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第2話 とりあえず深呼吸。異世界ロストン、情報過多につき


挿絵(By みてみん)




とりあえず、深呼吸した。


「……すー……はー……」


異世界だろうがなんだろうが、酸素は酸素だ。

ちゃんと吸えてる。吐けてる。よし、生きてる。


私は石畳の通りの端に移動し、邪魔にならない場所で改めて周囲を観察することにした。

落ち着け、私。

医学生たるもの、まずは観察・情報収集・整理だ。


……現実逃避じゃない。これは診断プロセス。


まず目に入るのは、街並み。


白を基調とした石造りの建物がずらりと並び、屋根は青や緑に塗られている。

どれも古そうなのに手入れが行き届いていて、妙に清潔感がある。

道は石畳だけど、ガタガタすぎない。

これは……交通量が多いから、定期的に整備されてるタイプの街だ。


「……発展度、高め」


露店が通り沿いにずらっと並び、

焼きたてのパンの匂い、魚の生臭さ、香辛料の刺激的な香りが入り混じっている。


「いらっしゃい! 今朝獲れたばかりだよ!」

「香辛料はいかがだ! 南方直輸入!」


……言葉、普通に分かる。


これ、地味にすごくない?

異世界語とか習ってないんだけど。


「……翻訳スキル、自動搭載?」


いや、ステータス画面出ないんだからちゃんと説明も欲しい。


通りを歩く人々も、本当に多種多様だった。


人間が一番多いけど、

背の高いエルフ、

獣の耳や尻尾を持つ獣人、

肌の色が明らかに人間じゃない人もいる。


でも誰も、それを特別扱いしていない。


「あぁ……多種族共存都市……」


大学の国際交流イベントより、よっぽどグローバルだ。


そして、遠くに見えるのは——


「……港?」


視線の先に、白い塔が見えた。

陽光を反射してきらきら光る、高い灯台。


その向こうには、マストが林立する港。

船、船、船。


「……でっか……」


これは間違いなく、ただの田舎町じゃない。

むしろ、かなり重要な都市だ。


私は歩きながら、頭の中でチェックリストを作り始めた。


現在の状況整理(暫定)


① ここは異世界

② 街の名前は不明(後で確認)

③ 言語は理解できる

④ 通貨不明

⑤ 所持金ゼロ

⑥ 身分証なし

⑦ 魔法っぽい何かは使えそう

⑧ 医学知識は健在 (たぶん)


「……⑥と⑦の間に深い溝がある気がする」


魔法使えても、身分がないと詰む。

身分がないと、仕事できない。

仕事できないと、食べられない。


人間、食べられないと死ぬ。

医学的にも、物語的にも。


「……詰みゲー?」


いや、落ち着け。

ここはきっと異世界あるある的に「なんとかなる」やつだ。


そう自分に言い聞かせつつ、私は街の中心部へ向かった。


すると、視界が一気に開けた。


「……広っ」


大きな広場。

中央には、石造りの高い塔がそびえている。

装飾が施され、周囲には人が集まっている。


市場、掲示板、待ち合わせ……

どう見ても、街の心臓部だ。


「情報は人の集まるところにある……っと」


私は掲示板に近づいた。


紙切れが何枚も貼られていて、

依頼、募集、告知、注意書き……。


「えーと……」


文字も、ちゃんと読める。


……翻訳スキル、ありがとう。

誰か知らないけど。


内容をざっと読むと、


・荷運び募集

・港の清掃作業

・商会の雑務

・短期の護衛(←無理)


「……うん、体力仕事多め」


医学生、運動不足。

心拍数、即上昇案件。


でも、無給は論外だし、護衛は論外どころか論外の向こう側。


「……まずは、街の名前を知ろう」


私は、近くにいたパン屋のおばさんに声をかけた。


「あの……ここって、どこですか?」


我ながら、ざっくり質問。


でも、おばさんはにこっと笑って答えた。


「ロストンだよ。ラント帝国の港町さ」


「……ロストン」


胸の中で、その名前を反芻する。


ロストン。

港町。

ラント帝国。


「……よし、ひとつ前進」


異世界に来て、ようやく「地名」が分かった。

小さな一歩だけど、今の私には大きい。


「……まずは、今日は生き延びよう」


住む場所。

食べ物。

そして——


「……私、ここで何をするんだろ」


医学生として?

魔法使いとして?

それとも、ただの流れ者として?


考えすぎると頭が痛くなる。


だから私は、軽く肩を叩いて、自分に言い聞かせた。


「ナナ、焦るな。

 まずは、状況整理。

 医者は、患者より先に自分を診るもの」


……誰に教わったかは知らないけど、今はそれでいい。


ロストンの青い空の下、

私は異世界生活一日目(推定)を、慎重に、でも前向きに歩き始めた。

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