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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
4章 暁の銃声、心の旋律
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飛鳥と虎

 話を聞くと、飛鳥は、合流予定のオレ達を探してあの辺りに来ていたらしい。そこで、あの騒動に巻き込まれたみたいだ。


「でも、驚きました。こんな形で合流するなんて思っていませんでしたから……」


「あはは。ま、その点では、あの無鉄砲に感謝よね」


「誰が無鉄砲だっつーの! あの状況で助けに行かねえなんて、男じゃねえっての! な?」


「……お前、何か肩に力が入ってないか?」


 あの荒くれ共を引き渡してから、オレ達は飛鳥を先頭に街中を進んでいた。

 目的地は、潜入メンバーの活動拠点。そこには、彼女の母親……つまり空さんの嫁さんもいるらしい。


「でも、あの大人しい飛鳥が、ギルドに入ってるなんてね。聞いてはいたけど、実際に見ると、やっぱりちょっと驚くわ」


「やっぱり似合わない、でしょうか?」


「ああ、ごめん。そういう意味じゃないのよ。ただ、昔は想像もしてなかったからさ」


「……お父さんやお母さんの力になりたくて。でも、まだ駄目ですよね。さっきだって、本当はわたし一人で何とかしないといけなかったのに」


「もう、あんたが気にすることじゃないでしょ? 勝手に割り込んだのは私たちなんだしさ。つまり、悪いのはそこのお節介虎男よ」


「オレのせいかよ!?」


 顔見知りの美久とならだいぶ話しやすいらしいけど、やっぱり気が弱いとこはあるっぽい。あの父親や叔父さんのイメージとは真逆だよな……。


「それに、君はあの子たちを庇ったんだろ? 大人の男たちを相手に。それは十分に凄いことだと思うよ、おれは」


「ああ、だよな。ったく、よってたかって小さな子によ。誰も助けに入らねえってのが余計に腹立つぜ」


「みんな、本当は良い人たちなんです。でも、ひと月前から、色々なものが変わって……みんな、いつもどこか怒ってるみたいにピリピリしてて……」


「やはり、現状はかなり厳しいか」


「……はい。さっきみたいな事も、何度も起こっています」


 そう言って、飛鳥は俯いてしまった。この子はきっと、普段のこの街が、この国が好きだったんだろうな。


「大丈夫。オレ達がきっと、いや、絶対にこの事態を解決してやるからよ! だから、元気出してくれよ。な?」


「……うん。ありがとう、浩輝くん」


 本当に許せねえな。こんな良い子に悲しい表情をさせるなんて……元凶を見付けたら、絶対にぶん殴ってやる!



