大渦を潜り抜けて
「はは、どうした!? 避けているだけでは相手は倒れんぞ!」
ジョシュアの作り出す力の渦に、オレ達は防戦一方になりつつあった。かなりの広範囲をまとめて巻き込むその力に、なかなか突破口が見出だせない。
「ちっ、好き勝手やってくれやがる……!」
「まともに近寄れない。とは言え、消費はそこまで激しくないと推測。消耗を待つのは現実的ではない」
「ふん。策を練るよりは、早めの降服を勧めるがな?」
「それは……断ると言ったはずです!」
UDBからの攻撃も合わせて、じわじわと消耗してきた。だけど、ジョシュアはともかくUDB達にはダメージも蓄積してるはずだ。数さえ減らせりゃ、攻めに出る隙も見えてくるだろう。
「なに、そう頑なに突っぱねる事もあるまい。今回の依頼主は、貴様たちを高く評価しているそうだ。この国での作戦は終わったが、歯向かうならばいずれ……今度は本気で潰されてもおかしくはないのだ。ならば、早めに服従すれば被害も減らせるのではないか?」
「服従するとはどういう事か、分かった上で言っているんですか!」
「そう悪い話ではないと思うぞ? 少なくとも、奴らはこの国を支配しようとしている。滅ぼそうとしている訳でもない、従うものは受け入れられるだろう。支配の中、多少の不便はあるかもしれんが、命に代えられるものはあるまい」
「多少の不便とか、簡単に言いやがって! それは全部、そっちの都合から見た話だろうが!」
「ふん、俺としてはどちらでも構わんのだがな。依頼主の支配とやらに興味があるわけでもない。あくまで、建設的に考えているだけだぞ?」
人の心やらは二の次、利益とか結果とか、そういうのだけ計算する。傭兵って職業を考えりゃ、そのぐらいのドライさは不思議じゃねえが、オレはそれに頷けねえ。支配の中での平和なんて、絶対に何かが違うんだ。
「第一、いきなり国中でパニックを起こさせた奴らの言うことかよ!」
「こちらの絶対的優位を知らしめておけば、交渉にも優位に働くのだ。まさか、仲良くテーブルにつくことを交渉だと考えているのか? 盤外戦術は基本の基本だ」
「てめえ……!」
「ふん。どうでもいいが、余計なことを気にする余裕があるのか?」
はっと気が付くと、視界の端からウロコが迫ってきていた。慌てて銃剣を盾にしてそれを防ぎ、二発目は能力で止める。
「ちっ、面倒な力だ」
「くそ、いい加減しつこいんだっての、デカトカゲが!」
そのまま飛びかかってきたトカゲに向かい、トリガーを引く。一発が上手く脇腹を貫通し、そいつが小さく呻いた。
「危ない!」
だけど、銃口をトカゲに向けたって事は、ジョシュアから注意を外しちまったって意味にもなる。飛鳥の声に、とにかくPSを全方位に展開すると、ギリギリでジョシュアの放った銃弾が止まる。
何とか防げた――そう息つく間もなく、立て続けに起こったのは赤いスパーク。このタイミングは、やべえ……!
「ぐうっ!」
何とか離れようとはしたものの、完全にはかわしきれなかった。強烈な遠心力に巻き込まれ、オレは大きく吹っ飛ばされる。上手く受け身が取れず、かなりの距離を転がってしまう。
「浩輝くん!」
「うぐ……だ、大丈夫、だっての!」
追撃が来る前に、急いで起き上がる。もちろん痛えけど、いま着てるのはランドさんのとこで買った防護服。何とか普通に動けそうだ。
でも、軽く巻き込まれただけでこれなら、まともに吹っ飛ばされちまったらやっぱり危ないだろう。
どうする、どう攻める。鍔迫り合いにでもなりゃ、さっきのアトラの二の舞だ。けど、銃も下手に撃てねえ。あいつの意識の隙を狙わなきゃいけねえんだ。
オレらの中だと、飛鳥の力はかなり重要だ。彼女の攻撃を最低でも防がせることが出来りゃ、確実にダメージを与えられる。
ジョシュアだって、こっち全員の動きを全部見るまではできてねえだろう。少しでも、隙を作るしか……。
『ガッ、ハァ……!!』
そこで、流れの変化があった。アトラが、鉄獅子の一体を仕留めたんだ。激しく叩き付けられたUDBに、起き上がる気配はない。
「よっしゃあ、次来やがれ!」
「ちぃ、役に立たんやつめ」
舌打ちするジョシュアの言い方は、敵ながら倒された鉄獅子に同情したくなるぐらいだ。けど、これは確実にチャンスだ。
どうする。このままUDBを片付けて、ジョシュアに集中攻撃するか。だけど、倒しきるまで、こちらがあいつの攻撃に耐えるのも難しそうだ。だったら。
「飛鳥。オレが切り込むから、合わせてくれ!」
「! ……うん、分かった!」
強行突破、それがオレの結論だった。どっちにしろリスクがあるなら、一気に終わらせちまった方が良い。
オレを止めようとするトカゲに向かって弾をばら蒔き牽制しつつ、一気にジョシュアに突撃していく。いくつも赤い渦が生み出されるが、こっちだって回避には慣れてきていし、向こうの銃も渦に阻まれるからある意味安心できる。
「おぉりゃああぁっ!!」
「浩輝! おい、あまり焦んな!」
