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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
3章 内なる闇、秘められた過去
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創られた命

 ――そして、フィーネの話が終わってから、さらに数時間後――



「じゃあ、まずはこっちの調査結果から言わせてもらうわねぇ」


 そう言葉を発したのは、セレーナ姉さん。今、俺達のギルドには、彼女、ランドのオッサン、レアン、バルド、エリスと言った獅子王の面々……そして、何故か昨日のUDBが訪れていた。


「あの後、工場内から新たなUDBは現れなかったわぁ。怪しい装置なんかも、全く見つからなかったそうよ」


『ダカラ言ッタノダ。無駄ナ労力ハ使ウモノデハナイ』


「……何でお前が威張ってんだよ」


 デカい獅子が大人しく座っている光景は、端から見るとかなり不自然だ。いや、この部屋だけで獅子人3人いるっちゃいるんだが……。


「ま、あいつは目的を達してたみたいだし、手掛かりが残るようなヘマをする奴でもなさそうだからな」


「そうね。痕跡一つ残っていないなんて、かなりのやり手ねぇ」


 間延びした喋り方のセレーナ姐さんだが、これはいつもの事なので、本人は真剣なんだろう。


「次に、クライン社にも連絡した。だが、あっちも全く心当たりが無いとの事だった」


「まあ、普通に考えれば、廃工場をそいつが勝手に使ったってのが妥当なんだろうけど……」


「何か引っかかってんのか、カイ?」


「まあな。行った奴らは分かると思うんだけど、あの工場は、廃棄された事が不自然なぐらいに最新の設備を持ってたんだよ。……それこそまるで、今回みたいな事が起こるのが前提で廃棄されたみたいにな」


「それって、まさか……クライン社がこの実験の事を知っていて、そのために工場を棄てたって事か?」


 蓮の問いかけに、海翔は頷く。


「もちろん、証拠がある訳じゃねえよ。別の理由で使われなくなった工場に、連中が目を付けただけの可能性だって高え。けど、ちょっときな臭い話だとは思わねえか?」


「確かに……そうだね」


「おい、獣。お前は何か知らねえのか?」


『獣ト呼ブナ。俺ハ〈ノックス〉ダ!』


「……あー、はいはい」


 獅子王の面子に名付けてもらったと言う名前は、よほど気に入っているらしい。〈夜〉ねえ……まあ、黒いっつったら黒いが。


「知ってるなら教えてくれねえか、ノックス」


『……残念ダガ、知ラナイ。俺ハ装置デ呼バレルマデ、別ノ場所デ待機シテイタカラナ』


「……訂正しといてソレかよ。ま、期待はしてなかったけどな」


『グウ!?』


 ばっさり切り捨ててやると、わりかし大きなショックを受けたらしい。へこんだノックスの背を、レアンが慰めるようにポンポンと叩いている。


「仮にクライン社が協力していたとして、尻尾を出させるのは難しいな」


「そうでしょうね。現社長のアーネスト・クラインは、世間で知られている以上に知略と謀略に長けた男です。人の良い仮面で世間を味方につけながら、その実は己の欲求を満たすためならば何だってするエゴイストですよ」


「……会った事があるみたいな言い方だな」


「ええ、ありますよ。旧知の仲ですから」


「なに!?」


 ジンの思わぬ言葉に、一同が彼に注目する。マジであるのかよ……マスターは驚いてないから知ってたっぽいが。


「私はあの工場に入った事もあると言ったでしょう? あれは、社長のコネです」


「……アーネストとは、今も連絡を取れるのか?」


「いえ、残念ながら。彼からは再三会社に引き抜かれそうになっていたので、鬱陶しくなって連絡を絶ちました。仮に尋ねられた所で、あの三枚舌が白状するとは思えませんがね」


 ……さっきから妙に敵意がこもっている気もする。仲は悪かったんだろうか。少なくとも向こうはジンを評価しているらしいが……。


「……今はまだ、情報が少なすぎる、か。分かった。俺のほうでも調査を進めておこう」


「頼むぞ。そして、最後に……こいつの事だ」


 ランドは、地面で軽くうなだれていたノックスを指差す。


「僕達のほうで、彼についても専門家に調査をしてもらったんだ。その結果……彼は、まぎれもない新種だと発覚したよ」


「新種、だと?」


 確かに、誰もこいつについては知らなかったが……新種のUDB。


「近いうちに名称が付けられて、全世界に発表されるそうやで。新種の発見は数十年ぶりとかで、えらい興奮しとったなあ、あの学者さん」


「……さらに詳しい調査を望んでいたが……目が危険だったので、こまめに連れてくる事を条件に、俺達が引き取り、面倒を見ることになった」


 だからこいつは今、ここにいるってか。獅子王の一員に獅子の魔獣ってのはらしいっちゃらしい、のか? ま、うちにもフィオがいるわけだし、比較的受け入れられやすい環境ではあるか、カルディアは。


