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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
4章 暁の銃声、心の旋律
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動き出す狩人

「……上手くいったな」


「はい。あの、ありがとうございます。あたしに合わせてくれて」


「ふ。仲間に合わせるのは当然だ」


 そう言って、優しげに微笑むガルフレアさん。……綺麗な顔だとは他種族ながらに思っていたけど、笑うと本当に映える。それに、どことなく()にも似ているかも。

 などという少し場違いな思考をとりあえず追いやって、ネロさん達の方を伺う。あちらを攻めていたUDBも、かなり数を減らしている。心配の必要はなさそうだ。


「向こうも間もなく終わりのようだな」


「そうですね。では、仕上げの手伝いに向かうとしましょうか」


 手を出さなくても大丈夫だとは思うけど、ここで棒立ちで見ているだけはさすがに薄情だと思う。あたし達は、援護に向かうべく一斉に走り出した。



 ――その直後だった。

 ガルフレアさんが急に足を止めたかと思うと、後ろに飛び退いたのは。

 そして、何事かと考えるよりも先に……彼が走っていた少し先の地面に、裂け目が走った。


「……!?」


 突然の事態に、あたし達全員の足が止まる。ガルフレアさんは、その裂け目を見て顔をしかめている。


「何これ、地割れ……じゃないよね?」

 

「違う。これは、斬撃の跡だ!」


 瑠奈ちゃんの言葉に、ガルフレアさんはそう断言した。確かにそれは、地面を斬り付けた痕のように見えた。


「遠距離攻撃……!? いったい、どこから……」


「恐らくは、上だ。だとすれば……」


「残念ながら、考察をしている時間もなさそうですがね」


 ジンさんが言った意味は、あたしにもすぐに分かった。あたし達が倒した獅子が歪んで消えていくのとほぼ同時に、新たな歪みが生まれている。

 またあの獅子が出てくるとして、それと戦うだけなら何とかなると思う。でも、この得体の知れない攻撃が、戦っているあたし達にいつ降り注ぐか分からないのはまずい。それに、どちらにしろこのままだと消耗していくだけだ。


「ど、どうするの、ガル、ジンさん!?」


「……攻撃を止めねば危険だ。俺たちは、内部に突入しよう!」


「ええ。ネロさん、聞こえますか? 敵の遠距離攻撃が始まったようです。私たちはそれを阻止してきます」


「承知致しました。この場は我々が引き受けましょう」


 ジンさんが呼び掛けると、ネロさんは即座に状況を把握したようだった。戦いながらも変わらぬ冷静な口調でそう返してきて、それと同時に獅子の一体を蹴り飛ばしていた。

 そうしているうちに、新たな歪みからもうUDBが現れ始めていた。だけど、相手にしている暇はない。


「強行突破だ、遅れるな!」


「了解!」


 ガルフレアさんとジンさんを戦闘に、あたし達は今度は塔に向かって走り出す。現れた獅子たちはこっちに向かって突撃してきたけど、あたしがそれを銃撃とPSで食い止めていく。

 すると、ネロさん含む数名が、素早い動きでそのUDBの背後を強襲する。彼らが引き受けてくれた事を確認してから、あたしは今度こそ走るのに専念した。


 塔の内部構造は調査済みだ。数フロアおきに大部屋があり、その他の階には詰所や兵糧置場などがあるらしい。大部屋の階は外を一望できて、そこから矢などを降らせる事も出来るようになっている。

 敵は多分、どこかの大部屋にいる。……もしもそれが、あたし達の思う敵の指揮官の一人だとすれば、最上階にいると考えてよさそうだ。


「どう思いますか、ガルフレア?」


「……先の攻撃、仮に俺が気付いていなくとも、当たっていなかっただろうな。ギリギリで外れていたはずだ」


「遠距離だから外したんでしょうか……」


「いや。俺には、敢えて外したように感じる。だとすれば、挑発、あるいは罠だな」


 ガルフレアさんは、険しい表情でそう言った。


「でも、不意討ちで仕留められる可能性を捨ててまで、罠を張るんでしょうか? あたしは、まずは一人を倒してから、残りを罠に嵌めた方が良いと思いますけど」


「確実な勝利を求めるならばな。だが、今回の敵は、一概にそうとは言えないんだ。奴らは今までも、自分の実験、多くの戦闘データの収集を優先してきた」


「……そう言えばそうだったね」


「そんな、わざわざ危険を犯してまで?」


「それだけの実力と余裕が奴らにはあるのだろう、忌々しいがな。とにかく、奴らがそう狙っている以上、それなりの相手が待ち構えていると考えるべきだろう。それに……だからと言って無償で登らせてくれる訳でもなさそうだしな」


 最初の大部屋に差し掛かる直前、また耳鳴りが起こる。あたし達は、階段を登ったところで足を止めた。歪みの配置を見る限り、倒さず登りきるのは難しそうだ。


「この程度も突破できないのならば期待外れ、戦う意味もないという事でしょうね。全く、人を馬鹿にしてくれる方々だ」


「ならば、その報いを受けさせてやればいいさ。マリクにも、この上にいる者にもな」


「この上……先ほどの力は、やはり彼なんでしょうか?」


「十中八九そうだろう。シューラから聞いていた話と一致する」


 塔の上、遥か上空から届いた斬撃。それが可能と考えられる人物の情報を、あたし達は持っていた。


「……クリード・リスティヒ。想像以上に、困難な戦いになりそうだな」













(まさか、この距離からの一撃を悟られるとはねえ。あの兄ちゃん、かなりの腕前みてえだな)


