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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
4章 暁の銃声、心の旋律
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狂気の石

「では、こいつらは?」


「ええ。あなた達を襲ったのは、全てあの石のせいだと考えられます」


 深夜のブラントゥール。

 レイルとシューラ、二人の柱を襲撃してきた護衛たちは、全員が正気に戻った。シューラの側も、駆け付けた時には誠司が制圧を済ませており、石の除外もすぐに行えた。

 ダリスが襲撃されていなかったのは、不幸中の幸いと言うべきか。もっとも、ウェアの護衛を突破できたとも思わないがな。



「石が人を操るなど……オレ自身の目で変化を目の当たりにした今でも、信じがたいほどだな」


「ホントよね。私は冗談のつもりだったのに、それがドンピシャなんてさ」


「……先輩。成り行きで混ざってますけど、大丈夫なんでしょうか?」


「現場に居合わせてしまった以上、共に話を聞いてくれると助かります。もしかすれば、力を借りることになるかもしれませんからね」


 会議室に集まっているのは、ギルドのメンバーに新聞社の二人、三本柱。そして……襲撃を行った者も含む、彼らの護衛。

 襲撃者に倒された者もいたが、命に別状がある者はいない。襲撃者たちは、念のため拘束したまま引き連れている。様子を見る限り、その必要は無いのだろうがな。


「ザック、トーマス、ワード。貴様たち、いつから操られていたのか……自覚はあるのか?」


「……分からないんです。あの首飾りを買ったのは一ヶ月以上前ですが、最初は何も……初めての暴行事件が起こったのはその後で、怒りは感じたけど、どこまであれの影響かは……」


「俺たちは、ザックさんに勧められて、その少し後に同じ物を……」


 彼ら自身、どこまでが本当に自分の感情だったのか、確証が持てないようだ。確かに、暴動に怒りを感じること自体は、自然なことだからな。


「た、確かにレイルさんや人間に腹立ちはしていたけど……こんなことまでするつもりは、無かったのに。でも、はっきりと覚えているんです。……人間のトップを殺せばいい。そして、その後に全ての人間に報復してやる、って……オレは、確かにそう考えた……」


 ザックと呼ばれた犬人は、先ほどからずっと震えていた。ひどく狼狽した様子で、そう語る。


「し、シューラさん……オレ、取り返しのつかないことを……あと一歩間違えてたら……本当に、レイルさん達を……そんな事すればどうなるかぐらい、簡単に予想できるのに! ……催眠のことはよく分からないけど、意識ははっきりしていた。オレは確かに、自分の意志で、殺しに行こうって考えたんだ!」


 それが操られた結果であっても、当人には自分の意思であったとしか感じられない……だとすれば、それは混乱と後悔を招いているだろう。


「空さんや、ギルドの方まで敵にしか見えなくなって……こいつらも一緒に殺してやるって、殺さなくちゃいけないんだって! 全部、全部オレが自分でそう思った! オレは……どれだけ謝っても、許されないことを……」


「あなたがそう悔やむことではない。僕の側近だって、シューラさんを襲いましたからね。あなたや彼らは利用されただけ。責任なんてありません」


 彼の嘆きに返答したのは、意外にも、彼が襲った張本人であるレイルだった。命を狙われたにも関わらず、その声に怒りなどは感じられない。


「で……でも! オレはやっぱり、ずっとあなたを、人間を恨んでいたんだ! そんな考えが最初からなければ、ここまで操られることだって!」


「人間全体への反感はともかく……僕があなた達に怒りを向けられて当然だったのは、確かな話です。それを責める資格など、僕にはありません」


「そんな事……オレは、あなたを殺そうとしたんですよ!? どんな罰を与えられても、文句は言えないのに!」


「僕もシューラさんも、生きていますからね。ならば、敢えてあなたを裁く必要なんてどこにありますか?」


「……でも、それじゃ……どうしてなんですか! あなたはオレ達を嫌っているんじゃ、排除しようとしていたんじゃないんですか!?」


 その問い掛けに、レイルは目を閉じた。会議の時に見せていたような軽薄な笑みは、今は見られない。


「確かに僕は、獣人を嫌っています。それは事実ですし、そう思わせるようにもしてきました。ですが、それ以前に……あなた達もまた、この国の民ですから。柱たる僕が、好き嫌いで民を排除しようとするなど、有り得ません」


「レイル、貴様……」


「しかし、排除しようとしていると見せ掛けていたのも、また事実です。その為に傷付いた人がいることも、承知しています。――済みませんでした。こちらこそ、詫びて許される話でもないでしょうが」


「……!!」


 真摯に、頭を下げる。少なくとも俺には、それが心からの謝罪であるように思えた。

 ザックは俯いたまま、何も言わなくなってしまった。あの石が壊れたと言っても、レイルへの不信感や怒りが完全に消え去った訳ではない筈だ。謝罪だけで割り切れるほど、簡単なものでもないだろう。しかし、こうして話して、自分は許され、頭を下げられ……心の整理がつかないのだろうな。


