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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
2章 動き始めた歯車
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~少年達の集い・後編~

 コウの部屋を抜け出して、慧の部屋に集まった俺と暁斗。俺達が大人しく慧に従ったのは、あの状況から抜け出したかったってのもあったが、それ以上に。


「どうした、何か相談か?」


「察しが良くて助かるな……」


 こいつとの付き合いも長い。何となくだが、口実くらいは見分けがつく。それで、こいつが俺達に相談したいことって言ったら……それも、何となく分かる。


「まあ、座ってくれ。……暁斗は本当に久しぶりだな」


「おう。お互いにけっこう忙しかったからな。大会が終わったら、ちょっとぐらいは遊べるだろうけど」


「そうだな。俺も委員会は一段落つくし、今度はゆっくり集まろう。海翔も来てくれるだろう?」


「おう。ま、たまにはこっちで集まるのもいいだろ」


 と、軽く雑談を交わしながら座る。こいつらのが学年は上なんだが、今さら礼儀がどうとか言うような仲じゃねえ。


「それで……コウのことだろ?」


「……お前は本当に察しがいいな。最近、少し……あいつの調子が、悪くてな」


 慧が視線を落とした。その反応で、暁斗も察したらしい。一気に表情を険しくしているし、多分俺もそんな顔をしている。


「まさか、また『暴走』したのか?」


「いや、そこまでは行ってない、心配しないでくれ。ただ……どうもあいつ、最近はよく眠れていないみたいでさ」


 眠れていない、か。確かに最近、少し眠そうにしていることは増えてた気がする。少し夜更かししすぎてっかな、なんて本人は笑ってやがったが。


「夜中によく目を覚ましててな。本人は俺には気付かれないように気を付けてるみたいなんだけど……親父を問い詰めたら、答えてくれたよ。薬を飲むことが増えてるって」


「……そうか」


 俺も暁斗も、コウの状態はよく知っている。いつも馬鹿なことばっかりして、お気楽な振りをして。もちろん、それがあいつの性格だってのも間違いはねえ。だが、その奥に抱えちまった爆弾は、未だにあいつを縛り付けている。……それに、俺も。


「やっぱり、まだ思い詰めているのか、あいつ……」


「これでもだいぶマシにはなってんだがな。けど、根っこの部分は変わってねえ。どれだけ時間が経とうが、そう簡単に割り切れる話でもねえよ」


「……そうだな、悪い」


「いや、お前には感謝してるんだぜ、暁斗。慧にも、ルナにも、レンにも、もちろん親父達にも。お前らがいなきゃ、あいつも……俺も、今ごろ壊れてたかもしれねえ」


「……カイ……」


 これは本当に、心から感謝している。こいつらがいてくれたから、俺達は立ち直れた。もし誰もあの時にいなかったら、って思うと……その感謝を、俺は……浩輝にも、しているんだけどな。


「ま、俺のことは今はいい。で、コウが不安定になってきた理由に、心当たりがあるか話したいってとこか?」


「ああ。予想でもいいから、お前達の意見が聞きたくてさ」


「確かに、最近は落ち着いてたって聞いていたしな。何で、いきなり?」


 少し、考えてみる。あいつと俺達は、学校では大抵いつも一緒にいる。家では慧やおじさん達がいる。他の奴らと遊びに行ってることだってもちろんあるが……ま、俺らといる時間のが圧倒的に長い。だとすると、心当たりも絞られてくる。


「ひとつ確認するが、あいつの様子が特におかしくなったのは、このひと月ぐらいって考えてもいいか?」


「ああ」


「だったらほぼ確実だな。PSを頻繁に使っているせいだ」


 そう言った時の表情を見るに、どうやら慧とは同意見らしい。暁斗も、少し遅れて目を見開いた。


「俺もそう思う。あいつは元々、力を使うことを嫌がっていたから……」


「だろうな。あいつにとってあの力は、あの日の象徴だ。何でもないようなフリはしているけどな」


 だからあいつは、授業でPSを使うことは滅多になかった。意地でも使わないってほどじゃねえし、誰かが怪我した時なんかは率先的に使ってはいたけど。みんなも、単純な性格のあいつが力任せに突っ込むことに疑問は持てないだろう。


