66話 蟲毒姫ニーヨン
「なあカーミラ、『蠱毒姫ニーヨン』って十三邪将知ってるか?」
「ゴホォッ!? ゲホッ!? ゴホッ!?」
「だっ大丈夫か? どうした急に」
『この間の新年会ぶりに飲まないか』ということで、カーミラに誘われてアニスター共和国のナイトウォークシティでサシ飲みをしていたところ、ふとニーヨンとの会話を思い出してカーミラに聞いてみた。
ニーヨンはオレと会ったあの日、別れ際に『エビルムーン帝国軍十三邪将、蠱毒姫ニーヨン。それがワタクシのお仕事デス』と言って姿を消した。
まさかの十三邪将である。どうなってんだよ帝国軍幹部、マッチング魔道具使いすぎだろ。
ていうかまじで†蠱毒姫☠ニーヨン†が本名っていうか、異名そのままなのかよ。
「はあ、はあ……ど、どうしてルイがニーヨンのことを知っておるのだ?」
「いやまあ、黙っててもどうせバレちまうから先に言っておくんだが、デスティニーで知り合って少し前に一緒に遊んだ」
「お主は何でこうも十三邪将と縁があるのだ」
それはこっちのセリフだよ。
もはや腐れ縁というか、運命のいたずらだろこんなもん。The Love Destiny。
「まあ、帝国側としては隠しているわけではないのだがな。ニーヨンは十三邪将の中でも、最も他国に名が知れ渡っていない幹部であろう」
「そうなのか?」
「ルイはニーヨンから彼女の半生を聞かされたか?」
「ああ、サンブレイヴ聖国のブラックスポット研究所の件か」
「そうだ。その施設から逃げだし、紆余曲折あって帝国軍で活動しているニーヨンだが、聖国側はそれを非常に警戒している。自国にニーヨンの真実が知れると都合が悪いからな」
十三邪将の情報はエビルムーン帝国軍での機密事項ということはなく、他国にも情報を出している。もちろん十三邪将の知名度というか、人気は帝国以外ではあまり出るものではないし、特に敵対しているサンブレイヴ聖国では憎むべきターゲットとされている。
「一応、暗殺部隊のラージャに関しては機密事項に当たるものではあったのだがな……」
「自分でバラしてたぞアイツ」
「たまに暴走して周りが見えなくなるのだ。目が三つもあるくせに」
それは笑っていいやつなのか……?
エビルムーンジョークってやつ?
「しかしニーヨンの情報に関しては、こちらから出しても何故か妨害されてアニスター共和国やサンブレイヴ聖国内に伝わらないようになっているのだ。エビルムーン帝国の情報はアニスター共和国を介してサンブレイヴ聖国にいくから、恐らくアニスター共和国にその辺りを工作する為のスパイがいるのだろう。ニーヨンの情報が他国に流出しそうになったときのみ活動しているみたいだから、中々尻尾がつかめていないが」
「なるほどな。たしかにニーヨンの情報というか、ブラックスポット研究所のことが国民に知られると反感を買う可能性が高いからな」
「ニーヨン自身は自分がされた非道をサンブレイヴ聖国に知らしめてやりたいと思っている。しかし、あまり公に姿を現すと聖国側の刺客に暗殺される恐れがある。だから中々表立っては行動できないのだ」
近年のエビルムーン帝国は暗殺を含め、毒を用いた戦いに長けている。
これは裏でニーヨンから提供された解毒不可能で致死率の高い猛毒を武器として利用できるようになったからだろう。
ちなみにオレは子供時代にスラムのクソみたいな飯や闇闘技場で毒を盛られる→奇跡的に生還して耐性ができる→さらに強い毒を盛られる……を繰り返した結果、かなり毒には耐性がある。自分語りすいませんね。
「なるほど、そうか……デスティニーか」
「ん、どうしたんだカーミラ?」
「デスティニーの開発元はアニスター共和国とエビルムーン帝国の合同企業だ。だからサンブレイヴ聖国側から情報統制をすることが難しい」
「それを知ったニーヨンがデスティニーを利用して情報を他国に広めようとしてるってことか。でも誰からそんな情報を?」
他のマッチング魔道具利用者から教えてもらったのだろうか。
カーミラは知らなそうだし、他の十三邪将、毒、暗殺……
「あ、もしかして……ラァ子か?」
「まあ、十中八九ラージャだろうな。あいつ、結構ニーヨンと仲が良いんだよ」
「暗殺部隊と毒薬開発か……なんかすごい納得した」
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