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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
4章 暁の銃声、心の旋律
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皆の覚悟

「デカい相手を想定はしていたけど……丸ごと国一つ、とはね」


「わたし達の国が、あんな大きな国に狙われていた……?」


「……あたしだって、今回の騒動の目的を考えれば、全く予想していなかった訳じゃないけど……」


 事情を知っていたと思われる年長者たちを除き、隠しきれない動揺が広がる。

 俺は、ウェアがこの情報を隠していたもう一つの理由を察した。一つの国を相手取る、などと言われれば、一同の士気が下がってしまう事を危惧していたのだろう。

 だが、ここまで来ればもはや隠せない、ということか。


 俺は、ある程度の覚悟はしていた。動揺していないと言えば嘘になるが、相手の規模を考えればむしろその方が納得できる。

 しかし……ここから先は、みんなが関わるべきではないのかもしれない。さすがに、本物の軍と衝突する覚悟を押し付けるのは……。


「……だけど、今はそれを考えている場合じゃないよ」


 そんな思考を断ち切ったのは、瑠奈の声だった。


「相手が誰であったとしても、私たちが止めないと、この国はもっと荒らされるかもしれない。私たちが今考えなきゃいけないのは、相手が誰かじゃなくて、どうやって相手を止めるか、でしょ?」


「ルナ、だけど……これは、おれ達の手に負えない話になってきたかもしれないぞ」


「そんなに簡単な話じゃないのは分かってる。でも、あの人達がどれだけ大きな相手でも……私たちはギルドだもん。人を操って何かするなんて、絶対に止めたい」


「それはみんな一緒だけどよ、瑠奈ちゃん……」


「私も、瑠奈に賛成する」


 いつも通りに黙していたフィーネも、口を開く。


「国そのものと衝突するわけではない。今回はあくまで、一つの部隊を止めるだけ。私たちに出来ないことではない」


「つっても……今回はそれでよくても、目をつけられちまう可能性だってあるんだぜ?」


「それこそ今さらだと指摘する。目ならもう、つけられている」


「……あ」


「例えばアトラは、敵の幹部と思われる相手と戦ってまでいる。瑠奈たちも聞く限り因縁がある。今回退いたところで、少し注目度が変わる程度でしかない」


 淡々と、そのように述べていくフィーネ。そうだ。俺たちはすでに、奴らと関係を持ってしまっている。ここで日和見したところで、奴らはいつか必ず俺たちの前に現れる。


「ま、本当に今さらだよな。危険な相手だってのは最初から知ってて、俺たちはガルに付いてきたんだ。今になって逃げるのも馬鹿みてえな話だぜ」


「海翔……」


「自分のせいだ、なんて考えんなよ? 大会の襲撃は、お前がいなくたって起こってたんだ。むしろお前がいなきゃ死んでたし。どっちにしろ、俺たちだって目はつけられてるだろうよ。何たって俺達は、英雄の子供なんだからな」