「人のことは言えねえが、あいつは負けず嫌いな野郎だ。で、明日あいつは大会に出る……練習の時にも、最近はけっこう力を使うようになってたんだ」


 コウは、強くなりてえって人一倍に思っているやつだ。だからこそ、あいつは大会に出ることを決めたんだと思う。そして、力を当たり前に使えるようになりたい、とも考えているだろう。だから、むしろ最近は積極的にPSを発動させていた。


「けどまあ、自分で思ってるほど簡単には切り替えられねえだろ。正直、無理してるはずだ。その結果がメンタルに出ちまってるってのが、妥当だな」


「じゃあ、大会に出るのを止めるべきだったんじゃないのか? また、昔みたいなことになったら……せめて、力を使うのを控えるように言うとかさ」


「そんなことしたらそっちの方が余計に悩んじまうだろ。……過保護になるわけにはいかねえ。だってよ、それをしちまったら、あいつの覚悟を踏みにじることになる」


 そうだ。あいつは自分で立ち上がることを望んでいる。俺達の支えが必要ないように。だから俺は、可能な限りは手出しをしないと、そう決めている。俺の言葉に、暁斗は小さく唸った。


「俺達が気を付けてやるしか、ないか」


「そういうこった。ま、あれであいつも成長はしてやがる。明日にでも暴走するなんて状態じゃねえだろうさ。やりすぎねえように注意しとく、程度だな」


「ああ。俺は、ずっとあいつの側にいてやることはできない。大会が終わった後も、学校にいる間とか、その時にはお前達に任せるしかないんだ」


 頼む、と頭を下げた慧に、俺と暁斗は頷いてみせた。こいつは、本当にいい兄貴だ。昔からずっと、コウのことを大切に思っている。だから、俺は。


「……海翔」


「何だ?」


「あいつ自身が乗り越えようとあがいてる以上、俺はそれを支えてやりたい。……それが俺の限界だった。あいつの傷をどうにかすることは、俺にはできない」


「………………」


「俺もさ、この何年か……できることは、やろうとした。だけど、無理だったんだ。俺は所詮、あの時は部外者だったからな」


 慧が歯噛みする。……分かっているさ。兄として何もしてやれない、こいつの悔しさは。そして、俺が……()()()()()()()()()()()()()の俺がやるべきことは。


