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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
4章 暁の銃声、心の旋律
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仲間、友達

「イリアさん……」


「飛鳥は、何か知ってるのか?」


「うん……だから、ちょっと心配で」


 それ以上は聞かねえことにする。本人以外から聞き出すのもヘンだしな。


「心配ならなおさら、全部解決してやろうぜ。もちろん、オレも頑張るからよ」


「……ありがとう」


「礼言うことじゃねえって。オレだってこの国がめちゃくちゃにされるのは許せねえしな」


 みんなだって、オレと同じ気持ちだと思う。訳の分からない連中が、自分たちの国をめちゃくちゃにするなんて……あんな思い、しねえ方がいい。


「ねえ、浩輝くん」


「ん?」


「ひとつ、聞いていいかな。浩輝くんは、どうしてギルドに入ったの?」


「オレか? オレはまあ、成り行きってのが正直なとこだけど。ガルの事情とか、それについて行くルナとかさ。二人の力になりてえって、そんだけだったよ」


 ま、ルナ含めてみんな無鉄砲だよな。あれから何ヵ月か経ったけど……辛い時はあっても、後悔はしてねえ。


 だけど……どうして飛鳥は、そんなこと聞いてきたんだろう。そう思って、オレは思わずこう聞いていた。


「なあ、飛鳥。何か、悩んでねえか?」


「え……」


「いや……勘違いなら別に良いんだけどよ。何となく、そんな気がしたから。もし何かあるんなら……お節介かもしれねえけど、話ぐらい聞くぜ?」


 飛鳥は俺の答えを聞いて、ちょっとだけ視線を落とした。何か、考え込んでるように見えたんだ。

 少しの間、返事はなかった。ホントは、こんな風に聞かれるのは嫌かもしれない。けど、何もないならすぐ返事してたはずだ。この子は多分、何も聞かなきゃ溜め込むタイプだしな。


「……怖い、の」


「え?」


 ぽつり、と彼女が漏らした言葉。その表情には、さっきまでは隠そうとしていた気持ちが、はっきり見えてた。


「……私がギルドに入ったのは、お父さんやお母さんの手伝いがしてみたい、って思ったのがきっかけだった。こんなわたしでも、誰かの役に立ってみたいって」


「始めて会った時、美久に言ってたっけ……」


「でも、二人は本当に凄くて……わたしは、圧倒されてばかりだった。手伝い始めてから一年近く経つけど、二人や他のみんなみたいに、上手くやれない」


 ゆっくりと、飛鳥は言葉を続ける。抱え込んでいたもんを、整理しながら吐き出しているみたいだ。


「お父さん達が凄いことは、もちろん知ってたよ。……わたしは多分、二人に少しでも近付きたかったんだと思う。そう思って入ったギルドで、何だか余計に二人が遠く見えた気がして……」


「…………」


「分かってはいるの。焦っても、どうしようもないんだって。でも……どうしても、比べちゃうの」


 親がすげえと、子供はそれと比べられやすいもんだ。飛鳥も、そういう体験をしたことがあるのかもしれない。そしてそれは、すごくプレッシャーになってきたんじゃないだろうか。


「わたしは、本当に誰かの力になれているのか。わたしには、この仕事は無謀なんじゃないか。自信が持てないまま、今まで何とかやってきた。だけど今回は、怖くて仕方ないの」


「……飛鳥」


「もちろん、わたしだってこの国を元に戻したい。みんなを巻き込んだ相手も許せない。でも……わたしの失敗で、取り返しがつかなくなるんじゃないか。そんな事を考えると、どうしても……」


 声が小さくなっていき、最後の方はほとんど聞こえないぐらいの大きさだった。そこまで話し終わると、飛鳥は黙って俯いてしまう。


 ……彼女の気持ちは、オレにもよく分かる。国がどうこうなるなんて、重荷に決まってる。もし、オレのせいで対立が止められなかったら? 考えるだけで逃げ出したくなっちまう。