 レイルはそんなザックの様子をしばらく眺めてから、今度は自分の配下、シューラを襲撃した者達を見た。


「シューラさん。できるならば、彼らも許してあげてはくれませんか?」


「……貴様がザック達を許したのに、わざわざ彼らだけを裁くと思うか? いちいち確認をとるな、嫌らしい」


 ふん、と鼻を鳴らすシューラ。言葉そのものには棘があったが、会議の時とは違って剣呑な雰囲気は無い。


「だが、これであの石が元凶である事は確実になった。ここまで非常識な相手だと、もはや驚くことまで忘れてしまいそうだ」


「そうですね。さすがに僕も、石が原因とまでは頭が回りませんでしたよ。それが分かっていれば、もっと手の打ちようもあったのでしょうが」


 俺たちは改めて、回収した青い石に視線を集める。一つだけ破壊せずにサンプルとして押収したのだが、この小さな宝石に人を狂わせる力があるなど、事実を知っている俺たちにすらにわかには信じられない。


「ザックさんの話を聞く限り、強烈な殺意が芽生えたのは急だったようだ。効果の強さは制御できる、と考えていいだろう。それに、全員が同時に強迫観念に近い殺意を抱いた事を考えると、特定の命令を植え付ける事も可能なのかもしれない」


「怒りに紛れさせて、誰かを殺せって命令を送ったってか? ったく、ふざけてやがる。どんだけ陰険な道具なんだよ!」


「ここまで来れば兵器だよ、これは。あたし達の国を、ここまで荒らして……!」


「こんなものに、みんな振り回されて……こんなの、間違ってるよ……!」


 イリアだけでなく、大人しい飛鳥も今回ばかりは怒りを露にしている。当然、俺たちも。心を道具にするなど、許されていいはずがない。


「見た目はこんなに綺麗なのにね。性質はドス黒いなんてものじゃないけどさ」


「うん……見ていると、引き寄せられるみたい」


「本当に引き寄せられている可能性もある。幸運を呼ぶと言う謳い文句に惹かれた者もいるだろうが、普段はアクセサリーに興味が無い者でも思わず買ってしまった、とも聞くからな」


「うえ。じゃ、あんま見ないほうがいいかもしれないっすね。知らない間に……とか、たまったもんじゃねえっつーの」


 確かにな。どれだけ強固な心を持った者でも、少しずつそれが浸食されていけば……仮に俺ならば、果たして気付けるだろうか、抗えるだろうか。

 調べて何かが分かればいいが……人を操る道具など、俺たちの常識から外れすぎている。PSであろうと、誰かの心を操作する力は存在しないと言われる。


「……ところで、だ。レイルよ、一つ良いか?」


「はい、何でしょうか?」


「先ほど貴様は、獣人を排除しようとしていると見せ掛けていた……と言ったな。それは、どういう意味なのだ」


 シューラの問いに、レイルは改めていつもの笑みを浮かべ直した。


「さて。シューラさんはどういう意味だと思いますか?」


「この期に及んで、貴様は……!」


「今さら隠す意味はないでしょう、レイル君。どうやら、そのつもりも無いようですが」


 また食ってかかろうとしたシューラに、ダリスが割り込んだ。彼も、レイルの思惑は察したようだ。彼の言う通り、レイルは先ほどから……会議の時よりもはっきりと己の意図を示している。


「……ダリス殿、あなたはこの男の狙いが分かったのですか?」


「むしろお前も気付いても良さそうだがな。一度決めてしまうと視野が狭まるのはお前の悪癖だぞ、シューラ」


「あ、義兄貴?」


「よく考えな、シューラ。あたし達が介入しなかった場合、あんたはどうしていたんだい?」


「姉貴たちがいなければ? 恐らく、西首都を攻めていただろうが……」


「そうさ。じゃあ、敵の存在がはっきりした今……その後には、何が起きていたと思う? あんたがその敵なら、どうしていた?」


「それは当然、その瞬間を狙って行動を起こして――」


 そこで、シューラは目を見開いた。どうやら彼も、答えに辿り着いたらしい。

 彼は勢いよくレイルの方に振り返った。その視線を受けてなお、彼の表情は涼しげだった。


「ご明察です、皆さん。ですが、僕が本当に敵である可能性を考慮していないのでは?」


「その場合は、あなたはもっと上手く立ち回っていたと断言します。私はそこまであなたを過小評価していませんよ、レイル君」


「……フフ。その評価の前でふざけるのは悪趣味ですね。良いでしょう」


 レイルは小さく笑ってから、真っすぐにシューラを見て口を開いた。


「僕の狙いは、我々を思い通りに操ろうとする黒幕を炙り出すこと。尻尾を出させるには、思う通りにさせてやればいい」


「…………!!」


「敵は、僕たちが同士討ちするように仕向けている。ならば、僕が不誠実な態度を取り続ければ、あなたは確実に立ち上がると思ったのですよ」


 ようやく語られたその真意に、シューラは言葉を失ったようだ。俺たちの中でも、察していた者とそうでない者で、反応は様々だ。

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