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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
4章 暁の銃声、心の旋律
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時の策略

「とりあえず、僕が2体引き受ける。みんなは1体ずつ、何とか相手して!」


「了解……!」


「皆さん、気を付けて!」


 キツい相手みてえだけど、泣き言は言ってられない。オレはそのまま、受け止めた相手と対峙する。

 各個撃破つっても、連携はいつでも出来るように、みんなの位置を確認する。一番近くで戦っているのは、飛鳥だ。薙刀を振り回し、果敢にも近接戦闘に持ち込んでいる。共闘は初めてだけど、いざという時はしっかり合わせねえとな。


「フィーネ、訓練の成果を見せてやろうぜ!」


「了解。後方支援に回る」


 他のみんなも、それぞれの相手を見極めたみてえだ。アトラはフィーネを庇うように2体を引き付け、フィーネがPSで援護している。

 フィーネのPS〈原罪〉は、本人が言うには、彼女が敵とみなした相手のみを焼く白い炎……普通の炎とは全然違うらしいけど……を操る力、らしい。

 いつも鎖に変えてるように、炎は彼女の意思で特定の形を取って、好きに操れるって言ってた。……説明受けても原理はよく分からなかったけどな。変形にはちょっと時間がかかるらしくて、本人が得意なのは遠距離からの支援だ。

 近距離はとっさの護身用にスタンロッドを持つようになったけど、やっぱり苦手らしい。けど、それを補うようなアトラとのコンビネーションは相性抜群で、二人の猛攻を耐えられるやつはそういないだろう。


 フィオは言葉通りに2体を相手に立ち回っている。片方はリーダー格らしい、周りより一回り大きい個体だ。

 この姿の時のフィオの得物は、本人の身長ほどもあるんじゃないかってサイズの巨大なハンマー、〈流星(りゅうせい)〉。重量級のそれを軽々と振り回してるのを見ると、こいつが人よりずっと強い力を持ってるってよく分かる。


 みんなの心配、なんて余計なお世話だろう。全員、オレよりよっぽど経験豊富なんだ。オレは、自分のノルマを達成しねえとな……!


「おらぁッ!」


 まずは小手調べとばかりに、素早く斬りつける。それは正確に当たりはしたけど、刃は頑丈な鱗に阻まれてしまった。予想はしてたけど、やっぱり堅えか……!

 だったら、と次は銃剣を思い切り振り回す。けど、トカゲは意外なフットワークの軽さでステップを踏み、それを避けてしまった。

 面食らいながらも、勢いに任せてさらに攻める。だけど、力を込めた大振りな攻撃は、ものの見事に全部受け流されちまった。


「ちっ、マジかよ!」


 堅いのは予想通りでも、それに加えて速いとなったら辛い。けど、文句を言ってもどうしようもねえ。めげずに、緩急をつけて攻撃を繰り返す。何発かは掠めたけど、やっぱり装甲に防がれて、大したダメージにはならない。

 舌打ちしつつ、フェイントを交えて思い切り踏み込み、突きを繰り出してみたが、相手はそれを両腕のヒレで受け流してしまった。なるほど、アレは盾みたいなもんか。見たところかなり鋭いから、武器にされてもヤバそうだ。


「単調だな。当てられなければ、どのような業物でも意味が無いぞ?」


「……言ってくれるじゃねえか、トカゲ野郎が。大人しく干物にでもなってろ!」


「干物か、面白い。ならば俺は、貴様を捌いて剥製にでもしてやるとしよう!」


 挑発に挑発を返してみても、効果は見えない。ノックス達は直情的で挑発が効果的だったらしいけど、このトカゲ達はどう見ても冷静沈着って感じだ。とにかく、何とか隙を作らねえと……。


「なら……こいつはどうだ!?」


 一気に突っ込んで、銃剣を降り下ろす――と見せ掛け、ブレーキをかけて後ろに下がりながら、顔面に弾を浴びせる。さすがに近距離なので外しはしなかったが、相手の鱗は見事なまでにオレの銃撃を弾いてしまった。痛みはあったのか僅かに顔をしかめてはいるけど、これじゃちょっとした牽制が限界か……!

 それにしても、何て堅さだよ。銃は決定打に出来そうにねえ。どこか柔らかい部分を狙えればいいけど、射撃で急所をピンポイントで狙うのはちょっと自信がねえ。

 全力の斬撃なら、多分話は違う。だけど、すばしっこいトカゲに直撃させるのは、かなり骨が折れそうだ。


「やられるばかりでは癪だ。こちらも行かせてもらうぞ!」


 宣言と共に、すげえ瞬発力でトカゲがジャンプして、そのまま飛びかかってくる。首を狙って降り下ろされたヒレを、何とかブレードで受け流す。衝撃に腕が痺れちまった。

 何度も戦闘を繰り返して多少は慣れたけど、一歩間違えりゃ死ぬって現実には、戦闘中に度々ぞくっとする。ゲームみたいに体力が設定されてて、その間は何発か喰らっていい……なんて都合の良い事は無い。急所にでももらえば、それでお陀仏だ……冗談じゃねえ!