 それでも、オレが頑張ろうって思えるのは……。


「出来ないなら出来ないで、いいんじゃねえか?」


「え?」


「だってさ。オレ達、一人じゃねえんだぜ? もしオレが駄目でも、駄目だった分をどうにかしてくれる、そんな仲間がいるじゃねえか」


 飛鳥が、目を見開いた。多分、彼女は責任感が強いから、そんな考え方はしたことも無かったんだろう。


「オレ、バカだからさ。上手くやれる自信なんて、オレにもねえ。でも、バカなオレを助けてくれる友達が、オレにはいっぱいいる」


「………………」


「任せっぱなしってことじゃねえぜ? 逆に、オレが助けてやれる事だって、きっとあるしな。一人でやれなくても、力を合わせれば立ち向かえる。マスターだって、そう言ってたろ?」


 オレ一人でやれる事なんか、たかが知れてる。だけど、みんながいてくれるから頑張れる。

 そりゃ、一人でどうにかしなきゃいけない事だってあるだろうけどさ。そういう時だって、友達が心の支えになったりするんだ。


「空さん達、確かにすげえよな。目標にしても、背中も見えねえぐらいにさ。でも、考えてみろよ。空さん達だって、一人じゃねえ。みんなで助け合ってるじゃねえか」


「…………!」


「あんまり、自分がやらなきゃって考えてるとよくねえぜ。自分が駄目でもみんながいる、って考えるのは、無責任ってわけじゃねえと思うんだ。……えっと、だからさ、その……」


 いけねえ、また話がまとまんなくなってきた。オレ、こういう話はあんま得意じゃねえってのにな。それでも、オレなりに言ってやりたかった。


「飛鳥にだって、仲間がいるだろ? 空さんやリンさん、イリアさん、大鷲のみんな。それに、オレだって仲間だぜ?」


「……浩輝くん」


「って、逢ってからひと月も経ってねえのに、勝手に仲間扱いすんなって話だな。んっと、それじゃ……今さら改めて言うのも何か変だけど……オレと、友達になろうぜ」


「友、達……」


「そう。助け合える仲間、友達。オレは、飛鳥と友達になりたいからさ。飛鳥は、嫌かな?」


 本当はいちいち確認するもんじゃないのかもしれねえけどな。それに、オレとしては友達よりももっと……って、んなこと今は考えてる場合じゃねえっつーの。

 飛鳥は、ゆっくりと首を横に振った。そして、口元に小さく笑顔を作る。


「みんなで助け合えるような、友達に……君たちの友達に、わたしも、なれるのかな?」


「当たり前だろ? オレはとっくにそのつもりだったけど。飛鳥となら一緒にいたいって、オレはそう思うぜ」


「……ふふ」


 飛鳥は、口元に手を当てて笑う。そういや、声出して笑ってるのを見たのは初めてかもしれない。


「ありがとう。……そうだね、変に抱えて落ち込んでる場合じゃないよね。浩輝くんの元気、見習わないと」


「はは、オレは単純だからさ。深く考えて動けなくなるより、こっちのがいいだろ?」


 オレにだって単純になれねえ事もあるけど、今は別だ。ただ、この国を守りてえ。考えなきゃいけないのは、それだけだ。


「みんなで一緒に、だ。頑張ろうぜ、飛鳥」


「……うん!」


 彼女にしては力強い声と笑顔で、飛鳥は頷いた。……ああ、やっぱり可愛いな、この笑顔。


「さて、ちょっと話し込んじまったな。時間もアレだし、そろそろ行こうぜ」


「そうだね。……あ、ちょっと待って」


「ん?」


「最後に、お願いがあるの。……月の雫、吹いてくれないかな?」


「オレが?」


「うん。浩輝くんの演奏、もう一度聴きたいの。力強くて……あの時も頑張ろうって気持ちになれたから、さ」


 言いつつ、飛鳥はコルカートをオレに手渡してきた。……オレも、そう言われるとめちゃくちゃ嬉しい。

 時間を確認する。まだ大丈夫そうだ。カイ達はどうせ先に行ってるし……下心を言えば、もう少し彼女と二人っきりでもいたいし。


「……よし。じゃあ、僭越ながら、ってな――」












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