「あいつが自分を許せるとしたら、それには、お前の力が必要だ。だけどな、海翔。お前も、無理だけはしないでくれ」


「……ああ。お前も思い詰めるんじゃねえぞ、慧。俺に、任せときな」


 慧の、暁斗の、ルナの、おじさん達の。みんなの思いを背負っている、なんて気取った言い方をするつもりはねえがな。それでも、これは俺にしかできないことだ。

 あいつがいつか全てを乗り越えるまで、あいつを見守る。それが俺の……あいつにトラウマを与えた俺の、償いだ。








「………………」


 カイ達が抜け出してから、オレ達二人の間には微妙な沈黙が続いていた。お互いに、話を切り出すタイミングが全くつかめない状態だ。

 仕方ないので、黙々とゲームで対戦してるけど……くそ、みんな遅いな。早く戻ってこいっつーの。


「……コウ」


「ん?」


「悪かったよ。変なこと聞こうとして」


 さっきの続きか、と思ってどきりとしたが、逆に謝られた事で、オレは内心で胸を撫で下ろす。


「あー、別に気にすんなよ。お前の気持ちぐらい分かってるからよ」


「分かってる、か」


 苦笑いするレン。本人としては複雑な気持ちだろう。

 そう。レンの想いについては、オレ達はとっくの昔に気付いてる……激鈍の本人を除いて。


「あの馬鹿、昔っから人の相談とかにはよく乗るくせに、肝心の自分がああだもんな。本当、見ててもどかしいったらねえぜ」


「お前達は、みんな幼なじみだったんだよな」


「ああ、うんと小さな時からのな。最初に会ったのは確か、親父が慎吾先生に会いに行く時、一緒について行ったんだったな」


「成程な。カイも似たようなものか?」


「ああ。で、子供の時ってすぐに仲良くなれるじゃんか? 一度顔を合わせてからは、家も近所だったし、お互いによく遊びに行くようになったんだ」


 あの頃から、オレ達はいつも一緒だったな。オレに、ルナに、暁兄に、カイ。


「………………」


「どうした?」


「あ……。いや、何でもねえよ」


 いけねえ、余計な事を考えちまった。最近はちょっと、あの夢を見ることが増えちまったからな。……その理由は何となく自分でも分かってる。分かってるからこそ、情けねえんだけど。


「なら良いけど……前に、ルナが言ってた事があるんだ。付き合いが一番長いのはコウだし、何だかんだで一番信頼出来るのもお前だって」


 あの馬鹿、そんな事を言ってやがったのか。いや、嬉しいんだけど、よりによってレンに言うか。鈍感すぎんだろ。


「お前はどう思ってるんだ、あいつの事?」


「オレも一緒かな。あいつは一番信用できる親友・・だ」


 親友、はちょっと強調する。オレにとってのあいつが、それ以外になることはねえだろう。


「あ、勘違いすんなよ? オレは、お前やカイも親友だと思ってる。みんな同じぐらい大事だぜ」


「分かってるさ。ただ、おれもその時から一緒にいたかったな、と思ってさ」


 ま、こいつと会ったのは、オレ達がこっちに引っ越してからだからな。付き合いの長さで言うなら、ひとりだけ短い。だからってその分大事じゃない、なんてバカなことはねえけどな。


「なあ。お前、何かアプローチかけたのか?」


 気になったので、少し聞いてみる。ちょっとストレートすぎたか? とも思ったが、言っちまったもんはしょうがねえ。


「この前……成り行きで、好きな奴がいるって言った」


「へえ? で、あいつもちょっとは気づいたか?」


「いや、全く」


「……だよなあ」


 こいつも、難儀な奴に惚れちまったな。そもそも、奥手なレンが鈍感なルナに惚れた時点で不幸の始まりってか……正直、レンはレンで問題だと思う。自覚はしてるっぽいからヤボなことは言わねえけどさ。いつも隣にいるのに全く進まねえから、こっちがもどかしくて仕方ないっつーの。

 だけど、ガルか……今はルナもそういう感じじゃねえけど、もし本当にあいつらがひっつくってなったら、どうなるんだろうな。ガルは良いやつだけど、レンの事を考えるとほんとにややこしい。ま、どうなるにせよ、本人達がちゃんと納得してくれりゃいいんだがよ。


 ……と、その時、ようやく三人が戻ってきた。


「よう、待たせたな」


「おう、遅かったな。何してたんだ?」


「いや、ちょいと積もる話ってやつだ」


 まあ、この三人が集まれたの久しぶりだし、話してえことぐらい山ほどあるよな。とりあえず、少し遅れたがこれで全員揃ったことだし……


「さ! 改めて今日は遊んじまおうぜぇ、みんな!」


「……家の中で無駄にテンション上げるなよ、浩輝」


「ま、いいじゃねえか。せっかくだし盛り上げていこうぜ」


「そうだな。それじゃ、明日に全力を尽くすためにも……」


「今日は羽目外しちまうか!」


「……ほどほどにしろよ。特にお前は家を壊しかねないからな、海翔」


「俺は破壊神か何かかよ!?」


「間違ってねえだろ」


「だな」


「……よーし、そこ動くなテメエ等ぁ!!」


「だから、家の中で暴れるなあぁ!!」


「……はあ、本当にお前らな……」





 オレ達は、明日はライバルだ。どんな形であれ、誰かが勝つし誰かが負ける。どんな勝負になるかは分からねえけど……ただ、後悔のないように、全力でやらねえとな!



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