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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
4章 暁の銃声、心の旋律
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時の残滓

 …………。


(……き。浩輝!)


 ……誰だ? 眠いんだから、もうちょっと寝かせてくれよ。頑張ったんだから、そのぐらいは……許してくれよ。


(浩輝、起きろよ。早くしないと置いてくぞ?)


 ……あれ、この声。海翔? なんで、ここに。あれ。オレは、どこにいるんだろう。と言うか、いつもねぼすけなくせに何を……いや、そう言えば昔はそうでもなかったんだっけ。どちらかと言えば生活習慣もしっかりしてて、オレの方がよく困らせてて……。


(おいおい、寝られなかったのか? しっかりしろよ。内緒でプレゼント買って、驚かせてやろうって言ったのはお前だろ?)


 何だろうこれ。さっきまでオレは――何をしてたんだっけ。そうだ。確か、母さんの誕生日にサプライズでプレゼントを買いに行く約束を海翔と一緒にして……ついでに演奏もプレゼントするんだって張り切ったせいで、寝坊して……。


(あのなあ、張り切るのはいいけど、それで調子出なかったら意味ないだろ? 暁斗たちも呼んでるし、いつもより気合い入るのは分かるけどさ)


 なんて小言を言ってくる海翔に促されて、眠たい目をこじ開けて起き上がる。そう、今年はルナも呼んでるんだったな……あいつ、色々と大変だったし、元気づけられたらって思って。


(はは、きっと母さんも、みんなも喜んでくれるよな? ほら、そのためにも頑張れよ!)


 海翔の言うとおり、母さんの喜ぶ顔を想像したら、その瞬間がほんとに楽しみで……色々考えてたらそのうち眠気に楽しさが勝って、何も考えなくなってた。この日はオレたちにとって、とても大切な一日になる、はずだった。



 ――すごく楽しかったその時間は、だけど、すごく唐突に終わってしまった。気が付くと、オレは身動きが取れなくて、横には同じように縛られた海翔がいた。


(大丈夫……大丈夫だからな、浩輝。俺が、絶対に、何とかするから)


 ものすごく怖かったけど、海翔がいてくれたから、オレは何とか我慢できた。……何だっけ。怖かったのは、分かる、けど。いったい、これは。


(……んで……ガキの……か……)


(ぼ……な。これが……った……晴れ……由……)


 そこで混じったのは、ノイズのように、はっきりとしない男たちの声。何だろう、この人たち……とにかく、その声が怖い。すごく、嫌だ。風景が、ぼんやりし始める。


(二人……無事……!)


(私……子供……くも!)


 よく聞こえないけど、この声は……お父さん、お母さん? この時()()は……何が、あって……。


「あ……」


 気付いたら、お父さん達が、少しずつ、遠くなっていく。姿が、見えなくなっていく。


「……や、だ……」


 何だか分からないけど、凄く怖くなった。このままだと、もう二度と会えなくなる気がして、手を伸ばした。だけど、二人には届かなくて、どんどん離れていって……最後には、見えなくなった。


「嫌、だよ! どうして……!」


 何で……何で? どうして二人とも、ボクを置いて……海翔を置いて……。


(ごめん……ごめん、な、浩輝……)


 海、翔……? 何で、そんな苦しそうな声を。海翔――


「…………っ!!」


(絶対、離れないって、言った、のに……大丈夫、だって、言った、のに、な……ごめん……でも、お前は、無事で……)


 赤い。地面が、赤い。どんどん広がっていく。気が付いたら、僕の手も赤い。赤、赤、赤――


(……俺は……死ぬ、の、かな……。浩、輝……うぁ……!!)


「……あ……」


 そんな状態でも強がって、ボクを気遣うような言葉を選んでた海翔。でも……赤が、広がって。海翔が、海翔が。痛みに叫んで、震えて……涙が。海翔の……。


(……やっぱり、怖い……こわい、よ。浩輝……痛、い……やだ、こわい……やだ、よ……)


「あ……ああ……」


(……おれ……ま、だ……こう、き……そば、に……)


「あああぁ……!」



 ……海翔の。海翔の、血が――











「うあああああああぁっ!!」


 やだ……やだ! 置いていかないで……ボクを、置いていかないで!


