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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
4章 暁の銃声、心の旋律
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暁斗とガルフレア

 話し合いが終わると、ひとまず晩飯の流れになった。今日はもう動くには遅いため、行動を起こすのは明日からだ。

 大鷲のメンバーは、首都のほうに潜入している人数を含めて総員は6名らしい。バストールを基準に考えてしまいがちだが、そもそもギルドの力が弱い国家では仕方ないことだ。それでもこの〈大鷲〉はそれなりの知名度を得ているらしく、それは空の手腕と名声が大きいらしい。


「ふむ、このスープ……相変わらずの腕だな、ウェア」


「お前こそ、最初は全く駄目だったのに、今じゃ一人前だからな。しごいた甲斐があるってもんだ」


 料理を作ったのは、ウェアと空の二人だ。お互いに、相手の料理を食べては、その感想で盛り上がっている。どうやら、率先して雑談に興じて、俺たちの固さを取ろうとしている様子でもある。


「マスターの料理、久しぶりに食べたね。何か、凄く懐かしいよ」


「イリア、ひょっとしてホームシックにかかってたかい?」


「あはは……そこまで大袈裟なものじゃないよ。ただ、みんなと会えて嬉しいなって思っただけでね」


「そうだろそうだろ! やっぱり俺様に会えて嬉しいよなあ! ってことで、さっそく再会の口付けでも」


「兄さん、この男には常に首輪をつけておくことを提案する」


「調子に乗ってスミマセンでしただからそれを引っ込めてくださいフィーネさんあなた加減知らないからマジで痛いんです許してください」


 白い炎が鎖を象り、アトラに巻き付こうとする。……やり過ぎにも思えるが、こいつにはこれぐらい強力なストッパーがいて丁度良いだろう。苦笑しつつ、イリアもその辺りには慣れているようだ。


「でも、本当に賑やかになったよね。1年でこんなに新しいメンバーが増えるとは思っていなかったよ」


「私たちが一気に入りましたからね」


「うん、ある程度はマスターから聞いてたよ。あ、それと瑠奈ちゃん? もっと砕けた話し方で構わないよ。もちろん、他のみんなもね」


「そうですか? ……じゃあ、ちょっと楽にさせてもらおうかな」


 瑠奈たちも、だいぶ打ち解けてきたようだ。イリアは印象通りに快活な女性で、タイプはどことなく瑠奈に似ている。みんなとも気が合うだろう。


「それにしても……空も、なかなか大胆なことを思い付きましたね」


「全くだ。それぞれの柱に、直接のコンタクトを取る、か」


「レイルのアポを取るのには多少苦労したが、奴を含めて三人とも、俺たちの推測に興味を示していたからな」


 俺たちは明日、三つのグループに分かれて、それぞれの首都に向かう。そこで、現在の様子の視察を行いつつ、柱の協力を求める予定だ。不穏な噂はあるにしても、自分たちの国が荒らされることを望んではいないだろう。


「だけど……柱の協力があっても、住民の感情は静まるでしょうか」


「完全には難しいだろうな。だが、トップが毅然とした対応を取れば、少なくとも抑止力にはなる」


「とにかく、暴動を抑えるのが第一、ですね……」


 一度動いた人の心は、そう簡単には元に戻らない。それでも、まずは表面上の平和だけでも取り戻さねば、話にもならない。


「けど、あんたらが来てくれて助かったぜ。オイラ達だけじゃどうしようも無かったからよ」


「うむ、本当にな。そなた達の協力、感謝するぞ」


 そう口にしたのは、大鷲の待機メンバーである陽気な人間の青年、アランと、どこか古風な喋り方をする大柄な鼠人の男、ガンツだ。


「やっぱ、バストールと比べたらギルドも大変そうっすね」


「うむ、人手不足は日頃から深刻な問題であるな」


「ま、協力してくれる奴とかもいるんだけどさ。最近も……」


「アラン」


「おっと」


 空に制止され、手で口を押さえるアラン。……何を言おうとしたんだ? 気になるが、向こうが話さないなら、無理に聞き出さない方が良いか。


「ここから先は、実際に見てもらってから考えたほうが良いだろう。今日は余計なことを考えずに、明日に備えて体調を整えてくれ」


「さ、冷める前に食え、お前ら。飯は熱いうちが一番なんだからな」


「……そうだな」


 マスター二人が促すまま、俺たちは託されたものの重さを胸の中にしまいつつ、穏やかな時間を過ごしていった。









 晩飯の後、俺たちは今日の寝室を割り振られた。……しかし。


「ふふ。何だか、こういうのも新鮮かもね」


「………………」


 何故、俺が瑠奈と二人部屋になっているんだ!

