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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
4章 暁の銃声、心の旋律
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少年達の朝

「……ん……」


 携帯のアラーム音に、オレはぼんやりと目を開いた。

 朝には弱い方なんで、いつもならここで二度寝しちまいそうになる。けど、今日はそうもいかねえので、オレは素直に身体を起こした。


「ふあぁ……」


 今は5時半。昨日は早めに寝たけど、やっぱちょっと眠い。ぼんやりと周りを見てみると、荷物の整理をしてる獅子人がいた。


「おはよう、コウ」


「おう、おはよう、レン……もう起きてたのかよ」


「道場の朝練がある時も、このぐらいの時間に起きたりしてたからな」


 そういや、こいつは朝に強い方なんだよな。


「んー……」


 大きく伸びをしてみる。ちょっとずつ頭も回ってきた。オレもとっとと準備しねえとな。

 ……あ、そうだ。朝に弱いっつったら、あいつは……。


「……すう……すう……」


 後ろを向くと、やっぱりまだ爆睡してる竜人がそこにいた。……荒っぽい性格のくせして、妙に寝相が良いのがなんか軽くムカつく。


「……どうする、こいつ?」


「起こすしかないだろ。出発までそんなに時間も無いしな」


 ホント、こいつはどこに来ても変わんねえよな。レンも呆れ顔だ。


「おーい、カイ。朝だぜ? 起きろよ」


「……うーん……」


「遅刻したらルナとか先生にどやされっぞー。起きろ、起きろ、起ーきーろー」


 最初は弱めに。そこからどんどん力を入れながら、身体を揺さぶったり叩いたりしてみる。……が、竜人はそのまま反応しねえ。


「……てめ、起きろっつーの!」


 あまりに起きないので、割と本気の拳を(布団越しだけど)叩き付けてみる。が……。


「むぐ!? ……むにゃ……何だよ親父ぃ……もうちょい寝かせろって…………すう……」


「………………」


 ……完全に寝ぼけた様子で呟いてから、カイはまた幸せそうな寝息を立て始める。


「筋金入りだな、本当に……」


「くく、この野郎が。良いぜ、そっちがその気なら……」


「……コウ?」


 容赦の必要ナシ、と判断して、こいつの枕を奪い取る。そして……それを使い、バカトカゲの口と鼻を完全に塞いでやった。


「お、おい、さすがにそれは……」


「……む……ぐ……? ……う……う、うう……」


 次第に、苦しげに呻き始めるカイ。そして……。


「ぐ、ぐ……ぶはああぁッ!?」


 30秒ほどで限界が来たらしい。カイは、文字通り飛び上がるような勢いで跳ね起きた。


「よ、おはようさん、カイ」


「はあ、はあ……す、すっげえ嫌な夢見た……」


「嫌な夢? 溺れてる夢でも見たってか?」


「あ、ああ、急に水の中に投げ出されて……マジで死ぬかと思った……ん? どうして何も言ってねえのに分かったんだ?」


「いや、何となく予想しただけだぜ?」


「……それより、早く準備しろよ、カイ。遅刻したら先生の説教は間違いないぞ」


「お、おう、そうだったな……んん……?」


 まだ頭が完全には回ってないようで、オレが何か仕掛けたってことまで思い当たらないらしい。……よし、何かスッキリした。


「てか、だったら早く寝とけっつーの。昨日の夜、部屋抜け出してどっか行ってたろ。何してたんだ?」


「ああ、空さんにパソコン使わせてもらってたんだよ。ちょいと、三本柱とやらについて調べたかったんでな」


「……寝不足みたいなのはそのせいか。どうせ、止められるまで熱中してたんだろ?」


「はは……」


 カイは笑って誤魔化そうとする。ま、こいつがパソコンを起動すりゃ、病気が出るのは目に見えてる。ま、先に調べとくのが大事ってのはそうか。


「けど、なかなか面白かったぜ。メインで調べたのは、俺たちが会いに行くシューラって奴なんだけどよ。傭兵上がりの男らしいぜ」


「傭兵?」


 今の時代にも、傭兵って職業は存在する。国どうしの戦争にってのもあるが、それよりは、対UDBの戦力としてが中心になってきたらしいけど。特にUDB被害が激しい国だと、重宝されてるみたいだ。