 さらに立て続けに襲い来る噛み付きを何とかかわす。一息つく暇もなく、相手は地面を踏みしめてコマのように回転した。尻尾を使った薙ぎ払い……ギリギリで反応して流せたけど、当たれば骨の数本は軽く持っていかれちまいそうだ。


「浩輝君、大丈夫……!?」


「何とかな……!」


 飛鳥のほうも、互角の戦いみたいだった。

 彼女の薙刀は、1.3メートル程度と短めで、片手でも扱える程度に軽量化されているそうだ。その動きは大したもので、軽い動きでベストなリーチを保ちつつ、薙刀を何回かヒットさせている。と言っても、相手にダメージは通ってない様子だ。

 出来れば1体を仕留めて2対1に持ち込みてえとこだけど、片方を放置するわけにもいかねえ。心配……だけど、オレにだって余裕はねえ。彼女を信じて、自分の敵をどうにかしねえとな……!


「女の子に心配かけるようじゃ、男が廃るってもんだぜ……!」


「軽口を叩く余裕が、どこまで保つか見せてもらおうか!」


 ……余裕なんて、最初からねえっつーの。こう振る舞わねえと、呑まれちまいそうになるから、それだけだ。


 まず、ダメージを与えられそうな部位を考えてみる。眼……は、戦ってる最中に武器で狙えるもんじゃねえ。口の中……相手がまた噛み付きでも狙ってくれりゃチャンスはあるか。関節……ここなら装甲も薄そうだけど、低い姿勢の四足歩行だからやっぱ狙いづらい。

 一番範囲が広くて柔らかそうなのは、やっぱり腹だ。普段は狙いづらいけど、さっきの飛び掛かりに上手く攻撃を合わせられりゃ……つっても、相手だって分かってるだろうし、そう軽々と狙わせてくれそうにはない。


 いずれにせよ、素で狙うのはちょっと辛そうだ。となりゃ、どのタイミングで時の歯車を使うか……。

 時間加速さえすりゃ、狙いづらい部位でも当てられる確率が見えてくる。だけど、あれの消耗を考えりゃ、ホイホイと多用出来るもんでもねえ。しっかり見極めねえと。


「おら……よっ!」


 思い切り踏み込んで、アイゼン・レクイエムを振り回す。さすがにまともに受けるのはマズいって思ったのか、相手は素早く後ろに跳ぶ。

 少し距離が開いたとこで、オレはトリガーを引き絞った。大量の銃弾がばら蒔かれて、何発かヒットしていく。けど、こっちは危険が薄いと判断したらしく、回避は最低限しかしてこない。

 この戦いの中で、どんどんオレの動きに合わせてきてやがるな……相手としちゃ、かなり厄介だ。


 だけど、オレはまだ、自分のPSを見せていない。不意を突くとしたら、そこだ。逆に言えば、一度見せちまった動きは対応されちまう。


 良いぜ。だったら、見せてやろうじゃねえか。オレの力の、応用編ってやつをな!


「おらおらおらぁっ!」


 銃弾を大したことないと判断したなら、奴は多分、弾丸の中でも気にせず突撃してくるはずだ。だったら、オレはひたすら、弾を撒き散らす。いかにも考え無しって感じを見せ付けながら。

 思った通り、奴は突進の構えを取った。オレは内心で舌を出しつつ、トカゲに向けて弾をばら撒く。だけど、()()()銃弾は通じない。そのまま、相手は銃弾を跳ねのけながら、思い切り突っ込んできた。



 ――わりぃな。狙い通り、だぜ!



「ぬ……ぐ!?」


 初めて通ったまともなダメージ、その痛みに相手が呻き、慌ててブレーキをかける。その肩口に突き刺さっていたのは、オレの放った銃弾。……ちゃんと言えば、ばら蒔いてる中に紛れさせた、()()()()()()()()だ。


 時間を止めた物体は、オレがPSを解除するまで、どんだけ力を加えてもその場から動かない。PSが切れた時に初めて、止まってる間に加えられた力の合計が影響するって感じだ。

 だけど、それは確かにそこに存在するから、止まってる間にも外部への干渉は行う……説明のむずい、ややこしい状況だけどな。とにかく、オレが停止させたものは、そこに固定された頑丈な物と同じようなもんだ。

 しっかりと固定された堅いものに、勢いよく突っ込めばどうなるか。それが銃弾のように小さなものなら、全ての威力がその点に集中する。……結果は、あいつが身をもって証明ってやつだな。


「どうした、針でも刺さったかよ?」


「貴様、何を……!」


 何が起こったのかは分かってねえみたいだ。弾丸が肩を貫いた事だけは分かったらしくて、また射撃すると、今度はしっかり回避してきた。

 これで、相手は迂闊に地面を突進で進めなくなっただろう。銃弾も警戒しなきゃいけなくなった。……こっからだ。次は、思い切り焦らす!