 普通、こういう場合は男女の部屋を分けるものではないのか!? そうでなくとも、浩輝たちと同年代でまとめれば良いだろうに……!


「いったい、誰が割り振りを決めたんだ……」


「え? 確か、ガルがお風呂に入ってた時、空さんと、マスターと、ジンさんで話してたよ?」


 ……犯人はジンか。くそ、油断していた。そして止めろ、ウェア。


「あ、ひょっとして、嫌だった?」


「そ、そんなわけがあるか。ただ、男と女が同じ部屋だと言うのがどうかと思っただけだ」


「ああ、そういうこと。あはは、ガルって紳士だよねえ。大丈夫だよ、私は全然気にしないから」


 ……君が大丈夫でも、俺が気にするんだ。などと言う本心は口に出せない。

 考え過ぎなのか? そうだ、妹と一緒に寝ると考えれば……いや、この年齢でそれもどうだろうか。


 それに、瑠奈。俺としては、少しは気にして欲し……待て。何を考えているんだ、俺は!


「それにしても……明日は大変な仕事になりそうだね」


「……そうだな」


「明日は別のチームだけど、お互いに頑張ろうね、ガル」


 瑠奈が行くのは、西首都。最も厄介と思われる相手、レイルの所だ。心配ではあるが、獣人の俺が加わるわけにはいかないからな。それに、西首都のチームを纏めるのはジンだ。彼ならば、策を誤ることもないだろう。


「緊張しているか?」


「……うん、正直ね。スケールは、今までの中じゃ一番大きいだろうし」


「あまり張り詰めるな。なに、話し合いはジンに任せておけば大丈夫だろう。瑠奈は、出来ることをやればそれでいい」


「うん、分かってる」


 上手く行くかどうかは、相手次第だろうがな。不安要素はあるが、それをここで口に出しても仕方ないだろう。


「さあ、今日は早めに寝よう。明日は早朝から出発だからな」


「そうだね」


 部屋の明かりを消すと、それぞれ布団の中に入る。目を閉じてみるが、どうにも余計なことを意識してしまい、眠気を感じない。


「あ……ねえ、ガル。せっかくだから、聞いておきたいんだけど」


「どうした?」


「ガルってさ。私のこと、どう思う?」


「…………!?」


 俺はその質問に、全身が硬直するのを感じた。尻尾の辺りに力が入る。


「あ、変な意味じゃないよ? ガルから見て、私は成長してるかどうかとか、そういう話」


「……あ、ああ。なるほどな」


 聞き方が聞き方だから、別の意味に聞こえてしまったぞ、瑠奈……どうして少し残念だと感じているんだ、俺は。


「まあ、直接聞くのもどうかと思うんだけど、ガルは私の先生だったこともあるからさ」


「一応、今も教師を辞めたわけではないぞ?」


「あはは、そうだったね」


 みんなの勉強は、主に俺と誠司で面倒を見ている。さすがにあまり時間は取れないが、彼女たちもしっかり自分で学習に取り組んでいる……一人を除いて。

 それはともかく、彼女の声からは、どことなく不安を感じた。やはり、明日を意識しているようだな。無理もない……失敗すれば、多くの人が巻き込まれるかもしれないのだから。


