68話 友チョコ以上本命未満
2月某日。
サンブレイヴ聖国での夜間任務を終えたオレは、そのまま不眠不休でエビルムーン帝国の帝都ヘルゲイトへとやってきていた。
今日はこのヘルゲイトで時間をずらして3人の女の子と会うことになっている。
みんなオレに渡したいものがあるということで『少しの時間で良いから会えないか』と言われ、あくびを噛み殺してはるばる敵国へとやってきた。
「はい、ルイさん! バレンタインのチョコをどうぞっ!」
「あ、ありがとう……」
最初に待ち合わせた相手、メリーちゃんこと偶像のメリアスからチョコ菓子が入っているであろう小箱を受け取る。
なんとなく予想をしていたが、まさか本当にバレンタインチョコなんてものが貰えるとは……
「あっ勘違いしないでくださいねっ? この間のライブで色々とお世話になったから、そのお礼です! 深い意味は無いですからねっ!」
「ははっ、分かってるよ。大人気アイドル様に対してそこまで自惚れちゃいない」
「そうですか~。養分さんたちと違ってルイさんは余裕がありますねっ!」
まあ、彼女の熱狂的なファンがこれを貰ったら喜びすぎて気絶するかもしれんな。
ホワイトデーに100倍くらいにしてお返ししそうだ。
「……少しくらい、本気にしてくれても良いんですけどね~」
「何か言ったか?」
「なんでもないですっ! それではあたしはメリーちゃんファンクラブ上位会員限定バレンタインお渡し会があるのでもう行きますねっ!」
「ああ、チョコありがとうな」
「ホワイトデー期待してますからっ!」
上位会員限定イベントって……一体どれだけ貢いでるんだろうな。
メリアス側も気合入ってそうだ。
「まあ、ホワイトデーはそれなりのもんを返してやるか」
―― ――
「……ル、ルイさん。ヘルハッピーデスバレンタインですぅ」
「そんな地獄の新年挨拶みたいなの初めてされたぞ」
待ち合わせ二人目はラァ子……時止めのラージャだ。
彼女からもバレンタインのチョコを……
「って、デカいなこれ」
「……わ、わたし手作りのチョコレートケーキですぅ。隠し味に、愛情とかをいっぱい入れましたぁ」
「とかって何だよ」
愛情以外にもなにか入ってんのか……?
さすがに怖すぎるんだが……ブランデーとかだと良いんだが。
「……あ、あとこれも差し上げますぅ」
「これは?」
ラァ子からチョコレートケーキとは別に、生チョコのようなものが入った小包をもらう。
ケーキの余った材料で作ったのだろうか。それにしてはしっかりしてるが……
「……そ、それはニーヨンからのバレンタインチョコなのです。代理でお渡ししますぅ」
「ほう、ニーヨンからか……毒とか入ってねえよな?」
「だ、大丈夫ですよお。ニーヨンはルイさんのこと、かなり好印象でしたもん。また一緒に会ってお話ししたいそうですよぉ」
そういえばラァ子はニーヨンと仲が良いんだったな。
暗殺部隊の長と毒薬開発部門の長だし、類は友を呼ぶというか……だいぶ危険な組み合わせではあるが。
「それじゃあ、ニーヨンにホワイトデーは期待しとけって言っといてくれ」
「……わ、分かりましたあ。それではホワイトデーは、わたしとニーヨンでルイさんのホワイト」
「言わせねえよ」
―― ――
「ほれルイ! ヘルハッピーデスバレンタイン~!」
「それ帝国で流行ってんの?」
本日のエビルムーン帝国遠征最後の相手はミラ。帝国軍十三邪将、鮮血のカーミラだ。
夜間任務明けで眠かったが、日が暮れて逆に目が冴えてきた。
「というわけで、チョコをプレゼントだ」
「……なにこのチョコ? 真っ赤なんだけど。血とか入ってんの?」
「ルビーチョコレートというやつだ。まあ、本来のルビーチョコレートよりも赤くしているが」
どうやらこういう色のチョコがあるらしい。
イチゴ味……? なんだろう、食べるのが楽しみだ。
「ルイに会ってからというもの、人生にハリが出て来てな。週末にこうやってお主に会うのを楽しみに仕事を頑張っておるぞ」
「そう言ってもらえるとオレも嬉しいよ」
まあ、カーミラに仕事を頑張られるとこっちも頑張らなくてはならなくなるので程々にしてほしいところだが。
「ちなみにそのチョコは本命だからな」
「ああ、本命……」
…………。
「えっ? ほ、本命?」
「くっくっく。その顔が見たかった。いやいや冗談じゃ。そこまで気を負わずに貰ってくれ」
「なんだよびっくりしたなあもう」
「まあでも、友チョコよりは上かもしれんがな。義理以上、友チョコ以上……本命未満チョコ?」
「なんだそりゃ」
———— ――――
面白かったら★とリアクションをいただけると執筆の励みになります!
———— ――――