 接近戦は避けて、距離を保ちながら、とにかく弾丸をばら蒔いていく。そうすりゃ、奴はどんどん動きづらくなるだろう。



 だけど、ここで相手は予想外の動きをしてきた。

 いきなり後ろ足だけで立ち上がったかと思うと、前足を前に突き出した体勢で、ぴたりとその場で動きを止めたんだ。

 いったい何をするつもりだ、と思ったその時――トカゲの全身から、刃のような鱗が何枚も、オレに向かって放たれた。


「うお!?」


 予想外の攻撃に、反応が少し遅れちまう。急いで時の歯車を発動させたけど、最初の数発が間に合わなかった。一枚が左腕を掠めてしまう。


「いっ……てぇ!」


 銃弾みたいな勢いで飛んできた刃物だ。ちょっと掠めただけでも、肉はかなり深々と抉れてしまった。焼けつくように痛え。もし直撃してたらと考えると、こんな時ばかりは、この力に少し感謝したくなる。カイとかジンさんじゃねえし……やっぱ、自分の考え通りには行かねえか。

 幸いって言うか、動かせない程の傷じゃなかった。だったら、治療は後回しだ。できるだけ、相手には手の内を見せねえように。


「ちっ……面倒な力を!」


 隠し玉がそこまでの効果を得られなかった事に、相手は舌打ちする。けど、これでオレがやってた攻撃の種もバレちまっただろう。

 ……だけど、さすがに時間操作ってことにまで気付いたとは思わない。物体を停止させられる、ってのがバレただけだ。


 どっちにしろ、相手は飛び道具を使えない。そして、ネタが割れたところで、地面を迂闊に走れないのは変わらない。そうやって、相手の取れる行動を制限していく。

 オレはさっきから、ある一定の高さ以上には銃弾を撒いていない。相手に、上からなら攻められると考えさせるために。そんな考えを巡らせてるように見えないよう、バカみたいに声を出しながら、さらに銃弾を撒いていく。


 いくら誘い込んだって、弱点を晒す攻撃をそう簡単に出してくれるはずがねえ。こっちが焦ったら負けだ……相手を焦らして、苛立たせて、ただ、その瞬間だけを待つ。


「この、小賢しい!」


「へっ、逃げてばかりか? 捌いて剥製にするんじゃなかったのかよ!」


「安い挑発を……良いだろう!」


 そして訪れた、待ち望んでた瞬間。相手がしびれを切らして跳ぶ瞬間。

 相手は、こっちの見せた手に的確な対応をしてる。仮にオレがここで上に弾をばら蒔き、それに停止を絡めたとして、その場合の計算は立ててると思う。


 ……けど、その計算には、足りねえものがあるんだぜ!



 敵が跳ねたのを確認してから、オレは異能を発動させた。自分の時間を加速……途端に、スローになる辺りの風景。


「――――!?」


 駆け出したオレの姿は、相手からすればあり得ない高速に映ったのだろう。その表情がゆっくりと驚愕に染まっていくのも、オレにははっきりと見えた。

 だけど、もう手遅れだ。オレの目の前には、がら空きの腹部。そこに向かって、一切の容赦なく――オレは、銃剣を突き立てた。


 ずぶり、と、呆気ないほど簡単に、刃が相手の体内に埋まっていった。


「……か……あっ……!」


 腹に深々と突き刺さる刃。肉を断ち斬る生々しい感覚が、オレの腕にも伝わってくる。

 傷口から溢れる血すらもスローモーションで、切り裂いたそのままの勢いで離脱したオレは、返り血も浴びていない。

 走り抜けたところで、PSを解除する。どさり、と言う重い音と共に、トカゲは受け身も取れずに地面に叩き付けられた。

 その一連の流れは、オレの体感でも10秒に満たないもんだった。実際は、その半分よりも少し短い程度だろう。


「……ふう……」


 ……この短時間、時間を2、3倍にするだけでも、反動でめちゃくちゃ疲れた。仕留めるたびに使うわけにはいかねえな……。

 でも、その分効果は抜群だ。倒れたUDBは、完全に戦闘不能になっているようだった。起き上がろうともがいてはいるが、力が入らねえのか、前肢は力無く地面を掻くだけだ。


「あぐ……ごほっ……」


 声にならない苦鳴を漏らし、トカゲは血を吐いた。……貫いたのは、ちょうど胃の辺りだ。即死じゃなくても、早めに治療しなきゃ十分な致命傷になる。地面に、大量の血が流れていく。


「……わりいな。出来れば、全部片付けるまで死ぬんじゃねえぞ」


 ちゃんと聞こえているかは定かじゃないが、痛みに悶える相手にそう投げ掛けてから、オレは次にやるべき事のために、銃剣のリロードをしてから駆け出した。






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