表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
2章 動き始めた歯車
16/430

前日2 ~少年達の集い・前編~

 朝の道場で、武器と武器がぶつかり合っていた。おれと相手の槍が重なるたびに、鋭い音が道場に響く。

 互いの動きはほぼ同じ。二人とも同じ型を繰り返しているから当然なんだけど。

 だけど、延々と続く打ち合いの中、少しずつおれの動きが鈍り始める。まずいと思っても、焦りは余計に状況を悪くしていった。


 そして、一際高い音が響いた。


「っ……!」


 おれの槍が宙を舞い、遥か後ろに落ちる。その一瞬で、相手の槍が、おれの喉元に突きつけられていた。


「決まりだな?」


 にやりと笑って言い放つ相手に、言い訳も出てこない。おれはだいぶ息が荒くなっているけど、相手はまだまだ余裕がありそうだ。


「……ふう。やっぱ兄貴には勝てないか。完敗だよ」


「そうでもねえさ。腕上げたな、蓮」


 笑いながら槍を下ろすのは、おれの兄貴、時村(ときむら) (しゅう)。ちなみにおれとは4歳差、大学生だ。色合いも同じだから見た目は似ているって言われるけど、性格は真逆ってのも同じくらい言われる、そんな兄貴だ。


「これなら明日の大会もバッチリだろ。瑠奈ちゃんに、いい所しっかり見せてこいよ」


「あ、兄貴!? べ、別におれはそんな……」


「考えてなかったのか?」


「……ぐう」


 兄弟だからか、おれの考えは兄貴には筒抜けだ。……いや、別にそれだけで大会を志願したわけじゃなくて、それもちょっとは考えたってだけだ。


「第一、ルナとは戦うかもしれないんだ。そんなこと考えてて負けたら、かっこつかないだろ?」


「バーカ。そこで勝って、告白するんだよ。完璧だろ?」


「そう簡単に勝てる相手じゃないからな、あいつは……」


 そもそも、その単純恋愛方程式に対する自信が、彼女いない歴イコール年齢の兄貴のどこから出てくるかが疑問だ。


「ま、いいや。戻ろうぜ? 朝飯も出来てんだろ」


「そうだな。付き合ってくれてありがとう、兄貴」


「別にいいって。お前は瑠奈ちゃんと付き合う方法でも考えてな」


「……兄貴も彼女を見つけないとな」


 ささやかな復讐は、頭を小突かれて終わった。








 飯を食べ終わってから、おれは自室で本を読んで過ごしていた。と言うのも、当日に疲れを残してしまえば本末転倒だと、親父に朝以外の道場使用を止められたからだけど。

 確かに、言われてなかったらおれはそうしてた気がする。だけど、気持ちは何となく落ち着かないし、いっそ外にでも行こうかな。


 そんな時、おれの携帯が鳴り始めた。

 余談として、道場があるだけで堅苦しいイメージがあるらしいけど、うちは至って普通の家庭だと思う。おれだって漫画も読むしゲームもする、アニメも見る。けど、「そういうイメージが全く無かった」っていつも言われてしまうのは不本意だったりする。

 初めてみんなが家に来た時、親父が俺と一緒にゲームをしていたのを見た奴らが、オーバーに驚いたのをよく覚えている。


 それはともかく、電話の相手はカイだった。


『よっ、レン。今は大丈夫だったか?』


「ああ。どうした?」


『いや、今日コウの家に行くことになったんだけどさ、お前も来ねえかって思ってさ』


「お、そうか? ちょうど暇だったんだ」


 予定がないおれにとって、すごくタイミングの良い誘いだ。もちろん、断る理由もないのですぐにオーケーする。


「時間は? 今からでいいのか?」


『おう。あ、ゲームとか、適当に持ってきてくれってさ』


「分かった。じゃあ、また後でな」


 電話を切ると、おれはすぐに支度を済ませて家を出た。何だかんだで、あいつらといるのが一番楽しいんだよな、おれにとって。












「ふあ~あ……」


 俺は部屋で寝転がって大あくびをしていた。明日が大会、と言うことで、先生が今日は部活を休みにしてくれたんだ。


 ……が。


「いざ時間があると、やる事も特にねーなあ……」


 いつもは時間が欲しい、とかぼやいているが、実際は時間があってもただボーっとするぐらいしかない。まあ、それはそれで幸せなんだろうけど。

 父さん達はいないし、瑠奈とガルも出かけている。そのため、ぶっちゃけて言えば、すごく暇だった。


「新しい本も最近買ってねえし、ゲームも全部クリアしてっからな……」


 人は暇になると独り言が増えるって話を聞いたけど、どうやらそれは正しいみたいだ。別に俺だって、本も好きだしロープレとかもやるし、ひとりで過ごせる趣味がないわけじゃない……んだけど、大会が近付いてからはその辺しばらくご無沙汰だった。終わってからまとめて買おうかな、なんて思ってたし。


