、誠司の声は柄にもなく弱々しかった。


「ウェア。アクティアスと言うことは……?」


「……そうだよ。ヴァンは、俺の弟だ」


 ウェアの弟。思えば、彼の身内について何かしらの情報が得られたのは初めてかもしれない。こうも複雑に絡み合っているとは思っていなかったが。


「それじゃあ、ウェアさんはお兄ちゃんの……?」


「伯父にあたることになる。慎吾の手前、大っぴらに名乗るつもりもなかったがな」


「ま、マジっすか……言われてみれば髪の色とか似てる、のかも」


「……何だか、よく分からねえよ。いきなり色んなこと言われすぎてさ。最初から、ちゃんと説明してくれねえか?」


「……そうだな。まずは、どうして俺がそれを知ったのか、からだ。丁度、お前たちがバストールに行った、次の日の話だな」


 まずは話を進めるのが優先だ。全て聞かなければ、分からない。誠司たちは、暁斗に何を、どうして隠していたのか。


「あの日、気が付いたら俺の部屋に、一人の男が立っていたんだ」


「何だそれ……?」


「あいつらの一員だから、もしかしたらお前たちも知っているかもしれないけど……そいつは、アインって名乗ったよ」


「アイン……!?」


 思わぬ名前が挙がる。マリクの片腕……そいつが、エルリアにまで来ていたと言うのか。


「あいつは転移能力の使い手。それで、暁斗の部屋に入り込んだのか」


「ったく、タチわりい。まるでストーカー野郎だぜ!」


 あいつはいつでも現れる可能性がある。そう考えると、確かに背筋が冷たくなるな。今この瞬間、目の前に現れることだって有り得るのだから。


「まず、あいつは静かにするように脅してきたよ。明らかに危ない相手だったし、それに従うしかなかった。その上で、『面白い話をしてやろう』って言ってきたんだ」










「生きている? 俺の、本当の父親が?」


「その通りだ」


 黒い竜人は、あくまでも淡々とそれを肯定してきた。当然、こっちからすれば落ち着いて聞けるはずもなかった。


「な……何だよそれ! いきなりそんな事言われたって、信じられるはずが……!」


「ならば、お前は自分の真の父について、どれだけの事を知っている? どこで産まれ、どこで育ち、どのようにして死んだのか、はっきりと知っているのか?」


「そ、れは……」


 俺は、実の父についてろくに知らなかった。

 子供心に聞いてはいけないことだと思っていたし……もし本当の父について知りすぎてしまえば、父さんとの関係にもっと疑問を持ってしまうのが怖かったせいでもある。


「だけど、墓参りにだって連れていってもらった事もあるんだぞ……!」


「それが、お前を騙すための、偽物の墓でないという証拠は?」


「っ! そんな事言ってたら、実際に死んだとこでも見てなきゃいけないじゃねえか!」


「そういうことだ。お前は、父の死を目撃した訳ではない。あくまでも聞かされただけだ。ならば、そのどこかに嘘が混じっていれば、その情報は全て意味を成さなくなる。裏を返せば、この話が虚偽であるとも断言できまい?」


 その言葉に、反論できなかった。突然すぎて、頭の中は完全にパニックを起こしていた。

 だって……だって、もしもそれが本当なら……どうして、父さん達は俺に嘘をついて。どうして母さんは本当の父さんと一緒にいなくて。どうして、本当の父さんは俺の側にいてくれないんだ?


「少なくとも、興味は持ったようだな」


「っ……」


 突然現れたこいつが本当の事を言っている保証なんてどこにもない。いや、あの襲撃の関係者なんて、ろくでもないやつなのは間違いない。

 直感的に分かっている、こいつは信じちゃ駄目だって。……だけど、頭の中からその可能性を振り払うことが出来ない。だってこいつらは、英雄のことを、父さんのことを知っていた。だったら、俺の知らない真実を知っていたって、何も不思議じゃない。


