63話 黒歴史系ガール
「新着欄か……そういや最近見てなかったな」
年が明けてしばらく経ったある日。
オレはマッチング魔道具『デスティニー』の新着欄を流し見していた。
デスティニーに新規で登録すると、しばらくの間はこの新着欄にプロフィールが掲載されて他の人から目立ちやすくなり、マッチングする確率も上がるシステムがある。
オレも少し前まではこの新着欄に表示されていたおかげで自然と他の登録者にアピール出来ていたが、これからはもう少し積極的に相手を探していかなければいけないかもな。
「新年になったし、オレもなんというか、もうちょっとチャレンジングな気持ちで出会いを求めて……ん?」
新着欄に表示されていた女性登録者の中に、面白いプロフィールを載せている人を発見する。
『プロフィール名:†蠱毒姫☠ニーヨン†、種族:トキシロイド被検体No.0024、職業:国家機密(最終兵器)』
「こ、これはまたなんというか、香ばしいプロフィールというか」
思春期の覚醒した男子学生みたいなプロフィールだな……なんだよ蟲毒姫って。
自分の名前にドクロマークとか入れてるのもヤバいし。
絶対あとで黒歴史になって後悔するからいますぐ変えた方が良いぞ。
「トキシロイドなんて種族も聞いたことないし……No.0024ってことは他にもいんのか? あ、てかこの名前のニーヨンって24番ってことか。そこはちょっと上手いこと付けてるな」
てか職業の国家機密(最終兵器)ってなんだよ。
国家機密なのにマッチング魔道具とかやってちゃダメだろ。
「年齢、10才……10才!? いや、これもそういう設定か」
プロフィール写真には病院の手術衣のような服を着た上半身が写っており、首から上は見切れている。
自分で書いたのか、右の鎖骨辺りに謎の『lllllll』みたいなマークと0024という文字が反転して写っている。
デスティニーでもこういう変なのがいるんだな……まあ、さすがにこの子はスルーしておこう。
「フリックフリックと……あっやべ」
うまいこと指が動かず、間違ってニーヨンのプロフィールの右下にある足跡スタンプを押してしまう。
これはマッチング希望のスタンプと違って『少し気になってます』的な意味の軽いものだが、相手にこちらが見ていることを知られてしまうので興味のない人には押さない方が良いんだけど……
「うわ、足跡って1回押したら取り消しできないのかよ……まあこれはもうしょうがねえ。新着欄の子だし、足跡スタンプくらいみんなから送られてるだろ」
オレは黒歴史ガールのことはいったん忘れて他の新着ガールたちを見ていくことにした。
「えーと、なになに……ハーピィ族か。ハーピィ族は結構元気な子が多いというか、甲高いキンキン声がちょっとなあ」
ピピロンッ♪
『†蠱毒姫☠ニーヨン†さんからマッチング希望のスタンプが送られました』
「…………」
いやあ、狙い撃ちされたなこれ。
さっきの足跡スタンプ、実質地雷だったか……マッチング魔道具という戦場はもっと慎重に歩いて行かないとダメだな。
「ん? スタンプと共にメッセージが届いています……なんだろう。一応確認してやるか」
『サンブレイヴ聖国の裏側、ブラックスポット研究所についての真実をアナタにお伝えしマス』
「あ? ブラックスポット研究所? なんだそりゃ」
聖国軍に所属してるがそんなものは聞いたこともないぞ。
裏側とか言ってるくらいだから非公開の研究施設とかか……?
「いやまさか、そんな、ねえ……」
このニーヨンとかいう人がどこの国の者かは知らないが、まあこの人の頭の中にだけある妄想の研究施設だろう。
都市伝説とか陰謀論が好きな子なのかな……フランキスカの友達にもそういう子いるらしいし、最近の若者の中で流行ってるんだろうか。
コンコン。
「ルイソン、君の部屋にフランキスカが来ていないか? 習い事の時間なのだが姿を見せなくてね」
「いえ、こっちには来てないですね」
義妹のフランキスカを探しにインロック義父さんがオレの部屋を訪ねてくる。
そうだ、長年軍で働いているインロック義父さんならこの研究所について何か知ってるかも。
「インロック義父さん。話変わるんですが、ブラックスポット研究所って聞いたことありませんか?」
まあ十中八九デマだと思うが、一応聞いて……
「……ルルル、ルイソン。ななな何故それを? いや、そ、そんな研究施設は私は知らないし何も一切関知していないな、うん」
「そうですか」
「そ、それでは私は忙しいのでもう行こう。邪魔して悪かったなルイソン。あとその話というか妄言は誰にも言わない方が良いぞうん」
「わかりました」
…………。
おっとぉ? こーれ、なんだか匂って来ましたよ奥さん。
———— ――――
面白かったら★とリアクションをいただけると執筆の励みになります!
———— ――――