「んー、出かけるにしても金もねえしな。みんなは部活らしいし」


 明日のために体力温存、と言っても、このままじゃ暇すぎて死にそうだ。と言っても身体を動かしてたら意味ないしな……と、思っていた時。適当に眺めていた携帯に着信が入った。

 液晶に表示された名前は、海翔のものだった。向こうもヒマしてるのかな、などと考えながら電話を受ける。


「もしもーし。どーした?」


『よう、暁斗。……ヒマでヒマで死にそうって感じだな』


「あー。まあな」


『そんだけヒマなら、今から遊ばねえか?』


「……お?」


 それは俺からすれば、まさに天の助けだった。


『いや、慧の野郎が会いたがっててよ。お前も今日は部活休みって聞いて、ついでに誘ってくれって頼まれたんだよ』


「慧か……確かにしばらく会ってねえな」


 慧は浩輝の兄貴で、俺と同い年だ。高校が違うのと、お互いに部活だ委員会だで、しばらく会ってないけど良い友達だ。


「そういうことなら、もちろん喜んで行くぜ。あいつの家でいいんだよな?」


『おう。そんじゃ……何だよ親父! 人が話してる時に割り込んでくんな……年上への言葉使いとかあんたにだけは言われたくねえ!』


 ……電話の向こうでは愉快なことになっているようだ。相変わらず仲良いな、この親子も。当人たちは断固否定するんだろうけど。


『ったく。あ、時間はいつでもいいってよ』


「んじゃ、今から行くわ。何か持っていくもんはあるか?」


『適当でいいぜ。レンにも頼んでっからな』


「分かった。じゃあな!」


 電話の間、俺の尻尾が揺れていたのは内緒だ。部活は楽しいけど、こうやって遊びに誘われる機会もだいぶ減ったからな。たまには俺も、思いっきりあいつらと騒ぐとするか!












「~~♪」


 みんなを待っている間、オレは菓子やら何やらを準備していた。ルナが来れないってのは残念だけど、たまには男だけってのもいいよな。


「親父~、ジュースか何かねえか?」


 親父も今日は珍しく休みだ。最近は人手が多く、少しのんびり出来るらしい。


「んん? 冷蔵庫の下のほうに入れてなかったか?」


「あ……悪い、コウ。俺が友達と全部飲んだんだ……」


「ええ? 何やってんだよ、兄貴」


 申し訳なさそうに頭をかいているのはオレの兄貴、(たちばな) (けい)。毛の色は母さんの遺伝らしくて、オーソドックスな虎の色。髪は俺と同じで茶色だ。


「みんなが来る前に買ってこねえとな。慧兄?」


「分かってるよ、俺が行ってくる」


 しぶしぶ、といった感じで金を取りに部屋に戻る慧兄。悪いな兄貴、使えるもんは兄貴でもパシれってルナが言ってたんだ。


「今日は誰が来るんだ?」


「カイとレンと、それから暁兄だな」


「暁斗君が来るのは久しぶりだな。瑠奈さんは?」


「ガルと出かける予定だとよ。最近仲良いんだよな、あの二人」


「ほう? デートってことだな。残念だ、俺としては、瑠奈さんには将来はお前とくっついてもらいたかったんだが」


「……さらりととんでもねえ事言うんじゃねえっつーの」


「はは、冗談だ。お前をもらってくれるのは瑠奈さんぐらいしかいない、と思っているのは本当だがな」


「大きなお世話だっての!?」


 ルナはオレの親友だ。お互いのことは、誰よりも知ってる自信がある。けど、今んとこお互いにそういう感情には発展していないし、する気配もない。それはカイも同じらしくて、どっちかと言うと妹って感じだ。本人に言ったらオレが弟にされるだろうけど。

 ま、仮にオレが惚れたとしても、向こうは気づかないんだろう。……レンを見てるとよく分かる。


「それにしても、お前の話だと、ガルもうまくやってるみたいだな」


「だな。意外とまともに先生なんだよ、人気もあるしな」


 教え方も上手いし、ルックスもあれだ。男のオレから見てもほれぼれするほどの美形だからな。変な意味じゃねえぞ、断じて。


「それは何よりだ。慎吾の見込みが正しかったって事だな」


「見込んだっていっても楽しそうって意味じゃ……あー、そうか、親父は最初からああするって知ってたんだよな」


「はは、まあな。そして、俺もちゃんと納得してああさせた。なに、あいつもそこまでトチ狂っちゃいないさ。あれでもあいつなりにしっかりと考えて出した結論だ……多分」


「自信無えんじゃねえか!」


 この人は昔から、白衣を脱ぐと性格がテキトーになる、てかこっちが素だ。仕事と普段で自分を使い分ける、ってのは当たり前なんだろうけど……仕事中が生真面目だけに、オレでも未だに調子が狂うっての。