 釘を刺すようにそう言われ、俺は口をつぐんだ。……彼らとの付き合いも長くなってきたからな。俺の考え方も分かっている、か。


「少なくとも、俺はこのまま奴らと関わってやるよ。エルリアに帰ったって、いつかまた襲って来るってんなら、こっちから叩きのめしてやるぜ」


「……へっ。自分だけかっこつけんなっつーの、このバカトカゲが」


「敵が強いから関わるのを止める……考えてみれば、情けない理屈だよな。おれ達が力を合わせれば、怖いものなんてない。だよな、コウ?」


 瑠奈に続いて、少年たちも次々と表情を切り替えていく。敵の正体を知る前と同じ、やる気に満ちた顔に。

 少しだけ会話に間が空いたが、堪えきれなくなったように、フィオが小さく笑った。


「格好良いところは、瑠奈たちが持っていっちゃった感じかな?」


「……だな、ったく。あーあ、俺様とした事が、ダサい役に回っちまったぜ」


「それは違う。アトラはいつもダサい」


「うぉい!?」


「ふふ……でも、おかげで考えも纏まったんじゃないですか、アトラさん?」


「あたしも、何を迷っていたんだろうね……この国を荒らした人を放置なんかできない。相手が誰でも、それは変わらない!」


 流れが、完全に変わった。みんなの表情が、徐々に決意に満ちていく。余計な制止の言葉を口にできなくなる程に。

 年長者たちは、その様子を黙って見守っていた。ややあって、誠司が全員に投げ掛ける。


「念のために言っておこう。ウェアとも話し合ったが、ここから先に関わるかどうかは、各自で選べる。止めておきたいと言う者を責める奴だっていないだろう?」


「ん、それは心配いらないでしょ」


「ならば、もう一度よく考えろ。周りに流されずにな。……今回の敵は、今までになく大きい。それを踏まえた上で、降りたい者はいるか?」


 誠司はそう問いかけ、少しだけ待つ。一人ひとりの意思を確かめるように、ウェアと誠司は全員に視線を巡らせていく。そして――誰もが彼らから目を逸らさなかった。

 さらに少しだけ時間を置いてみて、それでも誰一人「降りる」と言い出さない。待っても変わらないと理解したウェアが、さらに問いかけてくる。


「本当に、それでいいんだな? ここで戦いを選ぶ意味は、理解しているんだな? 今ならまだ、引き返せるぞ」


「海翔が言ったとおり、今さらだよ、マスター。それに僕たちは、形は違えどマスターに救われたメンバーだ。その恩を忘れてマスターだけを戦わせるなんて、考えられない。僕たちがやらなくても、マスターはやるんでしょ?」


「俺様だってそうだ。マスターがいなきゃ、クソみてえな人生だったのは間違いねえからな。それに、兄貴を追うなら、奴らからは逃げられねえんだろ? なら、ビビってる場合じゃねえよ」


「私は先に告げた通り。特に退く理由もなければ、後は解決に全てを尽くすだけ」


「あたしは、どちらにしてもこの国への恩があります。いえ……それ以前に、第三者のせいでこれ以上の争い、なんて許せないですから。相手が誰であろうと、退く気はありません!」


「私だって、こんな事態を黙って見過ごせません。少しでも傷付く人を減らすために、私はギルドに入ったんですから」


「わたしも……この国を守りたいです。少しでも、出来ることはあるはずですから……!」


「……私は、言う必要無いわよね、マスター?」


 次々と告げられるのは、覚悟の言葉。もう、誰の目にも迷いは無かった。ウェアは目を閉じ、小さく息を吐き出す。


「……分かってはいた。ここまで来て関わらせたくないなどと言うのも、虫のいい話なのだとな」


「そうだな。教え子がこのような危険に飛び込んでいく事は、本来ならば止めるべきなのだろう。だが、それ以上に……こいつらはもうギルドの仲間だ。そうでなければ、エルリアを発つ時に止めていただろうさ」


「マスター、先生……」


 英雄たちは、若くして決起した。その経験もあってか、相手が若者であっても、彼らは決意を真摯に受け止め、その意思を尊重する。


 だが、きっと……だからこそ、その辛さも彼らは知っている。内心では、巻き込みたくないと望んでいるのが、その表情から伝わってくる。

 それでも、止められない事も理解しているのだ。だから彼らは、思いを肯定して、自らの手で守るという手段を選んでいるのだろう。


 そうだ。俺もあの時……バストールへと発つ時、それを誓った。本当は止めたい。関わらせたくない。それは今でも変わらないが、彼らの選択を止める権利も、俺には無い。だから……。


「俺たちにできるのは、みんなで共に戦い、全員で帰ってくる事……そうだろう、ウェア?」


「そう、その通りだ。……ふう。全く、どいつもこいつも、正気の沙汰ではないぞ? 筋金入りのお人好し共め」


「それは間違いなくあなたの影響ですよ、マスター? 何しろあなたがその筆頭なのですからね」


「違いない。元々の素質はともかく、お前が赤牙をそういう集いにしたんだよ。ウェアルド病、とでも名付けるか」


「な……おい、何を人聞きの悪い……何故みんな笑っているんだよ! ……まったく、こんな時までお前たちは!」


 ジンの皮肉混じりの言葉に空が応え、それを聞いた一同が、堪えきれなくなった順番に吹き出していく。最初は不服そうにしていた本人も、やがて釣られたような苦笑をした。

 ……ウェアは俺たちの指針であり、柱だ。彼がいるからこそ、いかなる苦境でも何とかなると思えるんだ。きっとみんなも俺と同じで、だからこそこんな状況でも笑う事だって出来る。


「あなた達は、本当に良いギルドですね」


「俺は未熟者ですが、こうして皆が俺を支えてくれますからね。……約束した通り、皆がやると言った以上、我ら〈赤牙〉は、この事案の解決に引き続き尽力させていただきます」


「ええ。僕たちも、もう止めはしませんよ。正直に言えば、使える力は全て使いたいところですからね。無論、我らも持てる全てを使ってあなた達に協力します」


「俺たちの子供と変わらぬ年齢の者を、このような厄介事に巻き込むのは不本意ではあるが……年齢に関係なく、一人前の覚悟は見せてもらった。ならば、子供扱いは侮辱と言うものだろう」


 どうやら、柱には事前に話を通してあったようだ。その口振りから、最初は反対されていたのだろう。

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