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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
4章 暁の銃声、心の旋律
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暁斗の目的

「まずは、みんな……今まで、ごめん。謝って済む話じゃないのは分かっているけど」


 全員で合流して、ブラントゥールに戻ってきた俺たちは、まず三本柱に事のあらましを報告した。

 フィオ達が捕らえたジョシュアは、この国の軍にそのまま引き渡された。重傷を負っているため、まずは治療を受けさせてから、尋問を行うようだ。

 時間はかかるだろうが、新しい情報が入れば、俺たちにも伝えてくれるとのことである。いくら指揮官クラスとは言え、傭兵からどこまで引き出せるかは微妙なところだがな。


 国の当面の脅威は去った。それは間違いない。だが、いくらリグバルドが去ったとは言え、残された爪痕は決して小さくは無かった。洗脳されていた、などという話は、全員がすんなり受け入れられるものでもないだろう。受け入れたとして、そう簡単に感情を切り替えられるものでもない。小競り合いはしばらく続くだろう。

 それでも、少しずつ、改善はしていけるはずだ。時間がかかったとしても……人間と獣人は話し合える、共に過ごしていける存在なのだから。



 そして、赤牙・大鷲共に全員が揃った俺たちは、いったん客室に集まっていた。サングリーズの戦いだけでも、多くのことが起きた。話し合わなければならないことが、山積みになっている。

 まずは……暁斗のことだ。みんなの前で頭を下げたあいつは、少し固くなっているのが分かる。事情が事情だから無理もないが。


「あー、初っぱなからそんな深刻な顔するなよな。そりゃ言いたい事ぐらい山ほどあるけどよ、別にお前を責めるために話をするんじゃねえんだぜ?」


「そうだぜ暁兄。せっかくまた会えたんだからよ、細かいことは抜きにして喜んでんだぜ、こっちは」


「……ありがとう」


 そう言われると少しは気が楽になったようだ。表情も、少し柔らかくなる。


「えっと、俺様たちは初対面だし、事情もそこまで詳しくは知らねえんだが。一緒に聞いててもいいのか?」


「赤牙の人にも、知っておいてもらった方がいいと思います。多分、間接的に関わってくる話もありますから」


 他のメンバーにも軽い自己紹介は済ませてある。元々、あいつを探していることはみんなが知っていたからな。とは言え、質問は関わりの深いエルリアのメンバーが行うことになるだろう。


「言いたいことは、全部言ってもらっていい。みんなが納得するまで、全部話すつもりだ」


「こっちとしても、聞きたいことだらけで、何から聞いたらって感じではあるけどな」


「あ、じゃあ。まず、どうして暁兄がこの国でギルドに協力してたんだ?」


 最初に手を上げたのは浩輝だ。


「俺は、ひと月半ぐらい前から、この国に来ていたんだ。ギルドと関わったのは偶然だったんだけど……街の中で、ひったくりが起こってさ。そこに通りがかった俺が、犯人を捕まえたんだ」


「そいつは、その近隣で何件か同様の犯行を繰り返していてな。俺たちは捕獲のために張っていたんだ。そうしたら、俺たちが出る幕もなく、こいつがねじ伏せてしまった」


「ほんっと見事な手際だったなあ。オイラ達も包囲網けっこう頑張って作ってたのに、手柄も全部持ってかれちゃってね?」


 軽く皮肉の混じったアランのからかいに暁斗も苦笑する。逃げる者を追うのに、彼の能力は効果的だろうからな。


「そうして知り合って……今だから言うけど、その後は打算もあって、少しずつギルドに協力していたんだ。俺の目的のために役に立つんじゃないか、って思ってな」


「目的って?」


「そっちは後で説明するよ。で、そうこうしてるうちに、今回の騒ぎが始まってさ。そのままの流れで、半分ギルド員みたいな形で協力していたんだ」


「何しろ人手が足りなかったので、あたし達としても渡りに舟でした。ギルドと別視点から、色んな情報を仕入れてくれていたんです」


「わたしも、暁斗さんには何回もサポートしてもらいました」


 あくまで協力者として、独自に動いていたんだな。俺たちも、知らないうちに彼のサポートを受けていたのかもしれない。


「その頃だったかな。空さんに、俺の正体がバレた……いや、最初からバレてた事を言われたのは」


「ゴーグルで?」


「……お前は俺をどれだけバカだと思ってるんだよ。バレるまではゴーグルも外してたし偽名だって使ってたっての」


「へえ? 何て名前にしてたんだ?」


「う。そ、それは別に関係な」


「アークと名乗っておったな、最初は」


「ちょ、ガンツさん!?」


 思い切りばらされて、暁斗はごまかすように大きく咳払いをした。自分で考えた名前はさすがに少し恥ずかしいらしい。


「本名を出せば、観念するのは早かったな。だが、すぐには連絡をしないでくれ、心の整理をしたいんだ、と泣かれてな。協力してもらっていた手前、期限つきでそれを呑んでやったのさ」


「別に泣いてはないです! そ、それはともかく……家出した身だから、本当はまだ姿は見せないつもりだった。けど、さすがにこの国に起きたこと考えたら、そうも言ってられないし……俺としても、ちょっと()()()()()()()()ところもあるからさ。もう、隠れるのを止めることにしたんだ」