 塔の内部へと突入を開始したガルフレア達を見下ろしながら、クリードは気怠げに溜め息をついた。


(ま、いい。相手がこっちの企みに気付いてようがなかろうが、乗ってくれたのは確かだからな。どうせ、シューラの旦那が俺のPSの情報は与えてるだろうしよ)


 だとすれば、彼にとって手の内を明かす事は大した痛手ではなかった。むしろ、自分だと明かす事でより効果的に呼び寄せられるだろう、と考えた結果だ。


(ヤバそうなのはあの狼の兄ちゃんと、人間の優男だな。弓の嬢ちゃんは、荒も目立つが筋はいい。機関銃の姉ちゃんは、それなりに場数を踏んでやがる感じだな。ったく、こいつは骨が折れそうだぜ)


 先の戦闘から得られた敵の実力に舌打ちしつつ、クリードは、マリクより渡されたテレポーターを見る。掌に収まる程度のサイズのこの機械が、常識を超えた技術の塊である。事前にテストをして、本物のオーバーテクノロジーである事を目の当たりにした後でも、信じがたいものだ。


(転移完了までにはラグがあるのも分かった。座標設定は終わってるから起動するだけだが、戦闘中に取り出してボタン押すこと考えりゃ、余裕あるうちに逃げねえとな)


 与えられた仕事はこなすつもりではあったが、大事なのは我が身だ。捕らえられたり命を落としたりといった事態に陥るまで戦う気は、クリードにはさらさらなかった。



 そこで、彼は背後に妙な気配を感じ、振り返った。


「即座に気付くか。流石と言っておこう、クリード・リスティヒ」


「何だ、アインの兄ちゃんか。脅かすなよ」


「悪いな。相手の力量を測る上で、これは中々に有効な手段なのだ。挨拶代わりだと考えてもらえればいい」


「……とんだ挨拶があったもんだぜ、ったく」


 その相手が契約相手の一員である事を確認すると、クリードは構えを解除した。いついかなる時も瞬時に構えを取れる注意深さが、彼の能力の高さを表してもいた。


「どうした、何か連絡事項か? それとも、共闘でもしてくれるかよ?」


「そういう訳ではない。この身の役割は、実験体の戦闘データ回収だからな。戦いは貴様に任せる」


「へいへい、期待はしてなかったがな。旦那が全力じゃないってのは俺だって分かってるしよ。で、あのUDB……鉄獅子だっけか? その成果はどんな様子だ、お前さんからして」


「上々だな。奴らのプロトタイプは、戦闘力はともかく遊び心を持たせすぎた。元々は柔軟な判断を行わせる為の思考傾向だったのだが、それが仇となり慢心から敗北した。今回の調整で、十分な改良がなされたと言えるだろう」


「性格と言うか、頭の中身まで作ってるもんなのか?」


「知能を持たせるにあたって、傾向を植え付けることは可能だ。個体による性格差はある程度出てくるがな」


 へえ、と生返事を返すクリード。さすがの彼も、未知の技術を理解する事は早々に諦めた様子である。要するに可能だ、と分かれば十分だった。


「いずれにせよ、貴様にも二種類の素体を何体か回してあるのだ。この身が手伝う必要は特に無いであろう」


「あー、了解了解っと。大丈夫だと信頼されてるってことにしとくぜ」


「信頼ならしている。貴様に関しては、不安要素は無い。戦闘力もこの身と同等ではあるだろうが、それ以上にその嗅覚は、 我が主すら一目置いている。貴様ならば引き際を誤ることもないだろう」


「俺に関しては、ねえ。そう思うなら、ジョシュアの奴を監視しとけよ」


「この身は別に御守りが役割ではないのでな。奴が判断を誤ったのならば、それは奴の責任だ」


 主人とは違い、取り繕う事もせずはっきりと言い切るアインに、ハイエナは苦笑する。自分たちの都合で無茶な戦いをさせておいてこの言い種なのだから、本人が聞けばまた烈火の如く怒りそうである。


「だが……それ以上に、ある意味で不安があるのは、クライヴ・アルガードだな」


「旦那が? 乗り気じゃねえからって事か?」


「そうではない。……少々、ややこしい要素があると発覚してな。本人には伝えていないが、隠し通せる物でもない」


 回りくどい言い方に、恐らく聞いても答えが返ってこない事を察し、クリードはそれ以上を尋ねなかった。


「もっとも、その分向こうには有能な増援が向かっているがな」


「増援? ハヴェストの事じゃねえよな……なら、あの二人のどっちかか?」


「そうだ。そして、貴様の側に片割れが向かうと言っていた」


「へえ? そいつは有り難いが、何でこっちに? さっきの口振りなら、残りはジョシュアに回すべきだろ」


「奴らは対等な同盟、こちらの指揮下にあるわけではないからな。我々はジョシュア・ゴランドの元に向かう事を提案したが、拒否された」


「そいつは何でまた……ジョシュアが嫌われてるわけでも、俺が信頼されてねえわけでもねえよな?」


 そう問い掛けてみると、アインは僅かに間を置いた。表情が全く動かないために、クリードに彼が何を考えているか推し量る事はできなかったが。


「この区画を攻めてきた者の中に、奴らにとって因縁の存在がいる……とだけ言っておこう」







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