「そこでこの子が、自分について詳しい話をしてくれるそうなの。良いかしらぁ? ノックス」


『……アア』


 それにしても、一日でやたらと従順になったもんだ。頼る相手がいなくなってしまった事もあるだろうが、名前を付けてもらったり親身に接してもらったのも大きいだろうな。……俺もちょっとは分かる気がする。


『結論カラ言エバ、新種ナノハ当然ダ。俺達ガ創リ出サレテカラ、外ニ出タノハ今回ガ初メテダカラナ』


「創り出された……?」


『ソウダ。兵器トシテノ利用ヲ目指シタ新種ヲ創ルタメ、配合ヤ投薬、改造……様々ナ実験ノ結果ニ生マレタノガ、俺達ダ』


「……な……!!」


 さすがに俺達は絶句した。獅子王の面子は既に聞いてたみたいだが、俺達は、常識を覆されたような気分だ。実験によって生み出された? そんな事……。


『ダカラ言ッタダロウ? 兵器ト言ウノモアナガチ間違ッテハイナイト。我ラハ、マリク様ニヨッテ創ラレタ命ダ』


「創られた、命……UDBを兵器に……」


 特にフィオは、受けたショックが大きいようだ。……当然だな。彼にとっては、人が改造されて兵器にされてるってのと何も変わらないだろう。


『サラニ言エバ、創ラレタノハ我ラダケデハナイ。我ラノ改良型ヤ全ク違ウ種モ、数多ク創ラレテイルダロウ』


 じゃあ、俺達がさっき戦ったのも、その中の一種って事か。


「あの男は、そこまでUDBを思うがままに操っていたのか……」


「UDBを操る石に、改造して兵器扱い……本当に、ふざけた話だぜ」


『……俺ハ、ドノヨウニシテ俺ニナッタノカハ知ラナイガナ。元々イル生物ノ遺伝子ヲ弄ッタノカ、一カラ創リ出サレタノカ……少ナクトモ、自我ガ目覚メル前ノ記憶ハ無イ』


 いずれにせよ、勝手に産み出しといて実験道具扱いかよ。余計にそいつらに腹が立ってきた。俺でもこうって事は、フィオはもっと大きな感情を持っているだろう。案の定、彼の驚愕はどんどん燃えたぎる怒りに移っているようだ。


「ふざけるなよ……兵器? 僕達を、何だと……!」


「フィオ、お前……」


「僕達は確かに、人にとっては脅威なのかもしれない……でも、生きているんだ。僕たちだって、生きているんだぞ? ……武器でも、道具でもない。誰かが好き勝手に扱うなど認められるのか? ……そんなことを認められるものか!!」


 フィオのこんな表情を見たのも、こんな口調を聞いたのも初めてだった。いつも無邪気な笑みを浮かべているこいつが、今はSランクのUDBとしての威圧感を全身から放っている。


「僕はその男を許さない。許してなるものか。命を弄んだ報いは、地の果てまで逃げようと、必ず受けさせてやろう……!」


『………………』


「フィオ君、落ち着いて……この子が、怯えてる」


 瑠奈の言う通り、ノックスはすっかり縮まっていた。格上の相手に対する、本能的な恐怖だろう。それに気付いたフィオも、少しだけ落ち着いたようだ。一度だけ、長い息を吐く。


「……ごめん。ここで怒っても仕方ないよね」


『……悪イガ、俺ガ話セルノハコレダケダ。単純ニ、コレ以上ハ知ラナイ』


「マリク達がどんな集団なのかも分からないか?」


『アア。俺タチハ、普段ハ隔離サレテイタカラナ』


 一同が、しんと静まり返る。何とも嫌な沈黙だったが、このままじゃ埒があかないので、ランドが話を先に進める。


「俺たちの側から出せる情報はこれだけだ。そちらは、何か分かったことはあるか? 今日の騒動も、その連中が一枚噛んでいたようだが」


「ええ。アトラ、ガルフレア、あなた達からお願いします」


「おう」



 赤牙のみんなには、彼らが来るまでに説明済みだ。アイン、あのUDB達、フィーネ、そして……フェリオのこと。一つひとつ改めて整理しながら、共有していく。


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