 ……ところで、どうして他の奴らは、悪いもんでも食ったような顔でオレのほうを見てくるんだっつーの。


「着きました。ここです」


 飛鳥が足を止める。目の前にあるのは……二階建ての一軒家。


「潜入場所って聞いてたけど、フツーの家なんだな」


「うん……ガンツさんの実家を借りているの」


 あの鼠のオッサンか。ま、そりゃ普通の家のほうが街に溶け込めるか。

 中に入っても、飾り気の無いごく普通の家だ。オレ達も、奥に進む彼女の後を着いていった。


 奥の部屋には、一人の女性がいた。飛鳥にそっくりな狐人の女性。つっても、似てるのは外見だけで、腕を組んでこちらを見てくる目つきはいかにも女傑って感じだ。


「飛鳥、戻ってきたね。それに、客人もちゃんと連れてきたみたいじゃないか」


「うん。ただいま、お母さん」


 女性は立ち上がり、オレ達を見回す。何つーか、雰囲気が微妙にシューラに似てる。別に高圧的ではねえけどな。


「ほとんどの顔とははじめましてだね、赤牙の皆さん。あたしは神藤 リン。大鷲のマスター補佐をやらせてもらっているよ」


「は、はい。よろしくっす!」


 ああ、何か緊張すんな。空さんと言いこの人と言い、ツワモノ夫婦だぜ。どうやったらこの二人から控えめな飛鳥が生まれたんだろ。いや、逆にこの二人が親だから、なのかな。


「美久ちゃんも久しぶりだね。あらあら、随分と女らしくなっちゃって」


「あは、リンおばさんも元気そうね。良かった」


「ふふん、あたしはいつも元気だよ。……ま、つもる話はあるけど、それは後かな」


 リンさんは柔和な笑みを浮かべると、オレ達に座って楽にするよう言ってくれた。ずっと立ちっぱなしで多少は疲れてたし、その言葉に甘えて床に座り込む。


「さて、早速で悪いんだけど、シューラのとこに行ったんだろ。状況を聞かせてもらって構わないかい?」











「じゃあ、すぐに攻めるのは踏みとどまらせたんだね」


「ええ。シューラさんも、思ったよりすんなり受け入れてくれたわ」


 その事実を聞いたリンさんは、安堵の表情を浮かべた。飛鳥もほっとしている様子だ。


「良くやってくれたよ、みんな。あの子はどうにも、思い込んだら止まらないからね、昔から」


「貴女は、シューラの姉だったか」


「ええ、まあね。今回の件、あたしもあの子を何度か説得したんだけど……どうにも逆効果でさ」


「どうしてですか? 身内が話したほうが聞き入れてくれそうなものですけど」


「実は……今回の件で叔父さんが怒ってるのは、お母さんが襲われたから、でもあるの」


「……何ですって?」


 飛鳥が呟いた情報に、リンさんはふう、と息を吐いた。


「ちょうど、新創教うんたらの噂が流れ始めた頃に、西首都でね。ま、有象無象如き返り討ちにしてやったさ。不意打ちだったから、さすがに無傷とはいかなかったけどね」


「だ、大丈夫なんすか?」


「ああ、傷はもう治ってるよ。そこまでヤワじゃないつもりなんでね……けど、シューラはその事にまだ憤ってるみたいでさ。あたしが何を言おうと、『姉貴を襲うような宗教は許せない!』の一点張り。……全く、あの子は」


「それはまた……随分と、慕われてるのね、おばさん」


「早くに両親を亡くしたせいか、どこか姉離れできてないらしくてね。あたしの責任でもあるんだけどさ」


「……何て言うか。どっかの狼を思い出すぜ」


 カイが少し呆れ気味にぼやく。あの強面で、筋金入りのシスコンと来たか……。

 そりゃ、シューラの気持ちが分かんないわけじゃねえけど。オレだって、慧兄や友達が同じ事されたらキレるし、相手をぶん殴ってやりたくなるだろう。


「あたしと話せば、あたしが襲われた話を思い出しちゃうんだろうね。昔から沸点が低い子だし、一度火が付いたら後は話にならなくてさ。空も何度か行ったけど、どうしてもあたしの話が絡んできちゃうってさ」


「空が自分でこちらに来ようとしなかったのは、そのせいでもあるのか」


「まあ、あの子も柱だ。あたしの件だけで西首都に喧嘩をふっかけた訳じゃなく、あの子なりに考えた結果ではあるだろうさ」


 それは、直接話して感じたな。だからこそ、先生の話を聞いてくれたんだろう。


「叔父さんが納得してくれたなら、後は、レイルさんが話を聞いてくれれば、とりあえず内乱は避けられるんですね」


「まあ、そういう事よね。けど、レイルって男は、なかなか厄介だって話じゃない?」


「厄介なのは間違いないね。彼はかなりの切れ者だ。実物は噂以上だと思っていいよ」


「あなたはもしかして、レイルと会ったことがあるのか?」


「ええ。襲われたって言ったよね? その時に、事情聴取で話をしたのさ。空も同席してね。だからこそ、あたしも空も腑に落ちないんだけど」


「……腑に落ちない?」


「レイルは賢い。直接話して、それをよく感じた。自分の言動がどんな事態を招くか、彼が理解していないとは思えないのさ。なら、今の行動にどんな意味があるのかな、ってさ」


 今の行動っつったら……オレ達の聞いた限りじゃ、真創教を取り締まらずにほっといて、東首都の勧告を受け入れなくて、いろいろ悪い方向に行くようなことばっかしてるって感じだ。正直、かなりイヤな印象しかない。


「レイルに何かのメリットがあるとしたら、それは何なのか。自分の国が荒らされ、自分の噂が利用されることを、彼が快く思っているとは考え辛いしね」


「確かに……気になりますね」


「レイルは獣人嫌いって聞きましたけど、それはどうなんですか?」


「別に。表立って言動を変えたりはしないみたいだからね。ジンと一緒で、本音と建て前を使い分けられるタイプだよ、あれは。切れ者っぷりならどっこいじゃないかい?」


 ジンさんと同レベルの言い合いってか……オレ、こっちのグループで良かったぜ。そこに割り込める人がいるとすりゃ、慎吾おじさんぐらいしか思いつかねえ。


「レイルが何を望み、事態を放置しているのか……か。ジンがそれに気付くことができれば、かなり話が進むんだが」


「どうだろうね。ま、あたし達は自分の担当に全力を尽くすしかないけどさ」


 確かに、ここで向こうばっか心配してもしょうがねえか。……もう片付いてる頃だろうか、向こうも。何かありゃ先生に連絡があるはずだし、上手くやってると思いたい。


 とりあえず、第一段階は終わった。けど、これからもっと大変になっていきそうだな……。





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