 そのシューラも、ヒトの争いじゃなくて、UDBを相手取った仕事がメインだったらしい。


「で、雇われた国とかでいろんな在り方を見て、その知識を元に、故郷で政治家を志したんだとよ」


「それはまた、異色の経歴だな」


「実力は確かだったらしいぜ。性格の方も割と有名で、いくら金を積まれても、気に食わない相手には雇われなかったって話だ」


「へえ。気性が荒いって情報どおりな感じだな、そりゃ」


 国のトップまで登りつめたんだから、頭がいいのもマジなんだろうけどな。


「そんなやつにとって、今回の事態は相当気に食わないだろうな」


「だな。ま、それは普通の人もそうだろ。俺だってムカつくし」


 獣人差別、か。真創教とやらの教えなんか詳しく知らねえけど、それだけでも腹が立つのは確かだ。獣人だからってか、差別って考えがアホらしい。


「けど、それで人間全てに仕返しなんて、馬鹿げてるぜ。良い奴と悪い奴がいるのは、どの種族も一緒だろ」


「ああ、その通りだ。それが誰かの思惑だとすれば、なおさら止めないといけない」


 誰かの下らねえ計画で平和が崩されるなんて、絶対にあっちゃいけねえ。……エルリアみたいなこと、起こしちゃいけねえんだ。


「さあ、早く支度しようぜ。先生を待たせたら大変だしよ」


「おう……ふぁ、やっぱりねみぃ……」


「もっと気合を入れろよ、カイ。それで失敗したら笑えないぞ」


「そんぐらい分かってるよ……」


「何なら、オレが直々に気合を入れてやっても良いぞ?」


 唐突に、ドアの外から声が聞こえてくる。それが誰の声なのかは、すぐに分かった。


「先生……」


「入るぞ」


 声の主……上村先生は、一言だけ断ってからドアを開くと、そのまま中に入ってきた。


「全員起きているようで何よりだ。もし眠っている奴がいるようだったら、そのまま永眠してもらうつもりだったが」


「や、やだなあ先生。どうして俺を見てるんですか」


「空から聞いたが、オレが注意したにも関わらず、深夜までネットを続けていたそうじゃないか?」


「いやあ、つい熱が入っちゃいまして……」


「つい、じゃない。仕事のことはもちろんだが、睡眠は体調を整える上での基本だ。若いうちから不規則な生活を続ければ、後悔するのは自分だぞ」


「う……」


 言葉に詰まったカイに、先生は溜め息をつく。何だかんだで、オレ達はこの人には逆らえない。


「小言はこの程度にしておくか。三人とも、準備が出来たら下に行くぞ。ウェアが軽い朝食を準備しているから、そこで今日の活動予定の再確認を行う」


「はい、了解っす!」


「うちのチームは、先生と、おれ達と、美久でしたよね?」


「そうだ。交渉は主にオレが行うが、その後の調査と警備では、お前たちにもしっかり働いてもらうぞ」


 交渉か……オレはそういう頭を使ったのは苦手だからな。素直に先生に任せとこう。


「さすがに、少し緊張してきたな……」


「……だな」


 レンが小さく呟く。それに答えるカイも少し表情が固い。オレも、正直に言っちまえばかなり不安だ。こんな大がかりな仕事、初めてだし。


「オレ達が邪魔してるって分かりゃ、敵が襲ってくる可能性もあるんだろうな」


「そう不安がるな。仮に戦闘になったとしても、今回はオレが前衛に出るからな」


 言いつつ、先生は懐のチャクラムを数枚取り出してみせた。授業の時に使っていたレプリカと違って、切れ味鋭い刃が光を反射している。


「確かにお前たちにとって、今までで最大と言っても良い仕事だが、あまり力む必要は無い。いつも通りに、できることをやればいいんだ。オレがついているんだからな、安心しろ」


「先生……」


 先生の言葉は、威厳があるけど優しい。オレ達がこの人を素直に信じられるのは、彼がいつも親身になって接してくれてるのも、本当に頼れる人だってのも知ってるからだ。


「さあ、早く行くぞ。みんなが待っているからな」


「……はい!」


 オレ達が余計な心配をしたって、どうこうできるわけじゃないだろうしな。オレ達は、オレ達にできることをやるしかねえ、か。












 東首都、クリザロー。

 この街の柱、シューラの方針で、この街では特に工業が発達してるらしい。

 街の中では、資材を運ぶトラックと何台もすれ違っていく。今回は行く予定はねえけど、向こうの方にはいくつも工場が並んでるとこがあるらしい。

 首都の一つだけあって、人通りも多く、ぱっと見じゃ平和な街……だけど、やっぱおかしいってことはすぐに分かった。


「人間が、ほとんどいねえな」


「暴行事件が起こり始めてから、多くが別の街に避難しているとの話だ」


 当然の話っちゃそうなんだけどな。こうやって見ると、昨日の話がほんとだってのが少しずつ現実味を持ってくる。

 オレ達は、街の様子を見ながら、シューラのとこに向かう。


「それに、空気がピリピリしてるみたいだな」


「ま、武力を持ってでも、なんて宣言が出ちゃったらそうなるわよね」


「西などと比較すれば、こちらの街中はまだマシなようだがな。報復すべきは人間ではなく、邪悪な宗教であるとシューラが唱えているらしい」


 なるほどな。シューラってやつも、そこまで馬鹿野郎じゃねえってのは良かった……って言っていいかは微妙だけどな。


「でも、それって要は、西首都へ敵意を向けさせる言葉ですよね。この街の人にとっては、真創教と西首都が結びついてるでしょうし」


「本当に悪いのは、西首都の人じゃないのよね。悪くないとも言えないかもしれないけど」


 考えりゃ考えるほど、本当にややこしい。頭が痛くなってくる。

 たまに見かける人間は、やっぱり周りをかなり警戒してるようだった。獣人側も獣人側で、そんな人間への視線は冷たい。

 オレ達の横を、何人か子供が走り抜けていった。その中に人間の子供が混じっていたのに少しだけほっとしたけど、子供まで嫌な目で見てる大人がいるのに気付いちまった。


「ちっ、胸糞わりいな、ちくしょう」


「今は抑えろ。余計なトラブルを起こすわけにはいかないからな」


 オレをそうなだめつつ、先生の目つきも険しい。気持ちは先生も、いや、全員が同じだろう。……落ち着け。オレがしなきゃいけないのは、この現状にキレて暴れることじゃねえ。しっかりと何が起きてるのか見て、それを止めることだ。


 そのまま数分ほど歩いていくと、オレ達の視界に大きな建物が映った。広大な敷地に建てられたそれは、遠くから見ても立派なもので、正門には大きな旗が掲げられていた。


「あの旗、どっかで見た気がすんだけど」


「この国の国旗だ。そんぐらい覚えとけよ、バカ」


「いちいちバカって言うなっつーの! ……って、国旗って事は、ひょっとしてあれが?」


 その意味を理解したオレは、先生を見る。先生は、少しだけ呆れたような表情をしながら、頷いた。


「ああ。あれがシューラの居場所。東の柱宮(ちゅうぐう)だ」






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