「おい、浩輝!?」


「止めて! 独りにしないで! 嫌だ、嫌だよ!!」


 どうして? ずっと、みんな一緒にいれたはずなのに! 何で、こんな事になったの?


「錯乱している……? 浩輝!」


「くっ、アトラ、押さえるのを手伝って!」


 ……何で、こうなったか。

 それは……あの時、ボクが。この、力が。


 そうだ。ボクが、全部悪いんだ。僕がいたから、あんなことに。


「あ、ああ……ボクの、ボクのせいで、みんな……みんな、いなく、なって……ボクは、ボクは!!」


「浩輝くん、落ち着いて! みんな、ここにいるよ!」


 ボクがいなければ、ボクなんかが、いなければ……ここに、いる……?


 誰かが、ボクの手を握ってる。女の子の手……ルナ……いや、違う。


「大丈夫だから……ちゃんと、握ってるから。離さないから。ね?」


「あ……うう……。……飛、鳥……?」


 自分の手を握ってくれたのが誰かに気付いて、少しずつ頭が回り始めた。……ボク……いや。オレ、は。

 ここは……さっきまで、オレ達が戦ってた場所で……ちょっと離れた場所で倒れているジョシュアは拘束されてて。確かオレは、力を使いすぎて倒れちまって、多分そのまま気を失って……。


 そうだ。ここにいるのは、『オレ』だ。昔の『ボク』じゃない。あれはもう、終わったこと。オレは、オレ達は、あの後に。


 気が付くと、腕が青白い光を帯びていた。PSが発動しているのに気付き、慌てて意識からそれを切り離す。



 ……そうか。オレは、また。


「……落ち着いた、みてえだな」


「そうだね、もう離してもよさそうだ。浩輝、横にするよ?」


 オレが正気に戻ったのが分かったのか、オレを押さえてくれていた様子の二人は、ゆっくりとオレを寝かせてくれた。


「迷惑かけちまった、みたいだな……」


「大丈夫、気にしてないよ。身体は平気かい?」


 ただそれだけ問い掛けてくるフィオに、オレは頷いた。やっと考えに整理がついてきた。目元が濡れていることにも気付いて拭う。


「オレ、どのぐらい倒れてたんだ?」


「まだ30分程度。命に別状はなさそうだったけど、少し安静にさせた方がいいと思ってそのままにしておいた」


 まだ回復しきってねえのも、大して経ってないからか。死んじまいそうな苦しさはだいぶ治まってるけど、全身が重くて上手く動かない。


「……つうっ!?」


「あ、足は動かしたら駄目だよ! けっこう、血が出てたから……」


 飛鳥に言われて、オレは始めて左足が怪我してることに気付いた。さっき回転に巻き込まれた時か……無我夢中だったから、気付けなかった。手当はしてもらってたけど、気付いちまうと痛くなってくる。


「最後はかなり無茶してたからね。その傷もそうだけど、間に合って良かったよ」


「……ごめん」


 それが怒られてるってのは分かる。最後の突貫は、完全に勢い任せだった。みんなを信じてた、なんてのは後付けでしかない。結果的に倒せたにしても、もし失敗してたら。


「お前な。演説の事で誠司に怒られたばっかだってのに、また突っ走るんじゃねえよ! 上手く行ったから良かったけどよ……自分の限界ぐらい、見極めやがれ!」


「…………」


「今回は気絶程度で済んだがな。PSの使いすぎは、場合によっちゃ命に関わるんだよ! そうなる可能性は、お前自身が一番知ってただろ! ……そこまで命削る前に、俺らにもっと頼れ! 仮にも俺らは、お前より先輩なんだ。分かったか!」


