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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
4章 暁の銃声、心の旋律
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重撃乱舞

 銃撃を防ぐのはオレの得意分野、時の歯車でそれを阻むと、オレ達は陣形を組み直した。オレと飛鳥、アトラとフィーネ、ペアをできるだけ保ちつつ、ジョシュアを取り囲む形だ。

 一方でフィオは、軽く飛び上がって空から奇襲をかけ、UDB達の陣形を乱す。誘い出すための大雑把な一撃なので、巻き込まれた奴はいないみたいだ。


「1、2、7、8号は俺の援護に入れ! 残りは、あの化け物の足留めをしろ!」


『了解シタ!』


 ジョシュアの指揮に、向こうも陣形を組み直す。トカゲとライオンも、2体ずつがジョシュアの近くに残り、他はちょっと距離を放したフィオを追う形だ。素早く指示を出すために番号分けしてたみてえだ。

 指示を受けたライオンのうち1体が、オレに飛びかかってくる。さすがに速い! 銃弾をばら蒔きつつ、何とかそいつをいなす。敵もオレにだけは執着せず、そのままの勢いで駆け抜け、今度はアトラに飛びかかった。銃弾は外皮に防がれて大して効いてねえか。


『撹乱シロ、的ヲ絞ラセルナヨ!』


 UDBたちは、獣の素早さを活かして、とにかく色んな方向から攻撃して、オレ達のペースを乱すつもりらしい。

 ライオン程じゃないにしても、トカゲもかなりの身軽さを持ってる。4体の獣からの攻撃を受けながらの戦闘なんて、やりづらいったらありゃしねえ。

 1体ずつ仕留めてえとこだが、向こうもそれは分かってて深追いはしてこねえ。持久戦になりゃこっちが不利だ。……それなら。


「こういう時は、頭を討つ!」


 無茶をしてでも、あのジョシュアって奴を倒して、短期決戦に持ち込むべきだって判断だ。一瞬だけ加速を使い、一気に距離を詰めると、アイゼンレクイエムを叩き付ける。

 けど、叩き付けた一撃は、亀人のガントレットががっちりと受け止める。相手は、体勢すら全然崩れちゃいねえ。


「いい思い切りだ、小僧。だが、実力差を教えてやろう!」


 受け止めたオレの剣をそのまま押し返すと、今度は銃撃じゃなくて、その超重量のガントレットをオレに向かって振りかぶった。オレはかろうじて銃剣を盾にした、けど、想像を遥かに上回るほどの衝撃が襲い掛かってくる。


「うぁ!?」


 何とか受けきったけど、思わず武器を落としそうになる。やべ、痺れた……ってか、受け方をちょっと間違ったら腕が折れちまいそうだ。

 あんだけの重量、まともに受けたらと思うと毛が逆立つ。それを振り回すあいつの腕力もとんでもねえ。


 ジョシュアはオレへの追撃をしようとするが、すぐに後ろから迫る飛鳥に気付き、ステップでその一撃をいなす。飛鳥はすぐにもう片手の銃に電流を乗せて放つが、向こうも彼女の力は把握してるみてえだ。全て軽やかな足取りで回避してみせた。オレもその間に何とか体勢を立て直し、再び突撃態勢をとる。


「実力差があるのなら、力を合わせてそれを埋めてみせます……!」


「はっ、その程度で埋まる差だと思っているならば……文字通り、粉微塵に潰してやろう!」


 今度は飛鳥を背にしつつ、踏み込む――直前で、オレは足を止める。目の前に、赤い光が瞬いたのが見えたんだ。

 反射的にバックステップしてから、少しだけ間を置いて――それを中心とした円の中に、赤い電流のようなエネルギーが渦巻き始めた。


「っと!」


 オレ達は何とか光から逃れると、追撃に放たれた銃弾を止める。最初から銃が使われると分かってりゃ、止める事はそう苦にはならねえ。

 お返しに、ライフルの引き金を引いて弾をばら蒔く。後ろからは、飛鳥も援護射撃をしてくれたが……今度はジョシュアの周囲に巻き起こった赤い衝撃が、それを防ぎ――いや、巻き込んだ。


「あ、あれは……きゃ!?」


「ちっ!」


 高速でジョシュアの周囲を回転した弾丸が、ワンテンポ置いて弾け飛ぶ。かろうじてオレ達の方に向かってきたのは防いだし、アトラ達にも当たらなかったけど……危ねえ、さすがにちょっと反応が遅れそうだった。


