表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
4章 暁の銃声、心の旋律
137/429

朝日の中の音色

「……んあ……」


 次の日の朝。目覚ましの音で、オレは目を開く。


 夜中に色々とバタバタしたせいで、正直まだめっちゃ眠い。最近の疲れもあって、瞼が重い。

 こうなるとタチが悪いのが、このベッドのフカフカさだ。全力でオレを引き留めにかかってくる。ホントにヤバい。もう一種の魔法だ、コレは。

 もし一人だったら間違いなく二度寝してたけど、レンとルナは朝に強い。


「コウ、カイ。時間だぞ」


「うーん……大丈夫だ、起きれる……」


「ほら、カイ。今日が踏ん張りどころなんだから、気合い入れないと」


「う、うう……分かってる、よ……」


 気だるい身体に無理矢理力を入れて、上半身を起こす。さっそく大あくびをしてしまった。

 目を擦り、辺りを見渡す。レンとルナはもう支度も終わってるみてえだ。カイはルナに布団を引き剥がされて、強引に覚醒させられてる。

 と言っても、さすがに二人もちょっと眠そうだ。


「ふぁ……きつ……」


「気持ちは分かるけど、頑張らないとな。全部終わらせてから、ゆっくりしよう」


「そーだな……ふう……夜中に起こされなかったって事は、まだ何も起こってねえよな」


「みたいだね。……もう。カイ、ちゃんと自分で立ってよ。重いんだから!」


「そ、そんな事……言ったって、よ……むにゃ……」


「……プールにでも落としちゃおうか?」


「んあ!? わ、分かった、分かったって……」


 ルナに強引に立たされながら、カイはようやくちゃんと目を開いた。オレはそれを見ながら、大きく背伸びをした。……ん、頭も回ってきた。早く準備しないとな。


「ふう。とりあえず、便所行くついでに顔でも洗ってくるかな」


「カイ、お前も一緒に行っておけ」


「あー、分かった……」


 レンの勧めに、カイもオレに付いてくる。……さっきから分かったしか言ってねえぞ、こいつ。ホントに大丈夫だろうか。

 そのまま部屋を出て便所に向かったけど、カイの足元はどうにもおぼつかない。相変わらず、目覚め悪すぎんだろって。


「ったく、それで本当に仕事できんのか? 今日は大変なんだぜ?」


「……大丈夫、だ。俺だって、この国を何とかしてえからな」


「なら、とっとと目を覚ませよ? 眠くて失敗しましたはさすがに……ん?」


 カイの速度に合わせて歩いてたけど、オレはふと足を止める。何かが、聴こえたからだ。


「どうした、コウ?」


「…………」


 耳を澄ましてみると、その音が何であるかはすぐに分かった。カイは眠いせいか、全く気付いてないみたいだけど。


「わりい、カイ。先に行っててくれねえか?」


「あ?」


「ちょっと用事を思い出したんだよ。すぐ戻るからさ」


「……ん……分かった。時間かかったら、先にマスターんとこに行ってるぞ」


 カイはちょっとだけヘンな顔したけど、まだ頭があまり回ってないからか、一人で戻っていった。

 まあ、別に隠す必要ねえんだけど……あんまり大勢で押し掛けたら悪いからな。


「……多分、テラスのほうだな」


 オレはそのまま、音の聴こえる方へと歩いていった。















「………………」


 心に響くような、綺麗な音色。

 テラスには、やっぱり思った通りの人がいた。一人じゃなかったけど。まずはもう一人の方がオレに気付いた。


「あれ、浩輝君?」


「え?」


「おはよさん。イリアさんに、飛鳥」


 イリアさんの声で飛鳥も気付いて、コルカートの演奏を止め、オレの方を見る。……飛鳥の金色の毛並み、朝日の中できらきらしてて凄くキレイだな……って、さすがにそろそろ慣れろって、オレ。


