57話 サプライズゲスト
「ルイソンくん買えた!? 蛇目先生の! 新刊!!」
「か、買えた買えた……3冊ちゃんと買えたよ」
「やった~! よくやったぞルイソン二等兵~!」
「いや師団長だからオレ」
ハチェットお目当ての同魔人誌を確保するために数多の戦場を潜り抜けたオレは、昼過ぎに彼女と合流してエビマ会場を脱出。
戦利品を確認するために近くの喫茶店で休憩していた。
オレのほうは頒布部数が多い大手のブースを中心に回り、ハチェットのほうは小規模なところを回ってお目当ての同魔人誌をかき集めていたらしい。
欲しいものは大体買えたみたいでハチェットは大満足の様子だった。
「はあ、疲れた……夜通し続いた竜人族との戦いよりも疲れた……」
「いやさすがにそれは盛りすぎ盛りすぎ~……わっ! うわ~これだよこれこれ! 蛇目先生の新刊『ナーガとハーピィの托卵バトル交尾ックス!』こんなのサンブレイヴ聖国だったら発禁もんだよ~!」
「そんなもん買うなよ3冊も」
しかもこれ知り合いが描いた漫画だったし……
他のお客さんもたくさんいるからラァ子にあの場で色々聞いたりは出来なかったが、あいつこんな活動してたんだな。
それはそれとして、ラァ子はオレがハチェットの代理で買いに来てたことを知らないから今絶対変な勘違いされてんだよな……その誤解だけは早急に解消したい。
「うわ、うわ、うわ~! 凄いよこれは! さすがにそんなとこまで……え、え、えっ~!?」
「おいやめろ、こんな所でそんなもんを広げるんじゃない。お家に帰るまで我慢しなさい」
戦利品を確認し、そのまま自分の世界に旅立とうとするハチェットを制止する。
会場には君のお仲間がたくさんいたかもしれないけどね、ここ普通の喫茶店だから。アウェーだから。
ピロンッ♪
「ん?」
カバンに仕舞っていたデスティニーに通知が届く。
この時間だとカーミラはまだ寝てるだろうし、メリアスか?
いや、まさかラヴリュス先輩……?
「って、ラァ子からじゃねえか」
なんだあいつ、エビマ会場で同魔人誌売ってんじゃないのか?
『会場撤収したんですけどルイさんまだいますか少し話しませんかごはんとか奢るのでお願いします』
「句読点使ってくれ頼むから」
「ん~? さっきから何してるのルイソンく~ん」
「いや、その……」
あ、そうだ。せっかくの機会だし、コイツにサブライズをひとつカマしてやろう。
『知り合いと二人で近くの喫茶店にいるんだが、そいつが蛇目漱石の大ファンらしくてな。ラァ子から本にサインとかしてもらえないか? ラァ子の食事代はオレが奢るから』
「まあ、ハチェットなら会わせても大丈夫だよな……」
「私ならなんだって~?」
「いやいやいや、なんでも」
ピロンッ♪
『ルイさんのお役に立てるならどこへでも向かわせていたdきms場所教えてくだsい』
「急ぎ過ぎて文字打ててないじゃねえか」
―― ――
「うわ~なんか緊張するね。ラァ子さんかあ」
「いいかハチェット、オレのことはルイソンじゃなくてルイって呼んでくれよ」
「ルイくんね、おっけーおっけー」
ハチェットには『ラァ子がたまたま近くに来ているので紹介する』という体で会わせることにした。
「それにしても、私とラァ子さんを会わせちゃって本当に良いの? 嫉妬しちゃうんじゃない?」
「大丈夫だ。ラァ子はオレが嫉妬するなって言えばそれに従う」
「……それ、全然大丈夫な関係じゃないと思うんだけど」
マッチング魔道具で知り合ったエビルムーン帝国の女の子をハチェットに会わせるのは今回が初めてだ。
年の終わりに善行を積んでおくということで、ラァ子が暴走しないか若干不安だがまあそこはなんとかしよう。
「……ル、ルイさん。来ました」
「お、待ってたぞラァ子。エビマお疲れ様」
「……い、いえいえ。こちらこそ、お買い上げありがとうございますといいますか」
「うわあ、この人がナーガ族のラァ子さん、おっきい……って、へ? エビマ? お買い上げ?」
色々な情報がいっぺんに入ってきて混乱するハチェット。
なんか新鮮でおもしろいな。
「……え、えっと、ルイさんの趣味仲間のハチェットさん……ですよね」
「はい! は、はじめまして、ハチェットです! リトルフット族です!」
「……あ、あのわたし、ナーガ族のラージャっていいます。ラ、ラァ子って呼んでください」
「分かった……! よろしくね、ラァ子ちゃん!」
さすが喫茶ハロゥの看板娘。対応力がコミュ力マックスだな。
「それでなハチェット。このラァ子はなんと、今日のエビマに同魔人誌作家として参加していたんだ」
「へ~そうだったんだ! なんていうペンネームでやってるの?」
「……えっと、蛇目漱石という名前で活動してます」
「へ~そっか、蛇目、漱……石……」
…………。
「ええっ!? へ、蛇目先生!?」
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