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60話 第8師団新年会



「それじゃあお前ら、今年も一年サンブレイヴ聖国のためにキリキリ働くように……死ぬなよ! 乾杯!」



「「「かんぱーい!!」」」



 年が明け、新年最初の聖国軍でのオレの仕事、それは師団の新年会の挨拶だ。

世間では職場の飲み会なんぞ面倒くさいだけという風潮になりつつある中、飲み会大好き朝までパーリーなアホが大半を占めるサンブレイヴ聖国軍第8師団では、今年も元気にバカ騒ぎをしていた。



「団長いえ~い! かんぱ~い!!」



「おうハル、かんぱ……ってお前はまだ酒はダメだろ!」



「え~いいじゃん今日くらい~もうちょっとでボクも成人なんだし~」



「あと数か月なんだから我慢しろよ……それに最初は大事だぞ。初めて飲む酒を美味いと思うかで今後の人生が変わるからな」



 せっかくだし、ハルバードの酒デビューはこんなチェーン店の飲み放題で出てくる酒よりちゃんとした店の美味いやつを飲ませてやりたい。

いやチェーン店の酒が悪いとかじゃないんだけどな。大勢でバカ騒ぎするならこれくらいがちょうどいい。



「ルイソン団長! いつものアレお願いします!」



「団長のアレを見ないと新年始まらないっす!」



「ん? アレか……しょうがねえ、部下の士気を上げる為だからな」



「よっしゃ~! すいませ~ん! ジョッキカルーア!」



 店員さんがドス黒い液体がなみなみに注がれたくそデカいジョッキを持ってくる。



「オラいくぞお前ら! これが団長の矜持ってやつだ!」



 ゴク、ゴク、ゴク……



「ぷはぁっ!! 一丁上がりぃ!!」



「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」



「やっぱ団長のジョッキカルーアストレートはいつ見ても痺れるぜ~!!」



「ねえ、あれなにがすごいの?」



「あれはただの酒じゃなくて、コーヒーがドロドロになるまでシロップを入れた激ヤバ液体なんだ……それをあの量、あの速度で飲み干すのは正気の沙汰じゃないんだぜ」



「若い女の子向けの激甘ドリンクな上に、酒が入ってることにより大人になるまで挑戦することすら許されない……さすが俺たちの団長だぜ!」



「ふーん」



 まあ、こういう場だから盛り上がってるけど別にかっこよくもなんともないけどな。

多分ハチェットとかに見せたら普通に呆れられる。



「団長の今年の抱負は?」



「抱負? そうだなあ……」



「インロック将軍を倒して新たな将軍に成り上るとか!」



「ウチの軍はそんなシステム採用してねえよ」



 そもそもインロック義父さんを倒すとか無理だし。

どれだけあの人に恩があると思ってんだ。



「団長の抱負は『今年こそ可愛い彼女作って毎日イチャイチャする』とかじゃないっすか~?」



「そういえば第6師団の知り合いから『ウチのラヴリュス団長と人狼族の男の人がエルフ街でデートしてた』って聞いたんすけど、それって団長すか?」



「……さあ? まったくもってなんのことやら」



 あれ見られてたのかよ……まあでも、たしかにエルフ族が多い第6師団だとエルフ街に住んでるヤツもいるか……



「ふーん。団長ってラヴリュスさんみたいな年増エルフが好きなんだ」



「いやだからオレじゃないって……っていうか年増エルフはやめとけ。ラヴリュス先輩に殺されるぞ」



「ラヴリュスさんはそんなに心狭くないよ。なんたってボクより500才も年上なんだから」



 ハーフエルフ特有の、人間族とエルフ族の中間くらいの長さの耳をピョコピョコさせながら急に不貞腐れるハルバード。

コイツも齢を重ねていけばもっと落ち着いてくれるのだろうか。



「おっハルバード~オレンジジュースまだ残ってんぞ~」



「はい補充完了! さあグイッといってグイッと!」



「お、おいこら。ハルバードはまだ子供なんだから変に煽るな」



「そんなことないもんね~! ボクだってイッキくらいできるよ!」



 追加でオレンジジュースを注がれたグラスを持ってゴクゴクと飲み始めるハルバード。

うん、才能はバッチリありそうだな……未来の酒クズの。




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