 アトラの説教に、言い返せるはずもねえ。アトラ自身がそういう能力の使い手だから、余計に重い。もしかしたら死んでたかも、と考えると、今さらだけど怖くて震えそうになった。

 無我夢中で、なんて言い訳にもならねえ。自分のやれることの限度も分からなけりゃ、いつかみんなまで危険になる。そのぐらい、分かってるはずなのに。


「アトラも突っ走る性格ではあるけど、だからこそやれることはわきまえている。その辺りの見極めは、今回の事を糧に、出来るようになっていけばいい」


「……うん。本当に、ごめん……」


「……あー、ったく。おら、そんな顔すんな。無駄にへこめって言ってるんじゃねえんだよ! お前のおかげであいつを倒せたんだぜ。へっ、よく頑張ったじゃねえか」


 オレはよほど気落ちした顔をしてたらしい。努めて声を明るくしてる様子のアトラに心の中で礼を言って、オレもその明るさに合わせることにした。


「貴重な参考人だし、生かして捕まえられたのはなかなかの成果だよな」


「けど、ほっといて大丈夫なのか? あいつなら全身動かなくてもPSで暴れかねないけど」


「心配はいらない。あれは特注品。純粋な〈ゼロニウム〉が使われているから」


 それを聞いて、納得した。ゼロニウム……精神波に干渉して、接触した相手のPSを弱体化させてしまう特殊金属。対になるグランニウムと合わせて、レアメタル中のレアメタルだ。

 オレもそういうのは調べて楽しいのである程度は知ってる。武器に使う研究なんかもされてるけど、めちゃくちゃ珍しいもんだし、下手すりゃ使用者の能力まで封じちまうから、成功例はごく少数だって聞いたことがある。

 だからもっぱら、使われるのは犯罪者の拘束とか、国際スポーツでのフェアプレー用とかだ。


「UDBは、また回収されたのか?」


「そうだね。戦いが終わるとすぐに転移していったよ。死んでいた者も含めてね」


「……。確か、ガルがエルリアの時もそうだって言ってたっけ」


 ジョシュアに巻き込まれて死んじまったUDB。あいつはいったい、この世界に生まれて、何を見ることが出来たんだろうか。そういや、あんなのを見て、フィオはどう思ったんだろう。ジョシュアに対しても――そう考えてると、何となく察したのかフィオはちょっと笑った。


「心配しなくても、私情には走らないさ。それに、彼の感覚……UDBは絶対的な敵って言うのは、そう珍しいものじゃない。むしろそっちのが一般的だからね」


「さっきあいつが言ってたの、聞こえてたのか?」


「僕の聴覚はヒトより鋭いからね。街中だと逆に困るからわざと抑えてるんだけど」


 フィオはヒトじゃなくてUDB、その事は、一緒に暮らしてると忘れそうになるぐらい、オレにとっては曖昧なものだった。でも、フィオ本人はかなり苦労もしてるし、マスター達の力が色んなとこに働いてるってのは、何となく聞いたことがある。