「俺たちが来てからは、意識的に避けていたのか?」


「……まあな。事件解決までには腹をくくる、そう約束して、我儘を許してもらっていたんだ。瑠奈、浩輝。あの演説、良かったぜ」


「ふぇ!?」


「あ、あはは……聞いてた、んだ」


「あの時、オウルとセインを止めてくれたのは、この子なんだよ。演説に紛れて怪しい動きをしてる奴らを見付けて、張ってたんだってさ」


 兄の事を語る瑠奈の姿を、彼もしっかりと見ていたんだな。瑠奈は恥ずかしそうにしているが、暁斗の側からすれば、あの言葉はきっと響いたことだろう。


「後は、みんなも知っている感じかな。街の見回りを終わらせた頃に、空さんから今回の作戦について聞いて、すぐに戻ってサングリーズに送ってもらったんだ」


「そうだったのか……」


「この国に来てからのことはだいたい分かった。じゃ、なんでお前、この国に来てたんだ?」


「それは……さっき言った目的とも関係しているんだけど。世界を、見てみたかったんだ」


「世界を、見る?」


 目的と言うには、具体性のあまり感じられないその発言に、俺たちは首を傾げる。


「本当は、一人で色々と巡るつもりだったんだけどな。だけど、ギルドと出会って、ふと思ったんだ。ギルドとのコンタクトが取れた方が、色々と見やすいかもしれないって」


「何か、急によく分かんなくなりやがったな。世界を見る、って何だよ?」


「ちょっと語弊があるかもな。世界を、と言うか、そこで起こっている事や、そこに生きてる人達を、みんなの暮らしを……この目で、見てみたいんだ。俺自身の立ち位置を、見極めるために」


「立ち位置って……お兄ちゃん?」


 まだ俺たちには、その意図がいまいち掴めない。暁斗はそれには構わない様子で言葉を続ける。今度は、ウェアの方を見ていた。


「こうして姿を見せたのも、その目的のためなんです。……俺を、赤牙に入れて欲しいんです」


「何だって?」


 突然の提案。今後、彼がどうするかの話はもちろんするつもりではあったが、このタイミングでそれを言ってくるとは。こちらの困惑も押しきる勢いで、暁斗は言葉を続けていく。


「空さんから俺の正体を言い当てられてから、ずっと考えていたんです。ギルドは、人々の暮らしと深い関係がある。同時に、暗い部分……犯罪者とかと関わる事も多い。俺は、そういうものに直接触れたい。そのために……ギルドに入りたいって思ったんです。赤牙なら、みんなもいますからね」


「少し待て、暁斗……」


「随分と勝手を通そうとするものだな。だが、順番が滅茶苦茶ではないか?」


 そこに来て、今までは俺たちに任せていた誠司が口を開いた。


「何故、急にそのような考えになった。そして、何故それを、慎吾たちに伝えなかった? 自分の行動がどれだけ心配をかけたか、本当に自覚しているのか? しているならば、エルリアの事を放っておいてそのような事は言えないと思うがな」


「……先生」


 様子が変わったのは、その時だった。暁斗の表情に、明らかに今までと毛色が違うものが混じったからだ。



 俺の勘違いでなければ……それは、怒りだった。


「ヴァン・アクティアス」


「――――――!!」


 誠司の、そしてウェアの顔色が変わった。……アクティアス、だと?


「それが、今の質問への答えですよ。俺がその名前を出す意味は、分かってくれると思いますけれど」


「……何故……」


「聞きたいのはこっちの方ですよ。当然、知っていたんですよね、先生?」


「…………。知って、しまったのか」


「ええ。そして、逢いました」


「何、だって?」


 誠司は、明らかに狼狽えている。暁斗の棘がある言葉にも、言われるがままだった。いったい、どうしたんだ?


「その可能性は考えていなかったわけではないが……口止めしていた、のか」


「ええ、俺が頼み込んでおきました」


 どういうことだ。その人物と暁斗に、いったい何が? ちらりと横を見ると、瑠奈は何か聞き覚えがあったらしく、記憶を辿っているようだった。


「ヴァン……って、ちょっと待ってよ、お兄ちゃん。その名前は、確か。でも、アクティアスって……」


「お前が気付いていなかったのも当然だよな。俺ですら、下の名前ぐらいしか知らなかったし」


 暁斗はそう言って溜め息をつくと、誠司に鋭い視線を向ける。


「分かってはいるんです。先生たちが、父さんが、母さんが、俺に教えてくれなかった理由は。他でもない、本人に聞きましたから。でも、納得はあまり出来ていません。いや、正直に言いましょうか。物凄く、腹が立っています」


「…………っ」


「どうして……どうして、教えてくれなかったんですか? ……俺の」


 暁斗は、そこで言葉を切った。そして、一度だけ深く呼吸すると、その言葉を口にする。


「俺の本当の父が、生きている事を」


『…………!?』


 声を荒くこそしなかったものの、そこには明らかな威圧感が込められていた。そして、その発言に、俺たちは驚愕せざるを得ない。……生きている? 暁斗の父が? それが、ヴァンという男なのか?

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