「だったら、父さん達に直接聞いて……」


「それで今まで隠していた真実を話してもらえると思うのか? 適当にはぐらかされてしまえば、お前は一生騙されたまま生きることになるかもしれない」


「それは……」


「この身が信用ならないのは正常な判断だろう。だが、ならばお前は、お前に嘘をつき続けた両親を信用できるのか?」


「…………!!」


 考えれば考えるほど、むしろその可能性に気持ちが傾く。どんどん頭が回らなくなっていって、俺はただ、呆然と立ち尽くすしか出来なかった。


「この身はただ、告げに来ただけ。これを聞いて、どうするかはお前の自由だ」


「……俺は……」


 今の話が意味する事は……仮にこの話が真実とするなら。俺は、いったい。

 俺は、どうしてここにいるんだ。俺の親の間で、いったい何があって、俺はこの家の子供になったんだ。



 俺は、どうしたらいい。俺は、どうしたい。

 俺は……俺が、やるべき事は……。



 …………()()()()



 俺の知らない、俺の身内の話。そこで、俺の存在がどう扱われたのか。俺の知らなかった事を。そうしないと、俺は――










「全てを伝えるだけ伝えて去ろうとしたそいつを、俺は思わず呼び止めていた。後で考えると、あいつはそれを狙ってたんだろうけど」


 興味を引く話だけを残し、去る素振りを見せる。そうすることで、暁斗が自分の意思で、自分たちに興味を持つように仕向けたのだろう。


「あいつは、これ以上を知りたいのならばついて来るといい、って言ってきた。……正直、迷ったよ。ろくでもない奴らなのは分かっていたけど、それだけ、その話は俺にとって魅力的だった」


「それで暁兄、そいつについて行っちまったのかよ……?」


「そうじゃないさ。もしそうなら、俺は多分、ここには来れてないと思う。その時になってもう一人、別の人が現れたんだ」


「もう一人、だって?」


「ああ。フェリオさんだよ」


「何だって!?」


 アトラが身を乗り出した。まさか、ここであいつの名前が出てくるとはな。


「エルリアに残って不審な行動をしていたマリクの一派を、監視していたらしいんだ。そして、俺の家にあいつが転移したことに気付いたらしい。窓は開けっぱなしにしてたから、運が良かったな、俺からすれば」


「……人の家を覗いたって考えりゃ、兄貴もストーカーっぽい事してやがんなぁ……」


「俺の場合は英雄の子供としてマークされていただろうし、おかげで助かりましたけどね。今なら分かるけど、もしもアインについて行ってたら、俺は後に退けなくなってたと思いますから……って、兄貴?」


「あー、俺様のことは後で説明するからとりあえず置いといてくれよ」


「アインは、フェリオに向かって()()()邪魔してくれると言っていた。その事も含んでいたと推定」


「確かに言ってたような……? よくそんな細かい内容まで覚えてるな、お前」


「記憶力はある方。アトラの頭が空っぽとも言う」


「……変化球にしてまで俺様を傷付けてそんなに楽しいかこんちくしょう」


 項垂れたアトラはともかくとして、フェルにはどうやら感謝せねばいけないようだな。アインの目的が何であったにせよ、暁斗が何かに巻き込まれていたのは確実だ。


「さすがにそこで戦うのは避けたかったみたいで、アインは消えていった。フェリオさんもすぐに行こうとして……俺は慌てて、あの人に尋ねた。アインの言った事は本当なのかって。……フェリオさんは、何も言わなかった。だけど、その反応で俺は確信したんだ」


「あの馬鹿兄貴……そこは否定してやっとけよ、最後の後押ししやがって」


 フェルならば、英雄の情報は全て持っているだろう。そんな彼が否定しなかったならば、それが答えのようなものだ。


「結局、フェリオさんもそのまま消えてしまって……だけど、そんな時、ベッドの上に一枚の紙が落ちているのに気付いた。そこには、地図と地名、走り書きがあった」


「地図?」


「『邪魔が入ったので趣向を変えよう。真実を知りたければ、そこに向かうといい』……走り書きは、そう書いてあった。さすがに、誰の文字で何の事かってのはすぐに分かったよ」


「……メモだけ転移させたってことね。そんなことも出来るなんて、本当にめんどくさいやつね、そいつ」


 その力の厄介さは改めて検討する必要がありそうだが……今はとにかく、暁斗の話だな。

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