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55話 プロの仕事



「いや~ありがとうございましたルイさん! 本当に助かりました!」



「まさかマジで飛び出してくるやつがいるとはな……」



 メリアスのライブ中に飛び出してきた客を押さえつけ、会場の外へ連行。

別の警備担当に引き渡してから再び会場の警備に戻ったが、それからはアンコールが終わってメリアスが退場するまで何事もなく無事にライブを終えることが出来た。

後はライブ参加者をメリアスが出口で見送っておしまい。



「でも凄いなおまえ。あのトラブルがあっても表情変えず最後までやりきったもんな」



「あたしが不安な顔をしてたら、せっかく来てくれたお客さんが楽しめませんからっ」



 そう言ってメリアスは満面の笑みでステージがある観客席前の扉を見つめた。

今ごろ、ライブ終わりのファンたちがメリアスにお見送りしてもらうためにドキドキで待機しているのだろう。



「厄介オタクくんも追放できたし、お見送り会じゃなくて握手会にしても良かったかも?」



「今から予定変更できないだろし、脅迫メッセージも1通だけじゃなかったんだろ? この状況でさすがに接触イベントは危険すぎる。愛情込めて笑顔で見送ってやんな」



「はーいっ」



 ライブ中のアクシデント対応を評価され、お見送りをするメリアスのすぐ横での警備に抜擢されてしまった。

いや別に全然名誉な役目とかじゃないんだが……一番危険な役回りじゃねえか。



「観客エリア解放しまーす!」



 ライブ会場の観客席の扉が開かれ、2列に並んだ養分……じゃなかった、メリーちゃんファンの方々がこちらに向かってくる。



「みんな~! 今日はメリーのライブに来てくれてありがと~っ! 握手会出来なくなっちゃってごめんね~っ!」



「全然大丈夫だよー!」



「ニューイヤーライブも楽しみにしてるねー!」



 メリアスに手を振りながら思い思いの言葉をかけて笑顔で帰っていくファンの方々。

男ばかりかと思いきや、それなりに女性ファンもいるんだな……種族も結構バラバラだ。

会場がエビルムーン帝国だからさすがに人間族は見当たらないが、アニスター共和国に住む亜人族なんかも結構参加してるっぽい。



「メ、メ、メ、メリーちゃあああああああん!!」



「わ、わわっ」



「っ!!」



 出口に向かう参加者の流れを無視してメリアスに向かってくる男が一人。

さっき追い出したやつとは別の参加者だ。



「お客様! 接近禁止です! 退場してください!」



「う、うるさあああああい! メ、メリーちゃんとぼくの邪魔をするなあああああああ!!」



「うわっ!?」



「きゃああああああっ!?」



 ガタイが良くて力のある魔人族のスタッフたちが止めに入るが、男のフィジカルに負けて突き飛ばされる。

周りにいた参加者もパニックになり、逃げるように我先へと出口へ向かう。



「アイツ、もしかしてドーピングポーション使ってやがるのか!?」



「ド、ドーピングポーション!? ルイさんそれ本当っ!?」



「おそらくな……!!」



 ドーピングポーション。

一時的に筋力を増強すると同時に身体のリミッターを外し、身体能力をアップさせるポーションだ。

本来はサンブレイヴ聖国軍と戦争中のエビルムーン帝国軍が使役する魔物に使う用途として開発されたもので、たしかに一時的に爆発的な力を得るが、使用後は身体がボロボロになり、しばらく動けなくなる。

場合によってはそのまま死んでしまうこともあるくらい危険なものだ。



「どうやって手に入れたか知らねえが、人が使って良いもんじゃないぜ……!」



「危険すぎるから帝国軍内だってもう使ってないですよ!」



 さすが帝国軍の衛生部隊に所属しているだけあり、メリアスもドーピングポーションについて知っているようだ。



「そ、そこの警備の男おおおおおお!! ぼくのメリーちゃんと会話するなああああああああ!!」



「うるせえなこっちは仕事なんだよっ!!」



 暴走する男の突撃を押さえ、メリアスを守る。



「ル、ルイさんっ!」



「大丈夫だ……ドーピングポーションなんかで強化した程度の一般人には負けねえから」



「メ、メリーちゃんとぼくの邪魔をするなああああああああ!!」



「お前が妨害してんだよっ!!」



 ドスゥッ!!!! ボギボギボギィ!!!!



「ヴォ〝ベラ〝ッ!!??」



 男のみぞおちに思い切り蹴りを入れると、骨が折れるような音と共に男が謎の鳴き声をあげ、そのまま気絶して大人しくなった。



「メリーが大切なファンの為に頑張って準備した晴れ舞台をめちゃくちゃにしやがって……お前は永久追放だ。一生メリーの前に姿を現すな」



「ル、ルイさんっ……!」



「コイツが卑怯な手を使って性懲りもなくまた来たときは、オレがぶっ飛ばしてやるよ」



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