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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
4章 暁の銃声、心の旋律
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黒幕の手がかり

「…………ふう」


 演奏が終わると、浩輝は緊張が解けたように息を吐いた。そして、再びの拍手喝采。少年は照れたように笑うと、笛をテーブルの上に置く。

 曲の余韻に浸りつつも、先ほどの驚きが、俺たちの中に再び沸き起こってくる。特に驚いている様子なのは、笛の持ち主である飛鳥だった。


「浩輝くん……コルカートを吹いたことがあったの?」


「いや、これが初めてだぜ。ただ、昔フルートを吹いてたからよ。タイプは似てるみたいだったから、何とかなった感じだな」


「ふ、フルートだぁ?」


 すっとんきょうな声を出すアトラ。……言ったら悪いが、確かにそんなイメージは全く無かったな。


「コウは、音感とかすごいんだよ。学校でも音楽の成績はずっと良かったからな」


「……そうだったのか?」


「ガルは関わる機会が無かっただろうが、本当だ。少しは他の教科に回してほしいぐらいだったが」


「昔は色々やってたんだよね、コウ。フルートの他にも、ピアノとかさ」


「その時の経験のおかげで、楽器が数少ねえ特技ってわけだな」


「数少ねえは余計だっつーの!」


 海翔は頬杖をついた状態で、楽しげに周りを眺めていた。


「ついでに、そん時にこいつが一番好きだった歌が、『月の雫』だ」


「え……」


「あんまペラペラ喋んなよな、お前ら。ったく」


 浩輝は少し困ったような表情で、頭をがしがしと掻く。


「……親がさ、両方ともこの曲を好きだったんだ。だから、君が吹いてるのを見て、ちょっと懐かしくなってよ」


「そうだったんだ……偶然、だね」


 優樹たちが好きだったから自分も好きになった、と言うことか。意外な一面だな。


「だが、いくら楽器の経験があるとは言え、初めて吹くコルカートで曲を演奏する、か。大した才能だな」


「楽器は止めちまってだいぶ経つんすけどね。色々とあったんで……ま、元から趣味ぐらいのもんだったんすけど」


「それにしては上出来だったぞ。そいつは、吹く奴の癖が出やすい楽器なんだが、お前のも、飛鳥のものとはまた違った良さがあった」


 空の感想には、俺も同意だ。浩輝らしさが出た、元気な音だった。


「しかし、同じ曲が好きだった、か。意外と、運命の出逢い、と言うやつかもしれんな?」


「……え? ……ふ、ふえぇ!? な、なななな何を言ってるんすか空さん!? う、運命だとか、そそそんな……」


 浩輝の反応は実に素直で、一瞬にして全く舌が回らなくなってしまった。バタバタと悶えている彼に毛皮が無ければ、顔はトマトのように真っ赤になっているのだろうな……俺が言えた立場ではないが、非常にウブだ。


「こ、浩輝くん。あんまり気にしちゃダメだよ。お父さん、からかって楽しんでるだけなんだから……」


「……そ、そうだよな? 別に親公認ってわけじゃねえよな……」


「え?」


「あ。な、何でもない、何でも……あははは」


 浩輝の呟きに、飛鳥は首を傾げている。彼女の方はまだよく分かっていないようだな……出逢って一日も経っていないのだから当然か。

 空はそんな二人を見て楽しげに笑っていた。……浩輝の想いがあまりにもバレバレかつ、少なくとも空は否定的ではないことに本人が気付いているかは定かではない。


「でも、音楽って凄いですよね。聴いてる人の心を、一つにしてしまうんですから」


「そうだね。何かを綺麗だと思える心は、きっと誰でも一緒だ。それこそ、種族なんて関係なく、ね」


 このブラントゥールには、人間も、そして獣人も数多くいる。そして……表に出すまいとはしているようだが、やはり他種族との間には、対立の煽りが、どこか気まずい空気があったのだ。

 だが、先ほどの演奏を聴いていた間は、コニィの言う通りに、この場にいた全員の心が一つになっていた気がした。少なくとも今は、皆が穏やかな表情を浮かべている。


「皆の心を一つにする、か。今のこの国にとって、それが一番重要であり、そして途方もなく難しいことなのだろうな」


「ええ。残念ながら、今は一つになるきっかけもなければ、一つになれる土台もない」


「笛を吹いて回れば一つになれる、と言うなら迷わずそうするが……そう簡単にいくなら、柱たちも苦労はしていないからな」


 規模が大きくなればなるほど、団結は当然ながら難しくなる。一つの国がまとまるのは、一つの部屋でみんなが音楽に感動するのとは訳が違う。


「さて……では、そちらの話に戻るか。先ほども話したが、明日からは、各地で待機しているうちのメンバーと共に、三柱の護衛、そして本格的な情報収集を始めてもらう」


「この国を一つにする土台作りである三柱会議……それを妨害されるわけにはいかない。一週間、気を抜く訳にはいかないな」


「はい……勿論です」


「今回ばっかは、俺様もマジでやらせてもらうとするかね。イリアが世話になった国が荒らされるのも気に食わねえしよ」


「黒幕も一筋縄ではいかないみたいだしね。こっちも全力を尽くすとするよ」


「……その黒幕のことだが、少し話がある」


 頃合いを見て、俺はそう切り出した。一同の視線が、俺に集まる。


「ガル、話って?」


「現状、まだ情報が少なすぎて断言は出来ないが……黒幕に、心当たりがある」


 赤牙のみんなが表情を変える。やはり、みんなも同じ事を考えていたようだ。


「こういう事をやりそうな連中……やれるだけの力がある連中。今回の相手は、エルリアや工場を襲撃した連中と同じではないか、と踏んでいる」


 この場で事情を知らないイリアと飛鳥を除いて、俺の言葉は伝わった。空は何かしら話を聞いていたのだろう、軽く目を細めただけだ。

 俺はふたりにも簡単な事情を説明してから、話を続ける。


「この間、ローヴァル山での出来事の際、フェルは言っていた。連中の活動が活発化している、と」


「そういや、んな事も言ってやがったな、あの馬鹿兄貴。確か、近いうちに本格的に動く、みたいなことも……」


「そうだ。バストールでの活動は、転移装置とあのUDB達に関する実験だったようだが……恐らくは、戦力の増強を見越したものだろう。ならば、何のためにそのような戦力が必要だった?」