「そうだな。友人としては元より……ギルドの仲間として、俺はお前を信頼しているさ。確実に成長している」


「本当に? ……強くなれてるのかな、私」


「ああ。それに、これから経験を積めば、更に上を目指せるだろう。大丈夫だ、俺の見立てを信じろ」


 別に、慰めのつもりではない。彼女たちの才能は本物で、これは本心だ。


「……ふふ」


「瑠奈?」


「ガルってさ。やっぱりどこか似てるんだよね」


「似ている? 誰にだ」


「お兄ちゃんに、だよ」


「……俺が、暁斗に?」


 俺が聞き返すと、瑠奈は再び小さく笑った。


「種族が一緒とか、そういう意味じゃないよ? 雰囲気が似てるって感じ」


「そうなのか……? 俺自身には、よく分からないが」


「ん、私にも上手く説明はできないけどね。何となく、だし」


 瑠奈は笑っていたが、その声は、少しだけ寂しげに聞こえる。


「暁斗は、太陽みたいだって言われてた。いつも元気で、いるだけで周りが明るくなってた」


「そうだな……」


「その例えで行くと、ガルは月って感じかな。太陽ほど眩しい光じゃないけど、夜道を照らしてる月」


「月……か」


 俺の組織での呼び名は銀月、だったか。それに、俺の力の名は月の守護者。PSが心を映す力である以上、何かしら通じるものはあるのかもしれない。


「太陽と月って正反対みたいなイメージがあるけど、どっちも空から私たちを見守ってるよね。だから私は、この二つって、けっこう似てると思うんだ」


「お前たちの名前も、それぞれにちなんだものだな」


「そうだね。まあ、私はあんまり月って感じじゃないと思うけどさ。………………」


「瑠奈?」


 急に言葉を止めた瑠奈に、声をかける。それでも、彼女は少しの間、何も返事をしなかった。俺は上体を起こし、暗い部屋の中で目を凝らす。見ると、瑠奈は片腕で顔を覆い隠していた。


「……泣いているのか?」


「ううん。でも、ちょっと泣きそう、かも。……ごめんね、ガル」


 彼女は顔を隠したまま、そう言った。


「たまにさ、重なって見えるんだ。あなたと、暁斗が」


「俺とあいつが似ているから?」


「うん……何でだろうね。辛い時にいつも側にいてくれて、慰めてくれて……その時の顔が、凄く似てるんだ」


 行方不明になってしまった暁斗。彼女は、感じられなくなった兄の姿を、俺の中に見ていたのか。


「俺と一緒にいるのは、辛いか?」


「そうじゃないよ……ごめんなさい、そんなつもりじゃないの。今の私には、ガルがいなくなることなんて、考えられない。でも……暁斗がいなくなるなんてことも、考えてなかった」


 エルリアで暮らしていたあの時。あの事件で変わってしまった彼らの日常。卑屈になるつもりは無いが、俺はその原因の一つだ。


「……信じるって、決めてるけどさ。たまに、すごく怖くなる。本当に、お兄ちゃんは帰って来るのかなって」


「……瑠奈」


「お兄ちゃんに、逢いたい。直接、声を聞きたい。……ふふ、暁斗のことはよくシスコンってからかってたくせに、私も十分にブラコンだったみたい」


 月は、自分では光を生み出せない。太陽の光を反射して、初めて輝くことができる。だが、暁斗と言う太陽を、彼女は見失ってしまっている。

 そして、太陽にも、自分の光を知るために、その輝きの片鱗を映す鏡が……月が必要なはずなんだ。


「……ごめんね、ガル。こんな話しちゃってさ」


「謝るな。辛いんだろう? ならば、それを溜め込むな。お前の周りには、辛さを分かち合える仲間がいるはずだ。もちろん、俺も含めてな」


「うん……ありがとう」


「礼もいらないさ。俺は、お前に頼られることが嬉しいんだからな」


 それは、紛れもない本心だ。頼られることは、信頼の証だと思うからな。

 瑠奈は、切り替えるかのように、自分の顔を両手で軽く叩いた。


「……さて! じゃあ今度こそしっかり寝ないとね。お休みなさい、ガルフレア」


「ああ。お休み、瑠奈」




 俺は彼女を護る。それが俺自身の望みでもあるのだから。だが……俺では、血を分けた兄の代わりにはなれない。


 暁斗。お前は今、何をしている……?