「笛が聴こえたからさ。思わず、覗きに来ちまった」


「ご、ごめんね。うるさかった、かな?」


「いや、そんな事はないぜ? オレこそ邪魔しちまったみたいで、ごめんな」


 まあ、何日か一緒にいたおかげで、喋るだけであがるって事は少なくなってきたけどな。やっぱ多少は緊張するん。


「……色々と考えてたら、落ち着かなくて。昔から、そういう時には笛を吹いてみるの。自然と、気持ちが鎮まってくるから……」


「へえ。イリアさんは?」


「あたしも、ちょっと頭の中が整理出来なくてさ。せっかくだから、横で聴かせてもらってたんだ」


 確かに、飛鳥の笛ってこう、聴いてると落ち着くような優しい音だしな。この二人は特に、この事件に色々と考えることあるだろうし。


「二人とも、やっぱり腹立ってるよな。自分たちの国が実験台にされるなんてよ」


「そうだね。アガルトの人達にはずっとお世話になってきたし、それをめちゃめちゃにした相手はもちろん許せない。……けど、少し弱音を言えば、不安なのもあるかな、と思う。国の今後に関わるって、大きすぎるからね」


「わたしも……やっぱり、もし失敗しちゃったらって思うと」


「そう構えすぎんなって。ウェアさんはオレが知ってる誰よりも強いし……オレ達も力を貸すんだから。怖いものなんてねえぜ」


 もちろん、本音はオレだって不安だ。大会の時とかを思い出すと、身震いしそうになる。だけど、言葉ぐらいは強気でいかねえとな。あの時、カイがオレを勇気づけてくれたように。


「浩輝くんは……優しいね。あなたを見てると、わたしも頑張らないとって思えるよ」


「そ……そうかな?」


「そうだね。浩輝君も、他のみんなも、初めて来たこの国のために、本当に頑張ってくれているから。あたし達も、すごく元気付けられているよ」


 二人はそう言ってくれたけど、オレなんかはがむしゃらにやってただけだからな。感謝されると、ちょっとこそばゆいと言うか。


「本当はね、ちょっと挫けそうにもなってたんだ。獣人と人間の対立なんて見ているとさ」


「そうなのか? イリアさんは、とにかく一生懸命やってるイメージしか無かったけど」


「あはは。そうしないと、不安で仕方なかったから、だけどね。あちこちで事態は悪化するばかりで、どれだけ頑張っても先が見えなくて……それでも、何とかしたいって思いだけはあったからさ」


 そういや、イリアさんとはあまりゆっくり話せてなかった。初めて会ってからずっと忙しかったからな。飛鳥と違って、西と東で分かれる事も多かったし。


「何とかなるさ、絶対に。みんな、種族が違っても、仲良くできるってのを忘れてるだけなんだからさ。オレ達が、それを思い出させてやりゃいいんだ」


「……うん、そうだね」


 オレの言葉に、イリアさんは笑顔を浮かべる。だけど……ちょっと思い詰めてるように見えたのは、オレの気のせいだろうか。


「多くの種族がいても、あたし達は一緒に生きられるはず……いや、絶対に共存できる。そんな当たり前の姿に、この国を戻したい。……そうじゃないと、あたしは……」


「え?」


「……ありがとうね、飛鳥ちゃん。それに浩輝君も。おかげで、少しは落ち着けたよ。それじゃ、あたしは先に戻ってるよ」


 ちょっとだけ暗い顔が見えたのも一瞬の事で、イリアさんは快活な笑顔でそう言うと、オレと飛鳥に向かって軽く手を振る。そのまま中へ戻っていくかと思ったら、途中でオレの耳元にそっと囁く。


「二人きりで、少し話してみるといいよ」


「……あう」


 やっぱり、みんなに知れわたっちまってるっぽい。オレ、そんなに表面に出てんのかなあ……当の本人には、できれば伝わってないと思いたい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