「……戦いのため、だよな。それが、この国を攻め落とすためだったってのか?」


「連中について多くが分かっているわけではないから、はっきりとは言えない。だが、フェルはこうも言っていた。一人の男の愚かな野望……それは、世界を巻き込むほどの力を持っている、と」


 彼が物事を大袈裟に語るとは思えない。だとすれば……連中は、俺たちが思っているよりも、遥かに巨大な力を持っているのではないだろうか。


「連中がもしも、フェルの語るように世界を巻き込もうとしているならば。奴らがこの国を狙うことは、十分に考えられると思う」


「世界を巻き込むって……それなら、この国を狙っているのも、最後の目的じゃないってことですか?」


「かもしれない。もしかしたら、この国を攻め落とす事も、過程でしかない、何らかの実験を兼ねたものかもしれない」


「……頭がくらくらしやがる。本気で世界征服でもしようってのか?」


「無論、まだ憶測だ。だが、それでも不思議ではないほどの、未知の技術を奴らは持っている。そして、あの男は……マリクは、それだけ危険な男だと俺は思っている」


 あの時、俺を捕らえた光牢結界。俺の記憶を奪った一因でもある空間転移装置。UDBを改造し、兵器と変える技術。それの制御を可能とする、操魔石。

 それらは全て、常識を覆すほどの異常な技術だ。そして、それだけの技術を、マリクは、自在に使いこなしている。


 最近はずっと考えていた。それは、一介の犯罪組織に扱えるものなのかと。英雄すらも相手取ろうとする連中……そのバックに控えているのは、あのマリクが主とする人物はいったい何者であるのか、と。


 誠司とジン、それからマスター二人は、黙って俺の話を聞いていたが、やがてウェアが深く息を吐いた。


「実は昨晩、俺たちでもその可能性を話し合っていた」


「ならば、ウェアも奴らの仕業だと?」


「まあな。俺から言わせてもらえば、ほぼ確定だと思っている」


 ウェアは全員を一度だけ見渡すと、改めて視線を俺に向けた。……途中、美久のところで視線が止まったように見えた。彼女は先ほどから口を閉じているが、何かあったのだろうか。


「ガルの過去についてを調べるのとほぼ並行して、奴らについての調査は進めてきた。特にここ最近は、様々な情報が入ってきている。恐らく、今回の一件で、連中の正体を確定させることができるだろう」


「……目星がついているのか?」


「ああ。ほぼ黒に近いグレーだ」


「そこまで情報が集まってたのかよ……なら、何で今まで何も言わなかったんだ、マスター」


「……。もしも、今の俺の考えが正しいとすれば……それは、先ほどガルが言った通り、まさしく世界を呑み込む事実だからな。確定していない状態で、軽々しく話す訳にはいかない」


 ウェアの表情は、いつも以上に真剣だ。隣にいた誠司も口を開く。


「あまりウェアを責めないでやれ。間違った情報は、時として状況を必要以上に悪くする。それを知っているから慎重になっているんだ、こいつは」


「別に俺様も文句を言いたいわけじゃねえよ。なら、その考えとやらが正しいって分かりゃ、話してくれんだな?」


「……ああ」


「なら、より一層張り切らなきゃなんねえな。何せ俺様、連中には……あの男には借りがあるからよ」


 アトラがいつになく真面目な声で言ったのは、ローヴァル山での一件、それを指導していたアインと言う男のことだろう。それにアトラにとっては、連中はフェルと繋がる数少ない手掛かりでもある。


「とにかく、こちらとしても協力をお願いしたいような状況になってきたわけだね。僕も、そいつらには少しお仕置きをしなきゃいけないし」


「俺らも、連中は許しちゃおけねえな。大会では散々な目に遭わしてくれやがったし。奴らをほっときゃ、今度は何が起こるか分からねえ」


「そうだね。この国のことは勿論……あの人達は、絶対に止めなくちゃいけない。あんな事、繰り返させる訳にはいかないよ」


 そうだ。海翔の言う通り、連中を放っておけば、どこでどのような悲劇が起こるか分からない。それは絶対に許せない事だ。それに、俺が記憶を求めるのは、奴らを止めるためでもあるのだから。


「危険は承知で、それでも積極的に関わろうとする、か。くく、やはりウェアルドの周りには、物好きでお人好しな連中が集まるようだ」


「違いますよ、空。一緒にいると、マスターから伝染していくんです」


「お前達は、人を馬鹿か病原菌のように……ふう、まあ良い。とにかく、敵は強大な相手であることが予想される。繰り返しになるが、明日から気を引き締めていくぞ」


「了解!」



 記憶を失う前の事を置いておけば、エルリアから始まった奴らとの因縁。どちらに転ぼうが、今回の一件が終われば、それは新たな局面に進むのだろう。その時に、俺は……。



 ……連中の活動。そして、その協力者であり抑止力。やはり、彼らもこの国に来ているのだろうか……?






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