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54話 アイドルからのヘルプ



 『ル、ルイさ~んっ! 助けてくださ~いっ!』



「……なんだこのメッセージ」



 そろそろ今年も終わりか……と、自宅でしみじみ過ごしていた年末のとある日、マッチング魔道具『デスティニー』に届いた一通のメッセージ。

送り主はアルラウネ族のアイドルメリーちゃんこと、エビルムーン帝国十三邪将、偶像のメリアス。

帝国軍の衛生部隊を率いる傍らアイドルとしても活動する彼女は、熱狂的なファンの信仰心を利用して魔力を搾取する、中々にやり手なエビルムーン帝国の幹部の一人だ。



「一体どうしたんだ……っと」



 年末年始はサンブレイヴ聖国にとってもエビルムーン帝国にとっても大切な行事が重なる時期で、両国民共に嬉しい嬉しい長期休暇だ。

この期間は小競り合いも含め、戦闘行為を行なってはならないという協定も結ばれている。

オレが所属する第8師団は突発的な戦闘発生などに対応することが多い特殊部隊の為、今の時期は比較的安定して休める時期でもあるのだ。



「こんな時期に敵国のアイドルからお助けメッセージか。ちょっと嫌な予感がするが」



 ピロンッ♪



 『ルイさんお願いです! あたしのライブに来てくださいっ!』



「……は? ライブ?」



 ―― ――



「みんな~! 今日はメリーのライブに来てくれてありがと~っ!!」



「「「いええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」」」



「それじゃあ次の曲、いっくよ~! ラブげっちゅ☆ドレイン!!」



「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」



「う、うるせえ……」



 年末数日前の土曜の午後。

オレはエビルムーン帝国にある、とある劇場で開催されている『メリーちゃん年末スペシャルライブ』に参加していた。

……会場内の、警備スタッフとして。



「年末にこんな所で何してんだオレは……」



 メリアスから謎の緊急ヘルプメッセージを受け取ったオレは、嫌な予感がしつつも本当に助けが必要そうな雰囲気だったので彼女の相談に乗ってあげた。

すると『内容はいますぐ話すことが出来ないが、どうしてもお願いしたいことがあるのでこの日にこの劇場へ来て欲しい。交通費も手間賃も払う』と言われたので、まあ年末で時間もあるし、何か困ってるみたいだから……ってことで、はるばる敵国まで来たらこれ。

臨時バイトかオレは。



「ど~れどれどれどれっ♪ あたしのラブをげっちゅっちゅ~♪」



「げっちゅっちゅうううううううううううううううううううううううううううう!!!!!!!!!!」



「はあ……なんだよげっちゅっちゅ~って」



 メリアスの相談によると、ライブ直前になって彼女の『熱狂的なファン』の一部がライブ後に行われる握手会でのわいせつ行為を計画しているとの情報を得たという。

まあ、握手する際に変なもん握らせるとかそういう類のやつだろう。

それを受けて急遽ライブ後の握手会を会場出口でのお見送り会に変えたところ、『お前を犯してやる』だの『ライブ中に襲いかかってやる』などといった脅迫めいたメッセージが匿名で届き、警備を強化したがどうしても人手が足りないということで、警備隊をやっているオレにヘルプを依頼したということだった。



「警備隊ってのはマッチング魔道具上での仮の職業だったんだが……まあ良いか、実際の仕事も似たようなもんだし」



 ステージ前と観客席の最前列の間に立ち、ライブを盛り上げるメリアスのほぼ真下から彼女を警備する。

それなりにガタイが良いことに加え、視覚、聴覚が鋭く俊敏な人狼族が警備をすることで、本当に襲撃を計画していた客の抑制力になっている面もあるという。



「えっと、今が11曲目……次がラストで、その後アンコールで2曲歌って終わりか」



 今のところは平和なもんだ。

メリアスに熱狂するファンたちを眺めていないといけないから、それだけが視覚的にしんどいが。



「……ん?」



 最前列から2つ後ろにいるゴブリン族の男、なにか動きがおかしいな。

オールスタンディングの前方まで来るような客はとにかくテンションマックスで盛り上がっている奴らばっかりなのに、あいつは周りをキョロキョロしながらジトォ……っとした視線をメリアスに送っている。



「う、う、う……うおおおおおおおおっ!!」



「マジかあの野郎っ!?」



 突然ステージに向かって飛び出した客からメリアスを守るべく、オレは任務を全うすることになった。





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