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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
4章 暁の銃声、心の旋律
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空回る想い

 便所に行こうと扉を開けた俺の目に飛び込んできたのは、壁にもたれかかる狼人の姿だった。とりあえずレンを待ち、ドアを閉めてから、俺は声をかける。


「ガル……」


「どうしたんだ、そんな所で?」


 俺たちが問いかけると、ガルはうっすらと笑った。


「彼女が落ち込んでいたようだったから……話でも聞ければと思って、な」


「なるほどな。じゃ、ずっとそこで聞いてたのか? 俺らの話」


 ガルは頷く。こいつは耳も良いから、全部ちゃんと聞こえていたんだろう。


「良い趣味と言えないのは承知だが、入るタイミングを探していた。結局、俺の出る幕は無かったようだがな」


「そうだったのかよ。悪かったな」


「何を謝っている?」


「せっかく気を遣ってくれたのに、お株を奪ったみたいだしな」


「奪ったということはないだろう。彼女が悩みを拭えたならば、それでいい。それに、お前たちの絆の深さを一つ感じることができて、嬉しくもある」


 こいつは本気でそう考えているみてえだった。ちょっとぐらい、自分が慰めていたら仲良くなれたのに、とかそういう欲を出してもいいんじゃねえかな、と思わないでもない。


「どうせだし、普通に話でもしていけばどうなんだ? あいつも喜ぶと思うぞ」


「いや、今日はいい。気のおけない友人たちとだけ過ごす時間も必要だろう?」


「お前はそうじゃねえとでも言う気かよ」


「卑屈になる気はないが、過ごしてきた時間の違いはあるだろう。いずれにせよ、たまにはお前たちだけで過ごしておけ」


 ガルの言いたいことは分かる。俺たちはお互いを良く理解しているし、一一番気が休まるメンバーなのは確かだ。

 けど、俺たちにとってガルは命の恩人で、俺は親友として全面的に信頼している。過ごしてきた時間の長さなんて気にならないぐらいに、色んなことを一緒に乗り越えて来た。多分、こいつだって俺たちを信じてくれているだろう。だから、もうちょっと遠慮がなくても良いのにな。


 せめて、ルナに対してはもっと積極的になったほうが良いだろう。じゃないと、いつまでも発展はしねえだろうし。レンの手前、あまり余計な事は言えないけど――


「でも、お前はルナに対して、もっと積極的になったほうが良いと思うぞ」


 ――あまりのタイミングに、一瞬だけ、自分の口が勝手に喋ったのかと思ってしまいそうになった。……それを言ったのは、レンだった。


「今さら、自分の心が分からない、なんて言うつもりはないだろ? コウほどじゃないけど、お前もけっこう分かりやすいからな」


「……俺は」


 ガルは言葉を詰まらせた。レンの言う通りに自覚したからこそ、こいつはこの話に弱い。


「ずっと言えなかったおれが、急かすような事を言えた義理じゃないのは分かってる。けど、だからこそ言っておく。ちゃんと言わない限り、あいつには伝わらないぞ」


「………………」


「今すぐにとは言わない。だけど、いつかはちゃんと向き合ってほしいんだ。お前のためにも……あいつのためにも」


「お前は……それでいいのか、蓮。答えを出していないのは、お前も一緒ではないのか?」


「…………。いや、おれの答えは、もう出ているよ」


 レンは、分かっているんだろうか。今の自分が、どんな顔をしているのか。


「悪かったよ、偉そうな事を言ってさ。けど、少し考えておいてくれ」


「……ああ」


「さて、あまり立ち話しててもだな。行こう、カイ」


「おう……じゃあな、ガル」


 結局、その話題には口を挟めずに、歩き始めたレンについていく。ガルの方も、俺たちに小さく頭を下げてから、自分の部屋に向かっていった。

 ガルの姿が見えなくなってから、レンは小さく笑いをもらした。


「……あいつらにも困るよな。押してやらないと全く進まない。って、これこそおれが言えた義理じゃないか、はは」


「レン……俺からも聞いとくけど。お前、本当にそれで良いのか?」


「良いんだよ。お前たちには前に話しただろ? おれは、もう諦めたって」


「………………」


「おれは、自分が好きだったあいつに、幸せになってもらいたい。だから、あいつらを応援するって決めたんだ」


「……ずっと言えなかった、とか、好きだった、とか……過去形で喋るんだな。今だって、好きなくせしやがって」


 その指摘は、けっこう痛かったらしい。レンは誤魔化すように苦笑した。


「そうだな。おれは今だってあいつが好きだ。多分、すごく嫉妬してる。本音を言えば、早く踏ん切りをつけたいから応援してるってのもあるさ」


「あいつらが引っ付けば、諦めざるを得ないから、ってことかよ?」


「そうだな。さっきはああ言ったけど、おれは出した答えを確かめてないからさ。確かめる度胸も無い。だから、答えを見せてほしいと思っているんだ……本当に臆病だな、おれって」


 こいつも多分、本当に色々と考えたんだろう。諦めると決めたことも、そのためにガルを後押しすると決めたことも……。

 その良し悪しはともかくとして、それはこいつなりの結論だ。そう思うと、俺の意見で安易にかき回しちゃいけねえ気がした。



 だけど。

 だけど、お前……それ、自分が思っている以上に、傷付いていってると思うぜ……。










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