「怒っていないと言えば嘘になる。でも、僕だって長いこと生きてきたからね。利用できるものを利用して生き延びるって考えは、厳しい環境ならば当たり前ではあるからさ」


「……やっぱ、オレのが甘いのかな」


「そうだね。でも、それでいいんだと思うよ。ヒトの社会には甘さがあるから、平和なんじゃないかな?」


 そう言って笑うフィオに、何となく気が楽になる。ヒトじゃないからこそ、彼はすごくヒトらしい。


「少し見回りもしてみたけど、周りにUDBはもういないみたいだ。これから、ひとまずこの区画全体をチェックしてみようと思うけどね」


「なら、早く行かねえとな……っ……」


「馬鹿、無理すんな。気絶してからそんな経ってねえって言ったろ? 下手に動くとまた倒れるぜ」


 起き上がろうとすると、強烈に目眩がした。アトラに言われるまでもなく、オレはもう一度倒れてしまう。


「ザック達の部隊も、UDBが消えたからこっちに向かってるそうなんだ。合流まで休憩するとしよう」


「他の区画のみんなについては、何か連絡は?」


「それはまだ。けれど、焦っても仕方がない。援護に向かうにしても、こちらが完全に片付いてからでないと、逆に余計な手間をかける可能性もある」


「だな。飛鳥ちゃんは、そのバカ見といてやってくれ。俺らはあいつの荷物とか調べてみるからよ。もしかしたら転移装置とやらでも見付けられるかもしれねえし」


「あ、は、はい」


 そう言って、オレと飛鳥以外の3人は、ちょっと離れた位置で縛り上げているジョシュアの方へ向かった。……気を遣われてるのは何となく分かった。色んな意味で。飛鳥は、オレの横にゆっくりと座る。


「……ふう……」


「大丈夫? すごく辛そうだけど……」


「何とか、かな。横になってるぶんには、大丈夫っぽい。でも、しばらく動けそうにねえや……」


 情けないとは思うけど、身体を起こそうとするだけで目が回る。素直に休ませてもらうのが一番らしい。


「だけど……あいつを助けには、来ねえんだな」


 UDB達が回収されてんだから、戦いを視てた奴がいるはずだ。もちろん最後まで油断は出来ねえんだろうけど、このまま来ないんだとしたら……あいつは、見捨てられたってのか。オレ達に負けるような奴は必要ねえって?


「自分以外はみんな道具、だから自分の力だけで生きてやる、か」


「……わたしは、そんなことはないと思いたい。わたしだって、色んな人に助けられて生きてきたから」


「オレだって、そうだよ。でも……そんな風に考えるようになったあいつは、どういう生き方をしてきたんだろうな、ってさ」


 散々言われてるけど、エルリアは平和だ。バストールだって、このアガルトだって、街の中ならほぼ安全だって言えるぐらいの治安はある。けど、そうじゃないとこだってきっとあって、そういうところで暮らす人から見て、オレの考えは……どう映るんだろう。




 ………………。


「聞かないのか? さっきの、オレの事」


「……聞いていいか、分からなかったから。多分、みんなもそうだと思う」


「うん……そうだよな。ごめん、気を遣わせて」


 多分、知り合ってそこまで経たない飛鳥はともかく、赤牙のみんなは、オレが何かを隠してる事に、ちょっとは感付いてると思う。だけど、触れないでくれてる……アトラの時と同じで、自分でさらけ出せる、その時まで。

 まだ、全部を話す気にはなれねえ。でも、今は……ちょっとだけ、弱音を吐きたかった。


「昔の夢を、ちょっと見たんだ」


「夢?」


「ああ。うんと小さな頃の、家族のことと……オレが、PSに目覚めた日の夢をさ。と言っても、直接そのものじゃなくて、それを抽象的にしたって感じの……」


 時の歯車。時間を操る力。これが宿った時、オレの中にあったのは……()()。何もかもやり直してしまいたい、そんな願いが形になったのが、オレの力。


「初めてじゃないんだ、こういうの。もし、飛鳥が止めてくれなかったら……オレは、暴走してたかもしれねえ」


 あの日の後には、眠るたびにだった。色々と落ち着いてからも、その夢を見るたびに。オレは何度も、あの状態になっていた。

 それに多少は慣れちまったから、ここ数年はごまかせてきた。けど、ギルドに入ってから……頻繁に力を使うようになってから、軽い発作の回数は、確実に増えてもいた。オレにとって、この力とあの日は、完全に結び付いてしまっているから。