「飛鳥、平気かよ!?」


「う、うん……!」


 時の歯車の有効範囲にも限界がある。カウンターが、オレから離れた仲間に向かっちまうのは避けねえと、って考えると、これじゃ迂闊に撃てねえな……。



 シューラから、こいつのPSについても最低限の情報は得られていた。

 スキルネーム〈螺旋回帰(メビウススパイラル)〉。指定した場所を軸として、強力な回転エネルギーを発生させる能力、だそうだ。

 最初に発生する赤い光が軸になり、その後に弾ける光に触れたら、回転に巻き込まれるって話だ。吹っ飛ばされて壁や地面に叩き付けられりゃ、ただでは済まねえだろう。

 範囲とか距離によって発動にはチャージが必要らしいのが救いだ。逆に言えば、近距離で小規模だといつ使われるか分かったもんじゃねえが。


「浩輝たち、一度下がるべき」


 フィーネが飛ばした白炎の刃が、回転に阻まれ逸らされる。相当な勢いがあるようで、巻き込まれれば吹っ飛ばされるのは間違いねえだろう。

 そして、ジョシュアだけに意識を割くわけにもいかなかった。後ろでは飛鳥がライオンを薙刀で迎撃してる。援護に向かおうとするが、オレにはオレでトカゲが突進してきた。


「亀だけあって、守りは磐石ってか?」


「ふん、口の減らん男だ。ならば、攻めについても味わわせてやるとしよう!」


 言いつつ、アトラに向かい突撃してくるジョシュア。あの籠手で殴りかかるつもりらしい。飛び掛かってきた獅子を吹っ飛ばしてから、アトラもトンファーを構える。

 亀人のガントレットと、アトラのトンファーが衝突する。――かと思うと、次の瞬間にはまるで背負い投げされたかのように、アトラの身体が宙を舞い、そのまま地面に叩き付けられる。


「ぐっ!?」


 あれは……接点を中心にして回しやがったのか。まずい!

 追撃を構えたジョシュアに向かい、フィーネが剣を飛ばす。それは回転でいなされたが、その僅かな間に何とかオレの突撃が間に合った。勢いを乗せた突きに、ジョシュアは舌打ちしつつ飛び退いた。


「わり、助かった……!」


「迂闊に触れられない。だけど、飛び道具も上手くやらないと防がれる。とても厄介」


 何とか窮地は抜けたが、ペースは向こうのもんだ。回転の展開にも限界はあるはずだ。タイミングを見て、隙をつかねえと。


「……うぉ!」


「浩輝くん!」


 蜥蜴のウロコが飛んできたのを、PSを使って何とか防いだ。ちくしょう、あいつの動きをよく見るにも、周りがいちゃ集中できねえ。

 ウロコ発射の隙をついて、飛鳥が雷の弾丸を浴びせ、そいつにダメージを負わせる。けど、仕留めるには至ってない。蜥蜴とライオンもやっぱ外のより強え。数を何とか減らさねえとジリ貧になっちまいそうだ。


 フィオが相当な数を引き付けてくれてるけど……あっちも、かなりの激戦みてえだ。オレ達はオレ達で何とかノルマを達成しねえとな……!

















 僕は、計8体のUDBを相手に立ち回っている。本当は全部引き受けたかったとこだけど、そこは指揮官の判断が早かった。あの数が残ると、さすがにみんなもやりづらいだろう。

 僕はまだ成体じゃない。とは言え、今でも並のUDBとは比較にならない。本来なら、低ランクのUDBは本能で僕には近寄ろうともしない筈だけど、彼らにはそれは当てはまらない。


『取リ囲メ、波状攻撃ヲ仕掛ケロ!』


「決して焦るなよ! 何が何でも、足は止めねばならんのだ!」


 連携が取れている。知恵を持っているぶん、獣としての特徴は薄れて、どこか人に近い動きだ。どちらが優れているとは一概には言えないけど、いずれにせよ厄介なのは確かだ。

 僕の身体を覆う毛皮と鱗は、高い防御性能を持っている。と言っても、さすがにまともに喰らうと無傷とはいかない。直撃は逸らしているけれど、細かい傷は少しずつ増えていく。

