67話 守りの黙秘
「ねえルイソンくん、この前言ってた†蠱毒姫☠ニーヨン†ちゃんとはどうなったの?」
「えっ? あ、それは……ちょっとな」
仕事の合間に昼食を食べに喫茶ハロゥへ寄ったところ、ハチェットからニーヨンのことを聞かれて口ごもってしまう。
そういえばこいつにはニーヨンに会いに行くこと話してたんだよな。
でもブラックスポット研究所のことやニーヨンの真実を知ってしまった今、ハチェットがこのことを知ってしまうと事件に巻き込まれるかもしれない。
「なによ、なんか煮え切らない感じ~」
「ニーヨンについてはあまり詮索しない方が良いというか、実際に会ってみたところ、中々に正体がやばくて聖国内では名前を呼んではいけないあの人的な感じでな……」
「ふーん。それって私にも言えない感じ? 今まで十三邪将のことまで全部話してくれてたじゃん。それよりもやばいの?」
「……最悪、口封じのためにオレもろとも聖国軍から暗殺されるかもしれない」
「え、やばすぎて逆に興味出てきちゃう」
「出すな」
エビルムーン帝国内の機密事項であれば、サンブレイヴ聖国にいる内は手出しできないから逆に安全なんだよな。
だが自分が暮らす国の暗殺部隊にでもターゲットにされたらどこにも逃げ場がない。
小柄なリトルフット族のハチェットなんてひと捻りだ。
「でもでも、うちのお店の常連にスラム街仕切ってるマフィアとかもいるし、いざとなったら~」
「それでもダメだ。話せない」
「ちぇ~」
オレは不服そうなハチェットの手を握り、彼女の目を見て滅多に見せない真剣な表情でちゃんと伝える。
「ハチェット」
「は、はい……?」
「オレはお前が大切なんだ。むやみに危険にさらしたくはない。だからこれ以上は話せない。分かってくれるか?」
「わ、わかった……」
「面倒ごとを増やしたくないってのもあるがな。でもな、もしお前が何かの拍子に命を狙われるようなことがあれば、必ずオレが助けてやる。だからそれだけは安心しろ」
「う、うん……」
ふう……これくらいくぎを刺しておけば、さすがにこれ以上余計な詮索をすることはないだろう。
なんだかんだでハチェットはこの殺伐としたスラム街で平和に喫茶店を続けている。
危機管理能力は高いはずだ。
「へ、へへへ……なんか愛の告白みたいで照れちゃったね今の」
「脳みそにヒマワリの種でも埋まってんのかおまえ」
―― ――
「ブラックスポット研究所ねえ……」
あの後、軍のデータや聖国内の情報を扱う通信魔道具で調べてみたがニーヨンの件についてはほとんどヒットせず、数件だけあった情報もデマや都市伝説的な作り話として処理されていた。
やはり研究所やトキシロイドについては表に出したくないようだ。
「な、なあルイソン。この間言っていたブラックスポット研究所のことについてだが……」
「インロック義父さん。いや、ちょっと都市伝説的なことで知り合いから小耳にはさんだもので。そんな聖国というか、軍の闇的なのが実際にあるわけないですもんね」
「は、ははは! そうだとも! その知り合いとやらにもデマだと伝えておいてくれよ!」
「分かりました」
うーん、やはりなにか知ってんなあの感じは。
ていうかもしかして、こういう事件ってもみ消されてるだけで他にもあるのだろうか。
「まあでも、これ以上ニーヨンの話をむやみに聖国内でするのはやめておこう」
オレはただの軍属の一幹部。
自ら聖国の闇を暴いたところで、人知れず消されて終わりだろう。
「長い人生、命あっての物種だよな」
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