 と、そんなアホらしいやりとりをしていると、呼び鈴が鳴った。


「ん、来たかな?」


 オレは早足に玄関へと向かった。ドアの向こうからは騒がしいほどの声が聞こえる。みんなの声だ。


「入っていいぜ~」


 オレがそう言うと、ドアが開き、みんながまとめて入ってくる。


「おう! 邪魔すんぜ」


「久しぶりだな、ここに来んのも」


「お邪魔します」


「へへ、いらっしゃいってな。みんな一緒だったんだな」


 カイにレンに暁兄。三人ともセットで入ってきた。


「上から見たら二人がいたんでな」


 カイは眼鏡をかけ直している。飛ぶ時は固定するようになってるらしいけど、それでも多少はズレるそうだ。

 ちなみに、カイは別に視力がそこまで悪いわけじゃない。あくまでもあれは、空を飛ぶ時の補強用らしい。


「じゃ、上がれよ。オレは菓子持ってくるから、部屋で待っててくれ」


 みんなが二階に上がるのを見届けて、オレはリビングの菓子を取りにいった。さあて、今日はしっかりガス抜きさせてもらおうかな。









「よっしゃ!」


「うわ……お前強すぎだろ」


 まずはレンが持ってきた格闘ゲームをやることにした。オレはアクション系は大得意なので、只今3連勝中。


「うーん、俺はやっぱりこう言うの苦手なんだよな。いや、面白いんだけど、よくそんな上手くガードとかできるよな」


「コツを掴めば簡単だぜ、暁兄」


「てか、お前ならPSを使えば全部見えるんじゃねえか?」


「見えるけど、それで勝っても虚しいだけだろ……」


 苦笑いする暁兄は、勝負は正々堂々やってこそ楽しいって持論の持ち主だ。


「そういや、ガルはゲームとかしねえの?」


「するように見えるか、あいつが? 勧めてもねえよ」


「いやでも、やらせてみたら意外に上手そうな気も……」


「いーや、俺はコントローラー粉砕事件を予言しとくぜ!」


 動体視力とか反射神経もやばいし、こういうの得意そうだなって思ったけど、暁兄の言い分も何となく分かっちまう。あいつ、どっか世捨て人っぽい印象があるってか、何となく機械とかに弱く見えるんだよな。


 まあ、そんなこんなで盛り上がり始めた頃、思い出したようにレンが言う。


「そう言えば、ルナは誘ってないのか?」


「いや? あいつとルッカも誘ったぜ」


 あ、レンには教えてねえんだっけ。ルナが来てない理由……。


「ルッカの野郎は大事な客が来るとか言ってた。あいつ、一人暮らしなんだろ? すげえよな」


「ああ。あいつはそういう部分は昔からしっかりしてるからな。近所ではあるけど、親父も一人暮らしに反対しなかったよ」


「ふーん。で、ルナは出かけたらしいぜ」


「一人で、か?」


 カイはさらっと流そうとしたようだが、見事に失敗した。仕方なく素直に答えるカイ。


「いや、ガルと一緒だ」


「ガルと……」


 本人が気付いてるかは分からないけど、レンの眉が若干つり上がる……ああ、やっぱり気にするか。だからこいつには言わなかったのに。

 オレ達としてはこの話は避けたかったんだけど、レンは何をトチ狂ったか、自分から地雷に突っ込んできた。


「最近……仲良いよな、あの二人」


「ん。まあ、そうだよな」


 暁兄はレンに気を使っているためか、たどたどしく答える。てか、止めとけよレン、それ以上は……なんていうオレの心は通じず、獅子の自爆は止まらない。


「お前らは、どう思う?」


「どう、って?」


「あの二人の関係って……」


「…………!」


 ストップ! 頼むレン、その先は言うな! いや、オレには答えらんねえからな! よし、任せたぜカイ……おい、目を逸らすんじゃねえ!



 ――と、オレ達が逃げ出したい気分になってきた時、部屋のドアが開いた。


「悪い、遅くなった。ほら、買ってきたぞ」


 入ってきたのは、ジュースのペットボトルを抱えた虎人。慧兄、ナイスタイミング!


「へへっ、サンキュ! いろんな意味で!」


「よっ、慧。お前ってやっぱり良い奴だよな!」


「久しぶりだな、会いたかったぜ。お前、本当に最高!」


「ん? 何でこんなに歓迎されてんだ。ま、良いか。暁斗もちゃんと来てるな」


 そういや、暁兄を誘ってくれって言ったの、慧兄だったな。


「それじゃ、浩輝。ちょっと暁斗と海翔を借りるぞ」


「おう……へ?」


「いや、二人に見せたいものがあんだよ。蓮と待っててくれ」


 ……ちょい待て。あの会話の途中でレンと二人!?


「二人はいいよな?」


『もちろん!!』


 ……こんの薄情者共がああああぁ!!


「じゃあ、すぐに戻ってくるからな!」


「ま、待っ……! おおぉい!!」


 こうしてオレは、エスケープ不可能な空間に取り残された。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