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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
4章 暁の銃声、心の旋律
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西首都の現状

 西首都ファルマー。

 この街で盛んなのは商業・交易で、三首都の中でいちばん急速に発展してるみたい。それも、レイルさんの政策のおかげなんだって。

 多文化の良い所を積極的に取り入れていく方針で、色んな国の企業なども進出してきているそうだ。


「今更ですが、私以外は見事に女性ばかりですねえ」


 ジンさんがそんなことを口走る。

 今のこの街に来れるのは、人間だけ。だから、こちらに来たチームは、私、ジンさん、コニィ、フィーネ、そしてイリアさんだ。


「赤牙の男性は獣人ばかりですからね……」


「今ごろアトラ君が悔しがっているんじゃないですか?」


「ふむ。では、この際ハーレム気分を楽しんで、後でアトラに自慢気に語ってみましょうか」


「……兄さん?」


「無論、冗談です。そんな事をすれば、ガルフレアに真っ二つにされそうですからね」


「え、どうしてガルに?」


 ガルはそういうことに誠実だし、羨ましがったり妬んだりはしないと思うんだけどな……と思ったんだけど、私の言葉には呆れ気味な視線が返ってきた。


「やれやれ、彼も本当に大変ですねえ。渾身の贈り物も、まるで効果が無いようだ」


「?」


 贈り物って、このイヤリングの事かな? すごく気に入ってるし、効果が無いってどういうことだろ。


「まあいいでしょう。今はそれよりも、目の前の事態に、真摯に取り組みましょうか」


「今の話題を持ち出したのは兄さん」


「張り詰めすぎても問題ですからね。過度の緊張は判断を鈍らせるものですよ」


 そう言うジンさんには、緊張している様子なんてこれっぽっちも見えない。私もどこか安心できているのは、その余裕の見える態度のおかげだと思う。


「さて。街中は、ひとまずの平穏を保ってはいるようですが」


「そうですね。でも……やっぱり、どこか空気が重いです」


「東の宣戦布告のせいでしょうか。それに……」


 この違和感は、多分みんなも感じているはずだ。分かってはいたけど、こうして目の当たりにすると、やっぱり奇妙な感覚だ。


「獣人の姿が、全くない」


「これが、最近のこの街の風景です。外に出れば、身の安全は全く保障されませんからね……」


「東よりも状況は深刻だと聞きましたが」


「向こうはまだ人間も生活は可能らしいですが、こちらでは真っ当に暮らすのも難しい状態です。だからこそ、ほとんどの人が逃げ出しているんですけど」


「じゃあ、逃げれない人は……?」


「……穏健派の人間もいますから、そういう人たちの助けで何とか、と言った状態ですね。ですが、長引けばどうなるか……」


 実際に見てみると、本当に深刻なんだってことを実感する。

 まだ死者が出る事件は起こってないらしい。けど、そこら中に爆弾がばらまかれているようなものだ、とジンさんは言っていた。一カ所で火がつけば……連鎖爆発は止められないって。


「全ての人間が敵対感情を持っているわけでは無い、と言うのが幸いですかね」


「やはり、今の状況を疑問に思っている人も多いです。ですが、徐々に排斥の勢いが強くなっているのも確かで……真創教の布教も進んでいますからね」


「どうして、今まで仲良くやってたのに、急にそんな怪しげな宗教を信じられるんだろう……」


 ガルが言っていたように、最初は工作だったのかもしれない。だけど、あの危険な宗教が、今は本当に広まってしまったらしい。

 正直、私にはわからない。元から険悪だったとかならまだ理解できるけど……そこまで簡単に、昨日までの関係を切り捨てちゃうなんて。それも、本人に関係ない理由で。


「心から宗教に染まった人はごく僅かのはずです。獣人への反感をぶつける名目があれば、それで良いのでしょう。ですが……確かにあなたの言う通りです、瑠奈。私もそれが気になっていたのですよ」


「え?」


「急、と言うことです。事態の推移が、あまりにもね」


 ジンさんは、そう言いながら、眼鏡をかけ直している。


「いくら扇動があったとは言え、こうも急速に事態が悪化するのは、妙であると言えます。そこまで簡単に人心を制御できるのか、とね。デマに引っかかる層というのは確かにどこにでもいますが、多くの場合は少数派ですから」


「……でも、現に事態は悪い方向に進行していますよね?」


「ええ。ですから私は、まだ情報を得られていない()()があるのではないかと考えています。事態を悪化させる重要な要因(ファクター)がね」


 事態を悪化させる何か……まだ正体の掴めていない、別の要因……?


「もっとも、あくまでも私の勘ですが。情報の出揃う前に考察を進めすぎるのは危険でもありますからね」


 そう言って、ジンさんは前を向いた。そこには、周りと比較して一際目立つ、とても立派な建物があった。

 その外観を、分かりやすく説明するのは難しい。と言うのも、街中と同じく、様々な文化の様式が混じり合っているみたいだからだ。

 だけど、そこにはゴチャゴチャしていると言った印象はなく、何と言うか……『絶妙なバランス』だ。飾り気が無い訳でもなく、飾りすぎて下品な訳でもなく、自然な形で多文化を融合させてる。


「あれが……西柱宮」


「ええ、間違いありません。では、行きましょうか。この国を狙う黒幕の思惑を挫く、その第一歩のためにね」


 そうだ。今のこの国は、本当の姿じゃない。それを元に戻すために、私たちはここに来た。

 解決のため、私にできることは少ないのかもしれない。それでも……せめて、自分にやれることを考えるぐらいはしないとね。






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