「今朝、話したよな。何でギルドに入ったかって。あの時に言った理由も嘘じゃねえけど……そんだけってのは嘘だった。オレは、こんな自分を変えたかったんだ」


「自分を……?」


「ギルドでの、エルリアにいたときとは全く違う暮らしで、強くなりたかった。でもさ、やっぱり、口で言うほど、変わるって簡単じゃねえな」


 今でも、酷い発作が起こった時には、さっきみたいに訳わかんなくなって、PSが上手く制御できなくなる。今回は止めてくれたけど、そうじゃなかったらオレは。


「オレはバカで……何でも、単純に考えちまう方だって自分でも思ってる。……これについても、もっと単純になれたら、良かったのにな」


「浩輝くん……?」


「何回も、何回も。頭の中に、あの時のことが浮かんでさ。怖くて、どうしようもなくなって、暴れて。周りにも、すごい迷惑をずっとかけてきた。今みたいにさ」


 薬に頼ったことも数え切れない。……ほんと言えば、ギルドに入ってからも。

 事情を知ってるみんなも、いつもオレを助けてくれる。親父に母さん、慧兄。ルナに暁兄、そして、カイ。……助けられなきゃ、上手くやれない。

 分かってるんだ。オレは、誰かに支えられなきゃ生きていけない、弱い奴だって。


「こんなんだから、上手くやれねえんだよな。さっきの戦いだって、みんなのフォローがなけりゃ……上手くいかなかった」


「…………!」


 ギルドに入って強くなりたいと願っても、結局はこのざまだった。オレは、何も変わってない。変われてない。


「情けないよな、ほんと。これじゃ、みんなの助けになることなんて口ばっかに……」


「……じゃ……ない」


「え?」


「――そうじゃない!!」


 突然の、飛鳥らしくないぐらいに大きな声に、オレは目を見開いて彼女の顔を見た。


「わ、わたしは浩輝くんの昔のことは知らない、けど……最後のそれは、絶対に違うよ!」


「あ、飛鳥?」


「浩輝くんが言ったんだよ? 失敗してもいい、仲間が何とかしてくれるって。助け合えるのが、友達だって。それなのに……誰かの助けを借りたら、誰の力にもなれてない、なんて事を言うの?」


「……!」


 飛鳥は、そっとオレの手を握ってきた。同い年の女の子の手は、思っていたより小さくて、だけど何だか力強かった。


「みんながいてくれたから、この国を守れた。叔父さんを守れた。わたしは、すごく感謝してるの」


「飛鳥、オレ……」


「だから、そんな事は言わないで。わたしは、君の言葉のおかげで、君の姿のおかげで、頑張れたの」


 オレの、言葉が……。


「君が友達だって言ってくれたから……わたしは、失敗を怖がらないでいられたんだよ」


「…………」


「浩輝くんは、わたしを助けてくれたんだよ。口ばっかりなんかじゃ、ないんだよ!」


 ……そうだ。この子がオレの言葉を、ちょっとでも信じてくれてるのなら。オレがそれを曲げるのは、この子を裏切る事になるんだ。それでいいのか、オレは。


「……ごめんね、大きな声出して。でも、わたしにとって、浩輝くんの言ってくれた事はほんとに大きかったの。だから、あのね。わたしにも、もっと頼ってほしいの。……友達、だから」


「……はは」


 オレは思わず笑っていた。この子が声を大きくしてまでぶつけてくれたものに、少し前までの自分が馬鹿らしくなる。


「何だか、自分の言ったこと、その日のうちにそのまま返されちまうってのも、情けないよな」


「あ……ご、ごめんね。我が物顔で言っちゃって……」


「いや、良いんだ。おかげで、ちょっと楽になった。何をナーバスになってたんだろうな、オレらしくもねえっての」


 あの時のことは、まだ割り切れねえ。けど、それに引きずられて、他までグダグダ考えてちゃいけねえ。少なくとも、自分の言ったことぐらいは責任をとらねえとな。

 そろそろ大丈夫かな、と思い、空いた方の手で支えながら身体を起こす。かなりくらっとしたけど、とりあえず座ることは出来た。


「ねえ、浩輝くん。まだ全部終わった訳じゃないけど、君には先に言っておきたいんだ。……ありがとう、一緒に戦ってくれて」


「へへ。……こちらこそ、だぜ。色々と助かった。飛鳥がいてくれて、ほんとに良かったぜ」


 戦いの事も、今の事も、オレはすごく助けられた。それだけじゃなくて、オレがこの子を助けられたってのも、忘れちゃいけねえ。それを教えられた。


「浩輝くん。さっきの話なんだけど……わたしは、昔のことは知らないし、まだ聞けるとも思ってない。だけどね、もし辛いことがあって、わたしで話を聞けるのなら……その時は、聞かせてほしいんだ」