「では、ウェアルド。お前は()()が黒幕だと考えているのか?」


「まあな」


 皆が寝静まった後。俺と空、誠司、ジンの四人は、明日についての話し合いを続けていた。


「いずれにせよ、一筋縄ではいかない相手だろう。規模も不明だしな」


「各地で扇動を行っている辺り、それなりの人数はいるでしょうね」


「事態を抑えるだけでなく、そいつらもあぶり出さねばならない。難しいところだな」


 もちろん戦いが起きないようにするのが最優先だが、黒幕を見つけ出せなければ解決とは言い難い。次が起こる懸念だけが残るだろう。


「ひとまず明日は、三本柱の協力を得ることが肝心だ。シューラとレイルが素直に頷くかは微妙なところだがな」


「レイルは利用された立場なんだろう? ならば、そいつらへの対処は望むところじゃないのか」


「それは確かだろうが、奴の動きは少し気になるんでな。どうも、この状況を利用しようとしている節がある」


「ふむ……まあ、その辺りも踏まえて交渉してみましょう」


 切れ者相手ならば、ジンは適任だ。腹の探りあいならば、慎吾にも引けを取らないだろうからな、こいつは。


「そしてシューラは、典型的な直情型だ。果たして、こちらの話を素直に聞き入れてくれるかどうか、だな」


「無理にでも聞き入れさせる。上に立つ者が感情に振り回されるなど、あってはならないことだ」


 東のリーダーは誠司に任せた。俺と空は、中央のダリスの下に向かう。


「それぞれの柱との交渉が済んだら、結果はどうあれ、中央首都で合流する。そのまま、事態の解決までは滞在する見込みだ」


「ああ。何が起こっても、すぐに動けるようにしないとな」


 考えたくはないが、内乱の発生が防げなかった場合、それを鎮圧する必要があるだろう。読みが正しければ、それに乗じて攻めてくる奴らもいる。


「ここ以外のギルドは、どうしているのですか?」


「大半はうちと協力して、各地に潜入して暴動に備えている」


「潜入している残りのメンバー、か。……空」


「どうした?」


「今のうちに聞いておく。彼の話……本当なのか?」


 我慢しきれなくなったように、誠司が尋ねる。先ほどからうずうずとしていたようだったが、やはりこの話か。


「その話もせねばいかんと思っていたところだ。あいつが初めて姿を見せたのは、ひと月ほど前の話だ。それ以来、俺たちにたびたび協力してくれている」


「今は、どこにいるんだ?」


「中央首都だ。他の連中と一緒に潜入している」


「本人であることに、間違いは?」


「外見の特徴も一致している。俺は()()()と面識があるから間違えようもない。何より、本人が話してくれたからな」


 誠司が小さく息を吐く。恐らくは、安堵からだろう。


「だが、ひと月前に現れていたなら、もっと早くに連絡してくれても良かったじゃないか。お前には、かなり早い段階で情報を回していただろう?」


「本人の希望でな。少しだけ時間が欲しい、と言っていたんだ。何度も協力してもらった手前、それを無碍にする訳にもいくまい」


「では、こうして私たちに話しているのならば、彼が決心したと言う事でしょうか?」


「半分はな。まだ、顔を見せる気は無いそうだ。そして、マスター格の連中以外には、自分の存在を隠して欲しいらしい」


「お前はその条件を呑んだのか?」


「悪いが、今はお前たちには任務に集中してもらいたい。ここの面子はともかく、そうはいかない奴らもいるだろう?」


 確かに、みんながこの事を知れば、そちらに気を取られてしまうだろうな。


「では、オレ達が来ていることはあいつも知っているんだな?」


「ああ。そして、解決前に腹を括れ、とも言っておいた」


「その前に逃げ出したりしなければ良いですがね」


「もしもあいつが、こんな中途半端な所で逃げ出すならば、俺はあいつを一生軽蔑してやろう」


 その言葉は、彼を信頼している裏返しでもあるだろう。ならば俺は、空の思いを信じることにしよう。


「しかし、どうして今になって姿を見せたのでしょうね、彼は」


「その辺りは、本人に聞くしかあるまい。さて、今日はそろそろ仕舞いにするぞ。俺たちが寝坊したのでは話にならないからな」


「……そうだな」


 兎にも角にも、明日にならねば始まらない、か。今は、この国を守ることに専念しよう。



 ……しかし、もしも()()が動いているのならば。急がないといけないな、バストールも……。





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