 向こうは向こうで、一撃喰らえば致命的なのは分かっているためか、動きはかなり慎重だ。言葉通り、じわじわと弱らせていくつもりなんだろう。

 急いで蹴散らしてみんなの援護をしたいけど、こうも張り付かれるとさすがにやりにくい。


「……ところでさ。君たちは、改造された存在だと聞いたよ」


『ソレガドウシタ?』


「自分たちがこうやって、戦いに駆り出され……それだけの為に生きていること。君たちは、どう思っているんだ?」


 攻撃をいなしながら、問いかける。ノックスとは何回か話をしたけど、ここにいる彼らにも……恐らくはノックスより思考も()()されている様子の彼らにも、聞いてみたかった。


「知れたこと。我らは主の実験作だ。そして、駒であることが求められているのだ。ならば、その役目を全うすることこそが我らの使命であり、それに殉じる事ができるのならば、ここで果てたとしても悔いはない!」


 その淀みない口調。心から覚悟している様子の――歪に感じてたまらない返答。


「君たちは、本当にそれでいいのか。主の命令、それがそんなにも大事なのか。自分の命を失ってでも?」


「愚問を! 我らにとっては、それこそが存在理由。それが、我らが生まれた意味なのだ! そして、我らが死んだとしても、主はそれを糧として新たな同朋を生み出すだろう。その礎になれるならば、満足だ!」


「そう刷り込まれている事を、疑問に思わないのか。道具として使われているんだぞ……君たちは」


『フン。道具ダカラドウシタ! ソウアルコトヲ我ラガ望ンデイルノダカラ、トヤカク言ワレル筋合イハナイ!』


 …………。


「悔いはない、と言ったね。それは、君たちが世界を知らないからだ。どこで生み出され、普段はどこにいるか知らないけど……歪な世界で、主への忠誠だけを与えられているから、それ以上を知れないんだよ」


「分かったような口を……俺たちにとっては、主こそが全てで、それ以上など必要ない!」


 これもまた、植え付けられているのかな。だとすれば……彼らの主は、マリクという男は。


「知識を追う事を目的としながら……彼らに知識を与える事は、妨げると言うのか」


『何ダト?』


「悪いね。やっぱり僕は、君たちの主を許せそうにない。造り出されたなんて関係ない、君達は生きている。それを歪にねじ曲げている、そんな奴を、許せるはずがないよ」


 感情が沸騰しすぎて、かえって冷静だ。彼らに色んなものを見せたいと考えるのが、それはそれで傲慢なのも分かってはいるけど……自分の求めるもののために、他者の権利を奪うなどと、それが許されていいのか。


「貴様が何を主張しようと、問答は無駄だぞ。我らは敵だ。相容れぬなら、屈服させてみるがいい!」


「……分かったよ。だったら、かかってくると良いさ」


 確かに、僕がここで何を言っても無駄なのだろう。ノックスのように、人の世界を見せる事ができれば、あるいは変わっていくかもしれないけれど。

 例え植え付けられたものでも、彼らがそれを本気で信念だと思っているのならば、それそのものを否定できない。それを植え付けた存在への怒りは変わらないけど……今は、主のために尽くすその姿に、敬意を払う事にする。


「だけどね。君たちは、随分と大きな勘違いをしているよ」


「……何だと?」


 ヒトは、UDBに対抗するためにPSを手に入れた、という説を見たことがある。それは、案外正しいんじゃないかと僕は思っている。ヒトはその知恵で武器を取り、その意思でPSを振るう。それは時に、遥かに格上であるはずの生物すら討ち取るほどの力となる。


 だけど、僕たちにはそのような力はない。だから、種としての純粋な力の差が生まれる。そして、本能でそれを感じ取り、格上に逆らう事例は極めて稀だ。そして、その稀なケースでの結果がイレギュラーとなることも、また。


「君たちは多分、僕を倒すつもりでいるのだろう。上手く翻弄すれば、疲弊させれば、ってところかな」


 彼らの思考は、かなりヒトに近い。それでも、彼らはヒトじゃない。ヒトのような力は持ち得ない……僕もまた、同じだけど。獣としての土台に乗っている以上――僕たちの()()は、変わらない。変えられない。


「君たちが歯向かった相手が何であるのか。成体でないなら踏みいる隙がある、そう本気で考えているのならば」


 何という事はない、ただの矜持だ。今の彼らに対して、見せるべきは()ではない。可能なのは、彼らが言うように、力により屈服させること。ならばこそ。


「――その身をもって味わうが良い。Sランク、我ら白皇獣がそう呼ばれる由縁をな!!」


 見せてやろう。人として生きてきた少年の振る舞いではなく――UDBとして生きてきた本性。獣としての年季の違いと言うものをな!





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