「……ああ、分かった。ありがとな」


 飛鳥が言う通り、さすがに全部は話せない。でも、この子がオレを助けてくれようとしてるのは、すごく嬉しかった。もうすぐバストールに帰るとしても、友達として助け合える関係は続いていけば、って思う。いや、それは言っておこう。


「なあ、飛鳥。オレ達はもうすぐバストールに帰るけど……ずっと、友達でいてくれるよな?」


「あ……そうだよね、これが終わったらみんなは……。……うん。もちろんだよ」


 笑顔を浮かべて、飛鳥は頷いてくれた。途中にちょっと間があった気がするけど、名残惜しいと思ってくれてるんだと思う。……にしても、ああ、やっぱり可愛いな、この顔。ほんとはオレとしては、友達よりもっと先に――


「……仲の良いことだねえ?」


 ――割り込んできた声に、心臓が口から飛び出そうになった。


「……な、な、な」


「いやあ、まさに二人だけの世界、って感じだったね。正直、いつ入ろうかずっと待ってたんだけど」


「い、いつから! いつからだ!?」


「あー、ゴホン。『飛鳥がいてくれて、ほんとに良かったぜ』。『ずっと、友達でいてくれるよな?』」


「だああああぁ!?」


 み、みんながいること完全に忘れてた! おい馬鹿、やめろアトラ、リピートやめろ! 改めて言われると恥ずかしい! てか、そういやフィオは下手したら全部聞こえて……って、手ぇ握りっぱなしじゃねえか!?


「おーおー、ちょっと二人きりにしてみたら、随分と積極的なことで。隅に置けねえなあ?」


「い、いや、その、だな!?」


「ほらフィーネ、お前、いつも俺様に色々言ってるけど、ここにもサカった猫がいるぜ?」


「思春期真っ盛り?」


「お、お前らなあ!」


 からかい口調の3人(フィーネは素な気もするけど)に、何とか反抗したいとこだったけど、まだ上手く動けない。飛鳥は飛鳥で、みんな言ってる意味はさすがに理解してるみたいでかなり慌ててる。


「ち、違うんですよ皆さん! た、ただの話の流れで……ね、浩輝くん! そういうのじゃないよね?」


「……お、おう」


 そ、そこまではっきり否定されちゃ、さすがにへこむんだけど……いや、まだ知り合ったばかりなんだし、そりゃそうだ。友達から、友達から……。

 ……本音を言えば、ちょっと期待してた。うう、こりゃこの子、ルナと同じタイプかもしれねえな。


「おい浩輝、下心透けてんぜ?」


「はっ!? ……って、んなわけねえだろ!」


「ふふん。今の反応は、ほんとに下心あったのかな?」


「発情期?」


「何でだよ!?」


「も、もう、皆さん! 浩輝くんは、そんなの抜きで最初から優しくしてくれたんですよ!」


「……そ、そうだっつーの!」


 こ、心が痛い……でも、最初から惚れてましたなんて言えるわけがねえ。何か、ガルの気持ちが分かった気がする。うん、今度から急かすのは程々にしてやろう。

 つっても……ルナの場合は、なあ。オレが口出しするのもどうかとも思うけど、今度ちょっと話してみるかな。


 こそっと、アトラがオレに耳打ちする。


「焦らずじっくり行けよ。それなりに脈はありそうじゃねえか!」


「あ、あうぅ……」


 オレはとりあえず、恥ずかしさに項垂れてごまかすしか出来なかった。




 ……うん、そうだよな。何だって、焦ってもしょうがねえんだ。

 地道にやっていこう。時の歯車……いつかお前を使いこなしてみせるから。もう少し、頼りないオレに力を貸してくれよな。



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