アトラの声は聞こえたけど、ここまで来たら止まれねえ。やると決めて勢いに乗っちまえば、意外と懐にまでは楽に入れた。問題は、こっからだ。
「学習しないガキだ。真っ向からでは勝てないと悟らなかったか?」
「生憎バカでな。結果が出るまで諦められねえタチなんだよ!」
飛鳥から注意は外してねえだろうし、アトラ達は少し離れすぎてる。何とか自力でやってやらあ。オレが崩せば、飛鳥の一撃が通る。
「行っくぜえぇ!!」
ステップを踏みながら、トリガーを引く。さすがにこの近距離で外しはしねえが、向こうも銃の相手は慣れてるのか、籠手と能力が的確にそれを弾いてく。
手元に作った小さな渦でオレの弾を防ぐと、お返しとばかりに仕込み銃を向けてきた。それに対して、オレも時の歯車を使う。使うのは時間停止……じゃなくて、時間加速。銃弾の動きが相対的にスローになり、十分に避けられるようになる。そして、その勢いのままさらに踏み込み、亀人との距離を詰めた。
一瞬の加速から、振り抜いた銃剣が胴の辺りを捉えた。手応えは――ない。
「うっ!」
浅い。軸をずらされた。その判断とほぼ同時に視界が回ったかと思うと、背中の辺りに強い衝撃が来た。アトラと同じく、投げられたってのか。
「ガキの安い考えの代金は、高くつきそうだな?」
この余裕……どうやら、突撃してきたオレを誘い込むために、わざと隙を作ってたみてえだ。
向こうも防刃機能がかなり高い服らしくて、当たりの浅いオレの一撃は、まともに傷をつけることも出来なかった。ジョシュアの見下すような笑みが見える。
……ガキの安い考え、か。こいつはとことん、こっちを甘く見てるらしい。だけどな……。
いくらオレがバカったって、自分や仲間の命がかかった戦いで、勢い任せになんてやらねえ。勝算がなきゃ、強行突破なんてしねえんだよ!
「……わりいけど。計算のうち、だぜ!」
――そのタイミングで、オレは能力を解除した。その結果、さっきの突撃の時、トカゲに撃ってるうちに仕込んでおいた銃弾が、ジョシュアの背後から飛んできた。
「なに!?」
計算通りを装ってはみたけど、半分ぐらい賭けだった。結局、どの弾も狙いはかなり外しちまってる。元から射撃が苦手なオレに、ここで当てるほど細かい芸当はできねえ。
だけど、予想外の銃撃に、あいつは体勢を崩した。オレ一人なら、それを突くのは難しいぐらいの、小さな隙。だけど。
「やああぁっ!」
飛鳥は、それを見逃さずにいてくれた。ジョシュアは飛鳥の薙刀を避けられず、咄嗟に籠手で受け止めた。その結果、薙刀を伝って、ジョシュアの身体に雷光が一気に流れ込んだ。
「うおああぁッ!? うぐぅ、くっ……!!」
電流はさすがに防ぎようもない。今までにない苦悶の声が、亀人の口から漏れる。
それでも、力強く足元を踏みしめると、力業で飛鳥を押し返した。体格差が体格差だ、少女の身体はあっけなく飛ばされてしまう。だけど、無理なその動きにジョシュアは大きくバランスを崩し……そして、オレが起き上がって構え直すのには、十分すぎる時間があった。
飛鳥はオレに応えてくれた。なら、次はオレの番だっての!
「オレらの覚悟、舐めんじゃねええぇっ!!」
飛鳥と入れ違うように突進して、全力で振りかぶった銃剣で斬りつけ……るんじゃなくて、側面を思いっきり叩き付けた。
「――――!!」
咄嗟に腕を防御に回してはきたものの、確かな手応えに、亀人の身体が吹っ飛んだ。こいつも言ってみりゃ、でかい金属の塊だ。斬らなくたって、その重さをまともに叩きつけりゃ、十分な破壊力になる。
何かが折れるような感覚が、オレの手にも伝わってきた。あまり気持ちいいもんじゃないけど、戦ってる間にんなもん気にしてられねえ。
「見たかよ、このクソ亀……っ!?」
だけど、そのまま無力化してしまおうとしたところで、オレは背筋が凍るのを感じる。直感が働いてから、判断が終わるのには時間がかかった――赤い光が弾けてる!
「やべっ……!?」
「きゃ!?」
反射的にPSを発動させる。飛鳥を抱き抱え、オレは全力で飛び退いた。間一髪、オレ達が離脱した直後に、ジョシュアの周りで力の渦が高く登る。
飛鳥を支えつつ、半ば倒れこむようにそれから逃れたオレは、加速を使ったせいで乱れた息を整えながら、何とか起き上がる。
「あ、ありがとう、浩輝くん!」
「はあ、はあ……危ねえ。まだ、あんな余力が……」
余力があったのかよ、そう言おうとした。だけど、渦が止んだ後、ジョシュアの姿を見ると、それは消しとんでしまった。
違う。余力、じゃない。これは。
「あ、あの人……」
……電撃のダメージは大きいだろう。飛鳥が死なないように弱めたとしても、少なくとも無事では済まないはずだ。
右腕は、おかしな方向に曲がってもいた。間違いなく折れてるし、動かすこともできねえだろうし激痛もある、その筈なんだ。
だけど。
「くくく……ははははははっ!!」
それでも、あいつは――声を上げて、笑っていた。